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滂沱の日々  作者: 水下直英
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知識を深めるにつれ後悔がついてまわる


 皆のもとへ戻ると、だいぶ気を揉んでいたらしく、次々と怯えた声色で質問が飛んできた。


私は『戦いにはならないこと』『これから【エルフ】が話し合いにくること』『話の内容は【精霊の力】に関すること』などを伝え、もう一日ここに留まることを願い出た。


村長やカカンドが私の横に立つツェルゼンに目を向けると、彼は何も言わずただ頷いていた。


反対意見は出ず、村人たちの不安な表情が少し和らいだように見える。


食糧の問題はあるが、争いにならないなら、と皆納得してくれた。


私は相談に向いた面々を集め、エルフたちから【魔力】について知識を得たい旨を伝え、彼らへの対応方法と知識を得るための質問内容を考え始めた。



 太陽が高く昇る前に彼らの再訪問を受けた。


顔の判別が難しいがおそらく先程の者たちであろう五人に、高位さを感じる衣服を身にまとったエルフが三人加わっている。


彼らの内の誰かが【索敵魔法】を放っているのか、先程から魔力が感じられていた。


幼娘おさなごよ、待たせき。

 して、この集団の長はなんぢに間違いなしや?

 いづこに語らうべし?」


「長はこのスムロイだ。

 あちらに敷物を敷いてある、

 話し合いはそちらで行おう。」


村長スムロイから戸惑った様子が伝わってきたが、エルフの前なので抗弁は控えたようだった。


私が村人に対して大きな【発言力】を持つことは自覚しているが、【おさ】が誰かと問われたら私ではなく村長だろう。


村人の集団から少し離れた場所に移動し、話し合いを始めた。


向こうは八人、こちらは私、村長、カカンド、アグト、ゲーナの五人だ。


本当は頭の良いリルリカを連れて来たかったが、断固拒否の姿勢を示されたので代わりにアグトを選択した。


ツェルゼンは良い機会なので、あれからずっと休息を取らせている。


難色を示していたのでカンディの魔法で無理矢理眠らせた。


村人たちも落ち着いているので安心して会談に臨める。



「さるほどに、まずは我が名乗らん。

 我は【ソムラルディ】と言う。

 ヒトどもと暮らしたこと有り。

 君らはくらき振る舞いせず、安心せり。

 我らの問ぶらいに答うるばかりにて結構なり。

 よろしや?」


高位の者らしき一人が最初に口を開いた。


事前の相談通り私が問答の相手を務める。


他の者では【精霊の力】や【魔力】についてなど話し合いにならないからだ。


問いに対し了承の意を伝え、私も名乗り返した。


「ふむ、ジッガかな。

 まずは何故ここに来しや聞いて良きか?」


人間と暮らしていたというソムラルディの言葉は先程のエルフより理解し易い。


こちらの言葉も真面まともに伝わるので、我々のここに至るまでの経緯を簡潔にまとめて話した。


くらき王より逃げ来たりや。

 無能なる導き者はまさに厄災かな。

 北東を目指すと聞けど行き先に当ては有りや?」


「獣人の国【ヌエボステレノス】へ行くつもりだ。

 かの国で【力】を示し【自治権】を得ようと思っている。」


「ほぉ!

 さる覚えかな!」


どうやら私の【自信】に驚いたようだ。


「その覚えは【魔力】より来や?

 それともなお【精霊の力】からかな?」


話はどうやら本題に入っていくようだ。


ゲーナらも表情を引き締めた。


今まで無知のまま突っ走ってきた私たちだが、いよいよ足許を見つめ直す時が来たのだ。



「ほぉ、【精霊の力】わからずとな。

 かばかりその身より力を溢れさせたるにか?」


全く自覚は無いが、私は精霊の力が身体から溢れているらしい。


ゲーナやアグトに目をやるが首を横に振る、彼らも感じられないようだ。


視線をソムラルディに戻すと話が続けられた。


「【精霊の力】は空や大地、森や川など、

 大自然から宿る【偉大なる魂の力】なり。

 我ら森の民はその大いなる魂慰め暮らせり。

 君からはその大いなる魂の感ぜらるるなり。

 捨て置くべきものならず。」


やや興奮気味に話すと、彼はハッとしたように居住まいを正し、私をじっと見つめた。


そこから長い時間、この【問答】は続けられた。


【人の魂】もまた大自然の一部なのだという、シェーナを看取った時の光はやはり【精霊の力】によるもので、彼女の魂が私の導きで【偉大なる魂】へと還っていった現象らしい。


降り注ぐ光や舞い上がる光もまた【精霊の力】によるものだった。


魂からなる【決意】や【誓い】が、私の【精霊の力】をより強く、より神聖にしていく際に光が顕現するのだそうだ。


「ヒトとせば、いとありがたき現象なり。」


『ありがたき』とは『珍しい』という意味らしい。


どれ位の希少さなのか、いまいちピンと来ないが、それを立証することは難しいだろう。


長生きしてるであろうソムラルディだが、この世の全てを見てきた訳ではない。


彼の主観での『珍しさ』だ。


実際のところカカンドから聞いた中でも【精霊の友人】や【精霊の創った国】など、精霊の話は割と頻繁に出てくる。


【偉大なる魂】を崇めて暮らす【エルフ】の言うことなので、私には話がやや大袈裟に感じられた。


他にも様々な質問がなされ、私たちは時折相談しながら真摯に答えた。



 かなり長い時間、会談は続いた。


一時間以上は経っているように思う。


問答を終え、目の前で八人のエルフだけの相談が行われている。


私も横のゲーナにヒソヒソと声を掛けた。


「なぁ、そろそろこちらから【魔力】についての質問をしたいんだが?」


「まだ向こうが質問を終えてないでしょ?

 私たちは向こうから教わる立場なんだから。

 お互い納得した状態じゃないと後々問題になっちゃうよ?」


「のちのち、って。

 エルフと今後付き合いが出来ると思うか?

 排他的な部族と聞いているぞ?」


「それはそうだけど、

 関係を悪化させていいという話じゃないでしょ?」


「むぅ」


私たちの話に背後のカカンドも頷いている。


「ジッガ、焦るな。

 エルフは人間より長命なためか気が長い。

 何事にも時間を多く掛ける傾向が強いんだ。」


「ほぉ」


それならば仕方がない、彼らの流儀に合わせて待つとしよう。


北東へ進むことなく休憩中の私たちは、他にすることなど無いのだから。



 ゲーナたちにさとされてから更に10分ほど経っただろうか。


ようやくエルフたちの相談は終わった。


「会談を設けしを感謝す。

 我らはなお【偉大なる魂】へ貢献する機会ついでを得き。

 我らよりの問ぶらいは以上となる。

 君らへ我らの食糧を僅かばかりさしいづる。

 礼にて受け取れ。」


ソムラルディが言い終えると、年若い方らしき五人のエルフがそれぞれ大きな袋を担いで私たちの前に置いて行く。


中身を問うと「果実なり」と短い答えが返ってきた。


丁寧に礼を述べるが、これが質問に答えた返礼だと、私からの魔力に関しての質問が受け付けられないのではと不安になった。


「あの、私からも【質問】があるのだが……、

 ただ逃亡避難の真っ只中なため、返礼品が用意できないのだ。」


「ふむ、いかなる【問ぶらい】ならんや?」


ソムラルディがゆったりとした振る舞いで問い返す。


私が【魔力】に関するものだと告げると、彼は莞爾かんじとして笑った。


「そは我らにとりて上手なる分野かな。

 道々やおら教うることにせん。」


「は?」


道中でゆっくり教える?


どういうことだ?


「君らの旅に我も同行せん。

 かの獣人の国に旗揚げせんや?

 我が経験を活かすべし。

 君の【精霊の力】による顛末てんまつを我はゆかし。

 ジッガ、如何いかがかな?」


ソムラルディが笑顔のまま問いかけてくる。


どうやら私の【精霊の力】が如何いかなる結果を生むのか、興味があるらしい。


私は村長やカカンドの頷きを確認してから、笑顔を向け了承した。


私たちの逃避行に、心強い【道連れ】が出来た。



「げに、徒事とじばかりかな。

 何故その考えとなるなり?

 君らの脳味噌は猿以下か?」


私たちに同行するのはソムラルディ唯一人だけだった。


そもそも排他的なエルフの中にあって彼は変わり者の部類らしい。


好んで人間と関わろうとする者は他にいないようだ。


その彼はいま私の横を歩きながら【魔力】についての講義をしてくれている。


私たちは北東に向けた逃避行を再開していて、ソムラルディも徒歩での移動を承諾し、道すがら教えてくれているのだ。


戦闘訓練を指導してくれていた初期の頃のツェルゼンを思い出す。


彼もかなりの【鬼教官】だったが、ソムラルディは毛色が違う【鬼畜教師】だった。


手厳しい指摘を何度も喰らいながら、私は己の【無知】を何度も反省し、後悔していた。




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