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滂沱の日々  作者: 水下直英
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急に来訪した客への穏便な対処法とは


「ジッガ、ご飯出来たよ。

 ジッガ、起きて?」


聞き慣れた声に私は意識を覚醒させていく。


広げられた幌の入口からカンディが顔を覗かせている。


見回すと、一緒にいたはずの医師とツセンカの姿は無い。


「焚き火があるから明るいところで診察してるよ。

 ほら、ジッガも行こぉ?」


「あぁ」


身体に力が戻っているのが分かる。


身体強化魔法を使用してみると、視覚と聴覚が研ぎ澄まされていった。


「大丈夫?」


「うん、疲れはだいぶ取れた。

 やはり全力の【炸裂魔法】が疲労の一番大きな原因だったと思う。」


「そうなんだぁ」


馬車から抜け出て外に出ると、月明かりの中、焚き火を囲んで皆が食事を摂っていた。


私とカンディが近付くと低い歓声が上がり迎え入れてくれた。


「心配かけて済まなかった。

 もうだいぶ回復した。」


「そうか、良かった。

 ジッガがいなくて皆そわそわしてたからな。」


アグトの言葉に思わず笑みが零れる。


人に必要とされていることがこんなに嬉しいものかと少し驚く。


『役に立てていない』と落ち込んでいたリルリカやマグシュの気持ちが分かった気がした。


井戸を掘っていないことを謝罪したが村長やカカンドに笑われた。


今朝断崖の前で補充したばかりなのだ、一日毎に補充するのか、と愉快そうに破顔された。


未知の領域で野宿してるというのに皆の表情が明るい。


警備に当たっている若者たちは真剣な面持ちだが、老人や女性たちは穏やかに談笑している。


「どんな化け物が出てくるか分からんから警備は厳重にしている。

 だがお前さんの活躍でみんな心を強く持ててるのさ。」


私の疑問に答えるようにカカンドが話してくる。


また顔色を読まれたか、と少々思うところはあるが、皆が安心してくれたならば頑張った甲斐が有るというものだ。


食事を摂りながら色々な報告を受けた。


この『ディプボス』手前の荒地近辺で生き物は発見されていない。


北に広がる『深き森』は夜の暗さもあって探索はしておらず、明日は『ヌエボステレノス』目指して北東側へ進むため、森は調べないまま去る予定だという。


山と森の間にはこの場所同様の荒地が続いていると思われ、北東へ向けた旅は荒れた道を進むものになるだろうとのことだった。


魔物の襲来が感じられないことも今の穏やかさの要因だろうと思われた。


何にしろ逃避行はまだ十日以上続くだろう。


英気を養い旅を続ける体力を取り戻すため、皆には充分な休息を取ってもらおうと思う。


休息が済んでいる私は、また皆の中を魔力を流して歩き回った。


途中でアグラスやゲルイドら子供たちに囲まれ『どうやってオークを倒したか』という武勇伝をせがまれた。


困っているとハテンサがやってきて、代わりに子供らの相手をしてくれた。


ハテンサの隣にはベルゥラがいる。


母が健在な彼女を羨ましく感じたが、今はそれどころではないと頭を振り、羨望の気持ちを振り払う。


ギルンダら老人たちの一団からは熱烈な歓迎を受け、思わず苦笑いが漏れ出た。


まだまだ旅が続くからその元気はこの先に取っておいてほしいと伝え、私はモンゴの許へ行き警備の一員に加わった。


昼に戦闘や警戒で頑張っていたジッガ団の仲間たちは泥のように眠っているが、ツェルゼンだけは夜の間ずっと周囲の哨戒役を務めていた。


「ワシも仮眠を取った、大丈夫だ」


と言葉短く答えていたが、本当に大丈夫なのだろうか?


『年寄りなのだから無理するな』と直言すると確実に睨まれて説教されるのであまり言えないが、おそらく誰よりも気を張り詰めている。


もし道中で比較的安全な時間があったら、カンディの魔法で無理にでも半日ぐらい休息を取らせた方が良いように思えた。


そんなことを考えていると、夜明けが近付いてくるのが感じられた。


何事も無く夜を越せたことに安堵しつつ、起き出して朝食の支度を始めた村人たちを手伝おうと人の輪の中に入っていった。



 朝食を摂り終え、出発の準備をしているとツェルゼンが早足で近付いてきた。


「ジッガ、何者かが森に居るぞ。」


報告を聞き、私だけでなく周囲にいたアグトやモンゴの顔にも緊張が走る。


「魔物か?」


「いや、おそらく人間だ、いや、【亜人】かもな。

 こちらの様子を窺っている気配がする。」


「このまま出発できないか?」


「途中で奇襲を掛けられたら厄介だ。

 話せるようなら敵意の無いことを伝えた方がいい。」


駆け付けた村長とカカンドにも相談したが同じ結論に達した。



 ツェルゼンと二人だけで【ディプボス】の手前まで進み出た。


身体強化による視力で観察してみると、確かに樹上に人影が何人かえる。


持っていた槍をツェルゼンに預け、私は両手を上げ、左右に振りながら彼らに呼び掛けた。


「私たちは戦うつもりは無い!

 ただ荒地を抜けて北東に向かうだけだ!

 森に入るつもりも無い!

 多くは戦えない老人や女子供だ!」


言葉が通じるかわからないが、ゆっくりとした口調で呼び掛け続けた。


やがて、彼らは木から降りてきて私たちの方へやってきた。


一目で分かる五人の【エルフ】たちは全員弓矢を手にしたまま、警戒した様子で近付いてきた。


尖った耳、血が流れていないのかと思わせる真っ白な肌、瞳孔を囲む虹彩こうさいの黄金色の輝き、どれもが人間とはかけ離れている。


警戒心を減らそうと手ぶらのままさらに一歩進み出ると、彼らのリーダーらしき者が声を掛けてきた。



「何故ここに来し、幼女おさなごよ。

 ここは深き森、何人も寄せ付けず。

 とく立ちね。」


多少難解だが、言葉は理解出来る。


私は改めて敵意がないことをゆっくり、単語の区切りをはっきりさせながら話した。


それに頷き、彼は言葉をつむいだ。


「戦はぬはさかしき選択なり。

 とく立ち去ぬべし。

 ……む!

 いや待て!

 そなた何故人の身に【精霊の力】を得てあり?

 そなたげに人か?」


話している途中で、急に端正な顔に驚きの表情を浮かべ、私の顔を覗き込んできた。


「精霊の力、とは何だ?

 【魔力】のことか?

 このような力か?

 魔力を出すぞ?」


私はそう言って生体看破の索敵魔法を前方の彼ら目掛けて放った。


「ほぉ、魔力を使ふべしや。

 ありがたき幼女なり。

 されどそは精霊の力ならず。

 そなたはいづこに生まれき?

 我ら森の民の血を引く者か?」


エルフの質問に私は断崖の細道を指差しながら答えた。


「私はあの道の向こうにある人間の村で生まれた。

 エルフの血は引いていない。

 精霊の力とはエルフの【能力】なのか?」


私の答えにエルフたちは顔を見合わせ相談を始めた。


どの顔にも困惑が広がっている。


やがて話がまとまったのか、再びリーダーらしき者が結論を述べる。


「幼子よ、

 我らの里の物知りを呼びくれば待ちたらなむ。

 この近辺には魔物は大方おおかたあらねば安穏なり。

 食い物も少しばかり持ちく。

 いかがなり? 待てりや?」


「む、ここは安全ということか?

 うーん……、一日だけなら待とう、

 それでどうだろうか?」


「それにてありぬべし。

 一日もかからず。

 では待て。」


そう言って彼らは去っていった。



 振り返ると、ツェルゼンが心底安堵した表情になって片膝を突いていた。


「ツェルゼン、話は聞いていたな?

 どうやらここでもう一日過ごさねばならんようだ。」


「そ、そうか。

 ワシには内容が良く分からんかった。

 戦いにはならんのだな?」


「あぁ、

 【精霊の力】とやらで私に話があるそうだ。

 仲間を連れてくるらしい。」


「なに?

 大丈夫なのか?

 突然奇襲されぬか?」


「そのつもりなら【仲間を連れてくる】などと言わないだろう。

 実は私も彼らに切実な要求が有るんだ。」


「なに?

 どんなことだ?」


「【魔法の知識】についてだ。」


そう言って笑う私に、ツェルゼンは心底納得がいった、という表情に変わっていった。




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