表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
滂沱の日々  作者: 水下直英
33/123

死にゆく者に何と言葉を掛けるべきか


 マグシュが私たちの様子を伝えるために前方へ駆け出す。


私はアグトの背で脱力したままだ。


誰一人死なせない、という私の【決意】は早々と破られてしまったようだ。


怪我をしてへたり込んでいたように見えた彼は、今にも命の炎が消えそうな危篤状態だという。


私の落ち込みようを感じたのだろうか、ツェルゼンが常になく言葉をつむいでくる。


「ジッガ、人の死なぬ戦争など無い。

 兵士は死を覚悟して戦いに臨む。

 それに全ての人を救わんとしたところで、

 人の腕はあまりに短い。

 三人か四人を抱きかかえるので精一杯だろう。」


ツェルゼンの慰めの言葉はありがたい。


普段無口なだけにその言葉に説得力が有った。


だが、それでも、私は救いたかった。


母を救えなかった私だが、もう目の前で人が冷たくなっていく様は見たくないのだ。


沈黙したまま涙ぐむ私に気付いたのだろう。


ツェルゼンもアグトも無言のまま歩き続けた。


少しして私は奥歯を噛み締め、心の奥底の【決意】を燃やす。


国を興さんとする者が見せる態度ではない、と心を奮い立たせ私は口を開いた。


「いや、済まない。

 弱気になってしまった。

 まだ彼は死んでいない。

 『助からないかも』としかマグシュは言っていないからな。」


そう言ってアグトを急かした。


アグトが少し笑ったような感触が背中から伝わる。


ツェルゼンも私と視線を合わせると軽く頷いた。


そうだ、いつまでも弱い心のままではいられない。


皆を勇気づけられる存在にならねばならないのだ。



 しばらく歩いていくと最後方を歩くエンリケたちを見い出すことが出来た。


無事な姿を見ることが出来て少し安心する。


だが、近付いてみて分かったが、彼は泣きながら歩いていた。


アグトに言ってエンリケと並んでもらう。


どうしたのか尋ねると、エンリケの代わりに近くにいた若い警備団員が答えてくれた。


どうやら怪我をして危篤状態の警備団員は、エンリケをかばってオークの一撃を喰らってしまったらしい。


「【ツセンカ】は勇気ある奴ですよ。

 あんなデカいオーク相手に立ち向かって・・・」


団員も話の最後は涙声になっている。


「ツセンカはまだ死んでいない。

 今、彼は全力で【死】と戦っている。

 私たちが助力しないでどうする!

 私たちはこれから彼の許へ向かう。

 エンリケ、君もここから彼の【生】を願うんだ。」


私の言葉を聞き、最初は驚いた表情を見せた二人だが、すぐに涙を目に宿したまま力強く頷いた。


「では悪いがアグト、彼がいる馬車までこのまま頼む。

 ギリギリまで力を溜めたい。」


「あぁ、わかった」


エンリケやマグシュらに見送られ、私たちは村人の列を追い抜いて行き、中列の馬車に迫った。


六台に増えた馬車の最後方にツセンカは乗せられていた。


村の医師とカンディが付き添っている。


私はアグトに降ろしてもらい馬車に乗り込む。


「アバラが折れとるし内臓をどこかやられとる。

 正直言うと手の施しようがないんじゃ。」


意志の言葉に無言で頷き、カンディを見やる。


悲しそうな表情で見つめ返してくる彼女だが、これからすることを手伝ってもらわなくてはいけない。


「カンディ、まだまだ私たちは【魔法】について知らない。

 だが私たちが【魔力を流す】ことでギルンダたちは【活力】を得ている。

 それに賭けて私はこれからツセンカに【全力の魔力】を流す。

 もしかしたら痛みを伴うかもしれない。

 カンディは【精神安定魔法】で彼を癒し続けてくれ。」


「う、うん! わかった!」


死にゆく者の為に何か出来ることを探していたであろう彼女は、真剣な顔ですぐに頷いた。


既にアグトとツェルゼンは先頭集団の方へ移動していて、馬車の中には医師だけが残っており、私たちがしようとしていることを固唾を飲んで見守っている。



 苦しげな表情のまま、荒く小さな呼吸を繰り返すツセンカ。


私は彼の両手を取りカンディの方を見やる。


頷く彼女を確認した後、私はツセンカに語りかけた。


「ツセンカ、エンリケを助けてくれてありがとう。

 キミのおかげで彼らは死なずに済んだ、心から感謝する。

 そのキミを私は絶対に死なせたくないんだ。

 生きてくれ、ツセンカ。

 死にたくないと足掻き続けてくれ。」


呟きながら私は彼の手に全力の魔力を流し始めた。


最初は苦しそうにしていたツセンカだが、カンディの魔法が効き始めたのか、やがて浅い呼吸をしつつも落ち着いていく。


しかし、やはり何度か苦しそうにうめき、内臓を損傷している為か吐き出すつばに血が混じる。


横で見ていた医師が唾を布で拭い取り、私たちを補助してくれた。


私は今まで試したことの無い、全力の魔力を注ぎ込む。


魔力について打ち明けた初期の頃、強く流すとアグトらが痛みを訴えた為、いつも程々の魔力を流していた。


だが今は違う。


勇気ある彼の【生】を願い、全力の祈りを込めた魔力を循環させ続けた。



 一時間ほどそうしていただろうか。


何度か血を吐いたツセンカだったが、いつの間にかそれが無くなっていた。


顔を近づけてみると呼吸はしている。


手を離し、背後で見守っていた医師に診てもらう。


医師は彼の呼吸を確かめたあと、胸や腹を触り反応をみている。


私とカンディは緊張したままじっとその見立てを待つ。


「おそらくじゃが……」


医師がツセンカから手を離し、見立てを語り始めた。


肋骨ろっこつや内臓の傷が

 【無理矢理】繋がれたり塞がれたんじゃろな。

 少々変な形になっとるようじゃ。

 だが、命は助かった。

 あとは要観察、じゃな。」


「良かったぁ~!」


カンディが歓声を上げる。


私も安心したためか気が抜けて脱力する。


「まぁまだ安心は出来んぞ?

 変な形になった身体なんじゃ、

 食事や運動が今まで通り出来るとは限らん。

 それを踏まえての【要観察】じゃからの。」


「うんうん、でも死ぬよりはいいよぉ!

 変だったらもう一回折って

 エンリケにくっ付けてもらえばいいと思う!」


無茶苦茶を言うカンディだが、彼女の言う通り死ぬよりはマシだ。


今は【魔法】について無知だったため変な形になったが、知識を身に付け、完璧な魔法を覚えられたならば、完治する可能性だってあるのだから。


早速エンリケに知らせに行こう、きっと誰よりも状況を知りたいはずだ。


先頭のアグトの許へはカンディを向かわせ、私は最後方のエンリケの許へ走った。


想像通り、彼は泣いて喜んでいた。


多く配置されていた警備団員たちも抱き合って歓びの声を上げている。


一応、治療が不完全なことを伝えるが、みな一様に答えた。



「生きていてくれただけで良かった」


と。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ