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滂沱の日々  作者: 水下直英
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自己犠牲の精神とは本当に尊いのか


 私たちは二手に分かれ一列になり、左右の岩肌に張付くように沿って進んだ。


気付かれる限界までこうして進み、気付かれた瞬間に団員達六名が矢を放ち、私たち前衛が突貫する。


戦術とも言えないお粗末なものだが、武器や人員の足りていない私たちには他に方法が無い。


オークが木の上方を見上げ座り込んでいるのが現状唯一の幸運な点だ。


じりじりと、左側の私と右側のツェルゼンが歩調を合わせ、音を立てぬよう進んでいく。


オークの巨体が少しずつ大きく視界に拡がっていく。


予測より格段に接近することに成功している。


だが、一匹のオークが遂に気付いた。



 私たちの持つ六本の槍はエンリケの作った中でも珠玉の作品だ。


警備団で使用していた槍の青銅製の穂先を流用し、特に頑丈な樹木によって柄を削り出し、魔力によって磨かれた素晴らしいものである。


オーク相手でもそう簡単には壊れない逸品だが、この穂先が光を反射してオークの眼を刺激してしまったのだ。


こちらに気付き立ち上がろうとするオーク五体。


それに向けて警備団員たちの鋭い矢が放たれた。


弓も矢もエンリケの魔力で強化されている上、訓練の時より距離も近い。


当たる場所は違えど、六本の矢は全て命中した。


うち二体は顔面に当たったことにより立ち上がれず膝を突いた。



「おおおぉっ!」


「たりゃぁっ!」


私とツェルゼンの槍が立ち上がった二体それぞれの脇腹を突き上げる。


素早く引抜き私は顔を抑える二体に次々槍を突き入れた。


本当にこの【槍】は素晴らしい。


木製のものとは比較にならない貫通力で二体のオークをむくろにし、一体に大きな傷を負わせた。


右脇腹を貫かれたオークが私を横薙ぎに殴りつけようとしたが、私はそれを紙一重で躱し、左脇腹へ槍を突き刺した。


オークにも心臓に当たる臓器があるらしく、黒い血を噴出させ動かなくなる。


それを生体看破で確認しながら戦闘中の残り二体へ向かう。


一体はツェルゼン・アグトに任せて、私はモンゴ・ゲーナ・ハテンサに加勢した。


次々に位置を変え槍を連続で突き入れるハテンサに翻弄され、オークは苛立ちながら腕を振るい足を振り上げる。


その大きな動きの隙を衝いて、モンゴとゲーナが腿や脇腹に小さな傷を与えていく。


完全に振り回されているオークの背後から、私は襲い掛かった。



 高く跳躍して、勢いのままにオークの後頭部へ槍を突き入れた。


斃せた確信を得て、私はその肩口を蹴り、残る一匹の頭上へ迫る。


ツェルゼンとアグトに気を取られていた最後の一匹はまるで無防備だった。


私は空中で狙いを定め、魔力を込めた一撃を投擲とうてきした。


槍はオークの右耳から左脇へと風穴を開けた。


ぐらりと巨体を揺らし、最後の一匹が地に倒れ込む。


隙を見て矢を放つ役割だった六名の警備団員たちが、歓喜の声を上げながら近づいてくる。


「やったなジッガ!

 滅茶苦茶強いなお前!」


「ギルンダが【精霊様】って呼ぶのも納得だ!

 強過ぎんだろジッガ!」


若い団員たちの称賛を、私は気分良く受け取った。


誰も死なせずに戦いを終えられたことに安心する。


ツェルゼンたち五人は気が抜けたのか座り込んでいる。


私が彼らをたたえようと口を開くと、


「ジッガ! ジッガ―――ッ!」


私を呼ぶ声が聴こえた。


振り向くとマグシュが青い顔をしてこちらへ駆けてくる。


そしてその言葉を聞き、私も顔を蒼褪あおざめさせた。


「ジッガッ!

 後ろからオークが近付いてきてるっ!

 十匹以上いるんだ!

 エンリケたちじゃ敵わねぇよっ!!」




 私はすぐさま槍を抱え走り出した。


ツェルゼンたちを待つこと無く、全速力で駆ける。


すぐに避難してくる村人たちと遭遇した。


カンディやリルリカが先導している。


「エンリケの加勢に行くっ!」


彼女らに一言残してその脇を走り抜ける。


道に村人が溢れて通れぬ場所は岩壁に飛び上がり三角跳びで進んでいった。


焦る気持ちを抑えつつ村人の集団を抜けるとオークを牽制するエンリケたちの姿が見えた。


岩壁にもたれるように一人倒れているが、他に怪我をしているものは見当たらない。


十人程で槍ぶすまを作ってオークを牽制し、交代する隙を窺っているようだ。



「でやあぁぁぁぁ―――――っ!!!」


私は三角跳びで彼らの頭上を飛び越え、先頭のオークに正面から槍を突き入れた。


腹に突き入れられた一撃だがオークにはその程度で致命傷とはならない。


素早く飛び退すさり、別のオークの脇腹を突く。


「エンリケッ!

 怪我人を連れて逃げろっ!

 早くっ!!」


「っ!!

 わかったっ!」


エンリケたちが逃げる時間を稼がなければいけない。


私は次々と位置を変えながら槍を連突しまくる。


二体ほどほふったが、オークは仲間の死体を飛び越え向かってくる。


飛び上がった時に見えたが二十体はいそうだった。


オークを引き寄せるために生体看破魔法は全開で放っている。


エンリケたちはかなり遠くまで逃げることが出来たようだ。



『やるしかない!』


覚悟を決め私は今仕留めた一匹の腹を蹴り、オークたちとの距離を空ける。



「たあぁぁりゃぁぁぁぁっ!!」



練りに練った渾身の【炸裂魔法】を投げ入れた。


投げた瞬間に反転し全速力で駆けた。



ゴゴゴゴゴッ!!!



轟音が鳴り響き、地が揺れ、岩肌から岩が落ちてくる。


何とか落石を躱しつつ走っている内に揺れが止んだ。


振り返ってみると、オークと戦っていた近辺は断崖が崩壊して、道は高く積まれた岩で完全にふさがれてしまっていた。


あれではオークの群れだとて一溜ひとたまりもあるまい。


炸裂魔法で斃し切れなくても落石で全滅したはずだ。



 少し疲れを感じて片膝を突く。


名を呼ばれた気がして振り向くとアグトとツェルゼンがこちらに走ってきた。


「ジッガ! 大丈夫か!?

 無茶をするな!」


「ジッガ、オークは?」


私は無言で崩れた断崖を指差す。


ここまで全力で動きっぱなしだった為、息が切れていた。


魔力に目覚めてから、今が一番疲れているかもしれない。


「なんと! アレはお前がやったのか?」


「もしかして【炸裂魔法】を使ったのか?」


アグトの方を向いて頷く、まだ息が整っていない。


「以前のモノより威力が上がっているようだな。」


「ジッガ、それでそんなに疲れてるのか、

 ほら、俺におぶされ。

 みんなもう進みだしてる、追いつかなきゃいけないからな。」


私は素直にアグトに背負ってもらい、横のツェルゼンから状況を聞いた。


二人は先頭をモンゴとハテンサに任せて加勢しに来たらしい。


「もうすぐマグシュも様子を見に来るだろう。

 ジッガがやられるとは思ってなかったが、

 来て良かった。

 こんなにお前が疲れてるところは初めて見た気がする。」


「ジッガ、【勇気】と【無謀】は違うものだと言ったはずだぞ?」


ツェルゼンの説教が始まった。


それをアグトの背に揺られながら聞き流す。


やがてアグトの言葉通りマグシュが駆けてきた。


「あ! ジッガ! 大丈夫か!?

 怪我したのか!?」


「ジッガは疲れてるだけで大丈夫だ。

 オークの群れも全滅させたから安心だ。

 みんなにもそう伝えてくれ。」


アグトの説明にマグシュがホッと息を吐く。


私もだいぶ息を整えられたので声を掛ける。


「マグシュ、ありがとう心配してくれて。

 で、エンリケたちは無事か?

 一人怪我してたみたいだが大丈夫だったか?」


私の質問に、マグシュは顔を曇らせた。


「重傷だ、って言ってた。

 助からないかも、って。」



私はアグトに背負われたまま、心臓が激しく波打ったように感じた。




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