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滂沱の日々  作者: 水下直英
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不幸の連鎖は人間の意志で止められるだろうか


 捕らえた兵士の証言によると、反乱軍は既に【壊滅】していた。


不信溢れる後方をなんとか抑えた【アルザック】が最前線に戻り、戦線はまた膠着するかに思われた。


だが、連戦連勝だったアルザックは初めての敗北を迎えた。


中央の正規軍が温存していた【魔炎弾】を使用したのだ。


この国最高の【魔法使い】と噂される【フランカゲル】という男が前線に現われ、特大の魔法を反乱軍に向けて放った。


その威力は凄まじく、着弾地点から四方50メートルを呑み込む火柱が上がり、反乱軍の二百名近くの兵士は痕跡も残さず消滅した。


この一撃によりアルザックは生死不明となり、反乱軍は崩壊したという。


かなめの人物を失った反乱軍は逃げ惑い総崩れとなり、元野盗で構成されていた軍隊はわずか一日で消え去った。


彼らのように逃げ出す先の無かったお飾りの総大将【ファスデショナ公爵】はすぐに捕らえられ、村を焼き払った報いを受けるように一族郎党全員が領内の門にぶら下げられ、足元で焚き上げられた炎によって焼け死んだという。


「偉大なる国王に逆らった天罰が下ったのだ!

 いずれ貴様らもそうなる運命なのだ!」


再び吠えだした兵士にまたツェルゼンの蹴りが打ち込まれる。


這いつくばった兵士の頭上で私たちはもう訊くことが無いか相談した。


無い、と判断して私たちはドゥタンとキャンゾを呼び出した。


「キャンゾ、ドゥタン。

 こやつはお主らの仇の一味じゃ。

 トドメを譲ろうと思うが、どうじゃ?」


事情を説明した村長に二人は顔を強張こわばらせる。


隣国との戦争の終盤は睨み合いに終始していたと聞いている。


二人は人を殺した経験が無いのだと思われた。


「無理に、とは言わん。

 お主らはまだ若い、

 罪はなるべくなら年寄りが被った方がいいじゃろう。」


そう言って村長はツェルゼンに目配せする。


しかし、ドゥタンが彼らの間に腕を振り下ろしそれをさえぎった。


「いや、スムロイさん、待ってくれ。

 俺に、やらせてくれ。」


それを隣のキャンゾが驚きの表情で見つめている。


「俺は、ジッガに村の仇を取ってくれと願った。

 俺の全てを賭けると。

 その俺が仇本人を目の前にして怖気おじけづいてられねぇ。」


振り絞るように話すドゥタンにキャンゾが頷く。


「そうだな、ドゥタン。

 俺たち二人でやろう、

 俺たちを逃がしてくれたゾアブルさんや、

 村の皆の魂を慰める第一歩だ。」


「あぁ」


二人の覚悟は決まったようだ。


泣き叫び始めた兵士に再びツェルゼンが一撃を加え、ぐったりした身体を引き起こす。


その喉元目掛け、左右斜めから二人の槍が突き出された。


これで、ウングラク村の無念は少しでも晴らされただろうか?


見知らぬ隣村の人々だが、その中には三年間共に暮らした孤児も混じっている。


彼らの魂は先日空に還っていっただろうが、生き残ったドゥタンらに今後の安らぎを分け与えてくれまいか。


まだ苦しそうな顔をしている二人を見ていてそう思った。



 馬が五頭増えたことで馬車の積載量が増えた。


車輪を作製することが無理なので新たな馬車は造れないが、人力で運んでいた荷車の改良に成功したのだ。


二台が二頭立てになったので馬の負担も減る、馬車は計六台となった。


これで足弱で動けなくなった者も数人は乗せる余裕が出来る。


エンリケの硬化魔法が活かされている。


木材の扱いにけた村人たちが集まり、汗水流し作業していき、荷車の改良は夕飯が出来上がる頃には終わっていた。


ニーナやゲーナらが作ったスープは、足の早い野菜が使用された美味しいものだった。


水が確保されているのはやはり大きい。


今後はこんな美味い料理は食べられないだろう。


先程兵士にトドメを刺した隣村の二人も黙々と食べている。


カンディの精神安定魔法が効いたのだろう、さっきより落ち着いている。


食事を終え、ゲーナらに今後水の使用は必要最低限になることを伝え、食器洗いなど水を必要とする作業は全てここで終えておくよう指示しておいた。


私はまた、疲れの見える村人を見付けては魔力を流していく。


そうしているとモンゴから、今の内に仮眠を取るよう指示された。


まだ時間はよいの口だ、真夜中にこそ【魔物】の襲撃を警戒せねばなるまい。


私は大人しく従い、寝具が無駄遣いにならないようカンディやリルリカと共にくるまって仮眠を取り始めた。



 夜間に強敵の出現は無く、無事朝を迎えた。


朝といっても夜明け前、紫にいろどられた山の稜線を見上げる。


今日から進む道は未知の領域となる。


どんな魔物や危険が待ち受けているかわからない。


私は【能力ちからの全て】を使い村人全員を守る決心を新たにした。



 村人全員が起床し、食事を終えると荷造りを開始し、逃避行は再開された。


断崖の細道は実際に通ってみると、そこまで幅は狭くなかった。


馬車が悠々と通行が出来ることにホッとした。


隊列を三列に増やし、なるべく前後を近くさせ、緊急事態に備えることが出来るからだ。


だが道は悪い。


でこぼこの路面が馬車や荷車を揺らし、御者をしているカカンドらを慌てさせる。


先頭に伝令を出し、なるべく石を脇にどけながら進むよう指示して以降、なんとか馬車が問題無く進めるようになった。



 そうして進み続け、太陽が高く昇り始めた頃に、行進が止まった。


先頭からアグトが緊迫した様子で走ってくる。


私たちはみな身体強化魔法を使えるようになっているが、アグトが私に次いで得意としている。


また、マグシュも足の速さだけはかなり強化出来ているので、後方に配置し、伝令役を務めさせている。


だがアグトは伝令役ではない、その彼が伝えに来たのだ、余程のことだろうと思われた。


アグトは周囲に目を配り、戦えない者らが不安にならないよう堂々とした様子で私に報告をした。


「ジッガ、前方に【オーク】を【五体】発見した。」



 報告によると、道の途中で壁がえぐれて広場の様になっている場所があるらしい。


そこにあのオークが好む【果実のる木】が生えているとのことだった。


それに五体のオークが群がっている、と。


斃さなければ前進は不可能らしい。


ツェルゼンの見立てなので間違いないだろう。


私は戦術を考える。


先日オークを斃した時、戦闘員は私、ツェルゼン、アグト、ゲーナ、エンリケで、弓を多用して無傷の勝利を得た。


今回は五体相手だ。


なるべくなら無傷でこの危機を回避したい。


炸裂魔法を使用するべきだろうか?


判断がつかないためアグトとゲーナを連れて先頭のツェルゼンの許へ急いだ。



「この先にいる、間違いない。

 索敵魔法は使うな、勘付かれる。」


「あぁ」


索敵魔法ではなく、身体強化で視力を上げて私は前方を見据える。


ツェルゼンの言う通り、一本の木の周りでオークが五体座り込んでいた。


木の上方に果実が生っているのが見える。


あれが落ちてくるのを待っているのだろうか?


「文献では一日掛ければこの断崖の道は抜けられるはずだ。

 こんな所で時間を掛けられぬ。

 こんな断崖に挟まれた中で野営なぞ自殺行為だからな。」


確かにそうだろう、こんな場所で夜になったら何も見えなくなる。


かといって火を起こせばどんな魔物が近寄ってくるかわからない。


無理をしてでも突破する必要があった。



 挑むのは私、ツェルゼン、アグト、ゲーナ、ハテンサ、モンゴ、そして警備団の精鋭六名を加えた計十二名だ。


警備団員たちには全員オークの素材で強化された弓を持たせた。


私たち前衛六名はエンリケが作った中で最も出来の良い槍のみを持って挑む。


オークの腕力の前では楯は無意味だからだ。


村人たちへは待機しているように指示し、エンリケたちに後方を警戒させておく。


不安を抱えているであろう村人たちの為にカンディを中列に置いたままにした。


「決して誰も死なせない。

 みんな、行くぞ。」


私の言葉に十一人が頷き、オークの群れへ近付いていった。




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