成長に必要なのは困難のほか何があるだろうか
私とゲーナは警備団の訓練場へとやってきた。
ツェルゼン指揮のもと、六十名程の村人が教練に励んでいる。
数日の鍛練では大きな成長は見込めないため、魔物が出た際の動き方などを重点的に学ばせている。
軍隊式の訓練に慣れた帰還兵を中心に、比較的若い者たちが集団行動の仕方を教えられていた。
アグラスやゲルイドの姿も見える、ドゥタンとキャンゾも加わっていた。
使える人材はなりふり構わず使っていかなければ生き残ることは難しい。
非戦闘員を守ることを考えれば人手が全く足りていないのだから。
私は訓練でへばった者たちに近付いていき、次々と魔力を流す。
活力を取り戻した若者たちは不思議そうに私を見上げたあと、順々に訓練を再開し始めた。
ゲーナも魔力循環を手伝ってくれている。
ゲーナだけではなくリルリカとマグシュも魔力循環が微弱ながら出来るようになっていた。
今も村のどこかで魔力を流していることだろう。
私に次ぐ魔力を持つカンディが「なぁんでワタシは出来ないのぉ」と悔しがっていた。
だが彼女は貴重な精神安定魔法が使える。
診療所に控えさせた彼女は逃避行に不安を抱える村人たちを癒していることだろう。
ふと気付いたらハテンサとベルゥラが近寄って来た。
帰還兵であるハテンサは訓練に励んでいたのだろう、疲れた様子の彼女の手を取り魔力を流し始めた。
「ハテンサ、ベルゥラ。
眠ることは出来たか?」
「あぁ、アタシらはドゥタンたちと違って現場を見てないからね。
まだ本当にあったことか信じられてないのかもしれない。
ね、ベルゥラ?」
「うん、アタシまだ何が何だがわかんないよ・・・」
俯き話すベルゥラの声は終わりの方で掠れてしまい聴こえなくなる。
「そうか、
診療所に行けばカンディが精神を安定させる魔法をかけてくれる、
後で行くといい。」
混乱が続いているであろうベルゥラの手も取り魔力を流し始めた。
少しでも落ち着けば、と思い取った行動だが、私は驚かされた。
「ベルゥラ! 【魔力】を持っているのか!?」
「えぇ!?」
私の驚きにベルゥラだけではなく、ハテンサとゲーナも目を見開く。
「嘘だろジッガ?
ベルゥラにゃ不思議なことなんてまるで起きてないんだよ?」
母親であるハテンサが言うのだからそれは間違いないのだろう。
だが私は初期のカンディに感じたような魔力をハッキリと捉えていた。
「間違いない、魔力を持っている。
まだ発現していない、というだけだろう。
ハテンサ、今後ベルゥラを鍛えて戦力にしても大丈夫か?」
私の提案にハテンサは顔をしかめる。
「この子は戦闘向きの性格じゃないよ。
代われるもんならアタシが代わりたいが……、
ねぇベルゥラ? 戦うなんざ無理だろ?」
子を思い遣る母の言葉だが、ベルゥラは首を横に振った。
「ううん、アタシやるよママ。
村の人たちの仇を取りたいのはアタシも一緒なの。
それにカンディさんみたいに直接戦闘しない力も必要でしょ?」
「……ベルゥラ、あんた……。
わかったよ、ジッガ、思う存分鍛えてやってくんな!」
「あぁ、任された。
どんな魔法が発現するかはベルゥラ次第だがな。」
『頑張るよ!』と意気込むベルゥラをゲーナに預け、私は次の場所へ向かう。
訓練場では意外に仕事が少なく、ゲーナで務まると判断した。
集会所に着くとみな慌ただしく動き回っていた。
衣類などの不足分を調べたり、馬車に積載できる分量を調べ食糧の配分を行い倉庫へ走ったりしていた。
積み込み作業をしている者たちにはマグシュが付いていたので、私は彼に魔力を流してから作業場へ向かう。
年配の女性たちが一心不乱に縫い物をしている中にニーナを見付けた。
「ニーナおばさん、準備は間に合いそうかな?」
「おやジッガ、
そうだね、なんとか間に合うとは思うよ。
でも赤ん坊が二人いるからね、
二週間ぐらい野宿するんだろ? 心配だねぇ。」
彼女はやはり幼い子供が気になるらしい。
心に抱えた傷はきっと癒えることがないのだろう。
タイミングを見計らい作業をする全員に魔力を流しておく。
疲れた状態で逃避行など出来ないのだから念には念を入れる。
女性たちを労いながら別の部屋へ移動すると村長とカカンドが話し合っていた。
貴重品の【地図】を眺め、ルートの確認をしている。
「おぉジッガ!
どうじゃ、皆の様子は?」
「頑張って準備や訓練をしている。
出来るならば一人も死人はだしたくないな。」
「お前さんがそんな不吉なこと言うなって。
どーんと構えてろ、どーんと。」
相変わらず軽口を叩くカカンドに少し安心するが、やはり村長共々緊張もあり疲れた様子に見える。
二人に魔力を流し、カカンドの言う通りあとは任せて別の場所へ移動した。
調理場ではまだ動ける方の年寄りたちが保存食を作っていた。
歳が上になるほど私を崇める空気感が強くなる。
皆に揃って祈られてしまい、また光が降り注ぐ現象が生まれた。
『ありがたやありがたや』とまだ祈る年寄りたちを宥め、作業へ戻らせる。
集会所の入口を出るとカンディを発見した。
何やら人だかりの中にいる、どうしたのだろうか?
「あぁ、ジッガ」
「何をしてるんだカンディ?
問題が起きたのか?」
表情に不安な気持ちが出てしまったのだろうか、カンディは私に精神安定魔法を掛けながら話してきた。
「大丈夫だよぉジッガ。
ちょっとお馬さんがビクビクしてたから、
魔法を掛けてあげてただけ。」
「そうそう!
凄いよな、一気に大人しくなったからな!
ジッガ団はみんなすげーよ!」
馬車のそばで作業していた村人が彼女の言葉に乗っかる。
カンディが誇らしそうに私を見つめてくるので、頭を撫でながら「すごいぞ」と褒めておいた。
カンディと共に診療所に入ると数名の母子が座っていた。
あの二人がニーナの言っていた赤ん坊だろう。
四歳ぐらいの幼児もいて母親に抱きかかえられている。
今朝バコゥヤがいた寝台は空いていた。
私はまた込み上げるものを感じ、慌ててカンディに話しかけた。
「カンディ、7歳8歳ぐらいの子も何人かいただろう?
彼らはどうしているんだ?」
「アグトに連れられて
槍とか楯の材料になる枝を拾いに行ってるよぉ。
エンリケがおウチでいっぱい作ってるから、
材料がぜんぜん足りないみたい。」
「ほぉ、なるほどな」
みんな頑張っている、私もまだまだ頑張ろう。
母子に優しく魔力を流してから、私はまた場所を移した。
村の各所で作物の収穫が行われている。
採れるものは全て取っておき、運べない物は置いて行く方針だ。
主に【イモ】を収穫している、保存がきくからだ。
食糧は馬車の他にも人力で運搬する、途中で食べてしまえば無くなるのだから辛いのは最初の道程だけだ。
農作業に励む者たちにリルリカが魔力を流している。
声を掛け、リルリカにも魔力を流す。
彼女ら三人は魔力循環が出来るようになったものの、やり過ぎると一気に疲れてしまうらしい。
私はその感覚を味わったことが無いが、心配なので彼女にそこまでやらないように注意してから他の畑へ向かった。
リルリカの手が回っていなかった畑の村人に魔力を流していたら、いつの間にか空が赤くなり始めていた。
私は訓練場と集会所へ行き、ゲーナ・カンディ・マグシュと共に帰宅した。
ゲーナの家にはジッガ団の七人の他に隣村から来た四人が顔を揃えていた。
これだけいると流石に狭いので、何人かは立ちながら食事を摂った。
逃避行の準備について話しながら夕食を終え、食器を片づけた後、私はゲーナに言われたように自分の【志】について語り始めた。
この国の王と貴族を憎んでいること、この国を打ち倒すために私自身の国を興す【覚悟】があること、【死】の苦しみ辛さを知らない国王たちにその全てを味わわせる決意を、心の内を全て曝け出した。
ドゥタンら隣村の四人は驚いた表情で聞いていたが、仲間たち六人は落ち着いている。
生真面目に頷くアグト、優しく微笑むゲーナ、武器作成の疲れが見えるエンリケ、同じく魔力循環で疲れた様子のリルリカ、変わらぬ笑顔のカンディ、難しい言葉を理解出来なかったらしきマグシュ、大切な仲間が目の前にいる。
「ジッガ、ゲーナが言った通りだ。
俺たちはジッガのことを誰よりも信頼している。
前にリルリカが命を捨てる覚悟を伝えた時にお前は否定したが、
俺たちは【お前の為に】命を賭ける【覚悟】がある。
それは否定せずに受け入れ、お前の覚悟と一緒に背負ってほしい。」
アグトの真剣な願いに私は唇を引き締め頷く。
「アグト、ゲーナ、エンリケ、リルリカ、カンディ、マグシュ。
私の大事な【仲間】たち。
もう一度誓おう。
私はこの命を賭けて、皆の願いを叶えることを!
みんなが安心して暮らせる国を創り、私は皆を守る!」
その瞬間、
今までで最も大きい光が部屋中に溢れかえった。
ジッガ団七人から放たれた光は、やがて頭上で寄り集まり、密度を高め、眩しくて眼を開けていられぬぐらいに輝き、私の胸の内へ吸い込まれていった。
ドゥタンたちは驚愕の表情のまま部屋の端まで後退してしまっている。
私たちも椅子に座ったままではいるが、開いた口を閉じられないでいた。
やがて、ゲーナが唇を震わせながら話しだした。
「ほ、ほらね?
私たちが、誰よりもジッガを【信頼】してる、でしょ?」
その後、発光が家から漏れていたらしく、警備団がやって来る事態になったが、大丈夫であることを告げ帰ってもらった。
次々と新たな現象が起きているが、不思議なことに、私は何ら不安や恐怖を感じることが無かった。
ゲーナの言葉を借りるならば
『私が』
誰よりも仲間を信頼しているからだろう




