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滂沱の日々  作者: 水下直英
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最悪だと思っても、後から考えれば違っている


 知らせてくれた警備団員と一緒に、仲間たち全員で集会所へ向かう。


ひらけた場所には村長やモンゴはじめ村人が大勢集まっていた。


私たちの到着に気付いた村人たちは人だかりの中央へと招き入れてくれる。


そこには見知った人物がいて村長と話し合っていた。


「ドゥタン!」


「ジッガ、やっぱりお前の村だったか。」


隣村から逃げて来たうちの一人は、孤児院で共に暮らしていた【ドゥタン】だった。


彼の脇に同年代の若者がいて、さらに母と娘らしき二人が身を寄せ合っている。


その母親の顔に私は見覚えがあった。


孤児院を追い出され街から村へと帰る途中、別れ際に抱き締めてくれた女兵士だ。


「あぁ、戦争が終わった時に一緒に帰った子だね。

 でも今はそんな話をしてる場合じゃないんだ。」


確かにそうだ。


私たちは改めて、事情を知るらしきドゥタンともう一人の若者から話を聞き始めた。


それはドゥタンたちにとって【最悪さいあく災厄さいやく】と言える出来事だった。





 ドゥタンたちの住む【ウングラク】は、リベーレンより少しだけ人口が多いだけの小さな村だ。


七年前に始まった隣国との戦争により重税が課され、青色吐息を吐き続けたまま日々の暮らしをなんとか送っていた。


ギリギリの暮らしをする彼らに、嫌な噂が聞こえてきた。


反乱軍が鎮圧されたら、国威高揚のためにさらに税が重くなるという噂だ。


ただでさえ食料が行き渡らず、年老いたものが堪え切れず死んでいっている。


母親の栄養が足りず乳飲み子が死ぬような状況で、更なる重税など耐えられるはずもない。


彼らは全員で北の隣国への亡命計画を立て始めた。


そしてそんな矢先、突然三百名を超える正規軍の訪問を受けたのだ。



「我らはほまれある【グリンゲルドバッハ伯爵】様の精鋭部隊である!

 貴様らの長はどこにいる! 早く出てこい!」


兵士長らしき全身鎧に包まれた兵士が馬上で声を荒げて村長を呼ぶ。


その背後では豪奢ごうしゃな鎧兜を身に付けた貴族らしき男が、馬上から村人たちを見下ろしている。


慌てふためいた村長が進み出て、膝を屈し、訪問理由を尋ねた。


とぼけるな! 我々は報告・・を既に受けておるのだ!

 国外逃亡を図る貴様らの反逆行為は許されるものではない!

 ここに住まう者みな犯罪者であることは明々白々!

 大人しく縄に付け! さもなくば【皆殺し】になるぞ!」


この兵士長の言葉に村人たちは顔色を失う。


知らぬ間に秘密の計画が漏れていたのだ。


村長が抗弁のため口を開こうとしたその時、


「ぐぁっ!」


貴族のそばにいた兵士の首に矢が突き刺さり落馬した。


血気に逸った村人が弓を射たのだ。


「貴様らぁっ!!

 皆の者かかれぃっ!!

 【皆殺し】だぁっ!!」


一瞬で頭に血が昇った貴族の号令により、【虐殺】が始まった。


刃向う村人も数十名居たが、武器防具の質がまるで違う。


訓練を受けた兵士たちを相手に、村に居て腕のなまった帰還兵たちでは太刀打ち出来なかった。


老若男女分け隔てなく次々と殺されていった。


離れた場所で成り行きを見守っていたドゥタンと、彼より一歳年上の【キャンゾ】は自分たちも参戦して貴族に一矢報いようと決死の覚悟で動き出した。


だが、彼らの行く手をがっしりと抑える者がいた。


「ゾアブルさん! 何故止める!?」


彼らを制止した【ゾアブル】という帰還兵は体中から怒気を振り撒き叫ぶ。


「キャンゾ! ドゥタン!

 お前らはリベーレンに走ってこのことを伝えろ!

 あの村は反逆者の集まりだ! きっと力を貸してくれる!

 お前らは俺たちの怨みを果たすため生きろ!」


「でも俺たちも!」


「いいから行け!

 俺は妻の仇を取る!

 お前たちに俺たちの魂を託す!」


そう言ってゾアブルは騒乱の渦の中へと飛び込んでいった。


僅かな逡巡の後、二人は村から脱出するために走り出した。





 ウングラクで今日起こった凄惨な出来事を語り終え、ドゥタンとキャンゾは地に座り込む。


話し終えて放心してしまったのだろう。


そんなドゥタンにゲーナが問いかける。


「ドゥタン、あの、ベルルはどうなったの?

 ガラソは? ミーチガは? フマゾフは?」


ゲーナが孤児院で生活を共にした者らの名を挙げていく。


それに対し、ドゥタンが力無く首を振った。


「たぶん、みな死んだ。

 ガラソは殺されるところを見た。

 なのに俺は、俺はっ!」


地面に拳を叩きつけ嗚咽を始めたドゥタンに、ゲーナはしゃがみ込み彼の肩へ手を置き謝罪している。


私はその横で暗い表情のまま立ちすくむ母娘に声を掛け事情を聞いた。


母親は【ハテンサ】、娘は【ベルゥラ】といい、二人は昨日街へ行き知り合いのところに宿泊し、今日帰る途中でドゥタンたちに会い、村の惨劇を知ったらしい。


「そうか、拾った命だ、大事にしないとな。

 村に家族は?」


「いや、半年前アタシが従軍中に旦那は病気で逝っちまった。

 少しの間このには淋しい思いをさせちまったけど、

 戦争が終わって二人で生きていこうって頑張ってたのに、ね。」


ハテンサの哀しみに満ちた言葉に周囲は沈黙した。


しかし村長が私に顔を向け必死の形相で言い募る。


「ジッガ! もはや一刻の猶予も無いのは明らかじゃ!

 準備ができ次第、やるしかないぞ!」


「あぁ、そのようだな。

 もうどうにもならないらしい。

 やるしかない!」


私の言葉によって、集まっていた百名近い村人たちが反応し、賛意の叫びを上げ始めた。


その様子を見ていたハテンサが戸惑いながら村長に問いかけいる。


「あの……、さっきから何でこのが仕切ってんだい?

 この娘、何者だい?」


その質問に村長が嬉しげに答える。


「ジッガはワシらの【まとめ役】で、

 【聖女】様じゃ。」


「え?」


私の口から思わず声が漏れ出た。


村長の言葉に周囲の村人がさらに湧き上がる。


その中にはギルンダも混じっていて「聖女様であり【精霊】様でもあるぞ!」と叫んでいた、何というか、元気になって何よりだ。


この雰囲気の中で否定の言葉を発するのははばかられ、私は開いていた口を閉ざす。


振り返ると仲間たちは誇らしげに微笑んでいた。


視線を戻すとゲーナに肩を借り立ち上がったドゥタンがこちらを見ていた。


「ジッガ、やっぱりここでもお前が【まとめ役】なんだな。」


「あぁ、いつの間にか、な。」


少しだけ意気地を取り戻したようで昔の面影が見て取れた。


すると急にゲーナから離れ、私の前へ進み出たドゥタンはひざまずいた。


「ジッガ! 俺たちに力を貸してくれ!

 俺たちにウングラクの皆の仇を取らせてくれ!

 頼む! 俺の命を! 全てをお前に捧げるから!」


ドゥタンの血を吐くような身命を賭す願いに、騒いでいた村人たちも息を呑み静まり返った。


私は静かに進み出て、ドゥタンの頭に手を置く。


「わかった。

 ドゥタン、お前の願いを受け入れよう。

 ただしばらくは耐え忍ぶ日々が続く。

 いずれは貴族らに報いの鉄槌をくだすが、今はこらえてくれ。

 せめて、今日散っていったウングラクの者らへ

 真摯しんしなる冥福の祈りを捧げよう。」


私は眼を閉じ、隣村で起こった悪夢のような出来事に心を痛めつつ祈った。


すると案の定、【光の珠】が現れた。


ひとつふたつではない、数十、数百の光が、何故か私の中から舞い上がり空へと昇っていった。


シェーナたちのものより少し小さい光の珠は、いくつかがドゥタンたちの方へ揺らめきながら近づき、やがて空へ消えた。


この光景に村人たちはどよめき、ドゥタンたちは魂を消し飛ばされた表情でへたり込んだ。


「村長、今日の所はこれまでだろう。」


村長が頷くのを確認して、私たちは解散していく。


ドゥタンとキャンゾはエンリケらに任せ、私たちはハテンサとベルゥラを引き取った。


今日はゲーナの家で泊まってもらい、私の寝床を貸そうと思う。


私とアグトは【夜回り】をしなければならないからだ。


二人をゲーナたちに託して、私はモンゴら警備団の方へ向かい今夜の相談を始めた。



 ウングラクの話を聞き気持ちは落ち込んでいるが、腹は夕食を摂り損ねた為騒いでいる。


私とアグトは警備団の詰所で少しだけ残っていたパンを齧りながら、【聖女】と【精霊】どっちなんだ、と訊いてくる若い団員の相手をして交代の出番を待つこととなった。




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