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滂沱の日々  作者: 水下直英
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望まぬ結果が出たなら歯噛みして耐えるしかない


「でもあれだね、

 気付かれてないと思ってたの、僕たちだけだったんだね。」


エンリケが『情けない』といった風情で項垂うなだれる。


村人全員を引き連れて脱出する意志を統一した直後、村長はじめ多くの者らに【魔法使い】であることに気付かれていた事実がエンリケ含め全員を脱力させたようだ。


私も村長があんな弱腰ではなく詰問きつもん口調だったら膝を震わしていただろう。


「エンリケ、魔力に関して気付かれたのはほぼ私のせいだ。

 皆の努力を無にしてしまいすまなかった。」


そう言って私は頭を下げた。


魔法に関して緘口令かんこうれいを敷いた私自身が原因だったのだ、皆にいきどおる気持ちが芽生えてもおかしくない、先に謝っておこうと判断した。


「で、でもこうして大丈夫だったんだし、ね?

 誰も怒ってないよ、ね?」


「そうだよ、

 きっと何をどうしてたってバレちゃってたと思うな。」


あわあわと皆を見渡すカンディと落ち着いた様子のリルリカがなぐさめてくれた。


「ありがとう。

 しかし後悔は必要ないが反省は必要だ。

 今後に向け私たちにどんな【警戒心】・【意識】が足りなかったのか、

 それを考えて次に活かそう。」


「なーに言ってんだジッガ。

 さっき自分で言ってたろ?

 ジッガが皆の前で魔法を使わなきゃバレなかったじゃん。

 それにシェーナおばさんに見付かった畑の魔力だって、

 結局ジッガの魔力じゃんか。

 『ほぼ』じゃなくて『全部』ジッガのせいだぞ。

 反省は一人でしなきゃダメなんだぞ?」


「うぁ、ん、……そうだな、……そうする。」


議題を提案した私だったが、マグシュの反論ひとつで会議は終わった。


マグシュはリルリカに小突かれているが、完全に彼の言う通りだった。


【警戒心】が一番足りてなかったのは間違いなく【私】だ。


己の迂闊うかつさを猛省し、今後の糧とせねばならない。



 気付けば自分がグッと唇を閉じていたので右拳によってぐりぐりと解きほぐす。


無理矢理笑顔を作って皆を見回してみれば、全員私を見つめていた。


「まぁ、なんだ、

 ジッガ、あんまり気にすんな。」


「そうだよ、また倒れちゃったりしたら大変じゃない。」


アグトとゲーナが気遣いの言葉を投げかけてくれる。


私がうまく表情を作れないまま礼を言っていると、エンリケが話題を変えてくれた。


「でさ、

 シェーナおばさんたちから光が出て空に昇っていったのって、

 結局どんな魔法なの?」


「それについては全くの不明なんだ。

 私は魔力を出していないし感じてもいない。

 以前カカンドと話していた時も似たような現象はあった。

 今日村長と話していた時も同じことが起こった。

 しかしあの光の球体はまた別の現象だったんだ。」


カカンドの誓いを受け入れた際の光を共に目撃したカンディも、先程の光の球体は違うものだと証言した。


「シェーナおばさんが【魔法使い】だったんならさ、

 魔法について詳しい人、この村に誰かいないかな?」


「確かにそうかもね、

 明日は私が学習当番だから

 カカンドさんから村長さんに訊いてもらうようお願いしとくよ。」


エンリケとゲーナが話を締めくくる。


その後さらに今後の方針について新しい課題をいくつか確認し解散した。



「えへへー、

 さっきマグシュに言い負かされてた時のジッガの顔、

 すっごい変で面白かったよぉ。」


また私の布団にもぐり込んできたカンディが可笑しそうに笑っている。


「む、カンディだって時々変な顔をしてるぞ?

 トイレで拭く草が無かった時なんてひどかったぞ。」


「あぁんもぉ~、それはもう言わないでよぉ。」


小さな勝利に満足し、私はカンディの頭を撫でまわす。


「えへ、でも良かった。」


「ん? 何がだ?」


暗闇の中、カンディの満足そうに微笑む横顔を見つめる。


「だってシェーナおばさん、

 ジッガのおかげできっと天上の世界に行けたと思うもん。」


その言葉を聞き、私の中から今日の行動を戒める想いが抜けていった。


「そうだな、

 シェーナおばさんの魂が善きものだったからでもあるだろう。

 私の祈りは些細ささいな一押しだったはずだ。」


「シェーナおばさん、優しかったもんね。」


「あぁ、優しかった。」


そうして私とカンディは、涙を流しながらシェーナの想い出話を続け、泣き疲れた頃に眠りに落ちていった。




 それから数日後、私たちは三度目の探索に出撃していた。


ツェルゼンは最近頻繁に魔力を流しているのが影響しているのか、以前より機敏な動きで我々を先導している。


それより前からカカンドにも魔力を流しているが、ツェルゼンの方に効果が大きく感じられる。


カカンドは昔の逃亡生活で左足のつま先が義足のため、体調の良し悪しでしか効果が判断できない。


それでもカカンド本人によると、怪我をして以降では今現在が最も動き易いそうだ。


「杖無しでもお前たちについて行けるぞ」と虚勢を張っていたが確実に無理だろう。


いま目の前で先導しているツェルゼンに比べれば、移動速度は半分以下だと思われる。


そんなことを考えていると、そのツェルゼンが右腕を水平に伸ばし、私たちの前進を制してきた。


「お前たち、ゆっくり進んで来い。

 アレがそうではないか?」


その言葉に私たちは興奮を抑えつつ、音を立てないよう慎重に進んだ。


前方の草むらの向こうに山の岩肌が見えている。


目を凝らすと、断崖に挟まれた幅の小さい道が確認できる。


とうとう見つけたのだ!


だが、その道の真ん前に、見たことのある巨体が鎮座していた。


【オーク】だ。



 折角発見出来た希望の小道だが、難敵が行方をはばんでいる。


「ぬぅ、あ奴、何をしておるのだ?」


ツェルゼンの呟きを聞きながらオークの観察を続ける。


良く見るとオークの巨体よりさらに高い場所の岩肌から木の枝が伸びている。


枝には見たことの無い果実がっていて、どうやらオークはそれを欲して眺めているようだった。


私たちは一旦後退し、相談を始めた。



「どうする?

 今日の所は引き返すか?

 場所はしっかりと確認出来ているぞ?」


「あの枝の果実がずっとあのままだったらどうするの?

 村人を引き連れてきてあんなのがいたら被害は甚大になるよ。」


「うん、倒すしかなさそうだな。」


私たちは頷き合い、オークの【駆除】をすることが決定された。


「ジッガ、

 お前の炸裂魔法は【奥の手】だ。

 ワシがいいと言うまで使ってはならんぞ?

 まだ他にも魔物がいるかもしれん。」


「わかった」


「まずはワシが弓で引きつける。

 エンリケの強化具合を確かめる意味もある。

 槍は恐らく通用するじゃろう。

 青銅製のものより丈夫だったのでな。

 だが油断はするなよ?」


戦いになるとツェルゼンは饒舌じょうぜつになるようだ。


噛んで含めるように戦術を伝えてくる。


全ての確認が終わり、私たちは前進して戦いに臨んだ。



 未だオークは頭上の果実を見上げ佇んでいる。


そんなに好物なのだろうか?


無防備なその巨体目掛けてツェルゼンの弓による、必中の一撃が見舞われた。


グァッ!


矢は命中した。


だが頭部を狙った筈の一撃はオークの肩に突き刺さっていた。


「ぬ、ズレたか、

 来るぞっ!」


今回は索敵魔法を放っていないため、オークは一直線にこちらへ向かっては来なかった。


己を狙う敵を探しうろついてる隙に、私たちは弓に矢をつがえ、次々に放っていった。


ヌグァッ!


数本は命中したが、致命傷足り得ていない。


集中攻撃によってさすがに位置を捕捉されてしまった。


ドスドスと足音を響かせ一直線に向かってきた。


弓の攻撃を警戒し頭部を腕で防御しながら進んでくる、ゴブリン並みの知性は持っているようだ。


「槍を構えぃ!」


老兵らしい威厳の籠もった号令で私とアグトは弓から槍に持ち替える。


ツェルゼン・私・アグトが正面からオークを迎え撃つ。


ゴァァッ!


異音を発しながら、オークが草むらを背にした私たちに飛び掛かってきた。


振り下ろされた巨大な腕が、避ける私とツェルゼンの間へ落ちる。


「てぇいっ!!」


「ぬんっ!」


私とツェルゼンの槍がオークの脇腹目掛けて斜め上に突き出された。


槍の穂先はしっかりと突き刺さり、オークの黒い血を噴出させる。


攻撃を受けながらもオークは両腕を振り回し、小癪な人間どもを刎ね飛ばさんとしてきた。


私とツェルゼンは全神経を集中させその攻撃を紙一重でかわす。


そしてその直後に出来た隙をアグト、そして隠れていたエンリケとゲーナが衝いた。


アグトの槍がオークの喉を突き、エンリケとゲーナの矢がオークの顔面を捉えた。


怯むオークにトドメとばかりに喰らわせた私とツェルゼンの再度の強襲によって、巨体の魔物は頭部を槍で貫かれ絶命した。



 ツェルゼンが周囲を警戒する中、私たちはオークを解体している。


魔物は食用にならないため、道具作成に役立つ腱や革を剥ぎ取る。


これで弓や防具を強化出来るだろう。


前回は私の炸裂魔法でバラバラにしてしまったので解体など出来なかった。


残った部位は穴を掘り埋め、他の魔物が近寄らないようにしておく。



「で、アレはどうする?」


また口数の少なくなったツェルゼンがアゴで指し示す。


オークが狙っていた果実をどうするか、だ。


私は振り返りリルリカを呼んだ。


私の横に来た彼女に問いかける。


「リルリカ、出来そうか?」


「うん、やってみる。」


リルリカが右手の平に魔力を集め始める。


アグトらが周囲を警戒しているのでツェルゼンもこの成り行きを見守る。


「やぁっ!」


気合いとともにリルリカは魔力を投げ放つ。


魔力の塊はかなり高い場所に生えた枝に向かってはいるが、命中しそうにはない。


だが、それでいいのだ。


枝の近くで魔力がヒュウッっと音を立て小さな竜巻に変化した。


巻き込むように回転した空気の渦が果実を捕らえ地に落とした。


「やった!」


リルリカが嬉しそうに歓声を上げる。


「うん、リルリカ、上出来だ。」


私の言葉に彼女は満足気に微笑んだ。


もう自分のことを【役立たず】などと卑下することはないだろう。


ツェルゼンは感心した様子でリルリカを褒めると果実の方へ向かった。


私もそれについてゆく。


果実はやはり見たことの無いものだった。


「うむ、これは危険だな。」


ツェルゼンはオークを呼び寄せるこの果実はこの場で処分した方がいい、との判断を下した。


私たちは近くの枯れ枝を集め、マグシュに発現した火花を起こす魔法で火をつけ、カンディの炎を助長する魔法で一瞬にして果実は燃やし尽くされた。


念のためその炭を粉々に砕き土に埋めておく。


ツェルゼンから野営の仕方も学んでいる為、一連の行動は手早く流れるように行われた。


それを腕組みして眺めていたツェルゼンが満足そうに微笑んでいる。


どうやら合格のようだ。


充分な成果を上げて、今回の探索は終了となった。




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