何かを得ようとするならば必ず何かを失う
シェーナたちの合同葬儀はしめやかに執り行われた。
葬儀の間、村長の許へ何人もの村人が深刻な表情で訪れていた。
事情を聞いている私には彼らが何の話をしているか分かった。
シェーナの【実りの種】の魔法を失った後の暮らしが大丈夫なのか、と確認しているのだろう。
周辺の村では税を納めることが出来ず、村長が処刑されたところもあるという。
それに比べればこの村は豊かだといえる、だがそれもシェーナの【魔法】あってのものだ。
この事実を知る者は割と多いようで、不自然にならぬようにはしているのだろうが、村長へ話しかける者は後を絶たず、葬儀の間中ずっと誰かと話していた。
村長の様子も気になったが、私はシェーナへ最大限の感謝の気持ちを込めてその最期を看取りたい。
順番が私の番となり、棺に納められた物言わぬ彼女の顔を眺める。
「ありがとうシェーナおばさん。
どうか、安らかに眠ってくれ。」
そう祈りの言葉を捧げると、彼女の遺体から小さな光が舞い上がった。
それはカカンドや村長の時とは違う、球体の様な光だった。
周囲が一斉にざわめく中、その光はフワフワと周囲を漂い、やがて送り火と混じり合い、上方へ突き抜け、夕闇の中へ消えていった。
どよめく中で私がシェーナから離れると、今の現象は何だと聞きに来た村人に囲まれた。
私がどう答えようかと悩んでいると、モンゴら警備団がやってきて無理矢理解散させた。
そして渦中の私はモンゴによって、警備団が囲む一帯の中へ放り込まれた。
「おーい、ジッガ。
おめーさん、隠す気あんのかよ?
ダメだろこんなとこで魔法を使うなんてよ。」
顔見知りの若い団員に小声で注意された。
「魔法? なんのことだ?」
とりあえず惚けてみる、先程のシェーナの光ぐらいなら『不思議な話だな』で済ませられる可能性がある。
「いいっていいって、そうだな、何も無かったな。」
声を掛けてきた団員だけでなく、他にも数名が含み笑いをしながら警備していた。
もしかすると警備団の間では私が【魔法使い】だと認識されているのだろうか。
アグトに探りを入れてもらおうか?
離れた場所から私の方へ心配げな視線を送ってくる仲間たちを見ながら、さらに現状について考える。
村長には深いところまで事情を打ち明けた。
警備団は接する機会が多く、諸々(もろもろ)の戦闘時の戦いぶりで私を魔法使いと思い始めていたのだろう。
そこへ今の出来事である、モンゴは確信を持って私を野次馬から引き離したと思われる。
魔法使いを隠し通すこの村の気風が無かったらば、私は既に国の研究機関で骸を晒していたに違いない。
幸運だった。
父と母を亡くした時には我が身の不幸を呪ったが、他の部分では存外私は恵まれているらしい。
シェーナにしてもそうだし、ニーナにしてもそうだ。
その優しさに何度も救われてきた。
仲間たちやカカンド、ツェルゼンと過ごしたこの三ヶ月の生活も私の心の均衡を取り戻すのに大きな役割を果たしてくれた。
村の人々との交流もそうだ、今もモンゴや警備団員たちが私を気遣ってくれている。
近日、反乱軍の消滅と同時に状況は確実に変わる。
既にその兆候は表れている。
私はいま、目の前でシェーナの死を悼んでいる人々の為に【能力】を尽くさなければいけない。
【志】を持っていないなら持たせればいい、【力】が劣っているならば鍛えればいい。
私自身が誰よりも【強く】なり、率いていこう。
カカンドが言ってくれた【王の器】の話が私を後押ししている。
さらに【器】を大きく拡げていこう。
村人だけでなく、これから出会う、優しき人々全てを受け入れられる【器】にしていくのだ。
新たな【覚悟】を築き上げた私は、警備団の輪の外で、何かを嘆願している声を聞いた。
団員が困った様子で断りの文句を述べているが、中々引き下がらない。
認識魔法で確認してみる。
どうやらシェーナ以外の二人の遺族が、私に先程の【祈り】を捧げて欲しいと願い出ているようだ。
私は人壁を形成する団員たちをそっとかき分けていき、遺族らの前に立った。
「おぉ! ジッガ!
お願いだ、俺の母にも【祈り】を与えてくれ!」
「私の父にもお願い!
どうか迷わず旅立てるよう安らぎを与えてあげて欲しいの!」
数人の遺族たちは私の前に一様に跪き、祈るような体勢で願い続けている。
私は一人ずつに声を掛け立ち上がらせるとその願いを了承した。
それを見ていたモンゴがしかめっ面で私に近付いてきてそっと囁く。
「いいのかジッガ?
それをしたらもう誤魔化せんぞ?
さっきのシェーナの件だけなら
『気のせい』で強引に終わらせられるんだぞ?」
モンゴの気遣いは嬉しい、だが私は村人たちを救うという覚悟を背負ったのだ。
亡くなった二人の顔も憶えている、遺族の願いはもう【私の願い】でもあった。
「いいんだ、モンゴ。
国に漏れなければいい話だ、
『今まで通り』、だろ?」
モンゴは一瞬驚いた表情になったが、すぐに微笑むと道を開けてくれた。
私が棺の方へ進み出ると、村人たちは一瞬ざわめき、すぐに静かになった。
二つの内、片方へ向かい蓋を開け故人の最期を看取る。
村で何度か顔を合わせたことのある老人だった、名前も知っている。
「生まれ育ったリベーレンを愛し、尽くした者、【モーズ】。
その魂、安らかに天へ還りたまえ。」
片膝を突き、祈りを捧げると、シェーナの時と同様にモーズの遺体から光が浮かび上がり、モーズの遺族の上をフワフワと漂い、やがて上空へ消えていった。
同じようにもう一人の故人へ祈りを捧げ、光を天に還した。
祈りを終えても、もう私のそばへ近寄る者は居なかった。
その場にいた全員が、暫しの間空を見上げ、祈りを捧げ続けていた。
合同葬儀は終わりを迎え、集まった村人たち全員での夕食となった。
野外で作られた質素な野菜スープを百数十人で分け合う。
ガヤガヤと落ち着かない様子で村人たちは食事を摂っているが、私たちの方へ近づく者はいない。
先程遺族たちから礼を述べられて以降、周囲には不自然なぐらい距離を空けられている。
「ねぇジッガ、やり過ぎだよぉ。
もう完全にバレちゃってるよぉ。」
「あぁ、どうするんだ?
今晩にでも計画を実行するのか?」
カンディとアグトがヒソヒソと私に囁いてくる。
「いや、様子を見る。
詳しいことは家に帰ってから話す。
すまないな、色々あって事後承諾のかたちになると思う。」
「じごしょうだく?
ジッガ、こんな時に難しい言葉使うなよ。」
「マグシュ、それも後で話す。
とりあえず食べたら帰ろう。」
私たちは固いパンをスープに浸し胃袋に詰めると、村長とモンゴに挨拶して集会所をあとにした。
「なんだとジッガ! 本気か!?」
アグトが凄い剣幕で異議を申し立ててくる。
希望する村人全員を連れて逃避行する困難さについて一つ一つ理由を挙げて、私を思い留まらせようと説得してきた。
私は新たな【覚悟】を胸に誓った経緯だけ伝えると、ゲーナに意見を訊いた。
ゲーナは冷静な表情で話し始める。
「おそらく、戦えない人々を連れて行ったなら死人が出る。
ジッガ、それでもいいの?」
「それもまた【覚悟】の上だ。
ただ、誰も死なせないよう全ての【能力】を使うつもりだ。」
私の顔をじっと見ていたゲーナは、やがて「ふぅっ」と息を吐きだし意見を述べ始めた。
「そう……、
じゃあ計画内容の整理をしましょう。
まず、私たちで逃避行した場合、
道さえ見つかれば、たぶん目的とする【獣人の国】まで辿り着ける。
でもそこで成功したとしても、
大きな集団になるまでは長い年月が必要になる。」
ゲーナの言葉を皆が理解し頷く。
「そして村人たちを含め二百人で逃避行した場合、
道中で魔物に遭うたびに死者が出るでしょうね。
そしてそのたびにジッガは信頼を失っていく。」
「む……」
「もしかしたら無謀な旅に巻き込まれた、と恨まれるかもしれない。
でも、もしそんな人数を引き連れた逃避行が成功したなら・・・」
「したなら?」
脇で聴いていたカンディが堪えきれず口を挟む。
そんなカンディに微笑んでゲーナは言葉を紡ぐ。
「その逃避行はジッガが積み上げている【逸話】の大きな一つになる。
近い未来、
ジッガが大きな集団の長になるに相応しい【実績】になるの。
きっと今の【村】を超える集団になっていくことが出来る。」
「んー……、困難に立ち向かってこそ示せる【王の器】、か。」
ゲーナの話を聞いたアグトが呻くように呟いた。
「なんだアグト、カカンドから聞いたのか?」
「ん? 【王の器】のことか?
いや? カカンドじゃなくて警備団でそんな話が出てたんだ。
ジッガはいずれ国を創って【王】になるんじゃないかってな。
【王の器】の話は小さい頃にも聞いたことがある気がする、
俺の父親が言ってたのかな?」
「そうなのか……」
村長の話を思い出す。
この国に不満を持つ者はこの村に数多く存在しているだろう。
そして私に期待を寄せる者が警備団にいる、ということか。
ならば応えよう
私自身の【願い】も乗せ
【王の器】を拡げ
この国を【叩き潰す】のだ




