先祖代々の願いなどに縛られたくない
「ジッガ、もしかしたら気付いていたかもしれんが、
シェーナは【魔法】を使えていたんじゃ。」
「えぇ!?」
私の驚いた様子に村長は目を丸くした。
「なんじゃ、気付いておらんかったのか?」
「はい、全く」
「なんじゃなんじゃ、結構鈍いんじゃのぉ。
お主らの畑が順調なのはシェーナの魔法の力じゃぞ?」
「え! そうなんですか!?」
村長の話を聞いてみると、シェーナはこの村にいた【実りの種】を生み出す老女と同じ魔法を使えたらしい。
私たちは自分たちのことで手一杯だったため、他の畑の様子など見たことは無かったが、シェーナが生み出す種は他の畑でも実りを早めていたらしい。
ただそれは万能ではなく、成功率は三割程度だったとのことだ。
生前のシェーナの言動を思い出し、彼女が作物の成長具合にバラつきがあることに疑問を抱かなかった理由を知った。
「そうですか、本当にありがたいことです。」
「うむ、そうじゃな。
後でシェーナを見送る時はその気持ちを伝えるようにな。」
「はい」
「で、ここからが本題なのじゃがな・・・」
そう言うと村長はまた緊張した様子になっていった。
私はこれ以上何があるのか、と警戒心を刺激された。
そんな私の気配に気付いた村長が、さらに緊張したのか、出された声は上擦って掠れていた。
「シェーナが言っておったんじゃ、
ジッガ、お主も【魔法】を使えるんじゃないか、とな。」
「なるほど」
私は得心がいった。
魔力を持つシェーナは何度も畑の様子を見に来ていた。
気付いたのだろう。
【魔力が溢れる】畑に。
そこまで知れているならば、村長に隠し立てする意味は無いだろう。
魔法使いを国に差し出す気ならば真っ先にシェーナが送られているはずだ。
私は村長へ魔力のことを話し、魔力を練り込んだ土による相乗効果で作物の実りが急速に進められると伝えた。
「そうか、よく話してくれた。
礼を言うぞジッガ。
それでじゃな、相談なのだが、
シェーナが村の為にしていた【実りの種】を生み出す仕事。
それをお主に務めてもらいたいんじゃ、どうじゃろうか?」
「は、私ですか?」
話しの流れ的に、どうやら村長は勘違いをしているようだ。
そして、今の私の言葉に慌てた様子を見せる。
「あ、いや、無理にとは言わん、気が向いた時でいいんじゃ。
国が重税を課している中、
この村がやっていけていたのはシェーナの力が有ったからなんじゃ。
な、頼むジッガ、報酬はさほど出せんが引き受けてくれんか?」
私との間にある机に両腕を突き、深々と頭を下げる村長の肩に私はそっと手を置いた。
それに気付き村長は頭を上げる。
「ジ、ジッガ?」
「村長、大丈夫ですよ、頭を上げてください。
種のことですが、私ではその【実りの種】の魔法は出来ないんです。」
「な、なんと!」
「しかしカンディがその魔法を使えます。
たぶん彼女なら受け入れてくれると思いますよ。」
「カ、カンディが?
お主じゃなくてカンディか?」
村長は驚きのあまり少しの間、理解出来ない様子で首を撫で回し続けた。
漏れ出た村長の独り言から察するに、かつてのゴブリン退治や野盗撃退などで私が魔力持ちだと気付き始め、シェーナが感じた【実りの種】の魔力は私のものだと思い込んでいたらしい。
それでも国に通報せずにいてくれたのだ、村長周辺の人間になら私の魔力について伝えても問題は無いと判断出来る。
だが、了承はしたものの、彼には話しておかなければいけないことがあった。
「ふむぅ、【いずれこの村を出る】か。
状況次第ではそうせざるを得んじゃろうな。」
思っていたよりもすんなりと、私たちの計画は村長に受け入れられた。
話しだした時には驚かれたが、理由を説明している内に村長の眉間のシワが消えていった。
「確かにな、反乱が治まってしまえば国はまた無茶を仕出かすじゃろう。
そうなったらもう耐えられんな。
かといってワシらに戦う力なぞ無い。」
無念といった表情で黙り込む村長。
だが少しして顔を上げると何かを決意した表情になっていた。
「のうジッガ、その国外脱出の件じゃがな。
ワシら村人全員で、というのは難しいかの?」
これは私には想定外の話だった。
いや、少しは可能性として考えてはいた、だがだいぶ低い可能性の話だったはずだ。
「そりゃ難しいでしょう。
私たちはそのために戦闘訓練をしたり知識を得たりしています。
仮に村人全員で逃避行するならば、
戦えるものは警備団員ら二十名程でしょう?
つまり百八十名の非戦闘員を連れていくことになります。
移動速度、魔物への対応、野営の準備や食材の確保、
難易度は急上昇してしまいますね。」
「そうじゃよなぁ。
……ではせめて若い者らだけでも連れて行ってくれんか?
ワシらは老い先短い、すぐにシェーナの後を追うじゃろう。
だが若いもんらには、国の身勝手に付き合わせたくないんじゃ。」
必死な形相となった村長に懇願される。
村長が語るところによると、この村は元々国に反抗する者たちが集まって出来たらしい。
村がどれぐらい前に出来たかはわからないが、次第に人口は増えていっても、先祖代々の国への反抗心は失われなかったらしい。
そのためカカンドやツェルゼンの様な流れ者が集まって来やすく、逃げ出した【魔法使い】が居つくことも出来た。
そんな者たちを匿い続け今の村が成り立っている、と村長は話を結んだ。
国が納得出来る政治を行っているならば黙って見守るが、身勝手を繰り返す今の王家になど従う心は持っていない、と力を込めて話していた。
先祖代々の云々(うんぬん)は私の考えの中ではどうでも良い事柄だった。
だが、と私は思う。
この国に反発する想い、それは私の【志】と通ずるものがある、と。
それならば、【志】を同じくする者をどうして捨て置けようか。
「村長、わかりました。」
「おぉ、若者たちを連れて行ってくれるか?」
「いえ、若者に限らず、
希望する者全員を連れて行きます。」
「な! それは、……大丈夫なのか?」
私の言葉に村長が息を呑む。
先程その難しさを語ったばかりなのだ、不安に思って当たり前だ。
「村長、このことを信頼出来る村人全員に秘密裏に伝えてください。
逃避行の準備をしっかり行います。
国からのスパイが居るかもしれません。
慎重に、そして迅速に、準備を整えましょう。
私たちは逃走経路の確認などを進めます。」
「お、う、うむ!
村長たるワシ、【スムロイ】が代表して誓おう。
ジッガ、お主にこの村に住む者らの【未来】を託す。
ワシらはお主に従おう。」
村長、いやスムロイが私に向け深々と頭を下げる。
「はい、スムロイの誓いを受け入れます。
まずは貴方の命を賭けた願いに全力で応えましょう。」
そう言って彼の肩へまた手を置いた瞬間、
「あっ」
「お! おぉ!」
カカンドの誓いを受け入れた時と同様の光が私たちの周囲に煌めき、同じように上へ昇って行き天井を突き抜けていってしまった。
スムロイは両腕をワナワナと震わせながら呆然としている。
恐らくツェルゼンより歳上の彼の心臓が止まってしまわないか心配になる。
ようやく視線をこちらに向けて口を開いた。
「ジッガ、……今のは、何じゃ?」
「わかりません。
魔力による何かでは無いことは確かです。」
「ほ、ほぉ、……そうか。」
まだ動きがぎこちないスムロイだが、今後はカカンドやツェルゼンと連絡を取り合い、信頼できるものを判別して人数を増やすという相談をして、部屋をあとにした。




