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滂沱の日々  作者: 水下直英
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別れは突然訪れ、それは避けられない


 私の問いにリルリカは悲しげな表情を浮かべるが、ゆっくり首を左右に振った。


「ううん、悲しいとは思うけど、そこまでつらくは無いよ。

 お父さんとお母さんが死んだとき程は辛くない。

 村に帰って来たときも、

 『あぁ、やっぱりお父さんもお母さんも居ないんだなぁ』

 って、悲しい気持ちだった。」


その気持ちはとても分かる、聞いていた皆も同じ気持ちだろうことが表情で理解できた。


「でもこうやってみんなと暮らしててね、

 いつの間にか悲しい気持ちは消えてたの。

 きっと、村を離れることよりも、

 みんなと離れることの方が悲しくて辛いと思う。」


「リルリカ・・・」


胸が締め付けられ、眼の奥から熱いものが溢れてくる。


魔力で押し止めようとするが功を為さず、涙が両頬を伝っていく。


気付けば泣いているのは私だけで、いつの間にかカンディに頭を撫でられていた。


他の皆は私を微笑みながら見つめていた。


恥ずかしさを振り払うため深呼吸を何度か行い、気持ちを整えた私は涙を拭って明日からの予定を確認する。



 いつも通り食後の魔力鍛錬をしていると、ゲーナから初めて感じる魔力が出ていることに気付いた。


「ゲーナ? その魔力は?」


私の言葉に反応したゲーナがこちらを見やる。


「うん、今日の探索の間に出来るようになったの。

 この魔力を出しながら触るとね、弓が冷たくなったんだ。

 どういう魔法なんだろうね?」


そこでゲーナに実践してもらうと、確かに弓が冷たくなっている。


他の物でも試したが、全てに効果があった。


「ほぉ、いつの間にかみんな成長しているんだな。

 私も負けていられないな。」


「ちょっとぉジッガ?

 また危ない魔法をする気?

 ちゃんと考えてやらなきゃダメなんだよ?」


腰に両手を当て私に注意してくるカンディ。


彼女の顔を見ている内に、私はリルリカの言っていた感情が湧き出てくるのを感じていた。


そう、私もまた、この仲間たちと別れてしまうことが、何よりも辛いのだろうと。




 次の日、私たちは早朝訪れたニーナの声で目覚めさせられた。


玄関の引き戸を開けると、沈痛な表情の彼女が立っていた。


「どうしたんだニーナおばさん?

 こんな朝早くに。」


「うん、朝からゴメンよジッガ。

 でも……、

 落ち着いて聞いとくれ?」


私はニーナから事情を聞き、何があったのかを知った。


昨夜、シェーナが亡くなったのだ。


一昨日から風邪でせっていたらしい。


風邪が流行っていて、他にも二人亡くなったそうだ。


私は亡くした母の姿が脳裏に映し出され、立っていられなくなった。


ゲーナとカンディが両脇から支えてくれて何とか倒れるのはこらえたが、そのままフラフラと椅子に座り込んでしまう。


つい数日前にシェーナは元気な様子で私たちの畑を褒めてくれていた。


もう耐えることが出来ず、涙がこぼれ、嗚咽を繰り返した。


泣きながら見やればゲーナも、カンディも、リルリカもまた泣いていた。


ニーナは私から順々に抱き締め、頭を撫でて廻っている。


私たちが落ち着くのを待ってから、ニーナは今日の夕方に合同葬儀を行うことを伝え、その際に持参する物などを教えてくれた後、去っていった。



「シェーナおばさん、あんなに元気そうだったのに。」


布団に座り込んだカンディが憂いを込めた声で呟いている。


ゲーナとリルリカもそれを聴き頷いている。


「なんで人って死んじゃうのかなぁ?」


再びカンディから発せられた言葉に私たちは声を失う。


何故だろうか?


人間の寿命というものは何故あるのだろうか?


長く生きていれば見つかる答えなのだろうか?


この村に伝えられている女性は百歳まで生きたそうだが、彼女は死の間際何を想っただろうか?


この世界には【亜人】が存在していて、【エルフ】や【ドワーフ】は人間より少し長命だと聞いている。


彼らには【死】の意味が分かるだろうか?


それとも人間より少し寿命の短い【獣人】の方が知っているのだろうか?


私はまた、死のつらさ、悲しさに打ちひしがれていた。


何度味わえばこの気持ちは無くなるのだろう?


いや、きっと何度味わっても辛く、悲しいのだろう。


シェーナは色々なことを教えてくれた。


彼女の教えを忘れず、その存在が在ったことをいつまでも胸に残し続けよう。


夕方の葬儀では彼女に最大限の感謝を伝えよう。


私はカンディの頭を撫でながら、悲しい気持ちに区切りをつけた。




 朝食にやって来たアグトたちにもシェーナの死を伝えた。


既にニーナから聞き及んでいたようで、三人とも無言で頷くのみだった。


静かな朝食を終えると私たちは畑に行き、実った野菜をニーナに言われた分だけ収穫した。


合同葬儀後は集まった村人で夕食を摂るため食材を持参するのだ。


収穫した部分へ向け魔力を込めクワを振るい、皆へ魔力を流す、いつも通りの作業をした。


もうこの畑をシェーナに見てもらうことは出来ないんだな、と思うと目頭が熱くなる。


頭を振り、涙を魔力で追い出して、黙々とクワを振るった。


本日買取所で学習予定のアグトに金を持たせ、新品の衣服を何着か買ってきてもらった。


ボロボロの服でシェーナを見送るわけにはいかない。


家にあるキレイめな服と買ってきたもので人数分を揃え、合同葬儀へ向かった。



「うむ、ジッガ、みなもよく来てくれた。

 シェーナも喜んでおるじゃろう。」


集会所の入り口では村長が出迎えてくれた。


もう村人が大勢集まっており、百名は越えているように見えた。


さほど大きくない村なので、三名の故人に関係しない者はほとんどいないのだろう。


この後にも集まってくることを思えば、警備担当の者以外全員が集合するのかもしれない。


「ジッガ、お主には少々話がある。

 今からついてきてくれんか?」


何の話だろうか?


私は頷き、他の皆を会場へ向かわせると村長とともに歩き出した。



 集会所の中で、葬儀会場から最も遠い部屋へ村長に続いて入っていく。


狭い部屋の中には農具や機織りの道具が並べられていた、おそらく倉庫だろう。


村長は置かれている椅子の一つに座り、向かいの席に座るよう促してきた。


私は素直に従って椅子に座る。


村長は常とは違い、少し緊張した面持ちで口を開いた。


「ジッガ、シェーナのことは残念じゃったな。」


「はい、シェーナおばさんには本当に良くしてもらいました。

 いま私たちの畑が上手くいっているのは彼女のおかげです。」


「うむ、そうか。」


村長の様子がやはりおかしい。


いまも何か躊躇ためらうような仕草で自分の首を撫でている。


「どうしたんですか村長?

 私に話があるのでは?」


私が促すと村長は心を決めたかのように頷き、話し始めた。


「うむ、ジッガや。

 これはこの村の存亡に関わる重大な事柄じゃ。

 心して聞いてほしい。」


これには私の方が戸惑った、だが受け入れるほかない。


了承の言葉と共に頷くと、村長は驚くべき事実を打ち明け始めた。




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