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滂沱の日々  作者: 水下直英
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怒りと悲しみは同居出来るが楽しさとは同居出来ない


 私に【王の器】を見い出したというカカンドとツェルゼン、それに対し私はどう応えるべきだろうか。


この国を打倒するため私自身の国を興す、という【こころざし】を私は持っている。


だがこの【志】は長く共同生活をしてきたカンディにすら伝えていない。


それを目の前のカカンドと、戦闘訓練の師と仰ぐツェルゼンは見破ったということだろうか?


私が返す言葉を見付けられずにいると、カカンドが少し慌てたように喋り出した。


「あ、いや、すまん。

 困らせるつもりは無ぇんだ。

 ただ、俺とツェルゼンはお前さんのこと、そう感じてるってだけだ。

 別に今から王様を目指せとか、そんなことは言わねぇから。

 あー、変なこと言っちまったな、すまんすまん。」


心の内を読みとられていた訳ではないようだ。


私は緊張で固まっていた身体の力を抜く。


「いや、大丈夫だカカンド。

 二人に認められていることは素直に嬉しい、本当だ。

 しかし実際に国を興すとなるとどんな条件が考えられるんだ?

 王の血筋以外で何が有るか教えて欲しい。」


「お、おぅ、そうだな。

 んー、そうだなぁ、例えばだなぁ、」



 私の落ち着いた様子に安心したのか、カカンドは各国の成り立ちから、近代新興国の初期の話まで、幅広い建国条件を次々教えてくれた。


新興国の成り立ちでやはり多かったのは【王の血筋】だった。


傍流の王族が手勢を率いて流浪の末、新天地を切り拓いたという国が数ヶ国あった。


他は各国バラバラだった。


【宗教国家】はかつての【聖女】が中心となって築き上げられ、今では国民全てが信者によって形成されているらしい。


また、隣国は【精霊の友人】が興した王国だが、【精霊】自身が興した国も存在した。


流れ着いた戦争避難民が集まった地域に精霊が降臨して国を創ったらしい。


人々を救うために数々の奇跡を起こした精霊は力を失ったが、清廉な森に社を建てて今も存在し続けているとのことだ。


はるか遠方の国の話なのだが、カカンドの言によると僅か十数年前のことだった、精霊への興味が湧いてくる。


「そういえばリルリカがお前さんのことを【精霊】かもって言ってたな。

 どうだ? 【精霊国】を興すか?」


カカンドが愉しげに問いかけてきたが、返しようのない質問はやめて欲しい。


他にも国同士の長年のいさかいによって、国境の境目に永世中立国が出来上がった話も聞いた。


戦争に疲れ切った両国間の境目に沿った細長い地域が緩衝地帯として、両国としがらみの無い魔力の高い部族へ譲渡されて興されたのだとか。


大変参考になる話ばかりだった。


この日は買取所へ来る村人がいないのをいいことに、私はいつもの学習時間を越えてカカンドから学び続けた。



 夕方になり、私が帰宅するとカンディが家の前で待ち構えていた。


普段きっちりと時間を守った生活をしている為、心配させてしまったようだ。


「もぉ~、心配したんだからねぇ?」


「すまないカンディ、勉強に熱が入ってしまったんだ。

 今度から気を付ける。」


「んもぉ~、ジッガってばいっつもそう言うけど、

 いっつも違う問題を起こすでしょ?

 ワタシもうわかっちゃってるんだから。」


ぷりぷり怒るカンディをなだめ、家に入るとゲーナ達が夕食の準備を済ませていた。


遅れたことを謝罪し皆で夕食を摂る。


その際、私は伝えねばならない情報を皆に話した。



「そうか、やはり反乱軍の負けになりそうか。」


「あぁ、おそらく三ヶ月、早ければ一ヶ月で鎮圧されるらしい。」


「そこから国がどうするか、だな。」


「あぁ、状況次第では【村を出る】。」


私の言葉を聞くと、みな一斉に表情を強張こわばらせ、暗くした。


生まれ育った村と親しくなった人々との別れは私も辛い。


だが【状況次第】では村ごと潰される可能性もある。


私たちは村人と共に死ぬわけにはいかない、仕方ないのだ。


あと数か月の間に村人全員と【志】を同じくすることが出来れば、共に逃避行を行うという手も無くは無い。


だがこれはアルザックが王になるのと同じ程度の可能性しかない話だろう。


本当ならばニーナやシェーナなども連れて行きたいのだが。


現実的なところで私たちの他では、カカンドとツェルゼンだけが道連れだろう。


脚が不自由なカカンドだが、絶対についていくと言ってきかない。


年齢は六十を越え、既にこの世界での平均寿命を大幅に過ぎているツェルゼンもまた、同行を希望している。



 既に話し合った末の構想で、逃避先は森の向こうの山、さらにその向こうにある国のはずれを目的地として決定している。


カカンドの情報によると連なる山の間には、切り立った断崖に挟まれた細い道があるそうだ。


そこを抜けると【ディプボス】と呼ばれる、深く広大な森があるらしい。


その森は周辺の国々の手が入ることなく、数千年もの昔から人間が入り込まない場所と伝えられている。


ディプボスを外周に沿ってさらに北東へ進んだ先に目的とする国が在る。



 その【ヌエボステレノス】という山向こうの国は【獣人】の国だ。


前世の記憶にあるような獣耳を持った可愛らしい存在では無い。


人間が獣の体毛に包まれたような、異形の存在らしい。


遥かな昔、獣の力と人間の知性を併せ持った初代の王が築き上げた国とのことだ。


伝説となっているその姿は私のイメージする【狼男】に近いだろうか。


ごく小さな部族を率いた狼男は戦いによって国土を拡大し、大勢の子を生し、やがてヌエボステレノスは獣人の国となった。


遺伝によって今の国民にも獣の体毛を持った子が生まれ続け、体毛の濃さで身体能力が見分けられるのだという。


そしてその成り立ちゆえか、ヌエボステレノスでは【力が全て】という気風が全体を支配している。


代々の王も血縁ではなく、闘争によって決められるとのことだ。


私たちはその点を踏まえ、この国を目的地と決定したのだ。



 獣人には魔力を持つ者が生まれない、という情報も手に入れている。


私たちが【力】を示すことが出来れば、人間であっても受け入れられる可能性が高い。


他の国へ亡命したとしても侮られ、搾取される状況が予測できる。


様々な考慮の末、ヌエボステレノスが最適だと判断した。


道のりは険しいがカカンド一人ぐらいならば連れて行ってもフォロー出来るだろう。


私たちに残された時間は少ない。


森から先の山へ至る道筋の調査が急務だ。


みなにそのことを伝え、生活に余裕の出来ている今こそ準備を整えねばならないことを説き、明日から早速森の奥へ探索に出ること宣言した。




 私たちは現在、ツェルゼンと共に森の奥へと分け入っている。


時々遠距離認識魔法で前方の確認は行うが、生体看破魔法は使用しない。


魔物を誘き寄せてしまうからだ。


それに探知に優れたツェルゼンが同行している、彼の長年の経験でつちかわれた【勘】は私の索敵力を上回る。


途中ではぐれコボルドを二体ほど倒し、朝から続けられた探索は日が高くなるころ成就した。


森が途切れ、山裾やますそへと到着することが出来たのだ。


それから一時間ほど断崖に挟まれた道の捜索をしたが、この日は発見することが出来なかった。


時間的にもう戻らなければ帰る途中で日が落ちてしまう。


残念な気持ちで捜索を切り上げ、来た道を戻っていった。


無事に村まで帰り着くと、ツェルゼンが口を開いた。


「もし断崖の抜け道を見付けられなんだら、

 別の目的地を考えねばならんぞ?

 山を登ることはカカンドだけではなく、

 カンディやマグシュにも無謀と言える。

 【勇気】と【無謀】を履き違えるなよ?」


普段無口な彼には珍しく、力の込められた諫言かんげんだった。


私はしっかりと頷き、仲間たちを見やった。


「でもでも、ワタシ頑張るよ?」


「俺も俺も、身体強化だって出来んだぜ?」


カンディとマグシュが言い募るが、私は首を振り、なるべく優しい声で二人に言い含めた。


「カンディ、マグシュ、

 私は二人を足手まといなどと思っていない。

 恐らく目的地へ辿り着くには

 どんなに急いでも二週間は掛かるだろう。

 その間、野宿は必至だ。

 カンディの水を増やす魔法は絶対に必要だし、

 見張りなどを考えてもマグシュ、キミの人手も必要なんだ。」


私の言葉にカンディとマグシュはあからさまにホッとした表情を見せた。


「ツェルゼン、

 野営の仕方を教えて欲しい。

 今後絶対に必要となる知識だ。

 早急に頼む。」


「うむ、分かった。

 準備しよう。」


ツェルゼンは短く応えると、いつものムッツリと押し黙った様子に戻った。


アグトらも私たちの会話に頷いており、内容を理解してくれているようだ。



 ツェルゼンと別れ、私たちはゲーナの家で夕飯を囲んだ。


食事中、リルリカがふとうつむき、つぶやいた。


「ハァ……私たち、本当に村を出ていくんだね。」


私はその言葉を聞き、スプーンを皿に置いた。


「リルリカ、つらいか?」


内心では少し動揺しつつ、問いかけた。


きっと、辛いと思っているのは私自身なのだろう。


己の中にも感じる、故郷を捨てる悲しさ。


そこには新天地を目指す、希望に溢れた想いなど微塵も存在しなかった。



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