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滂沱の日々  作者: 水下直英
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人生は思い通りにならない、それは当たり前のこと


 現在この【アベーリシャ】という国の南方一帯を実効支配している反乱軍だが、その支配力にかげりが見えてきたらしい。


反乱軍が旗頭に掲げている貴族自身がその原因だというのだから笑えてしまう。


いや、反乱軍にとっては全く笑えない事態だろう。


反乱軍の指揮は野盗あがりの【アルザック】が行い、王国正規軍の攻勢の芽を摘み続けていた。


反乱軍の首領と持ち上げられた【ファスデショナ公爵】は、当初アルザックへ全権をゆだね高みの見物を決め込んでいた。


しかし、最近になって周囲の者らがアルザックを絶賛しているのを耳にし、慎ましい自制心は歪んだ自尊心によって遂に砕かれてしまう。


周囲の制止に耳を貸さず、己の持つ騎士団を総動員し戦地へ手柄を求め出立した。


だが、身勝手で突発的な行動だったため、糧食など大してありはしない。


道中に立ち寄った村で当然のように徴発ちょうはつおこなった。


国に対し反乱を起こしている戦いのさなか、小さな村には騎士団に差し出す食料などありはしなかった。


詳しい経緯は不明だが、結果として公爵は【村を焼き払った】。



「ま、そんなバカな真似してたんじゃ渋々従ってた領地も反抗的になるさ。

 頑張って国に打ち勝ったとしても、そんなのが新王候補じゃなぁ。

 アルザックが引き締めのため支配下を回ってなんとかしてるが、

 その間に前線では正規軍が盛り返して反乱軍は痛手を受けている。」


「国に対しての憎しみで閉じられていた眼が開いた、というわけか。

 いっそアルザック自身が反乱軍の統領にはなれないのか?」


私の言葉にカカンドは眉をひそめ、ウーンと唸り始める。


「んー、そいつぁ難しいな。

 大勢の人間をまとめるにゃあ【大義名分】てやつが必要だ。

 集まる奴ら全員が納得するモノがなきゃすぐバラバラになっちまう。」


「何故だ? アルザックは有能さを認められているんだろ?」


「それは公爵配下の司令官として、だな。

 集まった元野盗の連中にとっちゃアルザックはただの【同じ穴のムジナ】だ。

 公爵という旗印が無くなったらまた野盗に戻るだろうな。

 公爵がいるからこそ、

 反乱が成功したら新国家の【重臣】の地位が約束されてんだからよ。」


「アルザックが建国することは出来ないのか?

 王家の血筋だったと自称することだって可能だろ?」


ここでカカンドは興味深げな表情へ変わる。


片眉を吊り上げ、こめかみをトントンと指で叩きながら思案し始めた。



 少しの間、買取所を沈黙が支配した。


カカンドは私を見つめ思案した状態のままだ。


何をそんなに考えているのか知りたくなる、そんな魔法を会得できないだろうか。


するとようやくカカンドが口を開いた。


「アルザックが王を自称して国を奪える可能性は確かに有る。

 だがやはりそれは、ほぼ有り得ないと言える僅かなものだ。」


「何故だ? 野盗だったことがまずいのか?」


「あぁ、野盗をしてたことは既に大きく知れ渡っている。

 それは新たな国を興していく人物として歓迎されない過去だろうな。

 だが問題はまだある、ジッガ、わかるか?」


急に学習の様な問答になった。


しかし私はこれから国を興す人そのものになる決意を固めている。


この【学び】は後々大きな意味を為すものになるだろう。


真剣に考え、目の前の師に返答する。


「いったん公爵を担いでおいてそれを見捨てることが問題となる、か?」


「その条件は今は考えなくていい、

 アルザックが反乱初期に王を自称したとして、

 それが上手くいかなくなる問題を考えてみろ。」


ぬ、違ったらしい、これは難題だ。


野盗だった過去が重大な減点事項であることは分かっている。


私自身が当初反乱軍の話を聞いた時に、野盗の仲間となることに忌避感を抱いたのだから。


他にアルザックが王()ない理由とは何だ?


以前カカンドからはこの国の成り立ちを教わっている。


そこにヒントが有るのだろうか?


数百年以上前にこの国を創った人物は、神から三種の神器をたまわりこの地を平定した、と伝えられている。


「神に認められていない、神器を所持していないこと、か?」


「ふふ、ちゃんと覚えてるんだな、偉いぞジッガ。

 だが、それは問題とはならねぇな。

 隣の【ルイガーワルド】は精霊の友人となった者が初代国王だしな。

 初代の国王に共通する何か、がアルザックには欠けてるんだ。」


また不正解だった、何かが欠けてる? どういうことだ?


私は首を回しながらなんとか答えを捻り出そうと考え続ける。


自分が国を興すならば、と様々な想定をしてみるが答えは出てこない。


「どうしたジッガ? 降参か?

 もう答えを言おうか?」


「待ってくれ、自分で答えを見つける。

 そうしなければならないんだ。」


悩む私の答えを待つカカンドは何故か少し微笑んでいるようにも見える。


ふと思いついて私は口を開く。


「なぁ、カカンド。

 そもそもアルザックが王として【能力】が足りない、なんてことは無いか?」


「うーん、まぁ、当たらずとも遠からず、だな。

 それにこれは俺の私見だ、絶対の答えじゃないからな。

 もう答えを言うぞ?」


「あぁ、頼む。」


正直なところもう思いつかない。


意地になって考えてみたが、カカンドの言う通り本当に正しい答えとは限らないのだ。


私は参考意見としてカカンドの【答え】を待った。



「アルザックに欠けているモノ、

 それは周囲が従わざるを得ない、

 【絶対的な強さ】だ。」


カカンドの答えに私は少し拍子抜けした気分になった。


強い者が周りを従える、それはそうだろう、その答えは反則ではないだろうか?


「納得できない、って顔してるなジッガ?

 だけど俺はそれが根源的な真実だと考えてるんだ。」


「そうか?

 アルザックはかなり強いんだろう?

 戦場では負け無しという評判は嘘なのか?」


「アルザックは確かに自身の強さも相当だし指揮も巧みだ。

 だがそれだけでは【絶対的な強さ】とは言えない。」


「ならば【絶対的な強さ】とはどんなものだ?

 戦場で敵を倒す強さのことではないのか?」


私の質問を聞き、カカンドは真剣な表情で答え始めた。


「ジッガ、【絶対的な強さ】とは【人の抗う意志を折る強さ】のことだ。

 他の誰にも真似の出来ない圧倒的な力を見せつける者、

 それが【王者】と云える存在だ。

 もしアルザックが最初から王足らんと行動していたならば、

 反乱初期にどんな手を使ってでも中央に進軍し、

 正規軍に痛手を与えるべきだった。

 それが出来なかった時点でアルザックは王となる資格を失ったんだ。」


「周囲を納得させる力を見せつけられなかった、ということか。

 持久戦で中央を締め上げ、最終的に勝利を得られたとしても、

 それは彼の力で行われたものと見做みなされなくなる、か。」


私の言葉にカカンドは頷きさらに補完していく。


「そうだな、まぁアルザック自身の戦闘力だけの話じゃないがな。

 奴自身じゃなくても奴に心酔する部下がおこなってもいい、

 周囲が奴【同様どうよう】と見做す存在がいれば、の話だけどな。」


「彼に有能な部下はいないのか?」


「野盗あがりに公爵の腰巾着しか仲間がいない状態だ。

 アルザックの孤軍奮闘でなんとか持ってる。

 国を憎む同士で集まって出来た勢いが失われた今、

 反乱軍崩壊は時間の問題だな。」


「そうか」


私はしばし瞑目し、国を興すことの難解さに打ちひしがれる。


こころざし】を曲げるつもりは無いが、道程の困難さを改めて突きつけられた。


このイバラの道を進んでいくとき、今の仲間の何人が生き残ってついてきてくれるだろうか。


それとも道半ばにして私自身が命を散らすのだろうか?



 そんなことを想っているとカカンドが真剣な様子で口を開いた。


「なぁ、ジッガ。

 王になる者、ってのは【王の器】ってもんを持ってると思うんだ。」


急にどうしたのだろうか、意図が掴めず私は沈黙したままカカンドを見つめる。


「さっき言ったみたいに王ってのは皆を納得させる力を持つ者だ。

 だけどそれは単純な腕力や魔力だけの話じゃない。

 周りの奴らが『こいつなら信じられる』って思わせる人物じゃねぇかな?

 そしてその【信じさせる力】ってのが【王の器】だと思うんだ。」


私は黙って話を聴き続ける。


「なぁジッガ、俺もツェルゼンもこの歳まで色んな人間を見てきた。

 で、こないだアイツと話しててな、いまの【王の器】の話をしたんだ。

 そしたらアイツ、俺の思ってたことと同じことを言ったんだ。」


そこでカカンドは一旦言葉を止め、私をじっと見つめた。


ゴクリと喉を鳴らす音が聞こえた、緊張しているのだろう。



「ジッガ、

 今まで見てきた中でお前が一番大きな【王の器】を持っている。

 俺たちは、そう確信している。」



私を見るカカンドの眼には【緊張】と【不安】、そして【恍惚】の色が見て取れた。





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