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滂沱の日々  作者: 水下直英
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幸せを得てしまうとそれを失うことに恐怖する


 ようやくゲーナとリルリカが魔力を自力で発現することが出来るようになった。


一足先に魔力を出せるようになったアグトとマグシュだが、まだ身体強化などの効果的な使い方は出来ていない。


エンリケは相変わらず器用さを発揮していて身体強化が出来るようになっている。


ただ元々の戦闘力が低いため、能力を向上させても模擬戦でアグトに負けていた。


まだ成長期なのだから身体能力と魔力を両方とも伸ばして欲しいところだ。


カンディもまた相変わらず戦闘以外でばかり、魔力の使い方を覚えていっている。


先日は桶に溜められた水を魔力で増やすことに成功していた。


凄いと思うが戦闘に無関係なものばかりなのは性格からくるものなのか、それともそもそもの素質なのか判断が付かない。


実際のところ生活に役立つものなので、凄いぞと頭を撫でて褒める。


私もカンディたちに刺激を受けて新しい魔力の使い方を開発した。


魔力の塊を投擲とうてきして破裂させる魔法だ。


森へ出かけた時に試したら太めの木の幹を木端微塵こっぱみじんに出来た。


轟音を立てて数本の木が倒れていくのを初めて見た皆が軽くパニックになった。


私自身もあまりの威力に気が動転してしまったくらいだ。


後始末するのも忘れて皆で逃げ帰ってきたら、数日後ツェルゼンがやってきて『森に正体不明の魔物が出たようだからしばらく森を立ち入り禁止にする』と伝えられた。


ツェルゼンが去っていった後、皆から困惑の視線を向けられたので、今後は魔法の試し撃ちは慎重に行うことを約束した。



 ある夜、夜間の見回りに加わって警備団数人で移動していると、村に侵入しようとしている野盗を索敵魔法で感知した。


私は『物音がした』と理由を付けて警備団を野盗の方へ誘導する。


どうやら野盗は女性が一人暮らしをしている家に侵入しようとしているようだった。


遠隔認識魔法で野盗たちが武器を構えているのを確認し、害意が有ることは生体看破魔法で感知出来た。


見知らぬ顔なので村の者でないことは明確で、【野盗】である、と判断した。


何故的確に女性の一人暮らしを狙うことが出来たのか、いぶかしい思いにとらわれながら足を速める。


同行した警備団五人に合図を送り、女性宅を囲む野盗三人を更に包囲する体勢を整えた。


「今だっ!!」


私の号令のもと野盗たちは次々討ち取られた。


うち一人は私の槍によって絶命した。


野盗三人のうち一人だけが致命傷をまぬがれて警備団に捕縛された。


警備団の詰所に連行され、古風な尋問の末に野盗は大した情報を吐くことなく、村長立会いのもと処刑された。


私は子供ということで配慮され、尋問や処刑から役割を外され家にいたが認識魔法で一連の流れは確認していた。


最期の瞬間『あの魔女はこの村に災いを呼ぶぞ!』と断末魔を上げていた。


魔女とは明らかに私のことだろう、見なければよかったな、と後悔したが良いこともあった。


助けた村人の感謝が安らぎを与えてくれたのだ。


狙われた村人は【バコゥヤ】という女性で納税関連で時折街に出掛ける役割の人物だった。


偶然街で手紙を出す彼女を見掛け、その役割を知った野盗たちは、後をつけ家を確認したと供述していた。


基本的に納税関連に従事する人は給金が良いのでその蓄えを狙われたらしい。


事件の翌日に私は農作業中にバコゥヤの訪問を受けた。


とても感謝されたあと、私は彼女に抱き締められた。


彼女はニーナと同じような境遇らしく、娘を亡くしたことを語り、私を抱いたまま泣いていた。


私は抱きしめられたままバコゥヤの腰に両手を回し、亡き母の面影を求めた。


私と同じ哀しみを抱えた人があとどれだけいるのだろうか。


この国を滅ぼす原動力となる感情がまた暗く燃え上がるのを感じていた。


それは初めて人を殺してしまったことよりも、私の感情を揺さぶり、目的を為し得ない苦しみを与えていた。



 この事件翌日から、警備団は夜の巡回をさらに強化するようになった。


乏しい財源から何とか費用を捻出して、村の周囲に防犯用の鳴子なるこを張り巡らし、侵入者が早期発見出来るような仕掛けを施した。


音が聴こえたら鐘を鳴らしすぐに村の中心地へ逃げるよう注意喚起を行い、特に一人暮らしの老人や女性へ重点的に呼び掛けた。


「ニーナおばさん、少しでもおかしいと思ったらすぐに逃げるんだ。

 状況次第で私たちの家に逃げてもいい、絶対に守るから。」


「わかったからその怖い顔をやめなよジッガ。

 せっかくの可愛い顔が台無しじゃないか。」


「おばさん、私はこれ以上悲しい思いをしたくないしさせたくない。

 命を大事にして? お願いだ、約束して欲しい。」


私の真剣な声にニーナは少しだけ呆れたあと、約束と同時に感謝の言葉もくれた。


さらにシェーナのところにも行って同様の約束を交わした。


一応ツェルゼンにも声を掛けに行ったが終始無言のまま、不愉快そうに手を振られて家から追い出された。




 共に暮らす仲間たちには、既にカカンドが協力者になったことを伝えてある。


朝昼の学習におもむく者は、以前より気安くカカンドから深い知識を得ることが出来ているようだ。


今も夕飯の後で本日学習したことを皆で共有し学び合い、意見を交わしている。


その中でもやはり私の見立て通りゲーナが最も多く知識を吸収していった。


特筆すべきはその記憶力で、覚えたことは中々忘れず、新しいこともどんどん覚えていった。


きっと近い未来、私の組織を内から良く支えてくれる存在になる気がする。


絶対に手放せない人材だな、と改めて気を引き締めながら眺めていて、私はふと不安になった。


いま私がこの仲間たちを失ったらどうなるだろうか?


そう考えた瞬間に私はつま先から全身にかけて力が抜けてゆくような感覚に襲われた。


人間は昨夜私が【そうした】ように、簡単にその命を散らしてしまうのだ。


ドクンという心臓の音が体内で木霊こだまする。


遠くでカンディが私を呼ぶ声が聴こえたが、それに応えられぬまま、私は意識を手離してしまった。




 気が付くと私は布団の上にいた、まだ倒れてからそれほど時間が経っていないように思える。


私が目を覚ましたことを察知し、カンディが心配そうに近付いてきた。


「ジッガ、大丈夫?

 気分悪くない?」


「あぁ、大丈夫だ。

 少し眩暈めまいを起こしてしまったようだ、もう心配ない。」


私の言葉にカンディは珍しく安心出来なかったようだ。


不安気な顔で更に私を案じる言葉を次々投げかけてくる。


ゲーナとリルリカも近付いてきて、同様に固い表情で心配する言葉を並べる。


その内容のうち一つに私が初めての月経を迎えて体調を崩したのでは、というものがあった。


思わず股間を確かめたがそんなことはなかった。


どうやら男たちはもう帰されているようで女同士遠慮のない詮索がなされた。


私はその一つ一つに丁寧な返答をして心配を打ち消していった。


「じゃあどうして急に倒れたの?

 心当たり、ある?」


ゲーナが真剣な様子で私に問い掛けてきた。


どうしようかと少し悩んだ。


しかし、結局正直に、皆を失う想像をした瞬間に恐怖心でいっぱいになって倒れた、と告白した。


皆に笑われる前に先に笑い飛ばしてしまおうか、と少し考えたが、三人は予想外に真剣な表情で私の言葉を受け止めていた。


「ジッガ、毎日を必死に頑張り過ぎて疲れが溜まったんだね。」


「うん、それに野盗の事件があったから神経が尖っちゃったんだと思う。」


「え? 私はそんな自覚は無いんだが?

 いつも通りじゃないか?」


私の言葉に三人は優しく微笑む。


「ぜーんぜんいつも通りじゃないよ。

 ずっと怖い顔してたじゃんかジッガってば。」


「前にカンディが『ジッガは心が身体ほど強くはない』って言ってたの。

 そん時はわかんなかったけど、今のジッガを見たら良く分かるよ。」


リルリカの指摘に私は思わず手で口を押さえる。


私は皆のまとめ役なのに弱さをさらけ出してしまったのか、と絶句してしまった。


「ジッガ、私たちはもっと頑張って

 ジッガが心配しなくなるまで強くなるよ。

 だから今より少しだけ気持ちを緩めてみて。

 ほら、私たちはどこにも行かないから、

 安心して、今は眠って。」


ゲーナの言葉と同時にカンディから魔力が私に向けて注がれるのを感じた。


それは暖かく


やわらかく


気持ちのいい


そんな


気が


……




 目が覚めると目の前にカンディの寝顔があった。


どうやら私は日課の索敵魔法も飛ばせず眠りこけたらしい。


そんな自分自身に呆れながらも、私は精神が昨日よりずっと安定していることを自覚した。


『みんなの言う通りだったのか』


私は気持ちが【弱い】のだ、と認めざるを得ない。


国に対する怒りで誤魔化したものの、野盗を殺した感触に私は怯えてしまっていたのだろう。


ロイガの件や森での戦闘で慣れたつもりだったが、実際に同じ人間の命をこの手で奪ったことに対して、嫌悪感や罪悪感を消し去ることは出来ていなかった。


失いたくない仲間たちの姿をの当たりにして、私の中で日常を守りたい気持ちが恐怖感にすり替わって精神を圧迫してしまったのかもしれない。


カンディの魔法が一体どういうものなのか聞いていないが、私の気持ちを落ち着ける効果があったことはわかる。


手を伸ばしカンディの頭を撫でる。


今度はいつも通り安心を与えられたようだ。


カンディは目を覚まさぬまま、僅かに微笑んでいた。




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