習い覚え行い備わる、それが学ぶということ
「うーん、なかなか上手くいかないなぁ。」
私の前でカンディが魔力操作の訓練をしている。
魔力量だけならばエンリケより上だがその使い方はまるで理解出来ていない。
私たちのうち誰も魔法について学んだことが無いので手助けもあまり出来ない。
私はリルリカと手を繋ぎ魔力を流しながらカンディに拙く助言する。
「カンディ、焦らずやればいい。
私も始めたばかりの頃はそれが何なのかもわからぬまま操っていた。
身体の中で良く分からないものが移動するような感覚だった。」
「いやジッガ、それだとカンディもわかんないと思うよ。
カンディ、魔力は熱に似てないかな?
あったかい何かが感じられるならそれが魔力だよ。
わかる? そしたらそれを自分の思う方向に動かしてみよう。
全身に広げたり、右手に集中させたり、まずはそれをやってみて。」
どうやら私よりエンリケの方が説明が上手い。
カンディはまだ上手く出来ないようだが何かしら手応えを感じた様子だった。
そして他四人のうちまずアグトに変化が現れた。
「あれ? なにか変な感じが……、
もしかしてこれが魔力なのか?」
アグト自身からは魔力は出ていないが、流している私の魔力に的確に反応し始めたのだ。
今までの『来てるような来てないような?』というあやふやなものではなく、流した瞬間にそれとわかるようになってきている。
「えー? 魔法使いってすごく珍しいはずだよな?
アグトまで魔法使いになる可能性が出てきちゃったのか?」
マグシュが疑問の声を上げている、確かにそれは私も思う。
「もしかしたら戦争で利用するために
国が情報を隠していたのかもしれないな。」
「えぇ? 何の為に?
みんなが魔法を使えた方が簡単に戦争に勝てるんじゃないか?」
「いや、それではいずれ隣国にまで情報が渡ってしまうだろう。
国の研究所で何かしらの新事実が判明したとしても、
上層部で情報は止まっているんじゃないか?」
「そうだよね、研究所に連れていかれて帰ってきた話なんて聞かないもの。」
アグトとゲーナは兵士として戦場の悲惨さを知るだけに、この国に対しての不信感がかなり強いようだ。
話に聞く限り戦争の頃に最前線では敵国への怒りではなく、自国の王に対して怨嗟の声を上げながら突撃する兵が続出していたらしい。
そんな状況では故郷に家族を残す者はまだ我慢できるだろうが、独り身の兵士などはすぐに逃亡兵になってしまったことだろう。
夜の集会所で帰還兵たちが似たような話をしていたので事実なのだと思われる。
それにしてもエンリケは器用になんでもこなす。
私がやっていた訓練法を教えると、この数時間ですべて覚えてしまい、僅かながら魔力を増幅することが出来ている。
さすがに索敵魔法は難易度が高いようで苦戦していたが。
私は過去の索敵魔法での覗き見について罪悪感があったが、エンリケに指摘されることは無く、ホッとした。
しかし身体強化は出来かけている、腕力が少し強くなっているだろう。
ゴブリン戦でエンリケはあまり活躍出来ず、戦闘力の低さを露呈したが、今後の鍛練次第では戦力になり得るかもしれない。
「うん、なんか掴んできてる気がする。
防具作りもなんとか進めたいんだけど、魔力を活かせるかなぁ?」
「槍や楯を強化するみたいに防具も強化出来ないのか?」
「魔力を貼り付けて強化すると硬くて装着できないんだ。
かといって強化しないと紐とか関節部分が弱すぎてすぐ壊れる、
どうにか考えないとずっと防具は楯しかないことになるよ。」
「そうか、槍と楯なら硬くするだけだからな。
防具は難しいか。」
「うん、魔法について話せるようになったから言うけど、
槍と楯は魔力に気付いて偶然作れただけだからね?
正直防具の作り方とか僕全然わからないから。」
確かに槍と楯の完成度に惑わされ、無茶な要求をしていたようだ。
他の者の顔を見回すとそれぞれ難しい顔をして黙り込んでいる。
その中でリルリカがおずおずと声を上げた。
「でもさ、小さい楯を張り合わせて前後で縛ればお腹を守る防具にはなるでしょ?
紐は丈夫なものが売ってるんだから買えばいいし。
エンリケは植物のツルとかで作ってるからすぐ壊しちゃうんじゃないの?」
「そうなのかエンリケ?」
私はリルリカから初耳の情報を聞きエンリケに確認してみる。
防具作成用にいくらか金は渡してあるはずなのだが。
「う、うん。
僕の実験で無駄遣いになるのが嫌だったからまずはツルで試してた。
魔法でくっつければ紐でもツルでも一緒かなって。
紐で繋ぐ部分を作るのも難しくて出来なかったし。」
「なるほど、打ち明けてみないとわからないことは多いな。
これからはもっと色んなことを話し合おう。
武器防具造りは【狩り】にとても重要なことだ、必要な金ならば惜しまない。
野菜の収穫で生活の目途は立っているんだ、そちらも力をいれていこう。」
私の言葉でみるみるエンリケが申し訳無さそうな表情になる。
「そうだね、ごめん、
魔法を秘密にしながらだと出来ないとも言い辛くて。
……もしかして、
リルリカは防具の造り方をわかってるんじゃない?
さっきなんか具体的なこと言ってなかった?」
「あ、ううん、少しだけ。
孤児院にいた頃に服を作ったりもしてたから。
ね? マグシュ。」
「うん、リルリカは結構上手く作れたもんな。
集会所でニーナさんとかシェーナおばさんがしてる仕事してた。」
集会所でニーナたちは村で育てている綿花から綿や糸を作っている。
少量だが村人用に販売する服なども併せて作っていた。
おそらく孤児院でも内職のような形で労働の一環になっていたのだろう。
「ではリルリカも防具造りを担当してくれないか。
他にも自分が出来そうだと思うことはどんどん教えてくれ。」
私が問い掛けると再びみんなは思案顔で悩み始める。
みんなどうにか自分の力を役立てようと真剣に思い悩んでいた。
その様子に私は勇気付けられ、胸に秘めていた【想い】の一部を打ち明けた。
「すぐには出ないだろうけど、これからはお互いもっと話し合おう。
私たちはまだ『子供だから』と村から責任を持たされていない。
だが私たちには【魔法】の力がある、
これからは大人の村人よりも仕事をこなしていくだろう。
村から異常と感じられ生活し難くなることも考えられる。
そうなると最悪の場合は【村から出ていく】結末となるかもしれない。
それまでに私たちは様々な【力】を手にしなくてはならない。
戦う力を始めとして、
魔力、財力、知力、【生き抜く力】を手にするんだ!」
私の突然の【宣言】を耳にし、みな驚きの表情で固まっていた。
その内容に戸惑い、理解するのに時間が掛かっているように感じられる。
その中でマグシュが真っ先に口を開く。
「え、ジッガ、俺たち村を出ていかなきゃダメなのか?」
「いずれ、の話だ。
今すぐの話じゃない。」
ここで、いつも以上に真面目な顔つきになったアグトが、マグシュを諭すように口を開いた。
「マグシュ、
ジッガたち三人は魔力持ちだし、
俺たちもそうなるかもしれない。
そんな子供たちのことが知られてしまったら国がすぐに動き出すだろう。
そうなったらこの村にはいられなくなる。
俺もこの村が好きだが、
だからこそ迷惑になりたくない。
それともマグシュ、俺たちと別れて別々に生きていくか?」
「そんなこと言ってないだろアグト! 意地悪言うな!
ただ、ちょっとビックリしただけだ。
俺も……、みんなと一緒にいたい。」
少し泣き顔のマグシュの頭を撫で、私は全員の顔を一人ずつ確認して話し出す。
「みんな、私を信じて欲しい。
みんなが安心して暮らせるように私は全力で行動する。
みんなも私と共に全力で戦ってくれ。」
私の言葉に全員が力強く頷く。
「それと、私は【魔法】によって今まで皆より強かっただけだ。
私と【まとめ役】を交代したくなったらすぐに話してくれ。
【決闘】かなにかで正々堂々勝負しよう。」
私は自分の魔力量とカンディたちの魔力量の違いを把握している。
まとめ役を交代するつもりはさらさら無い。
王国打倒のために私は皆を指導する立場を降りるわけにはいかないのだ。
このさき皆の不満が高まらないよう、公明正大な立場を表明しただけなのだが、今度の私の言葉には力強い頷きは返ってこなかった。
「いやジッガ、何度も言うけどお前がまとめ役でいいから。」
「ジッガと決闘したい奴なんてこの中にいないよ。」
「ワタシまとめ役なんて嫌だよぉ。」
何か締まらない空気のまま本日の魔力の鍛練はお終いとなり、男たちは就寝のため帰っていった。
「ふふふ、ジッガが【魔法使い】って聞いて私驚いちゃった。」
「すまなかったな、ゲーナ。
秘密にしていて。」
「ふふ、ううん、それはいいの。
前からジッガって変わった子だなぁって思ってたし。」
「う、ん、そうか。」
「でも今日のジッガは昔に比べて違う意味で【変わって】いってる。
すごくリーダーらしかったよ。」
「そうだよね!
ワタシもそう思ったぁ!」
「カンディも思った?
前は大人みたいな話し方の変わった子、って感じだったけど、
今日は『みんなを背負ってるんだっ!』ていう責任感が出てた。
ジッガも色んなことを経験して大人になってきてるんだね。」
年齢的には姉のような存在のゲーナの言葉に、私は胸やのどが詰まる思いだった。
さらに言葉を継がれていたら泣いてしまっていたかもしれない。
確かにこの村に帰ってきてから私は様々な経験をした。
ロイガに関する出来事も、私に無理矢理大人の苦い味を教えてくれた。
しかしこの一ヶ月で私を大人にしてくれたのは、六人の【仲間】のおかげだ。
「みんなのおかげだよ、ありがとう。」
頭を下げる私に三人がちょっと慌てている様子が伝わる。
私が顔を上げると、黙っていたリルリカがどうしていいか分からない顔をしていた。
「明日は今日の分も働かないといけないな、
さ! もう寝よう!」
私の言葉でみんなそれぞれの布団にもぐり込む。
カンディはまた私の布団に入ってきている。
だが、私を一番【変えてくれた】相手を無下には出来ない。
結局その頭をしばらく撫でまわしたあと就寝した。




