4.冒険者ギルド
「で?これからどうするか決めたのか?」
僕はこれからの事をザックさんに話した。
父さんの手記を見つけた事、その中に書いてあった地名、人名。それらを辿って父さんがどんな人だったのかを知る旅に出たい事を。
「そうか……それもいいかも知れねぇ。だがツラい思いをする事を覚悟しておけ。昨日も言ったがお前の父さんは仲間殺しと呼ばれていた。本人はなんの弁明もせず、その名を受け入れていた。恨み言の一つや二つお前にぶつける人だっているだろう。その覚悟はあるか?」
僕は覚悟出来ていた。
イグニスさんは父さんの行いと僕は関係ないと言っていたけど、みんな同じ考えじゃないのはわかっている。
中には僕を仇として殺そうとする人もいるかも知れない。
僕は斬られるつもりはないけど……。
「覚悟は出来ています。ツラいけどそれ以上に父さんの事がもっと知りたい。なぜそんな汚名を着てまでその竜に拘ったのかも」
「竜には手を出すなよ」
ザックさんが強めに諭してきた。
「エドワードが挑んでいた頃はおそらくまだ幼竜だったんだろう。幼竜は成長する為に魔力を欲する。だから魔力を多く保有する人を襲うんだ。あの北の霊峰に住む竜は稀に見る暴れ竜だったそうだからな。被害は相当なもんだったと聞く。けどある程度育つと人を襲わなくなる。デカい図体を維持する為に肉を欲する。つまり捕食対象が人から大型の獣に変わるってわけだ。成竜は人を襲わない。そして大型の獣、魔獣を喰ってくれる。一転してその土地の守り神のような存在になる。有名な竜なら千年生きてる竜もいると聞くぜ」
そういや父さんの本棚に置いてあった本にもそんなような事が書かれていた。
「北の霊峰に住む竜はもう人を襲わないらしい。すでに成竜になったんだろう。成竜は討伐対象から外される。もうあの竜が討伐される事はないだろう」
「そうなんですか……」
父さんが挑み続けた竜はもう討伐されない……。
なんだか残念な気がするけど仕方ない事なんだろう。
「ヴァン、お前旅の準備はどうなってる?」
「はい、もう準備して出てきました」
「準備して出てきたってお前……見た所剣も無いしリュックも背負ってねぇ。野宿の用意もしてねぇように見えるが……」
「野宿ですか……?休憩を取りながら行けば大丈夫だと思ってますけど……」
「おぃ……勘弁してくれ……街から街へは馬車で二日、歩きなら一週間程度かかる。野宿は避けて通れねぇ」
「街から街はそんなに離れているんですね……休憩だけじゃキツいかも知れないな……」
「それにエドワードの過ごしていた街はスーラだと聞いている。スーラまでは最低でも街を五つ経由する事になる。徒歩なら街で数日体を休めながらの旅になるから2ヶ月程度の長旅になるだろう」
全然知らなかった……思っていたより遠かった……。
「いつ出発する予定だ?」
「今日地図を買ってそのまま出発するつもりでいました」
「今日はやめとけ。明日にしろ。俺が必要なもんを用意してやる。」
「そんな……悪いです。自分で用意……」
「黙ってろ。俺が用意してやる。エドワードとは15年の付き合いだった。それぐらいさせろ。な?」
ザックさんが頭に手を当ててきた。
「すみません……お世話になります……」
ザックさんが笑って頭をぐしゃぐしゃってしてきた。
こんなに良い人だったんだ……。
「今日はこの街でゆっくりしていろ。お前エドワードから剣を教わってただろ?剣だけは自分で用意しろ。持った感触とか好みの重さとかあるからよ。いいな?」
「はい!分かりました!じゃ剣を買いに行ってきます!」
「待て待て、焼き鳥もう一本残ってんぞ。おばちゃんの気持ちだ。ちゃんと食ってけ」
ザックさんは温かい人だ。
この人がいて良かった……。
「ザックさん、実は昨日持ってきてもらった食料も無駄になってしまうから持ってきたんです。ザックさんの家で食べて貰えますか?」
「わかった。それは店ん中に置いとけ」
そう言うとザックさんは店の中に入って行った。
僕は焼き鳥を食べ終わって店の中に食料を置かせてもらうと剣を見にいく事にした。
おばさんにお礼を言って焼き鳥屋さんの前を通り過ぎて武器屋さんの前まで来た。
「こんにちは。見ても良いですか?」
お店の人は黙って頷いていた。
50代ぐらいのおじさんだった。
昔は冒険者をやっていたんだろうか。
すごく迫力があるおじさんだった。
店内には色んな武器が置いてある。
剣だけじゃなく短剣、斧、槍やメイス。
父さんが木を削り出した物を使って一通り使い方は教わっているけど、自分の武器としては剣以外考えられない。
僕は順番に持って感触を確かめていった。
よく見ると結構刃こぼれしている剣が多い。
お店の人が僕の表情で察したように説明してくれた。
「うちは中古武器専門なんだ。自分で手入れしてもらう代わりに安く提供してるんだ」
「なるほど……そうだったんですね。どうにか自分で手入れ出来るのでこのお店で良かったです」
「兄ちゃん手入れ出来るのか。親御さんの教えが良かったんだろう。今時の若い剣士は武器も手入れ出来ないのが多いからな。俺らの若い頃は……」
おじさんは語り出したので適当に相槌を打ちながら剣を見ていた。
中に少し目を引くのがあった。
所々に刃こぼれがあるけど、物は良さそうな気がする。
良く使い込まれた剣という雰囲気が伝わってくる。
「おじさんこれ、長く持たないでしょうか?」
「そうだな、良い鋼を使ってるんだがダメージが大きいからその値段で出しているんだ。しっかり手入れ出来ればまだまだ使えるだろう」
確かに……ダメージはあるけど手入れすれば修復出来るレベルに見える。
「これ頂けますか?」
「あぁ、もちろんだ。兄ちゃん気に入ったぜ。安くしといてやるよ」
僕は言われた金額を財布から出して渡した。
良かった……剣を買っても充分なお金が残った。
ただ目的地のスーラまで二ヶ月かかると言われているので、途中で路銀を確保していかないと厳しそうだ。
「兄ちゃん盾は要らないか?何でもいいなら裏にいくつかあるからよ。欲しいのがあったら持っていきな」
「良いんですか?ちゃんと代金を払いますよ」
「いいんだ。だが剣のついでに引き取ったガラクタだ。商品として出してないもんだからあんまり期待すんなよ」
そう言って裏に案内してくれた。
盾がいくつか積まれている。
その中から取り回しの良さそうな鉄で補強されたラウンドシールドを見つけた。
僕が持ってるのは木の盾だったので随分ランクアップだ。
「このラウンドシールド使いやすそうですね。これ貰って良いですか?」
「あぁ、持ってけ」
僕はお礼を言って店を出た。
聞くところによると販売出来そうな物は販売して、それ以外のガラクタは鍛冶屋さんに材料として卸しているらしい。
適当に入ったお店だったけど良いお店に当たったな!
初めての僕専用の剣……刃こぼれが惜しいけど、手入れでどうとでもなる。
いい鋼を使ってるそうだからエンチャントが通ってれば簡単に折れる事はないだろう。
長く使えるかも知れない。
良い買い物が出来た。
その後僕はザックさんのお店に戻った。
「おっ、戻ったか。剣は買えたか?」
僕は買ってきた剣を見せた。
ザックさんは少し渋い顔をしながら剣を精査している。
「造りは悪くない。ちゃんとした鋼が使われてるから正しく手入れしてやれば良く切れるだろう。だがこのダメージ……」
刃こぼれの部分を見て目を細めている。
「お店の人は手入れさえ出来ればまだまだ使えると言っていました。父さんから剣の手入れの仕方は教えて貰ってるので頑張って手入れしてみます。いい鋼を使っているそうなので、手入れ後は付与魔術を併用しながら使っていけば長く使っていけるんじゃないかと思ってます。」
ザックさんが驚いている。
「ヴァン、お前付与魔術が使えるのか?」
「はい、今までこの木剣と付与魔術を併用して魔物を斬っていたので。」
腰に下げている木剣を見せた。
「木剣でも魔物を斬れる程ならこいつに変えればエゲツない攻撃力になりそうだな……」
今まで刃のついた剣で魔物を斬った事がないので使うのが楽しみだ。
「実はスーラに向かうに当たってお金が足りないと思うんです。それでお金を稼ぎながら移動しようと思ってるんですが、何かいい方法ないでしょうか?」
「それなら冒険者としてクエストをこなしながら移動する。これ一択だろう」
「冒険者ですか?」
「エドワードの事を知る旅ならエドワードと同じように冒険者として生きてみるのも悪くないだろう?それに冒険者登録すれば身分も保証される。新しい街へ移動してもすんなり街へ入れて貰える。お金が充分にあったとしても俺は冒険者登録をお勧めする」
なるほど……確かに父さんも通った道だ。
父さんの事を知る上で外せない要素だ。
「すぐに登録してきます!何か必要な物はありますか?」
「基本的に何も要らないが俺がついて行ってやる。身分を保証する奴がいればよりスムーズに登録出来るからな」
そう言ってザックさんは店を出て行った。
僕も後を追って店を出た。
入ってきた門とは反対方向へ進んでいる。
ザックさんが声をかけてきた。
「この辺りがこの街の中心地だ。で、その中心にあるのがこの冒険者ギルドだ」
割と大きな建物だ。
「冒険者ギルド・リステン支部……」
僕は看板に書かれている文字を読み上げた。
「そうだ、冒険者ギルドは規模の大小はあるが、どこの街にも必ず支部がある。新しい街に入ったらとりあえずギルドの場所を把握しとけ。おすすめの宿、うまい飯屋、ギルドで聞けば大概の事は教えてもらえるからよ」
なるほど。今後はずっとお世話になる建物って事か。
ザックさんに連れられてギルドに入った。
入ってすぐに左手に掲示板がたくさん並んでいた。恐らくクエストが張り出されているんだろう。
右手は食堂の様になっていて、テーブルとイスが沢山置かれていた。
そのテーブルで数人が固まってミーティングしていたり、アイテムを分けたり食事をしたりしている。
ザックさんが掲示板が並んでいる方へ歩いていく。
僕は後について行った。
ザックさんが掲示板の奥に設置された受付で声をかけた。
「すまない、冒険者の新規登録をお願いしたいんだが」
奥から強そうなおじさんが出て来た。
「ザックじゃねぇか。珍しいな。食うに困って依頼でも受けに来たのか?」
「そうじゃねぇ。こいつの新規登録をしに来たんだ」
そう言って僕をずいっと前に出した。
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