3.手記
僕は家に入りベッドに入った。
昨日からご飯を食べていないけど今はそんな気分じゃなかったので僕は布団をかぶり眠った……。
気がつくともう窓から夕日が差していた。
ずいぶん長く眠っていたようだ。
僕は起きて玄関に置かれている食料を確認してみた。
いつものラインナップだ。
必要な食材を取り出してはっとした。
無意識で二人分用意していた……もう父さんがいない事を再確認してまたしばらく泣いてしまった。
僕は一人分の食材を用意して台所に立った。
これから僕は一人で生きていかないといけない。
料理をしながら一人で生きていくには何が必要か考えてみた。まずお金だ。お金がないと何も出来ない。
お金を得る為には仕事をしないといけない。
料理を終え、一人で食べ始めた。
この家にはお金がどれぐらいあるんだろう?
僕はお金を使った事がない。持った事もない。
食事を終えて、まずこの家にお金がいくらあるか確認する事にした。
手始めに父さんの書斎に入ってみる事にした。
というか、他に心当たりがない。
ここに無ければもうこの家には無いだろう。
父さんはいつもこの部屋に鍵をかけていたから僕はほとんど入った事がなかった。
でも鍵のありかはわかっていたので開いて入ってみた。
入ってすぐ目についたのは本棚だ。
いくつかの本が整然と並べられている。
そのうち一冊を手に取ってみた。
竜の生態に関して記されているようだ。
他の本を見てみた。竜の討伐手順が書かれた本だ。
他の本も竜に関する物が多い。
三度も失敗して、左腕まで失ったのにまだ竜の事を調べていた。
父さんは竜退治を諦めてなかったのかも知れない……。
何がそこまで父さんを駆り立てていたんだろう……。
本を棚に戻してデスクに目を向けた。
机の上には何も出ていない。
引き出しを開けてみた。
ペンやナイフが入っている中に革袋があった。
開けてみるとお金だった。
そこそこ入っている。
当面の生活費は困らないだろう。
おそらくこれがこの家の全財産だと考えて良さそうだ。
他の引き出しを調べていて見つけたのが父さんの手記だ。
ずいぶん古びている。
相当昔からつけていた手記なのかも知れない。
僕は少し迷ったが開いてみた。
父さんごめんなさい。
少し読んでみると父さんの両親の名前、生まれた街の名、当時の友人の名前などが見てとれた。
内容を見るにおそらく僕ぐらいの年齢の頃からつけていた手記なのかも知れない。
所々破かれてて飛んでいるが、父さんが冒険者だった頃に主に活動していた街の名前、当時の友人の名前も発見できた。
この手記を見ながら父さんがどういう人物だったのか……それを知る旅に出たいと考え始めた。
ここに出てくる人の名前はきっと当時の父さんに大きく関わっていた人だと思う。
そういう人に父さんの事を聞いてみたい……仲間殺しなんかじゃないと言ってもらいたい……。
ザックさんもイグニスさんも言っていた。
僕は自由だと。
ここにいつまでもいるわけにはいかない。
ここにいたんでは何も変わらない。
自分の足で行動して父さんは仲間殺しなんかじゃないと証明してみせるんだ。
僕の心はほぼ決まった。
父さんの手記を頼りに父さんの生きた軌跡を辿っていきたい。
父さんはなぜこうも北の霊峰に住む竜に拘っていたのか。
なぜ仲間殺しと呼ばれてまで竜討伐に挑んだのか……。
ふとデスクの足元に取っ手がみて取れたので僕は引っ張ってみた。
すると収納スペースが現れて、そこには短剣が納められていた。
「これ……大事な物だったのかな……」
僕は取り出してみた。
持ち手に「to liv」と刻印されている。
もしかして……これはリヴさんの短剣……?
所々傷が見られる。新品じゃない。
父さんはリヴさんの短剣を大切に保管していた……唯一の遺品だったのかも知れない。
他に見落としがないか部屋の隅々まで探したけど何も出てこなかった。
父さんの大切にしていた物はこの短剣だけだ……父さんにとってリヴさんは何か特別な人だったに違いない……。
やはり父さんの生きた軌跡を辿る必要がある。
僕はリヴさんの短剣を持ち、決意した。
その日の晩、僕は今後の事を考えた。
まずザックさんに会いに行く。
そして父の生きた軌跡を辿る旅に出る事を告げる。
そして最初の目的地である父さんが主に活動していたスーラという街までの順路を教えてもらう。
僕は地理が全くわからない。
スーラまでの距離も方角も何もわからない。
父さんは戦い方以外何も教えてくれなかったからだ。
明日出発する事を決め、準備をする事にした。
大きな布に父さんの手記とリヴさんの短剣、お金の入った革袋、水筒、着替え、あとザックさんの持ってきた食料から日持ちしそうな干し肉や乾パンなどを包んだ。
装備品はいつも使っていた防具と木剣でいい。
魔法があるから火力に困る事はないはずだ。
街に着いたら手頃な剣を買えばいい。
ひとしきり必要だと思う物を荷物にまとめた後、布団に入った。
明日から旅に出る。
この家での思い出が頭の中に溢れてきて涙が出て止まらなかった。
父さんと過ごしたこの家……。
父さんが仲間殺しなんかじゃないと証明したら必ず帰ってくる。この家に。
僕はそう固く誓い眠りについた。
翌朝早くに目が覚めた。
僕はこの家での最後の食事をとった。
ザックさんが持ってきてくれた食料……ずいぶんたくさん残っている。
下げられる袋に入っているのでザックさんの所へ持っていく事にした。
帰ってきた時に大変な事になってたら困るからだ。
僕は防具を身につけ昨日用意した荷物と食料、木剣を持ち、家を後にした。
家を出て昨日ザックさんが指さした方向へ歩き出した。
もちろん周辺の地理ぐらいはある程度知っている。
街の手前ぐらいまでは良く足を運んでいた。
この辺りの森には魔物が出る。
それほど危険な魔物はいないが、食べると美味い魔物はいた。ワーボアだ。
イノシシの魔獣で突進攻撃しかしてこない危険の無い魔物なので良く狩りに来ていた。
しばらく歩くとワーボアに会った。
当然のように鼻息荒く突進してきた。
僕はワーボアの突進の軌道を調整してひらりとかわし、木に衝突させた。
この子達にも世話になった……気絶しているワーボアにお別れをしておいた。
「また帰ってきたら遊ぼうな」
そう言ってお尻をペチペチと軽く叩いておいた。
ワーボアに別れを告げて僕は街に向かって歩き出した。
やがて街の門が見えた。
街に入るのは初めてだ……緊張する……。
衛兵さんが声をかけてきた。
「リステンに何か用かい?」
「ザックさんに会いに来ました。こちらでそう伝えればお店の場所を教えてくれるはずだと聞かされています」
そういうと、衛兵さんは
「ザックの店ならこの道をまっすぐ10分ほど進んだ右手だ。配達屋ザックという看板がかかっているからすぐにわかるだろう」
と教えてくれた。
「ありがとうございます」
そう答えて僕は街に入った。
街に入るとたくさんの人が行き来していた。
午前の忙しい時間帯だったのだろう。
皆忙しそうに働いていた。
門から続いているこの道路は街の中心部を通る道路のようだ。
宿屋さん、武器屋さん、道具屋さんなどが軒を連ねていた。
武器屋さんの大きなガラス窓から店内に並べてある剣が見えた。
僕はまだ自分の剣を持った事がなかった。
いつも木剣を振っていたからだ。
手入れの仕方は父さんの剣を使って教わっていたけど、それ以外は木剣で困った事はない。
付与魔術で属性を付与すればダンジョンの魔獣も木剣で充分戦えたのだ。
でもこの先どんな魔獣と相対するかわからない。
早い段階で刃の付いた剣を手に入れたいと考えていた。
中に入って見たいと少し思ったけど先にザックさんのお店へ向かった。
いろんなお店があって色んな人とすれ違った。
美味しそうな匂いがするので目を向けると店の中から道路に向かっておばさんがうちわで何かを仰いで焼いている。
焼き鳥だろうか。
やばい、すごく魅力的な匂いだ……。
おばさんは僕が見ているのに気付いたみたいだ。
声をかけてきた。
「兄ちゃん見ない顔だね。何か買いに来たのかい?」
「ザックさんに会いに来ました。お店はこの辺りだと聞いたんだけど」
合点がいったという顔で「ザックの店はあそこだよ」と指差して教えてくれた。
もう目と鼻の先だったみたいだ。
僕はお礼を言って焼き鳥に別れを告げその場を離れた。
教えられたお店まで来た。
遠慮がちに「配達屋ザック」という看板がぶら下げられている。
ドアを開けて入ってみると受付に女の子が立っていた。
僕よりちょっと年上だろうか。
栗色のショートヘアで所々跳ねてる。
可愛らしい雰囲気の人だ。
目が合うと声をかけてきた。
「いらっしゃいませ。配達のご依頼でしょうか?」
「すみません、ザックさんに会いに来ました。いますか?」
女の子はちょっと待ってねと言いながら奥に声をかけていた。
「お父さーん、お客さん来てるよ」
どうやらザックさんの娘さんらしい。
「おう、ヴァン!来たか!ほれ、これで焼き鳥でも食いながら待っててくれ。用が済んだらすぐいくからよ」
そう言って銅硬貨を握らせてくれた。
「すみません、ありがとうございます」
そう言って僕は焼き鳥を買いに行った。めっちゃ嬉しい!
「おばさん、これで焼き鳥買えますか?」
そう言って銅硬貨を見せた。
「100ギルだね。大丈夫、買えるよ。」
そう言って2本包んでくれた。
「ありがとうね。またおいで」
「ありがとうございます」
そう言って僕は焼き鳥を受け取ってザックさんのお店の斜め前に置いてある木箱に腰掛けて焼き鳥を食べ始めた。
なにこれ、めっちゃ美味しいんだけど……。
甘辛いタレに漬け込んで焼いてあるみたいで、すごく美味しかった。
おばさん100ギルって言ってたな。
100ギルで2本買えたから一本50ギルか。
思ってたより安い。
これでこのボリュームだったらお得意さんになってしまいそうだ。
そんな事を考えながら焼き鳥を堪能しているとザックさんが出てきた。
「待たせたな。あれ?2本あるじゃねぇか。おばちゃんオマケしてくれてんな」
そう言ってザックさんはおばさんに手で挨拶していた。
おばさんも軽くこっちに手を振ってる。
「あのおばちゃんはうちのかーちゃんの妹なんだよ。うちのかーちゃんはもう死んだけどずっと面倒見てくれてんのさ。あのおばちゃんには頭が上がらねぇ」
そう言って横に座った。
「で?これからどうするか決めたのか?」
評価、ブックマーク頂けると励みになります。
ぜひ下の☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂けますようよろしくお願い致します。