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23.新しい世界線

「自由の風?しらねぇな。リステンで登録されてるパーティ名か?」


 そうか……自由の風は父さんが死んだ事で結成したパーティ……違う形で結成しているのだろうか……。

 僕たちは顔を見合わせた。


「一度リステンで情報を集めた方が良いかも知れないな。俺が行こう」

「待って、私も行くよ」

「僕も行くよ。一回家に帰ってみる」


「ラビィさんはどうします?」

「私はヴァンといるよ。ランクなんてどうでも良いもん」


 さすがラビィさんだ……。


「マリーさんはどうします?ザックさんと僕の関係性が少し気になるんですけど……」

「確かに……私も行ってお父さんに話を聞いてみるよ。イグニスさんはどうするのかな」


「兄さんはどうしますか?何か色々変わっている雰囲気です」

「私は一度はお前に斬られる覚悟をした。全ての未練を断ち切ってきた。父も母も健在ならヒートシュタインとの関係性はなくなっているだろう。恐らく私の帰る家はここだけだ。ここで二人の帰りを待つ」


「待って下さい……あなたイグニス様ですか?あのイグニス・スタリオン様ですか?ならあなたを兄さんと呼んだそっちの方はヴァン・スタリオン様……?」


 急にこの人たち態度が改まった。

 何故か僕たちの名が知られている。

 それになんで様付け?


「そうですが……僕たちを知っていますか?」


「知らない訳ないじゃないですか!リステン始まって以来初のSランク認定された 腰かけ亭の用心棒 のお二人だ。俺……僕たちファンなんだ。サインを頂けませんか?」


 微妙なネーミングセンス……誰のネーミングだろう……。


「ごく稀にこの腰かけ亭でお二人のご尊顔を拝見できると言う噂を聞いていて……滅多にない事だと聞いていたんですが、お会いできて光栄です!」


 ちょっと……なんなのこの人たち……。


「なんか妙な話になってきたね……俺たちは情報収集してくるよ」

「兄さん少しだけ待ってて下さい。ちょっと送ってきます」

「あぁ、慌てなくても良い。時間はいくらでもある。ヴァン達が努力の末に勝ち取った世界だ。私たちはこの世界線でこれから生きていく。父も母も逃げないさ。会いたい時に会えるんだ。ゆっくりこの世界を楽しんでくるといい」


 僕たちは木陰に隠れてテレポートでザックさんちの裏庭に出た。


「一旦ここで別れよう。ギルドで冒険者証を再発行する所から情報を集めてみるよ」

「僕は一度家に帰ってみる。僕は日記を付けているから自分のやってきた事がわかるかも知れない」

「私はパーンと一緒にギルドへ行くわ」


 ラビィさんはどうします?


「仕方ないから私も家に帰ってみる。お父さんに腰かけ亭の事を聞いてみるよ」


「私たちはお父さんと話をしてみる。また家に集合して」


 そして僕たちは別れた。

 マリーさんが裏庭から家に入っていった。


「お父さんただいま」

「おう、マリー。帰ったか。どうした?冒険者みたいな格好をして……ヴァンも一緒か……珍しいな」


 良かった。僕とザックさんは知人の状態だ。

 お前誰だとか言われたら辛いよね。


「ねぇ、私が参加してるパーティ名知ってる?」

「冒険者でもないお前がどこのパーティに参加してるってんだ?」


 そうか……この世界ではマリーさんはまだ冒険者になってないのか……。


「そ、そうだよね。お父さん青の団は知ってる?」

「近所のスタンが入ってるパーティだろう?知ってるぞ。それがどうかしたか?」

「ヴァン君のパーティは?」

「マリー、どうした?ヴァンはSランクパーティ腰かけ亭の用心棒だ。知らない訳ないだろう?」

「私が冒険者になりたいって言ったらどうする?」

「マリー……お前が冒険者なる、と宣言すれば俺は反対しない。だがその聞き方は気に入らない。決意してから言え。いいな?」

「わかった……」


 マリーさんがしょげちゃった……。


「ヴァン、今日はどうした?俺に用があったんじゃないのか?」

「ザックさんに僕たちがここへ移り住んできた頃の事を聞きたいなと思って」

「なんだお前ら……今日は妙な事ばかり聞いてくるな。お前らが移り住んできた時……リヴとエドはすでにドラゴンスレイヤーとして物凄く有名だったからな。特にリヴは知らない者はいない程有名人だった。街は大騒ぎだったよ。流石に騒がれすぎたからあいつらはあんな森の奥に引っ込んじまった。まぁ今じゃあそこはリステン随一の有名スポットと言えるがな」

「母さんの方が有名だったんですか?」

「それは仕方ないだろう。リヴは三大魔女と言われた魔術師だ。この世の全ての魔法を習得していると聞く。エドも強かったそうだが魔法を全開したリヴには敵わんだろう」


 母さん、この世の魔法全て習得してるんだ……すご過ぎる……。


「それに竜討伐の際、リヴのピンチに神の使いが現れたそうだ。神の守護を受けた魔術師と当時騒がれたもんだ」


 なるほど……そう言う話になっているのか……。


「すみません。ありがとうございました」


 そう言って僕たちは出ようとしたがマリーさんは止められた。


「マリー、店番をして貰えないと配達に出れないぞ。今日は立て込んでる。店番頼むぞ。」

「う、うん……わかった……ヴァン君ごめんね。また後で……」

「な、なんかすみません……」

「全然いいよ。こんなの全然大丈夫。私もすぐに冒険者になるから待ってて」


 マリーさんは小声でそう言った。

 僕はザックさんの家から出てギルドへ向かった。

 途中スタンさんと合流した。


「どうやら青の団はヴァン君と出会わずに今まで来たと言う感じだったよ。今はBランクと日記には書いてあった」

「実はマリーさんがまだ店番をしていました……ザックさんに捕まって店番中です」

「そうか……マリーはヴァン君と一緒に旅に出たんだからそうなるよね……」


 そう話しているとギルドへ到着した。

 僕たちがギルドへ入った瞬間、中にいる人達が僕の顔を見るなりギョッとして距離を置いた。


「ヴァン君……あの冒険者が言うようにSランクなのかな……みんなヴァン君に注目してるね」

「変な感じですね……」


 すぐにパーンさんとリースさんが来た。


「ヴァン、俺達は普通に冒険者証を再発行出来た。ランクはB。パーティ名は青の団。ヴァンと出会わなかった世界線という雰囲気だ」

「そうだね。僕の日記からも同じ事が読み取れたよ」


 そう言ってスタンさんも冒険者証を再発行しにいった。


「マリーさんはまだ店番をしていました……僕と旅立ってないからでしょうね……」

「あー……なるほどね……マリーなら冒険者になったらすぐランク駆け上がってくると思うけどね」

「僕も冒険者証を再発行してきます」


 僕は受付に再発行をお願いした。


「は、はい、冒険者証の再発行でございますね。紛失されましたか?」

「そうなんです。よろしくお願いします」

「今日は再発行が多いな。なんかあったのか?」


 ガストンさんが出てきた。


「たまたまですよ。大事な物を無くしてしまってすみませんでした」

「お前らなんか隠してねぇか?」

「何も。後で兄も再発行に来ると思います」

「はぁ……どうなってんだ……」


 僕は再発行された冒険者証を受け取った。

 ランクはA。パーティ名は腰かけ亭の用心棒。

 初めにギルドでザックさんに聞いたな。

 Sランクは称号であると。

 実質Aランクが一番上だという話だった。

 冒険者証を確認してからもう一度パーンさんと合流した。


「マリーが冒険者になっていないのが痛いが、概ね問題は無さそうだな」

「そうですね。後はラビィさんが戻れば」

「ヴァン……大変な事になった……」


 後ろからラビィさんが急に話しかけてきた。


「ど、どうかしましたか?」

「私……婚約してた……どうしよ……私にはヴァンがいるのに……」

「それは……」

「ラビィ……断るなら早く断りなよ」

「そうだよね……ヴァン……一緒に来て」

「な、なんで僕が……?」

「ヴァンが私と結婚するって言ってくれたら断れるから!」

「無理です!結婚なんてまだ考えられないので!」

「ダメ!ヴァンと結婚するの!一緒に来て!」


 リースさんがラビィさんを押さえてくれたので僕は家に帰る事にした。


「今日はもう帰ります!また明日!」

「待って!家に来て!」

「ヴァン君早く行って!」


 またラビィさんから逃げる形になってしまった……でも婚約って……どうするんだろう……。


 僕は影に入り家の近くの森にテレポートした。


いつの間にか冒険者の数が増え、笑い声が飛び交っていた。

 その中に僕が求めていた光景があった。イグニスさんと父さんとリヴさんが仲良く話をしている光景。


 僕はやり遂げた……そう実感した瞬間だった。

 嬉し涙が溢れそうになったけど、グッと堪えてそこに入っていった。


「おぉ、ヴァンも戻ったか。今日はこの後二人ともオフか?泊まって行くか?」

「そうよ、たまには家に泊まっていきなさいよ。あなた達はうちの用心棒なんだから」


 母さんのネーミングだったのかな……。


「私は今後ずっとここに住もうと考えています。冒険者として他の街へ行く事もあるが、必ずここへ戻って来ます。父さんと母さんがいるこの家へ….」

「僕もそうします。ここが僕の家だから。僕の帰る家はここだから」

「何よ二人とも深刻な顔をして……当たり前の事を言わないの。あなた達の家はここなんだから。いつでも帰って来て。私たちはずっとここであなた達を待ってるから。ねぇエド」

「あぁ、お前たちの家はここだ。お前たちの部屋は貸さずに空けてある。いつでも戻ってこい」


僕とイグニスさんは涙を流してしまった。


「お前ら……何かあったのか?」

「僕たち、父さんと母さんが居るこの日常が嬉しすぎたんだよ。帰る場所がある。待ってくれている人が居ると思うだけで頑張れるよ」

「そうだな、ヴァン。これからもよろしく頼む」

「こちらこそ、兄さん」


父さんと母さんが不審な目で見ている。


「変な子達ね……」

「まるでこれから新生活が始まるみたいだな」



彼らの新しい世界はこれから始まる。

家族四人で過ごす世界。

失われた時間を取り戻すようにヴァンとイグニスは一瞬一瞬を噛み締めていた。


――end――


拙い文章に耐えて読んで下さった皆様、本当にありがとうございます。

読んで下さっている方がいるというのが更新の原動力となっております。


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下の☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂けますようよろしくお願い致します。

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