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22.待ち人来たる

「ねぇ、ヴァン君、私たちもう全員Aランクに到達してる。そろそろ具体的に考えていこうよ」

「もう少し待って下さい。もう少しなんです」

「もぅ、そればっかり。そろそろヴァン君が何を待ってるか教えてよ」


 マリーさんが頬を膨らませている。

 でも僕にはわかる。

 父さんはこの家に竜に関する知識を残した。

 過去へ戻る鏡を残した。

 母さんの遺品を残した。

 足りない物は後一つ。

 いつか来てくれるはずなんだ。


 その時リステンでクエストをこなしていたパーンさんたちが戻って来た。


「今日も傘下入りの要請があったよ。もう60名を超えた。湖のダンジョンもうちのクランで中層まで攻略が進んだそうだ」

「ヴァン、私たち、もう結構前から最強と言っていい状態だよ。そろそろお母さん助けに行こうよ」


 ラビィさんもそろそろ行けるという実感があるようだ。

 そこへ竜車が現れ家の前に停まった。


「来ました。僕が待っていた人が」


 ギョッとした顔でマリーさんが僕を見て竜車に目を移した。

 竜車から降りて来たのはスラリとした長身に長い金髪。そして背に長剣。

 すぐに僕を見つけてこちらへ歩いてくる。

 パーンさんが前に出た。


「どちら様ですか?」

「イグニス・ヒートシュタインという者だ。ヴァンと話がしたい」


 パーンさんが僕を見てイグニスさんを通した。


「ヴァン……愚かな兄ですまない……斬るなら斬ってくれ。私はお前に斬られにきた」


 イグニスさんが頭を深く下げ、そのまま微動だにしなくなった。


 ラビィさんがロッドを構えた!


「ラビィさん。違います。その人は僕の兄さんです。父さんの仇ではありません」

「ヴァン……本気で言ってるの……?」

「本気です。兄さん、家の中で話をしませんか?みんなも入ってきて下さい。兄さんを交えて今後の話をしたいと思います」


 僕たちは家の中に入った。

 あの時もこの場所でイグニスさんと父さんと僕で話し合った。あの日は決裂してしまったけど、今日は決裂させない。父さんから受けたバトンを必ずゴールへ届ける。


 僕は今際の鏡の存在をイグニスさんに説明した。

 そして今際の鏡と父さんが大切にしていたリヴさんの短剣をテーブルに置いた。


「母さんの短剣……」


イグニスさんは短剣に触れた。


「竜を討伐する為の力。知識。必要なアイテム。揃っています。揃っていなかったのは兄さん。それが今揃った。母さんと父さんを救出する計画を実行に移します。兄さん、良いですか?」




 私は圧倒された。恐ろしい弟だ……過去へ戻り母を救出する……そんな事が可能なのか……だがヴァンが……この弟がやれると言うなら……。

 私は母の短剣に触れながら答えた。


「この命、お前に預ける。共に竜を討とう」




 イグニスさんから一気に覇気が放出された。

 あの時感じたギラギラした熱がイグニスさんに戻ってきた。

 みんなも圧倒されている。さっきまでとは別人だ。


 間違いない……この人は僕より強い。


「兄さん、準備は必要ですか?」

「いい、このまま行ける」


「みんなはどう?」

「行ける」

「僕も行けるよ」

「行く!お母さんを助けに行く!」

「私も行けるよ!」

「私も!」


 竜討伐の策は練ってある。

 ブレスを防ぐ為の魔法障壁や再生防止のエンチャント、怪我人の救護など。


「兄さんはエンチャントが使えますか?竜は再生能力があるので火炎属性を付与して攻撃してください」

「あぁ、任せてくれ」


「では行きましょう」


 僕たちは外に出た。

 今際の鏡を椅子に置き、リヴさんの短剣を映した。

 すると鏡の中に竜と戦闘するリヴさんの姿が映し出された。

 今まさに竜のブレスがリヴさんに迫る!


「母さん!」


 イグニスさんが叫んだ瞬間、僕たちは鏡に吸い込まれた。

 一瞬の暗転の後、僕たちはリヴさんの前に転送された。

 竜がこちらに向けて口を開け、喉の奥からマグマのようなブレスが湧き上がってきていた。

 これが母さんの最後の記憶……。


 次の瞬間竜がブレスを吐き出した!

 猛烈な勢いで周囲の木立を焼き、この世の終わりとも思えるブレスがこちらに迫ってくる!


「リヴ!!」

「エド!!」


 父さん達がお互いの名を呼び合った!

 僕は渾身の魔法障壁を展開した……ここが正念場だ!


「ぐぐぐっ……だが耐えられる……!」


 ラビィさんとリースさんも魔法障壁を展開し、三重の障壁となった。

 竜のブレスは強烈な破壊力を持っていたが、際どい所で僕達は持ち堪えた!

 僕は一瞬脱力してしまったがイグニスさんが飛び出した。

 烈火の如きエンチャントを纏った長剣が竜を襲う。


「ズガァァァン!!」


 イグニスさんの強烈な斬撃で竜は後ろへ尻もちをつく形で転がった。


「リヴさん、加勢します!共に竜を倒しましょう!!」


 驚いているリヴさんに僕はそう叫んだ。


「恩に着るわ!あいつは再生能力がある!火炎属性を乗せて攻撃して!エド!ここから反撃よ!」


 そう言ってリヴさんは竜に正対した。


「リースさんは負傷者の手当てを!ラビィさんは金核にありったけの魔力を込めて下さい!他のみんなは攻撃に!一気に畳みかけます!」


 パーンさんとマリーさんが左右に別れて木立の中に消えた。

 残った者たちは剣に炎を纏わせて一斉に斬りかかった!

 竜の鱗は恐ろしく頑丈で、生半可な攻撃ではダメージが通らない。

 でも僕らの攻撃はちゃんと通る!

 この一年の努力は無駄になっていない!


 僕たちは一気に畳みかけ、竜を追い込んだ。

 追い込まれた竜は再度ブレスの態勢にはいった!

 さっきのブレスより発動が早い!

 マグマを含まない熱ブレスだ!


「任せて!」


 後方からラビィさんとリースさんとリヴさんの声がして前方に魔法障壁が展開された!

 すでに救護とゴーレム生成を終えて竜の動向に合わせて動ける態勢を作ってくれていたようだ。

 三人三重の魔法障壁はしっかりとブレスを受け止め、再度僕らのターンだ!

 二体のゴーレムにもエンチャントを纏わせ、救護を受けた父さんのパーティメンバーも加わり更に大きな攻撃の波を竜に浴びせた!

 次第に竜が勢いを失いつつある時、左右からパーンさんとマリーさんが飛び出して両眼に剣を突き立てた!


 竜は堪らず咆哮をあげ、限界とばかりにこうべを垂れた。


「エドワードさん、とどめを!」


 僕は鋭く叫び、父さんは高く跳躍し竜の首を斬り落とした!

 斬り落とした首から僅かにブレスが漏れ、やがて動かなくなった。


 みんなが竜の首に視線を向ける中、父さんが震える声で勝鬨を上げた!


「俺たちの勝ちだ!我々は竜を討伐した!」


 みんなも同様に歓喜の声を上げた!


 次の瞬間視界が暗転し、僕たちは鏡の前にもどされた。

 鏡は割れており、もう何も映していない。


「私たちは……やり遂げたのか……?」


 イグニスさんが声を漏らした。

 僕は父さんの墓を見た。


「イグニスさん……父さんの墓が無くなっています……僕たちはやり遂げたんです……」


 一気に涙が溢れてきた。

 イグニスさんが僕の肩を抱き、共に涙を流した。


 僕たちは共に健闘を讃えあい、涙を流してやり遂げた喜びを分かち合った。

 ゴーレムの金核だけは戻って来れなかったようだ。

 ゴーレムはアイテム扱いなのかもしれない。


 ふと後ろを振り返ると家がやたらと大きくなっている事に気付いた。入り口には看板が掲げてある。


「リヴとエドの腰かけ亭……?」


 ラビィさんが読み上げた。

 僕たちは世界線を超えてきた。

 父さんと母さんが生きている世界線へ。

 父さん達……ここで店を?


 ダブルネームだけどリヴさんの名前が先に来てる。


 家の中には人の気配はない。

 ただ、こちらへ向かって歩いてくる数人の気配はある。


 僕達は少し離れてその人影を見守った。

 どうやら冒険者のようで、四人パーティだ。


「よし、腰かけ亭に到着っと。明日から噂の高難度ダンジョン入り……俺たちもようやくここまで来たな!」

「そうだなー。リステンにAランクの冒険者が多いのはこの高難度ダンジョンのおかげだからな」

「しかもこの腰かけ亭では美味い飯が食える上に、三大魔女の一人に数えられるリヴ・スタリオンが魔力を込めた核をレンタルしてくれるっていうじゃねぇか。どんな強さなのか想像しただけで恐ろしいぜ」

「ここはお昼が済んだら一旦閉めて次開くのは夕方って聞いてるわ。それまではゆっくりしてようよ。いい感じにイスとテーブルが沢山置いてあるし」


 確かにイスとテーブルが沢山並べてある。

 どうやら父さん達は冒険者相手に宿を経営しているようだ。しかも核をレンタルとは考えたね。

 しかしリヴさんが三大魔女……そこまで凄腕の魔術師だったのか……。

 僕たちもその冒険者と一緒に店が開くのを待つ事にした。


「お前さん達もダンジョンか?ランクは?」

「僕らですか?」


 僕は冒険者証を確認した。

 ランクはAのままだ。

 いや、でもこれは身につけて世界線を一緒に超えてきている。書き変わったりしないだろう。

 僕たちはこの世界ではどういう扱いなんだろう?


「内緒だよ。ふふっ」


 上手い!リースさんが上手く誤魔化した。


「なんだよ、くそっ、可愛いじゃねぇか」

「私たちここの店主の身内なんだよ。今日は来るって言ってなかったから驚かれるかもしれないね」


 マリーさんが上手くフォローした。


「皆さんのランクは?」

「俺たちはBに上がりたてだ。ようやくこのダンジョンへの挑戦資格を得たって訳さ」

「Bランク!閃光の討伐者と同じですね」

「馬鹿言うな。閃光はAランクだ。リステンの街中でそんな事言ったら殺されるぞ」


 この世界線では閃光さんはAランクなんだ。


「自由の風って知ってる?」


 ラビィさんが聞いた。僕も聞きたいと思ってた事を聞いてくれた!


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