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19.今際の鏡

「えぇ、う、うん、いいけど……」


 僕はマリーさんの手を引きギルドを出た。

 すぐに路地の影に入りテレポートをした。


「うそ……ほんとにうちに来てる……」


 マリーさんちの裏庭に出た。

 マリーさんが家に入っていく。


「お父さんただいま!」

「おう!帰ったか!」


 ザックさんはマリーさんを抱きしめていた。


「ちょっとやめて!恥ずかしいから!」


 マリーさんが照れている。

 

「どうした、急に戻って。何かあったのか?」

「ザックさんに聞きたい事があります」

「なんだ、改まって。何でも言ってみろ」

「今際の鏡について知っている事を教えて下さい」


ザックさんが僕を見つめている。


「知ってどうする?」

「何か出来る事があるかも知れないので」


ザックさんは暫く考えてゆっくり話始めた。


「今際の鏡はその名の通り今際の際を映す鏡だ……故人の遺品を鏡に映す事によって、その遺品の持ち主の死の瞬間を映し出す」

「映し出してどうなるんですか?」

「映し出し、その現場へ入り込む事が出来るそうだ」

「過去へ戻れると言う事ですか?」

「そうだ、その現場へ入り込み、過去に干渉する事が出来ると聞いた。だが、その現場に自分がいる場合はそこへは行けない。同じ人間がその場に二人存在してはいけない。この世の理だそうだ」


 少しわかってきた。

 父さんはリヴさんを助けに行くために今際の鏡を探した……だけどその現場には自分がいる……助けに行く事が出来なかったんだ……。

 

 でも僕なら行ける。

 僕ならリヴさんを助けられる。

 そこへ行き、竜を討伐してしまえば……。


「おかしな気を起こすんじゃねぇぞ。竜は討伐出来ない。それはエドワードが身をもって証明している……生半可な力じゃ返り討ちにあうだけだ。過去は過去。お前達は前を向いて生きていけ」


僕とマリーさんは黙ってしまった。


「それともう一つ。今際の鏡で過去に行けるのは生涯で一度きりだと言われている。必ず解決出来る目算が無ければ決して手を出してはならない。過去をより悪い形に変えてしまったという悲劇を俺は聞いた事がある」


 確かにそうだ……リヴさんを助けられず、父さんまで死んでしまう過去に変わってしまったら僕はどうなるんだろう……。


竜に確実に勝たなければいけない。

チャンスは生涯に一度……しかも相手は竜……さすがに青の団には頼めない……。


「ヴァン君、私にはわかるよ。今ヴァン君が何を考えているか」


僕は黙って下を向いた。


「パーンの言った通り。パーンは良く見抜いてた。ヴァン君、全部一人で抱え込もうとしてるでしょ?ダメだよ。仲間を頼ってくれないと。ヴァン君のお父さんが相談してくれなかったように、ヴァン君も私達に相談してくれないの?」


違う……僕は……


「ヴァン、よく考えろ。エドワードは強者だった。冒険者ランクはAだ。当時のエドワードはお前の知っているエドワードより若く、力もある。そして両腕もある。お前の母親も魔術全般に精通する優秀な魔術師だったんだろ?その二人が行ってダメだったんだ。更に二度目の討伐戦はスーラ最高戦力で挑んだとお前から聞いたぞ。スーラは冒険者の街だ。層が厚い。その街の最高戦力で挑んで勝てなかった相手だ。せめてお前ら全員がAランクまで上がらないと話にならんだろう。それともお前はもうエドワードを超えていると豪語するつもりか?お前がいけば全て解決出来ると言うつもりか?今のお前では無理だ。自分でもわかっているはずだ」


その通りだ……まだ僕は当時の父さんに勝てる所まで来ていない……。


「マリー、よく見ておいてやれよ。危なっかしい事を考えてるぞ」

「わかってる。ちゃんと見てるから」


 みんなの命と生涯に一度の過去に戻れる機会を僕の事で使わせる事になる。

 正直な所すごく気が引ける。

 でも自分の力だけでは難しい事も分かっている。

 僕は一昨日ザックさんに話した事をマリーさんにも伝えた。

 自分しか知らないダンジョンの存在。

 そしてそこに入って皆で修行をしたいと言う事。

 その事を家に呼んでから青の団に話そうと思っていた事を。


「うん、私もいいと思う。そのダンジョンの事はヴァン君がよく分かってるんでしょ?なら初めての事をやる訳じゃない。私達も経験者に同行してもらえる事になる。私は賛成」


 その後僕は今日聞いた話でその目標が「強くなる」から「竜を討伐出来る所まで強くなる」に変わった事を付け足した。

 ザックさんは何も言わない。僕を暫く見た後マリーさんに視線を移した。


「竜を討伐したいとは思う。でもみんながAランクまで到達できる訳じゃない。それは修行してみないと分からない事だから、取り組んでみて判断したらいいと思う。努力は無駄にならないよ」

「お前達が納得して取り組むなら俺は何も言わない。だが今はダメだ。それだけは言っておく」


 マリーさんが考えを述べザックさんが付け足した。


「青の団の討伐戦もいよいよ明日。私達もしっかりクエストをやっておこうよ」

「そうですね。少しでもランクの高いクエストが受けられるようになっておかないと」


「さぁ、話はまとまったな。飯を食ってけ。今日はワーボアの肉があるんだ」


「ザックさん、地竜の尻尾があるんでいくつか置いていきますよ。僕たち昨日食べたのでザックさんにも食べてもらいたいんです」

「お前達……もう地竜なんか相手にしてるのか?」

「昨日はたまたまだよ。でもヴァン君が石投げただけで退治しちゃったけどね」

「石で……そうだ。ヴァンは予想を超えてくる奴だったな」

「そうだよ!ヴァン君は予想を超えてくるの!お父さん、私の苦労わかってくれる?」

「あぁ、わかる。一昨日ギルドでお前らがリザリアに着いたと聞いて一安心していたら、その日の晩うちのドアを叩きやがった。化けて出たかと思ったぜ」

「本当だよ。テレポートが使えるなんて知れたらギルドが離してくれなくなるよ。ギルドの情報はテレポートを使える魔術師が全国を飛び回って伝えてるんだから。ギルドはテレポートが使える魔術師を常に探してるんだよ。報酬も凄いらしいから一生困らないよ」

「だからラビィさんが結婚しようなんて言い出したんですね……」

「ラビィはそれだけじゃなさそうだけど」


 ザックさんがため息をつきながら台所へ入っていった。


「今日の兵長さん……ぶっ殺してやるって言ってたけど……今後何かしてこないか心配だね……」

「リザリアの兵士さんだからそんなおかしな事は出来ないんじゃないかと思います」

「そうかな……そうだといいけど……」


 その後ザックさんが食事を出してくれて三人で食べた。


「そろそろ戻ります。ごちそうさまでした!」

「また近い内に戻るから。おやすみ!」

「あぁ、気を付けてな!」


僕たちはテレポートで僕の部屋へ戻った。


「ここなら誰にも見られないと思ったので」

「うん、ここなら大丈夫だね」


青の団が戻ってるか食堂へ行ってみる事にした。

ドアを出た所でバッタリとラビィさんに会った。


「なっ、二人でヴァンの部屋で何してたの?!」

「な、なんでもないよ。今テレポートで実家に帰ってたんだよ。そこから戻るのに誰にも見られないこの部屋に戻ったの」

「マリーさんのお父さんのザックさんに相談があって行ってきたんです」

「ふーん……そうなんだ……」


ラビィさんがジト目で見てきた。


「おうちデートしてたんだ……」

「違うって!お父さんと話してご飯食べてきたんだよ!」

「じゃヴァン、今から私の家に行こうよ!マリーの家に行くなら私の家に来ても良いよね!お父さんに紹介してあげる!」

「ダメだよ!ラビィんちはリステンの領主じゃない。そんなとこ気軽に行ける訳ないでしょ!」

「私は三女だから全然問題ないよ。さぁ、行こ!」


今サラッと爆弾発言があったような。

騒ぎを聞きつけてリースさんが部屋から出てきた。


「ちょっと、周りのお客さんに迷惑だよ。食堂へ行って話しなよ」

「リース、今からヴァンと家に帰ってくる!」

「ラビィ……明日は討伐戦だから早く寝ろってパーンに言われてるでしょ……それにもう家を訪ねる時間じゃないよ。また今度にしなよ」

「ズルい!マリーばっかりズルい!!」


ラビィさんが僕の腕にしがみついて来た!


「あっ、ダメ!ラビィダメ!」


マリーさんがラビィさんを離そうとしていたけど、思いの外強くしがみついている……。


「ラビィさん……食堂で飲み物でもどうですか?今から食堂へ行こうと思ってた所なんです」

「行く!今日は飲む!」

「お酒はダメですよ!」


ラビィさんが解放してくれたのは食堂が閉まる時間になってからだった……。


「ラビィさん……もう食堂を閉めるそうですよ。そろそろ寝たほうが良くないですか?」

「ラビィ、明日の討伐戦が長引くとそれだけヴァンの家に行くのが遅れるよ。良いの?万全で臨んで一気に片付けちゃおうよ」


リースさんの説得でようやくラビィさんが解放してくれた。


「ヴァン君の家に行ったら一回家に来てね。お父さんに紹介したいから」

「でも領主さんなんですよね……スタリオンの名前に反応しないでしょうか……?」

「大丈夫だよ。それにお父さんに認めて貰わないとお付き合い出来ないし……」


ちょっと……この人ジュースで酔ってるのかな……。


「さぁ、ラビィいくよ。ヴァン君マリーおやすみ」


リースさんがラビィさんを連れて行ってくれてようやく僕たちも部屋に戻れた。

今日も色々あった……いつも最後にラビィさんと一悶着ある気がする……。


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