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18.金核のゴーレム

この依頼はどちらもリザリア領主から街周辺の危険排除という名目で出ているクエストなので、警備兵とのやりとりになる。

 しかも二枚のクエスト両方とも同じ駐屯地が記載されている。

 僕たちは記載されたリザリア郊外の駐屯地へ到着した。


 入り口に立っている兵士の方に話しかけた。


「こんにちは。オーガの巣一掃のクエストを受けてきたんですが」

「待っていたよ。兵長を呼んでくる。そこの詰め所で待ってもらえるか?」


 兵士さんは他の兵士さんに兵長さんを呼びに行かせて再度入り口に立った。

 僕たちは指示された部屋に入り兵長さんを待った。


「兵士さんがやればいいじゃんって思ったりもするけど、余剰人員がないんだろうね」

「そうですね。自前の兵士でやって怪我をしたら困るけど、冒険者なら怪我をしたとしても自己責任ですしね」


 そう話していると兵長さんらしき人が入って来た。


「君達が依頼を受けてくれる冒険者か……冒険者だけは見た目で判断出来ないと知ってはいるが……大丈夫かい?」

「はい、何も問題ありません。今回このクエストとこのクエストを同時に受けてきたんですが、両方こちらで良かったでしょうか?」


 僕は二枚のクエスト票を机に並べた。


「確かに、両方こちらで大丈夫だ。二箇所の巣を君達が一掃するのか……にわかには信じられないが、疑っても仕方がない。これから現地へ案内する。私は少し離れた所から進捗を確認させて貰うが構わないね?」

「はい、問題ありません」

「後、こちらからお願いがある。出来る事なら火炎魔法の使用は控えて欲しい。オーガに占拠されているのが元々村があった場所でね。そこを故郷と考える者もいる。焼け野原になるのは忍びないんだ」

「わかりました。では家屋などにダメージのない方法でやらせて頂きます」

「危険が迫ったら遠慮なく使ってくれ。努力目標として考えてもらえたらと思う」

「わかりました。では現地へお願いします」


 僕たちは兵長に先導されて徒歩で30分ほど離れた場所へやってきた。


「この街道をもう少し進むと廃村がある。そこに巣食うオーガの一掃を頼む。私はあの丘の上から見させてもらう。では、気をつけてかかってくれ」


 そう言って兵長さんは丘の方向へ歩いていった。


「火炎魔法で一発で燃やしちゃおうと思ってたんですがアテが外れてしまいました」

「えぇ!じゃどうするの?」

「せっかくだからマリーさんの力を借りようかと思います」


 僕はバッグからゴーレムの金核を取り出した。


「これを隠密状態で村の中心付近に置いてきて貰えますか?」

「ゴーレムの金核……実物見たの初めてだよ」

「今魔力を込めます。魔力を込めて数分でゴーレム化するのでその間に置いて戻ってきて下さい。出来ますか?」

「私隠密には自信があるの。オーガ相手ならまず大丈夫だよ」

「じゃいきます……」


 僕はかなり強い目に魔力を込めた。

 これだけ込めればオーガ程度なら瞬殺出来るゴーレムが生成出来るはずだ。


「さぁマリーさん、出番です。お願いしますね」


 マリーさんに核を手渡した。


「見てて。もしものことがあったら助けてね」

「はい、ここから投石の準備をしておきますよ」

「心強すぎる!じゃ行ってくる」


 マリーさんは音もなく駆けていった。

 確かにマリーさんの隠密は目を見張るものがある。

 アサシン系の職業を目指した方がいいんじゃないかな。


 影から影へ素早く移動して良い位置に配置した。

 あそこでゴーレム化したなら村の全てのオーガから察知されるだろう。

 後は逃亡するオーガがいたら投石で仕留めるだけだ。


 そうしているとマリーさんが戻ってきた。


「どう?上手くいったでしょ?」

「マリーさんの隠密はすごいですね!この間のオークの時にも感じたけど、アサシン系の職業を目指した方がいいんじゃないでしょうか?」

「そうかな?そんな褒められると照れるよ……」

「さぁ、ゴーレム化しますよ。高みの見物といきましょう!」


 次の瞬間魔力が解放されて核が膨れ上がった。

 一気に人型のゴーレムに変形し、その目にオーガの姿を捉えた。

 一気に間合いを詰め腕を一振り。オーガは二つに分かれて息絶えた。


「すごい……あれが金核のゴーレム……」


 マリーさんがゴーレムに見惚れている。


 その後オーガが次々と飛びかかるが全て一撃で仕留めていった。

 オーガは基本猪突猛進で逃げる事をしない。

 中には逃げを選ぶ個体がいるかも知れないと思ったけど投石の手間もなく全て討伐された。


「つよ……エグい強さだね……」

「マリーさん、一個どうぞ」


 僕は金核をマリーさんに手渡した。


「えぇ!だめだよ。貰えない。こんなのいくらするか想像もつかないよ」

「見て下さい」


 そう言って僕はバッグから金核をゴロゴロ取り出した。


「一個マリーさんに渡しても僕には何のダメージも無いんで、一個持っておいて下さい。万が一の時にそれがマリーさんを守ってくれるかもしれない」

「ヴァン君……ありがとう……いざと言う時まで預かっとくね」


 その後ゴーレムに近づき、込めた魔力を回収して核に戻した。


 核を回収していると兵長さんが近づいてきた。


 「驚いたよ……まさかゴーレムを使うとはね。しかも何だいあの強さ?ちょっと核を見せてもらって良いだろうか?」


 そう言われたので僕は金の核を見せた。


「信じられない……金核じゃないか……どこで手に入れたんだい?」

「父さんから貰ったんです」


正確には家の物置から持ってきたんだけど。

父さんから貰ったようなもんだよね。


「なんとも太っ腹なお父さんだな……羨ましいよ。俺にもそんな親父がいてくれたら……」


父さんが褒められた!

僕はすごく嬉しかった。


「よし、この分じゃ次も容易い掃討になりそうだな。次の場所へ案内してもいいかい?」

「はい、お願いします」


 僕たちは次の場所も同様に一瞬で片付けた。


「間違いなく一掃が確認出来た。両方署名をしておいたよ。しかしすごい。金核のゴーレムがここまで強いとは思わなかった。べらぼうな値段で売られているのも納得だよ」


 僕はクエスト票を受け取ってお別れの挨拶をしようとした。


「君達の名前を聞いても良いかい?」

「はい、ヴァン・スタリオンとマリー・ローハイムです。自由の風というパーティを組んでいます」

「スタリオン…君はスタリオンというのか…?あのエドワード・スタリオンの親族か?」


 兵長さんの顔色が一気に険しくなった。


「エドワード・スタリオンは父です」

「なるほど、それで合点がいった。君に金核を渡したのはあのエドワード・スタリオンって訳か。いかにもクズのやりそうな事だ。自分の手を汚さずにゴーレムにやらせる。それがお前の父親の教えか?」


 マリーさんが前に出た。


「どういう意味ですか?ヴァン君のお父さんは立派な人です。悪く言うのはやめてもらえますか?」


 兵長はまくしたてるように言った。


「俺の弟はエドワード・スタリオンに殺された。パーティ全員が死んでもあいつだけのうのうと帰って来やがった……俺の弟はゴーレムじゃねぇぞ!」


 そう言って兵長さんは僕の胸ぐらを掴んできた。


「離してもらえますか?」


 僕は兵長を睨みつけた。

 腕を掴み胸ぐらから引き剥がした。


「うぐっ、てめぇ……」


 兵長は腕を抑えてうずくまった。

 少し力が入ってしまったようだ。

 

「父は仲間殺しなんかじゃありませんので。失礼します」


「自由の風……覚えたぞ!いつかぶっ殺してやる!」


 腕を抑えながら兵長が叫んでいたが僕たちは振り返らずその場を去った。



 覚悟はしているつもりだった。

 でも案外誰も父さんを悪く言う人が居なかったので、油断があったのかも知れない。

 いざ悪意を向けられると大きなショックを受けてしまった。


「ごめんなさい、マリーさん。嫌な思いをさせてしまって……」

「全然いいよ。ヴァン君のお父さんが立派な人だって知ってるから。全然いいよ」


 リザリアに戻りながら僕は考えた。

 兵長のような人の気持を変えることなんて出来そうもない……。

 殺されたと考えている人の意識を変えるにはどうすれば良いんだろう……。



 リザリアの入り口で冒険者証を提示してギルドに向かった。

マリーさんは何か考え事をしているようだ。全然喋らない。

 ギルドに到着して達成報告を終え、少し食堂で休憩する事にした。


 「ヴァン君……私考えたんだけど……あの兵長みたいな人の気持ちを変える事なんて出来るのかなって」

「僕も難しいと思います……」

「知ってる?この世には死者を蘇生する魔法は存在しないの」

「知ってます。それがどうかしましたか?」

「けどね。この世には死者を生者に変える可能性を秘めた魔道具があるの。知ってる?」

「知りません。そんなのがあればみんな生き返らせてるでしょ?誰も死にませんよ」

「まじめに聞いて。うちのお父さんは昔情報屋もやっていたの。だから物知りなんだ。よく言ってたよ。死者を蘇生する魔法はないけど、死んだ事実を変える方法はあるって」

「……ザックさんがそんな事を……?」


今際(いまわ)の鏡って言ったかな?確かそんな名前だったと思う」


 僕は急に思い当たった!


今際(いまわ)の鏡……昔父さんが探してた魔道具です!」


 僕はマジックバッグに手を入れた。

 うん、持ち物の中に今際(いまわ)の鏡がある。


「ヴァン君のお父さんも探してたの?お父さん……もしかしたら……」

「今確認しましたが、所持品の中に今際の鏡があります。でもこれを見つけた時、父さんは歓喜した表情ではありませんでした。探していた事は知っていたのでもっと喜ぶと思ったんですが、あまり喜んでいなかったので良く覚えています。きっとこれだけでは足りないんだと思います。他にも何か……」

「確かに……実際使用されていないんだから、それだけだと使えなかったんだろうね」


僕は当時の父さんを思い出してみたが、他に探していた物はなかったと思う。考えても答えは出て来ないだろう。


「マリーさん、今からザックさんに会いに行きませんか?」

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