17.ギルドマスター
翌朝マリーさんがドアをノックして来た。
僕もちょうど出ようと思っていた所だったので一緒に食堂へ移動した。
「今日も食べるぞー!」
マリーさんがすごく張り切って皿にもりもり盛り上げている。
僕もちょうどいい塩梅に皿に盛り付けテーブルについた。
「今日は先にギデオンさんの所に行ってみる?あの剣もう出来てるんじゃない?」
「そうですね、一日で仕上げてくれるって言ってくれていましたね。でもお金足りるかな……」
「どうかな……柄と鞘だけだし、そんなにかからないんじゃないの?もし足りなかったらツケて貰ったら?ギデオンさんヴァン君の頼みだったら断らないと思うよ」
「僕少し売れる物を持ってるんです。ギデオンさんのとこへ行く前にそれを売りに行きたいと思います」
「何を持ってるの?」
「ゴーレムの核です。家の物置にあったんです」
「本当に……ちょっと見せて」
僕は核を一つ取り出してマリーさんに渡した。
「ゴーレムの核……学校で一度見たからわかる。これは赤だね。」
「色で買い取り価格が変わりますか?」
「そうだよ。もしかして他にも持ってるの?」
「……ありますね。隠してた訳じゃないですよ。こんなのに価値があるって知らなかったから家を出る時は物置に置いたままだったんです。でも一昨日戻って物置にある物全部持ってきたんです。価値のある物が混ざってるかも知れないので」
「とりあえずゴーレムの核は赤、青、銀、金と価値が上がるはずだよ。赤でも店頭価格で金貨100枚ぐらいしてたはず。売る時もゴーレムの核は球数が少ないから買い叩かれる事は絶対無いよ」
「とりあえず赤を一個売ろうと思います。こう言うのってどこで売れば良いんでしょう?」
「ゴーレムの核だったら魔道具屋かなぁ。場所を聞いて行ってみようか」
僕たちはひとしきりご飯を食べて、宿の人に魔道具屋の場所を教えてもらった。
行ってみるとギデオンさんのお店の3件隣だった。
お店に入りカウンターに立つおじいさんに声をかけた。
「すみません、買い取ってもらいたい物があるんですか……」
「構わないよ。ここに出してみなさい」
言われるままに僕は赤い核をカウンターに置いた。
「ゴーレムの赤核……お前さんついとるよ。最近持ち込みがなかったんで価値があがっとる。今買取で金貨150じゃ」
「売ります!よろしくお願いします!」
僕たちはホクホク顔で店を出た。
「金貨150だって!すごいじゃん!いくつ持ってるの?」
「数えてないのでわかりませんよ。物置にゴロゴロしてたのを全部バッグに放り込んできたので」
「ヴァン君怖いよ……よくそんなの平気な顔して持ち歩けるね……」
「二人だけの秘密ですよ」
「わかった、内緒にしとくよ」
その後ギデオンさんのお店に入った。
「おはようございます。ギデオンさんいますか?」
「あぁ、ちょっと待ってね。呼んでくるから」
しばらくするとピカピカの剣を持ってギデオンさんが出てきた。
「おはようございます、ヴァン君。昨日は大活躍だったようですね。ギルドで話題になっていましたよ」
「えっと……僕何かしたかな……」
「決まってるよ!地竜をFランクが討伐したんだもの!そりゃ話題になるよ」
マリーさんからツッコミが入った。
なるほど、そういうことか……。
「これがヴァン君の剣です。ハイドラの剣に釣り合う柄と鞘をあつらえておきました」
そう言ってギデオンさんはピカピカの剣をカウンターに置いた。
「これが僕の剣……」
「柄にもミスリルが使用されており、より刀身へ魔力を通しやすくなっています。また鞘にもミスリルが使用されています。鞘にミスリルを使用すると、刀身を収めている間に自己修復が働く事が知られていますので、このクラスの剣にはミスリルの鞘は必須でございます」
うわっちゃーー、ミスリルのオンパレード……。めちゃくちゃ高いんじゃない?
「お、おいくらですか……?」
「このお話は私からの提案ですので、料金は発生致しませんよ」
「いや、そんな訳には……」
「ただし!ヴァン君には誰にも負けぬ冒険者になって頂きます。エドワードの汚名をそそぐ……その為の投資でございます」
ギデオンさんはニッコリ笑った。
「頑張ります。見てて下さい」
「昨日ギルドでヴァン君の噂を聞いて確信しています。この投資は決して無駄にならないと。地竜を一度に十七匹討伐されたとか。今日ギルドへ行けばギルドマスターから話があるでしょう。ランクアップするはずです。早速の活躍に私も心が躍っておりますよ」
「そうだと思うよ。あんなクエストおかしいもん。完全にCランク相当だったよ」
早速ランクアップするかも知れない。
そうだ、僕はランクを上げて行かないといけない!
「ありがとうございます。大事に使います。ではギルドへ行ってきます!」
剣をマジックバッグに仕舞い、僕たちはギルドへ向かった。
ギルドの前で青の団が待っていた。
「ヴァン、大変な事になっている。君が来たらギルドマスターの所へ連れてくるよう言われているんだ」
「ヴァン……何かしたの?ここのギルドマスターめちゃ怖いから気を付けてね……」
ラビィさんが珍しくしおらしい……。
僕たちはパーンさんを先頭にギルドマスターの執務室へ向かった。
「僕たちはこの後ミーティングがあるからここで失礼するよ。頑張って」
「頑張って!」
「失礼のないようにね!」
「死なないでね!」
青の団から声援をもらった……何故だろう……。
僕はマリーさんと顔を見合わせたけど、マリーさんもわからないと言った表情だ。
こうしてても仕方ないので僕は執務室の扉をノックした。
「ヴァン・スタリオンと言います」
「入って」
中から女性の声がした。
僕はドアを開けて入ろうとして気が付いた。
マリーさんに少し待つよう手で指示を送り、僕は中に入った。
瞬間横から首元へ手が伸びてきた。
僕はその手を嫌って上へ払いのけ、相手の懐へ潜り込んだ。
膝が飛んできたのでその膝を掴みくるりと体を入れ替えた。
相手はバランスを崩して前へ転びそうになったが、僕が背後から両肩を掴み転ぶのを制止した。
完全に背後を押さえている。
「凄いわね、その体捌き……あのギデオンが肩入れするのもわかるわ」
僕は手を離した。
「ギデオンさんとお知り合いなんですか?」
「彼はリザリア一番の武器商人。売る相手を選ぶの。よくギルドに顔を出して有望な冒険者を見ているのよ。うちの職員より良く見ているわ」
女性は着衣の乱れを整えてデスクに着席した。
よく見ると恐ろしい程美人さんだ。
耳が尖っているのでエルフだろうか……。
エルフに会ったのはこれが初めてだ。
「そのギデオンがあなたの事を聞いてきた。それがちょうど昨日あの塩漬けクエストを処理して話題になっていたFランクの名前だった。私が直接確認する必要があったの。呼び出してごめんなさいね」
その時マリーさんが恐る恐る入ってきた。
「貴方達二人で自由の風ね。私はギルドマスターのオリビア・ファーレンよ。あなた達をFからDへランクアップさせるわ。昨日のクエストはそれに値する活躍だった。冒険者なんかにこれっぽっちも興味がないバーンズさんが大騒ぎしていたわ。自由の風はすごい。ギルドの怠慢はあの二人をよこした事で帳消しにしてやるってね」
おじいさん、僕の仕事に満足してくれたみたいだな。
「Eを飛び越えてDですか?そんな事ってあるんですか?」
マリーさんが聞いた。
「よくある訳じゃないけど、それ程珍しくもない。ギルドとしては実力のある冒険者をFランクに縛り付けるなんて愚かな事をしたくない。一気に適正なランクまで上げてしまいたいけど、適正なランクを見定める為にDで留めたの。あなた達、まだクエスト二個しかやってないでしょ。もう少し様子を見て適正なランクへ上げるわ」
「なるほど。わかりました。今日からDランクを受けて良いって事ですね」
「その前に冒険者証を更新しておいてね。受付で言えばすぐ出来るわ」
「わかりました。もう行っても大丈夫でしょうか?」
「えぇ、こちらが確認したかった事は確認出来た。あなた達から質問がなければ行ってもらって結構よ」
僕たちは退室の挨拶をして受付までやってきた。
昨日の受付嬢の列が長く伸びていた。
人気があるのかな。僕たちは一番短い列に並んだ。
「一気に二つランクアップだって!すごい事だよ!」
マリーさんが嬉しそうにしている。
マリーさんが嬉しそうだと僕も嬉しい。
「ねーちゃん、その話詳しく聞かせろや」
横から厳ついおっさんが声をかけてきた。
僕はマリーさんの前に出てこう言った。
「今さっき執務室でギルドマスターから直々に2ランクアップの話を頂きました。それだけです。気になるなら今からギルドマスターの所へ案内しますよ」
「いや、いい。ちょっと気になっただけだ。悪かったな」
おっさんはスーッと離れて行った。
きっとここの冒険者は多かれ少なかれあのギルドマスターの洗礼を受けているんだろう。
きっとパーンさん達も……。
僕たちの番が来たので冒険者証の更新をしてもらった。
数秒でネームタグのランクがFからDに書き変わった。
受付を離れてクエストを見る事にした。
今日は時間が遅いから掲示板のクエスト票が穴あき状に取り除かれている。
まともなクエストが残ってると良いけど。
「今日は一緒に見ますか?」
「そうだね。人も少ないしそうしようか」
僕たちは順番に見て行った。
Dランクになると流石に単純なゴブリン討伐はないみたいだ。
掃討系のクエストでゴブリンの名前が出てくるぐらい。
Dランクで一番見るのはオーガだった。
オーガは力が強く筋肉質。
オークとは質が全然違う。
肉が硬すぎて食べても美味しくない。
食べ物として見ると退治してもうまみのない魔獣だ。
ただ、遠距離攻撃がないから離れて処理すれば危険は全くないので、こんなので報酬が貰えてランクも上がるなら助かる。
みんな取りそうなもんだけど、オーガのクエストはずいぶん沢山残っている。
「オーガのクエストが多いですね」
「そうだね、オーガは単純に強いからみんなやりたがらないんだよ」
「なるほど……強いのか……」
その中で掃討クエストがあったので、それを僕は取ろうとした。
「ヴァン君、それやるの……私それだけはやりたくないと思ったけど……」
「これオーガの巣を掃討したら金貨20枚ですよ。手っ取り早いなと思ったんですが……このクエストの場所、近いみたいなんですぐ終わると思いますよ」
「そうだね。ヴァン君の事を疑わない事にしたんだった。どれぐらい時間かかりそう?」
「移動の時間だけで大丈夫だと思います。掃討は魔法一発で終わると思うので」
「……私も役割が欲しい。一緒にやれば報酬のいいクエスト二つ取れるから」
「そうですね!じゃもう一個も報酬の多い物を受けておきましょうか」
もう一つもオーガの巣を一掃する物だ。一個目と位置もそれ程離れていない。
二つのクエストを受付に持って行き、受諾手続きを踏み現地へむかった。
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