16.隠密スキル
「ヴァン君、とんでもないね……あれって魔法?」
「付与魔術です。エンチャントと言われる魔法ですね。石に爆破属性を付与して投げつけたんです。地竜は接近される前に処理すれば危険のない魔獣なんですよ」
「付与魔術……また難しい魔術を知ってるね……」
「エンチャントはマリーさんでも出来ますよ。また教えましょうか?」
「是非お願い!」
「じゃ次はオークにいきましょうか」
「オークは私が討伐してみる。ヴァン君は見ててね」
「わかりました。危なくなったら逃げて下さいね」
「うん、後ろにヴァン君がいてくれたら怖いものなしだよ!」
その後僕たちはクエスト票の裏に記載された場所に移動した。
製材所かな?50代ぐらいの気の良さそうなおじさんがノコで木を切っていたので今度はマリーさんが声をかけた。
「こんにちは。ギルドで依頼を受けて来たんですが」
「おぉ、昨日依頼したとこなのにもう来てくれたのか。早速案内するが……お嬢ちゃんが退治してくれるのかい?」
「はい、私が退治します」
「そうか。無理せんようにな」
そう言っておじさんは製材所の裏手の林に入っていった。
15分ぐらい歩いた所でおじさんが立ち止まった。
「おったおった、あのオークだ。最近どっかから移ってきたみたいなんだ。ワシらで力を合わせて退治しても良いんだが、怪我をしたら商売上がったりなんでね」
林の奥でオークが切り株にどっしり座っている。
まぁまぁデカいオークだ。離れて魔法でやるか、素早く近づいて首を落とすか……マリーさんのお手並み拝見と言った所だね!
「あのオーク……大きいね。でもオークは学校でも実技で討伐したからたぶん大丈夫だと思う。行ってくるね」
そう言ってマリーさんは剣を抜いて近づいた。
姿勢を低くして上手く近付いている。気付かれてない。
マリーさん、案外隠密スキルが高いみたいだ。
完全に背後を取った。一気に近づいて首に剣を突き立てた!
少し浅いか……いや、そのまま引き抜いて回転切りで首を切り落とした!
上手くオークに行動させずに首を落とす事が出来たようだ。
「お嬢ちゃんやるじゃないか。見事なもんだ!」
「久しぶりで緊張したけど上手くいってよかったよ」
「すみません、あそこで解体しちゃっても良いですか?僕たちも少し食べたいので一部頂いていきます。残りは皆さんで食べてください」
「あぁ、オークは美味いからな。遠慮なくいただくよ」
僕は素早く解体して肉を切り分けた。
その後マリーさんがクエスト票に依頼達成のサインを貰って製材所を後にした。
「二つともばっちり上手くいったね!ギルドの受付の顔が楽しみだわ」
マリーさんが少し悪い顔をしている……。
ギルドへ入ると朝コソコソ話していた人たちがこっちを見ていた。
何か喋っているみたいだけどどうでもいい。
僕たちは受付へ向かった。
マリーさんが朝の受付の人がいるカウンターへ並ぶよう促してきた。悪い顔してる……。
「すみません、クエスト達成の報告に来ました」
「はい、承り……ます。達成の報告ですか?」
僕はクエスト票を二つとも受付の女性に渡した。
「……討伐数……十七?地竜を十七匹確かに討伐されたんですか?」
受付の女性が目を白黒させている。
「はい、確かに地竜を十七匹討伐してきました」
「……バーンズさんの署名も確認出来ました。オークの討伐もクレイさんの署名で確認出来ました」
怪訝な顔で奥のカウンターへクエスト票を渡している。
トレイに入った達成報酬がこちらのカウンターへ置かれた。
「お待たせしました。こちらが達成報酬になります」
金貨十七枚と銀貨三枚だった。
「ここで素材の買い取りとか出来ますか?」
「出来ますよ。何を買い取らせて頂きましょうか?」
僕は地竜の卵を十個全部出した。
「……地竜の卵ですね。地竜の巣を掃討されたのでしょうか……。一個銀貨一枚で買い取らせて頂いております。全て買い取りでよろしかったでしょうか?」
僕は銀貨十枚、つまり金貨一枚を受け取り受付を離れた。
マリーさん……すごいドヤ顔……。
「マリーさん、ご飯食べにいきましょうか。それともオークでバーベキューでもやりますか?」
「地竜の尻尾も食べてみたいし、バーベキューやろうよ!」
僕たちは上機嫌でギルドから少し離れた場所にある広場に来た。
あちこちでバーベキューが行われている。
美味しい魔獣を討伐したらみんな食べたいよね!
僕たちは荷物から薪を出して火を起こした。
オークの肉をスライスしてステーキに、串に刺して串焼きにして食べた。
地竜の尻尾はプルプルした食感が堪らないので鍋に入れて煮込んだ。
さらに今日は果物のデザートまである!
「オークはやっぱり美味しいね。地竜の尻尾は初めて食べたけど、この食感が堪らないわー。いっぱいあるからしばらく鍋の具には困らないね!」
今日はやたら美味しい物を食べているな。美味しい魔獣のクエストを狙い撃ちするのも悪くないね!
僕たちはペロリと平らげて食器を片付けた。
「今日はマリーさんの剣が見れて良かったです。結構しっかりした振り方が出来てましたね。学校って剣も魔法も両方教えてくれるんですか?」
「そうだよ。私はどちらかが得意という訳じゃなく両方出来たの。レベルは違うかも知れないけど、ヴァン君と同じで魔法戦士だね」
「次から僕がマリーさんの剣にエンチャントしますよ。パーティなんだから協力し合わないといけませんよね!」
「そうだね。今日でヴァン君の強さがしっかりわかったから、明日からはヴァン君の言葉を疑わないよ。今日は疑ってごめんね」
「いえ、大丈夫ですよ。そうだ、今日の報酬を分けましょう。金貨十八枚と銀貨三枚なので、金貨九枚と銀貨一枚。銀貨一枚は割り切れないので大銅貨に潰して五枚づつ」
僕はマリーさんの分を手渡した。
「なんか申し訳ない気持ちでいっぱいなんだけど……でもパーティでは報酬は山分けしないとトラブルの元だもんね。ありがたく受け取っておきます!」
「明日も今日みたいに儲かるクエストあれば良いですね」
「いやいや、あんなのある訳ないよ。ランク設定がおかしかったから!」
その後僕たちは宿に向かった。
途中で青の団にあったので一緒に帰ったんだけど、マリーさんが興奮しながら僕の投石を身振り手振りで伝えていた。
「めちゃくちゃカッコ良かった!地竜がパッチンパッチン破裂するの!信じられなかったよ」
「マリーずるい!明日は私がヴァンとクエスト受ける!」
ラビィさんがまたおかしな事を言い出した。
「ラビィ、明日は討伐戦前日のミーティングがあるから無理だよ」
スタンさんがラビィさんに伝えていた。
「マリーが代わりに行けばいいじゃない。私はヴァンと行くの!」
「マリーは青の団じゃないんだから代わりに行く訳ないでしょ……」
リースさんが呆れて言った。
「ぐぬぬ……」
ラビィさんがぐぬぬって言ってる……。
「ヴァン達は今日クエストを受けたんだね。じゃ自由の風は正式に登録されたって事だね。明日俺の方で傘下入りを申請しておくよ」
「僕も一緒に行った方が良いですか?」
「いや、申請するだけだから大丈夫だ。今日みたいに二人で活動してくれて構わない」
「私もヴァンと行きたい!ねぇ、パーン、行っても良いでしょ?」
「ダメだ。ラビィは明日ミーティングに参加するんだ」
「ぐぬぬ……」
ラビィさん……またぐぬぬって言ってる。
「じゃあ今からヴァンとご飯食べに行くから!」
「すみません、もうご飯食べて来たんです」
ラビィさんが泣きそうな顔で下を向いた。
「ラビィ……あきらめなよ。討伐戦が終わったらヴァン君の家に行けるからそれまでの我慢だよ」
リースさんが諭すように言った。
「そうだ、皆さんも地竜の尻尾食べてみますか?沢山あるのでお裾分け出来ますよ」
「ありがとう、いくつか貰うよ。食べた事ないから楽しみだな」
パーンさんに地竜の尻尾をいくつか渡し、僕たちは各々の部屋へ戻った。
ラビィさんが僕の部屋に来ようとしたけどリースさんが引っ張って行ってくれた。
助かります!
しかし今日のクエストは最高だったなー。
明日もいいクエストが有りますように!
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