15.パッチン
「ヴァン!大変な事になったの!私のゴーレムちゃんが……」
二人は盾とワンドを出してきた。
「朝起きたらこうなってて……寝てる間に私のゴーレムちゃんが……」
「睡眠中に魔力が尽きてしまったみたいですね。見張りをさせないなら寝ている間は送る魔力を最小に絞っておかないと……という事を昨日教える事が出来てませんでしたね……昨日はそれどころじゃなかったから……」
マリーさんとリースさんがラビィさんを見た。
「何?私何かした?」
とぼけているのか覚えてないのか……。
マリーさんが自分のゴーレムは維持できてると自慢げだったけど、要求魔力が段違いなんです……マリーさん……。
僕は影に隠れて二人のゴーレムを生成して二人に説明した。
眠る時には一切何もしないよう指示する事。
立ってるのも魔力を使うので座らせる事。
そう説明して僕とマリーさんは宿を出た。
「やっと二人っきりだね」
「えっ……そうですね。ずっと青の団のみんなと一緒だったので6人パーティみたいなもんでしたね」
「ようやくこのマリーさんの剣を披露する時が来たね!長かったー」
「そうですね。マリーさんまだ一度も剣振ってないですね。期待してます!」
ギルドに到着して、掲示板の前の冒険者の数にちょっと驚いた。
「聞いてはいたけど朝のラッシュはすごいね。頑張って出来そうなクエスト探すよ!」
「はい、じゃ二手に別れて一個づつ取ってきましょうか!一日あれば近場のクエストなら二つぐらい行けると思うので」
「わかった!いいのが見つかるといいけど」
僕たちは別れてクエストを物色し始めた。
見ているとゴブリン討伐はすごく沢山出ている。
ランクはFだったりEだったり。討伐数で変わってきている雰囲気だ。
他にはFでも受けられるのはホーンラビットやスライム、コボルト……どれも微妙……。
そんな時目に入ったクエストが地竜討伐。
Fランクで受けられるみたいだ。
地竜といっても竜ではなくミミズの化け物だ。
何度も討伐しているのでよく知っている。
体当たりと噛みつきと尻尾攻撃ぐらいで攻撃パターンが少ないし、動きも遅いので危険のない魔獣だ。
全く問題ない。
しかも地竜一匹につき金貨一枚も貰えるって書いてある!
何?どういう事?他のFランクの依頼は良くても銀貨数枚なのに。
僕は他の人に取られないように急いでそのクエストの紙を取った。
こんな割のいいクエストが見つかるなんて!
何故かクエスト票がずいぶん汚れている気がするけど、そんな事どうでも良いよね!
いいクエストが取れたのでマリーさんを探してみた。
マリーさんも何かクエストを取ったみたいだ。
「良いのありましたか?」
「これなんだけど、どう思う?」
マリーさんが見せてきたのはオーク討伐だった。
オークはほとんど動かない全く危険のない魔獣なので何の問題もない。
僕が見ていた辺りの掲示板にはオークはなかったなぁ。
「オーク良いですね!今日はオークの焼肉にしましょうか!」
「良いね!オークの焼肉!お腹空かせとかないとね!」
「僕が取ってきたのはこれです。地竜退治するだけで金貨一枚ですよ!一匹あたり金貨一枚です。凄くないですか?」
僕はマリーさんにクエスト票を見せた。
マリーさんが難しい顔している。
「なんで地竜がランクFなの……?これ間違ってるよ。受付に言ってくる!」
「ちょっと待って下さい!間違いでも良いじゃないですか。こんな割のいいクエストが僕たちでも受けられるのはありがたい事なんで」
「ヴァン君……地竜だよ……?めちゃくちゃでっかいミミズのオバケだよ?知ってて言ってる?」
「知ってますよ。何も問題ありません。行きましょう!」
僕たちはクエスト票を持って受付に並んだ。
何故だろう。なんか周りから見られてる気がする。
「おい、あれ見ろ……あいつヤベェ。クックッ……地竜が何かわかってねぇんだろう。金貨に目がくらんじまったんじゃねぇか?」
「まさかあれを受けるFランクが現れるとはねぇ。もうひと月ぐれぇ貼ってあったやつだろ?」
「誰か教えてやれよ。あいつ死んじまうぜ」
「ほっとけほっとけ。馬鹿はああやって淘汰されていくんだよ」
なんか色々言われてるなぁ……。
マリーさんを見ると下を向いて黙っている。
なんか悪い事しちゃったかな……。
僕たちの番が来たので受付に二枚のクエスト票を出した。
「この二つ受けたいんですけど」
「はい、は……これ……お受けになるんですか……?」
「はい、受けます。同時に二つ受けちゃって大丈夫でしょうか?」
「はい、それは問題ありません。ですが……」
「これでお願いします。パーティ名は自由の風です」
「自由の風様……お名前をお伺いしても構いませんか?」
「はい、ヴァン・スタリオンとマリー……すみません、マリーさんの家名ってなんでした?」
「ローハイムだよ」
「すみません、ヴァン・スタリオンとマリー・ローハイムです。二人パーティです」
「……はい、登録させて頂きました。それでは……こちらの二つのクエストを受諾としておきます。裏に記載されている依頼主様から詳細はご確認下さい。それでは……お気をつけて……」
僕たちは挨拶をしてギルドを後にした。
まだクスクスと笑っている人がいたけど、気にしないでおこう。
「マリーさん、どっちから片付けましょうか?」
「ヴァン君……本当に地竜大丈夫……?」
マリーさんが不安そうだ。
「全然平気ですよ。じゃ先に地竜を片付けましょうか」
そう言って僕はクエスト票の裏に記載されている住所へ向かった。
「ここみたいですね」
「うん……そうだね。結構広い……果樹園みたいだね。あそこに家がある。あそこじゃないかな?」
僕たちは家の前まで来た。家の横に広いスペースがあり、そこでお爺さんが収獲された果物を選別している所だった。
「おはようございます。クエストを受けて来たんですが、依頼主さんでしょうか?」
「やっと来たか……もう依頼をかけてからひと月経っとる。大層な冒険者を呼んだ訳じゃない。駆け出しで良いと言ったのにひと月も誰もよこさんとは……舐められたもんじゃ……ギルドには毎月沢山納品してやっとるのに……まったく……」
「すみません、今日初めてこのクエストを見つけたので……もっと早く来られたら良かったんですが……」
「お前を責めとる訳じゃない。ギルドのやり方が気に食わんのだ。無理なら無理と言えば良いじゃろう。それをひと月も放ったらかしおって……。わしが殺されていたらどうするつもりじゃ。危険な目に遭わんように従業員は全部休ませとるが休業中も賃金は発生するんじゃ。まったく……」
「ギルドがご迷惑をお掛けしたみたいで申し訳ありませんでした。早速退治してきます。どの辺りで見られましたか?」
「あっちの方じゃ。地竜を見てから向こうへは一回も行っとらんから果樹がやられてしまっとるかも知れん」
おじいさんが指さした方に確かに地竜の気配がある。
地竜ばかり15体いるようだ。
巣ができて繁殖しているのかも知れない。
気配探知によるとそれ以外の方向にもいそうだ。
「おじいさん、あっちと向こうにも地竜が居そうです。すぐ退治して来ますが、声をかけるまで行かないようにして下さいね」
「あぁ、わかった。すまんが頼む」
おじいさんに別れを告げてマリーさんと巣がありそうな方へ向かった。
「ヴァン君、危なくなったら絶対逃げてね。私は戦力にならないよ」
「大丈夫です。任せておいて下さい。ほら見えて来ましたよ。この辺りは安全なのでここで見てて下さい」
ヴァン君はそう言って一人で地竜に近づいていった。
大丈夫なの……地竜は普通Cランクの依頼だと思うんだけど……。
あのおじいさんは地竜の討伐ランクを良くわかってなかったんだろうな。
ギルドも沢山ここから買ってるから断れなかったんだと思う。
結果的に塩漬けクエストとしてひと月も貼り出されてたって事だろうな。
あっ、ヴァン君が石を拾った……石が光った……えっ!嘘でしょ!
ヴァン君が投げた石で地竜が破裂しちゃった……一発……?
あっ、どんどん投げてる……パッチンパッチン地竜が破裂してる……ちょっと……何あの技……。
私は少しづつ進むヴァン君の後を追いかけた。
頭部が破裂した地竜が何匹も横たわってる……信じられない……。
パッチンパッチン破裂させながら進んでいき、やがてヴァン君は言った。
「マリーさん、終わりました。もうこの果樹園に地竜はいません」
マリーさんが大量の汗をかいてる……。
エンチャントを初めて見たのかな?
「マリーさん、地竜は尻尾が美味しいんですよ。取って帰りましょう。あと卵もあるのでまた繁殖しないように回収していきましょう」
「えっ……そ、そう?じゃ取って帰ろうか……」
僕たちは全部の地竜から尻尾を切り落とした。
あと、巣になってる窪みから卵を十個確保した。
「大漁ですね。地竜の卵は売れますかね?」
「うん、売れるはず。黄色くなってたら孵化が近いから売れないけど、白いのは素材として需要があると学校では習ったよ」
「全部白いから帰りに売りに行きましょう」
僕たちはおじいさんに完了の報告をして、退治した地竜の数を一緒にカウントしてもらった。
「十七匹……こんなにおったのか……」
「巣になっていた周辺は果樹が結構やられてしまっていました。もう少し早く来れてれば良かったんですが……」
「お前さんのせいじゃない。地竜がこれだけおったんじゃ。果樹が無事な訳ないわい。果樹なんぞまた育てたらええ。これだけの地竜相手にお前さんが無事で良かったわい」
おじいさんは地竜を見ながらしみじみ言った。
「さすがにこないにおると思わんかった……しかしお前さん……ようこれだけ退治出来たのう。名は何という?」
おじいさんはクエスト票に討伐数と達成のサインをしながら問いかけて来た。
「ヴァン・スタリオンです。こちらはマリー・ローハイム。自由の風というパーティで活動しています」
「自由の風か。覚えておく。今日はご苦労じゃった……そうじゃ、これを持っていけ」
そう言って背負子のカゴ一杯の果物を貰ってしまった。
「こんなに……良いんですか?」
「いい、いい、遠慮せんと持っていけ」
「ありがとうございます。それではまた」
そう言って僕らは果樹園を後にした。
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