14.プラン
その後僕たちは晩御飯をいただいた。
みんなはお酒も飲んでいた。
僕はまだ飲めないけどね。
ワーボアのシチューは確かに絶品だった。
父さんのワーボアのシチューはワイルドな味わいだったのに対して、このシチューはとても濃厚で味わい深いものだった。
入ってる物がわかれば作れそうなんだけど……。
みんな食べ終わって解散しようかというタイミングで僕は一つのプランを提案した。
「ちょっと聞いて欲しい事があります。みんなで一度リステンに戻りませんか?皆さんの討伐戦が終わってからです。一緒に戻って一度僕の家に来て欲しいんです。とても大事な話があるんです。どうでしょうか?」
「今聞かせてもらう事は出来ないのかい?」
「ここではやめておいた方が良いです。とても重要な事なので。あと、帰りはテレポートがあるのですぐに帰れます。手間はかかりません。どうでしょうか?」
「待って、ねぇ待って!今テレポートって言った?」
「言いました……何かおかしかったですか?」
「ヴァン……私と結婚しない?」
「はぁ?ラビィ何言ってんの?するわけないでしょ!」
マリーさんが僕を引き寄せた。
「マリーは関係ないでしょ!私はヴァンに聞いてんの!ねぇ私と結婚しようよ!」
「酔ってるんですか……?ちょっとパーンさん……何とかして下さいよ……」
「俺からは何も言えない……俺も女ならヴァンと結婚したいと思うよ……」
「はぁ?何言ってるんですか……とにかく討伐戦が終わった後テレポートで僕の家に来てもらえますか?話を聞いてから判断してくれて構わないので」
「わかった。行こう」
「私ヴァンの家に住む!」
「ラビィ!ダメだよ!私が住むんだから!」
「二人ともいい加減にしときなよ!」
おかしな事になってきた……逃げよう……。
「マリーさん、明日は朝からクエストを受けに行きましょう!ではおやすみなさい!」
「おやすみ、ヴァン君!」
「待ってヴァン、私も一緒に寝る!」
「こら!いい加減にしなさい!」
リースさんとマリーさんがラビィさんを食い止めてくれてる!
僕は逃げるように階段を上がって部屋に入った。
ラビィさんがグイグイくる……まずいまずい……あの人お酒飲ませちゃダメだ……。
少し落ち着いてきたので今後の事を考えた。
みんなを誘ったけど、肝心の家は大丈夫だろうか?
父さんが亡くなったと知った人が荒らしに来たりしてないかな?
不安になったので一度戻ってみることにした。
「テレポート」
次の瞬間僕は住み慣れた我が家の前に立っていた。
当然だが家には灯りが付いていない。
何も変わっていない。誰も来てないみたいだ。
物置がある方へ回ってみた。
良かった。こじ開けられた形跡もない。
でも荒らされてからでは遅い。
そう思って僕は鍵を隠し場所から取ってきて物置を開け、中にある荷物を全部マジックバッグへ収納する事にした。
いまいち価値はわからないけど、ゴーレムの核のように何が貴重品かわからない。
収納していて気が付いた。
物置にカバンがかけてある。
そういや父さんはダンジョンへ行く時はいつもこのカバンを腰につけていた。
僕はそれを取り、中身を確認してみた。
何も入ってない……僕はゴーレムの核を放り込んだ。けれど空のままだ。
手を突っ込んだら収納されている物が頭に浮かんできた。
「やっぱりマジックバッグだ!父さんも持っていたんだ……」
既に中にはいろんな物が収納されていた。
僕はザックさんから借りているバッグから父さんのバッグへ荷物を移していった。
ついでに残っている物置の中の物も全て収納出来た。
かなり容量が大きいみたいだ。
父さん、これもらうよ。大事に使うからね。
僕は全て父さんのバッグに収納し終えて、お墓の前に立った。
お墓に花と線香が置いてある。
ザックさんが来てくれたんだろうか。
僕はお墓の前に座った。
「父さん……ギデオンさんから聞いたよ。いっぱい苦しんだんだね……少しぐらい僕にも相談してくれたらよかったのに……僕だって一緒に考える事は出来たよ。イグニスさんとの事も……もっといい結末があったかも知れないのに……」
僕は膝を抱えて静かに泣いた……。
しばらく泣いて気持ちの整理がついた。
「父さん、僕にも仲間が出来たんだ。ここに連れてくるよ。父さんと一緒に潜っていたダンジョンに潜ってみんなで強くなる。一番になって父さんの汚名をそそいであげるからね。もう誰にも仲間殺しなんて呼ばせないから。もう少し辛抱しててね」
僕は静かに立ち上がった。
「テレポート」
僕はザックさんの家の裏庭にいた。
ここなら誰にも見られる心配がない。
表に回ってドアを叩いた。
「もう店は閉めている。明日にしてくれ」
ドアの中からザックさんの声がした。
「ヴァンです。少しいいですか?」
慌ててドアの鍵を開けている音が聞こえて乱暴にドアが開かれた。
「なんでここにいる?今日リザリアから到着の報告がギルドに来てたぞ!!」
「中で話しても良いですか?」
「おう、入れ!」
そう言って僕は中に通された。
「何があった?早く聞かせろ!」
「僕はテレポートが使えるので一旦経過報告に戻りました」
「お前……剣を見た時になんか底が知れねぇと感じたが……まぁ良い。それなら良かった。マリーも無事だな?」
「はい、何も問題ありません」
僕は今思っている事をザックさんに伝える事にした。
「今日父さんと交流のあった人に会って、父さんがどういう経緯で仲間殺しと呼ばれていたのか聞きました」
今日聞いた父さんに関する事を思い出しながら説明した。
「なるほどな……本当に不器用な奴だ……俺がもっと早くそばにいてやれたら……」
ザックさんは目元を押さえて下を向いた。
「僕はスーラに行く為に出発しましたけど……スーラに入る時には誰にも負けない状態で入りたいんです。もう父さんの事を仲間殺しなんて呼ばせないように。力をつけてからスーラへ行きたいんです。だから……このマジックバッグはルカさんに届けられなくなりました。届けるのはずっと先になってしまうので、ザックさんに返しに来たんです」
「お前は……本当に律儀な奴だよ。それをルカに届けるのは口実だ。お前に使わせる為に渡したんだ。手紙を一緒に渡しただろう。それには受け取っても要らないと突き返せと書いてある。俺の所に持って帰ってくれと」
ザックさんは本当に良い人だ……ザックさんの優しさで僕の心が満たされている……。
「ザックさん……さっき家に帰って物置の中身を確認していたらマジックバッグを見つけたんです。僕の分はこれで賄えるので、これはマリーさんに預けておいていいでしょうか?」
「そうだな、ならそうしてやってくれるか?マリーは喜ぶだろう。あいつは昔っからマジックバッグに憧れていたからな」
「後父さんのお墓に花を備えてくれてありがとうございました。父さんも喜んでいると思います」
「それぐらいなんでもねぇ。あいつとは15年の付き合いだからよ。それぐらいさせてくれ」
「実はもう一つ話したい事があります。これは絶対に内密にお願いします」
「おう、なんだ。なんでも話してみろ」
「実は幼い頃から父さんとダンジョンに潜っていました。森の奥にダンジョンがあるんです。父さんが知らない人が間違って入らないように隠蔽魔法で入口を隠していたのでまだ誰にも知られていないダンジョンです」
「おい待て……ダンジョンだって……?隠蔽魔法で隠していた……?エドワードの奴……」
「そのダンジョンで僕たちは経験を積んでみんなで強くなろうと思います。自由の風と青の団両方で」
「青の団とはうまく行ってるんだな」
「青の団から傘下入りのお話を頂いて受けたんです」
「なるほどな、良い判断だ。青の団は周りの評判もいい。堅実に着実に経験を積み上げている。青の団の傘下に入るのはプラスに働くだろう」
「いえ……そう思われるのが普通だと思いますが、自由の風の傘下に青の団が入るんです。そういう話なんです」
「わかった……もう何を聞いても驚かねぇ。お前は常に俺の予想を超えていく奴だと覚えておく……」
「明後日に青の団は本来の目的の討伐戦に挑みます。その後、みんなで家にテレポートして、そこでダンジョンの事を打ち明けて、みんなで強くなる事を提案しようと思っています。ザックさんはどう思いますか?」
「いや、いいと思うぜ。たまにマリーに家へ顔を出すように伝えてくれ」
「わかりました!ダンジョンの事は内密にお願いします。冒険者が押しかけて来ると管理が難しくなるので」
「どういう事だ?」
「父さんから聞いた事があります。ダンジョンは冒険者を食べる生き物だと。ダンジョンの中で死んだ冒険者はダンジョンの養分となり、養分を得たダンジョンはより多くの冒険者を食べる為に肥大化していく、と。沢山冒険者が入ると亡くなる者も多くなる。そうするとダンジョンは肥大化を繰り返し制御出来なくなるそうです」
「エドワードはダンジョンの事にまで精通していたのか……事情はわかった。内密にしておく。ギルドにバレたら冒険者が我先にと踏み込んで一気に肥大化してしまうだろう……この際エドワードが死んだ事も伏せておいた方が良いかも知れん。わざわざ言う事じゃないからガストン以外に言ってねぇが、伏せておいたらあの家には誰も行かねぇ。そしたらお前らだけで誰にも邪魔されず修行が出来るだろう?」
「そうですね……そうしてもらえると助かります」
「他に何かあるか?」
「いえ、僕からザックさんに話したかったのは以上です」
「そうか、マリーにもよろしく伝えておいてくれ」
「ではそろそろ戻ります。テレポート」
翌朝僕はマリーさんの部屋をノックした。
「マリーさん?起きてますか?」
「はいはい、起きてるよ。おはよ。早いね。もう行く?」
「マリーさんに渡す物があります。実は昨日父さんのお墓に行ってきたんです。ついでに物置の荷物を取ろうとしたらマジックバッグを発見して。父さんも持っていたみたいです。ザックさんからお借りしているバッグをマリーさんに預けても良いですか?こっちの方が容量が大きいと思うので、こっちを使ったらどうかな、と思って」
「えっ、良いの?」
「もちろんです。両方使えば素材とか沢山持ち帰れますね」
「すごい贅沢な使い方だね……でも換金できる物をどれだけ持ち帰れるかは冒険者の実力の内だもんね。ありがとう。使わせてもらうよ」
「これから出られますか?もう少ししてから行きますか?」
「出られるよ。すぐ用意していくから食堂で先に食べてて」
「わかりました。先に降りてますね」
そう言って僕は階段を降りて食堂へ入った。
食堂には大皿に盛られた料理が並んでいる。
僕が戸惑っていると宿の方が声を掛けてくれた。
皿を持って自分の好きな料理を好きなだけ入れていいそうだ。
食べ放題だって!最高だね!
僕は美味しそうなオムレツと柔らかいパン、パスタにスープにと結構欲張ってテーブルに持ってきた。
マリーさんもすぐ来るだろうから先に食べ始めた。
パンもオムレツもすごく美味しい。
この宿は大当たりだな!
そうこうしているとマリーさんが降りてきた。
「えっ、もしかして食べ放題?やった!!いっぱい取ってくる!」
そう言って取りに行った。
戻ってくると僕の倍は取ってきていた。
「こんなのペロリだよ、ペロリ、ふふっ」
見た目よりよく食べるんだね……女の子って。
すごい勢いで食べ始めた。
僕も少しおかわりしてこよっと。
僕とマリーさんはお腹いっぱい食べてしまった。
こんなお腹いっぱいで今からクエストこなせるかな……。
そんな事を考えてるとラビィさんとリースさんが階段を駆け降りてきた。
かなり慌てているみたいだ。
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