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13.父の過去

「ヴァン・スタリオン様……ひょっとするとエドワードのご子息ですか?」

「はい!父さんをご存知ですか?」

「私は若い頃スーラで武器商人を営んでいたのです。その当時、エドワードとは懇意にさせて頂いておりました。あのエドワードが仲間殺しなどと……あの汚名は決して看過出来る物ではありませんでした……。本人に何度も詰め寄りましたが本人が否定しようとせず、私の方ではどうする事も出来ませんでした……」

「そうだったんですね……ギデオンさんはリヴ・ワイツゼットという方をご存知ですか?」

「ご存知も何も……あなたのお母様でしょう。当然存じ上げております」

「えっ……お母さん?それ……本当ですか?」

「エドワードから聞かされておりませんでしたか……これは失言でした……。エドワードに叱られてしまいますね……」

「父さんは先日亡くなりました……イグニス・ヒートシュタインという人に斬られたんです。母の仇と言っていました。その人の母と言うのがリヴ・ワイツゼットという人だったんです」

「エドワードがイグニスに斬られた……なんとも……彼らしい最後です……」


 ギデオンさんが涙を流して目をつぶった。

 父さんの死に涙を流してくれていた……。


「イグニスは彼の第一子、ヴァン様は第二子でございます。イグニスは養子先のヒートシュタイン家でその事を聞かされていなかったのでしょう……ヒートシュタインの当主は仲間殺しの異名を轟かせてたエドワードをお前の父だと説明するのを嫌ったのでしょう……」

「イグニスさんが父さんの第一子……そんな……父さん……あんまりだ……自分の子に斬られるなんて……そんな事って……」


 僕は立っていられないぐらいの衝撃を受けた……。


 今になってわかった。

 父さんはイグニスさんに自分が父だと悟られないように何も語らなかったんだ……

 何かを語ればあのイグニスさんなら勘付いてしまうかも知れない。

 せっかくヒートシュタインの跡取りとして育ったイグニスさんに仲間殺しのエドワードの息子であると気付かせまいとしたんだ……。


「父さんはこの短剣を大切に保管していました……」


 僕はリヴさんの短剣をギデオンさんに見せた。


「良く覚えています……これは私が売った物です。エドワードがリヴに短剣を贈りたいと言うので私が手配したのです……柄の刻印は私が刻印したのです」


 ギデオンさんが短剣を愛おしそうに撫でている。


「これを売ったのは二人がスーラで活動し始めた頃です。イグニスが生まれ、ヴァン様がお腹にいた頃です。当時二人はスーラの東、アトルという小さな街から出稼ぎのような形でスーラへ来て活動していました。非常に筋の良い冒険者だと周りは高く評価しておりました。そんなある日、アトルがあの竜により壊滅したのです……」


 竜……。


「その知らせを受け、二人はすぐにアトルへ戻りました。ですが時すでに遅し……二人の両親を含めた街の住人全員が皆殺しという状態だったそうです」

「そんな……」

「二人はアトルの惨状を見てすぐに決意したようです。あの竜は自分達で討つと。その後、リヴはヴァン様を産み、イグニスと一緒に孤児院に預けました。竜は強大な存在です。帰ってこれる可能性が低かったからでしょう」


 父さんがあの竜にこだわった理由はこれだったんだ……故郷の……両親の仇打ち……。


「エドワードとリヴは他に二人の有力な冒険者とパーティを組み竜に挑んだ。そしてリヴは帰らぬ人となったのです……エドワードの落ち込みようは筆舌に尽くし難いものでした。リヴを守れなかった事による自責の念に苛まれ、何度も自害を試みたようでした。日に日に増えていく自傷の傷に私は見ていられない思いでした……」


 父さん……


「ですがエドワードは気力を振り絞り、二度目の討伐に挑みました。当時のスーラの最高戦力と言えるパーティでした。パーティメンバー皆エドワードと仲が良く、勇名を轟かせていたパーティのリーダー達です。皆エドワードの事を大切に思っており、自分も手伝う、共に竜を討とうと集まったのです」


「ですが、結果はエドワードだけが命からがら生還したという物でした。同行したメンバーは本当に強力な者達でありスーラ最高戦力であった事から、その者達の残されたパーティメンバーはエドワードの裏切りであの者達は死んだと言い出したのです。その者達の名誉を守る為だったのでしょう。竜に遅れをとったのではない、裏切りによって散ったのだと」


「エドワードはそう言った声に一切の反論、弁明をしませんでした。自分の責任であると自責の念を強め、廃人のようになっておりました……」


「そこへある者がエドワードに囁いたのです。リヴの、共に戦った仲間の仇をとらないのか、と。野心ある若い冒険者達が名乗りを上げエドワードを担ぎ上げた。二度の討伐で生還した事から仲間殺しと中傷する一方で、絶大な力を持っていると考える者もいたのです。そういった者に利用されてしまいました。三度目の討伐も失敗に終わり、エドワードは左腕を失いました。エドワードを利用して利益を得ようと考えた者達も利用価値がなくなったと考えたのでしょう。仲間殺しという異名を定着させ、追い出されるような形でエドワードはスーラを後にしました。当時イグニスはすでに養子に取られていたのでヴァン様だけを連れて街を出たと聞き、私も後を追いましたがエドワードからお前に責任はない。俺のことはもう放っておけと……」


「ですが、あんな汚い街、スーラへ帰る気にもなれず、私はリザリアで店を持ちました」


 みんな黙って聞いていたがラビィさんがつぶやいた。


「ひどい……ひどすぎる……」


 マリーさんとラビィさんが後ろで泣いていた。

 父さん……僕はどうすれば父さんの汚名をそそぐ事が出来るんだろう……父さん……不器用過ぎるよ…… 父さん……。


 辛過ぎる父さんの過去に皆で涙を流した……。

 ギデオンさんが真剣な顔で僕に語りかけた。


「ヴァン君、エドワードの汚名をそそぐ方法、それは貴方が誰にも負けぬ冒険者となる事。誰にも父を仲間殺しなどと呼ばせぬ程の力を持つ事。この剣は貴方がお持ちなさい。きっとその助けとなる。強い冒険者となり、エドワードの汚名をそそいで欲しい。私の願いはそれだけです……」


 ギデオンさんの気持ちが伝わってくる。

 本気で父さんの事を考えてくれていた。

 汚名に対して憤りを感じてくれていたんだ。


「はい、ギデオンさん……ありがとうございます。僕は強くなります。もう二度と父さんの事を仲間殺しなんて呼ばせない!」

「そうだよ!ヴァン君!頑張って一番になろう!」

「ヴァン!私も協力する!絶対一番になろう!」


 マリーさんとラビィさんが泣きながら縋って来た。

 父さん……見てて。父さんの汚名は必ずそそいでみせる!


 ギデオンさんの名を今思い出した。

 父さんの手記で見た名前だ……きっとギデオンさんは父さんにとって大切な存在だったんだ。


「ヴァン君、貴方のパーティ名を教えてもらえませんか?」

「自由の風って言います。結成してからクエストを受けていないのでまだこれからのパーティです。こちらのマリーさんと二人のパーティです。そちらはラビィさん、青の団のメンバーで今日傘下入りの話を頂いた所です」

「青の団は存じ上げておりますよ。リーダーのパーン様にはご来店頂いた事もございます。堅実に実績を積み上げているとお聞きしました。青の団の傘下に入るのは現状良い選択と言えます」

「違うの!青の団が自由の風の傘下に入るんです!」


 即座にラビィさんが訂正してくれた。


「なんと……そうでございましたか……ヴァン君は相当に優秀な冒険者という事ですね。流石にエドワードのご子息……友人として誇らしく感じます」


「そうなんです!ヴァンは凄いんです!このゴーレムもヴァンから譲って貰ったんです!死霊魔術師なんです!」

「ラビィさん、死霊魔術師じゃないですよ!僕は魔法戦士です!」


「そのゴーレムは核を使って生成した物ではなかったのですね。ヴァン君は死霊魔術をエドワードから学んだのでしょうか?」

「そうです。僕が今出来る事は全て父さんから学んだ物です」

「死霊魔術はリヴが得意としていました。エドワードはその有用性を良く知っていた為、リステンへ移り住んでから独学で会得したのでしょう。さすがエドワード……」

「リヴさんは死霊魔術師だったんですか?」

「死霊魔術専門ではなく、魔術全般に精通している非常に優秀な魔術師でした……」

「お母さん……会ってみたかったな……」

「ヴァン君……」

「ヴァン君、その剣を一日私にお預け下さい。柄と鞘を仕立てておきます。明後日にもう一度ご来店頂けますか?」

「はい、よろしくお願いします!」


 僕は剣を渡してギデオンさんに父さんの過去を聞かせてくれたお礼を言い、お店を出た。


 もう夕飯が近い。

 僕たちは宿へ戻った。


 宿に戻るとちょうどパーンさん達も戻ってきた所だった。


「ヴァン、リステンのダンジョンに関する情報が得られた。食事を取りながら話そう」


 タイミングよく合流出来たので僕たちは宿の食堂で食事を始めた。


「ここの食事は本当に美味しいんだよ。特にワーボアのシチューが絶品だから食べてみて!」


 ラビィさんがそう言って僕の分も注文してくれた。

 食事が届くまでにパーンさんから情報の共有が始まった。


「専門家の見解ではリステンの新ダンジョンはかなり大規模な物らしい。さらにスタンピード寸前で少し魔獣が溢れ始めていたタイミングだったようだ。湖周辺にグリフォンの気配があったと言っていたが、その情報も正しかったようで、グリフォンは本当にいたそうだ。閃光が周辺の魔獣はあらかた片付けてくれたようだが、ダンジョンへは未だ突入出来ていないようだ。周辺のグリフォン退治でメンバーが何名か負傷したらしく、回復魔術で治療は出来たが大事をとって閃光はしばらく休んでいるらしい。結果的にリステンだけでは処理出来ない為周辺の街に向けて緊急クエストが発令されているらしい。リザリアに発令されているクエスト自体も確認してきたが、要求ランクはC以上だった。残念ながら我々は参加出来ない」

「そうだったんですね。僕の方で聞いた情報もあのダンジョンが大規模な物だったという事でした。後父さんの情報が得られたんです。僕の知らない父さんの過去が明らかになりました」


 僕は聞いた話をパーンさん達にも共有した。

 マリーさんとラビィさんが時々補足してくれたので、漏らさず伝える事が出来た。


「君の父さんは想像以上に不器用な人物だったようだ……そばにリヴさんがいてこそのエドワード・スタリオンだったんだろう。リヴさんを失い、全ての歯車が狂ってしまったという印象を受ける……」


 確かに……リヴさんが亡くなっていなければきっと二回目三回目は無かっただろう。


「俺には君にもそういう兆しが見える。君は人が良い。そして何かあった場合、全て自分の責任と抱え込んでしまうんじゃないかと思う。その辺りを悪意ある者に利用されないよう、マリーの役割、そして俺たちの役割は大きい」

「私がずっと一緒にいて守ってあげる!」


 すかさずラビィさんが挙手した。


「違うし!私が守るんだから!」


 マリーさんが張り合った。


「ほらほら、ヴァン君が困ってるじゃない。みんなで力を合わせて一番を目指していこうよ」


 リースさんがうまくたしなめてくれて助かった……。


「僕は今後クエストを積極的にこなしていきます。誰にも文句を言わせないぐらい力をつけてからスーラ入りを果たそうと考えています。レギオンさんも僕が冒険者として強くなる事が父さんの汚名をそそぐ事に繋がると言ってくれました。青の団も協力してもらえますか?」

「もちろんだ!全力で自由の風のバックアップをしていくつもりだ!なぁ、みんな」

「もちろん!」


 全員が声を合わせてそう答えてくれた。


 父さん、見てて。僕頑張るよ。

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