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10.死霊魔術師

「ちょっと待ってて。一回パーンと相談してくるよ」


 スタンさんがパーンさんのテントに入っていった。

 もしかしてまた僕やらかしたのかな……マリーさんに相談してからにしたら良かったな……。

 そう思いながら待っているとパーンさんが出てきた。


「これがウッドゴーレム……魔獣としてのゴーレムや核から生成されたゴーレムは何度か見たけど、クリエイトゴーレムで生成されたゴーレムは初めて見たよ。指示通りに動くのかい?」

「自走型なので指示してやればその通り動きます。判断は出来ないので指示が曖昧だと停止してしまいますが」

「なるほど……見張りをする場合はどう指示するんだい?」

「彼らも狭い範囲にはなりますが索敵能力があるので、周囲を警戒して敵が接近したら処理を試みる。処理出来なければ、近くにいる者が大きな音を立て危険を知らせ、我々を起こすと言う指示で良いと思います。薪ならいくらでも拾えるので沢山放っておけば固い守りになると思います」

「同時にいくつまで作れるんだい?」

「このクラスの見張りゴーレムなら何体でも作れますよ」

「その場合……ヴァン君は必要なのかな?」

「寝ててもゴーレムがやられたら気付くので大丈夫です。ですが遠距離から射撃で一気に処理され丸裸にされると厳しいので、欲を言うとある程度遠方まで探知出来る者が一緒に見張る事で最大の効果を挙げらると思いますが」

「なるほど……ヴァン君の想定しているような手練れが攻めてきたら、ヴァン君以外の気配探知じゃ太刀打ち出来ないだろうけど……」

「そうでしょうか……」

「じゃ一旦ヴァン君は眠ってもらおうか。スタンとラビィは見張りを続けてこのウッドゴーレムの有用性を見極めてくれ」

「わかった」


 スタンさんとラビィさんが声を揃えた。

 ラビィさんを寝かせてあげたかったのに何故か僕が眠る事になってしまった。

 僕は薪ゴーレムを合計20体作り、そこら一帯に配置して巡回させた。


「じゃ僕は眠ります。交代になったら起こしてください」

「あぁ、おやすみ」


 そう言ってパーンさんも自分のテントに戻っていったので、僕もテントに入って眠った。




「ねぇスタン。この薪ゴーレム……ヤバすぎるんだけど……私にも教えてくれないかな?」

「死霊魔術はとんでもなく難しいって聞くよ。無理じゃない?」

「だよね……いやマジでありえないわ。あぁぁ……ヴァンとパーティ組みたい……マリー優良物件引き当て過ぎ……」

「ラビィ……気持ちはわかるけど……」


 ラビィが悶絶しながら夜は更けていった。




「ヴァン君、交代の時間だよ。マリーと一緒に見張りをしてね」


 リースさんが起こしに来てくれた。

 薪ゴーレムは一体も減ってない。

 僕は背伸びをして外に出た。

 パーンさんとリースさんが薪ゴーレムに関して感想を漏らした。


「このウッドゴーレムは有用すぎる。正直言って見張りは何もする必要がないぐらいに有用だ」

「本当に……ゴーレム作れるなんて信じられないよ。ヴァン君有能過ぎる……」


 ベタ褒めされた……。

 マリーさんが起きて来て驚いていた。


「なにこれ……?薪に手足が生えて歩いてる……なにこれ?」

「ヴァン君がクリエイトゴーレムで作ったウッドゴーレムだよ。ヤバくない?私感動してるんだけど」


 リースさんが熱く語っている……。


「ヴァン君……死霊魔術師だったの……?すご過ぎるんだけど……」

「死霊魔術師じゃなくて魔法戦士ですよ」

「学校で習ったけど、死霊魔術師なんて世界規模で考えても両手で数えられるぐらいしか居ないと言われてる。狭過ぎる門をくぐり抜けた者しか到達出来ない高み……ヴァン君すご過ぎるよ」


 ヤバい……マリーさんの耳に届いてない……。

 死霊魔術師じゃないんだけど……。


「じゃ後は朝まで見張りをよろしく頼む。正直する事はないけどね……」


 そう言ってパーンさんとリースさんは各々のテントに入っていった。


「ねぇヴァン君、他にも私に隠してる事ある?教えといて欲しいんだけど……」

「いや、別に隠してる訳じゃないんで……出し惜しみもしてませんし」

「でもパーティメンバーの私がヴァン君が死霊魔術師である事を最後に知るってちょっとショックだよ……」

「だから死霊魔術師じゃないですよ……」

「リアニメイトは詠唱出来るの?」

「出来るけどしませんよ。死者を冒涜するのと同じですから」

「良かった……やらないでね。ゾンビが仲間に加わっても嬉しくないから」

「でも有用な魔獣なら悪くない選択肢ですけどね。死んですぐなら匂いも無いし」

「やめて!怖い事言わないで」


 そんな会話をしながら、いつの間にかあれは出来る?これは出来る?と言う質問コーナーになってしまった。

 丸裸にされた気分だ……。


 そうこうしてるうちに朝になってみんなが起きて来た。


「ご飯出来たら呼ぶから少し休んできて良いよ」


 そうリースさんから声が掛かった。

 薪ゴーレムの指揮権をパーンさんに移し、僕とマリーさんは少し眠った。



「ヴァン君、ご飯用意できたよ」


 リースさんが声を掛けてくれた。

 たぶん1時間ぐらい眠ったと思う。

 テントを出ると薪ゴーレムが整列していた。

 パーンさんが指示出しの練習をしているみたいだ。


「ヴァン君……クリエイトゴーレムは難しいかい?もし習得出来そうなら教えて欲しいんだけど……どうだろうか?」


 パーンさんがウッドゴーレムを熱い視線で見つめていた。


「出来るかどうかは試してみないとわかりませんが……」


 朝食を食べながら理論を少し説明してみたがちょっと難しそうだった。


「ダメだ……なにを言ってるかわからない……無理だと言うのがよくわかるよ……」

「僕も無理だ……元々無理だとは思ってたけどね」


 パーンさんとスタンさんは早々に脱落した。

 リースさんとラビィさんとマリーさんは黙って聞いていたが、もう一歩踏み込むとみんな頭がパンクしてしまった。


「理解出来るならとっくに死霊魔術師になってるよね……」


 三人で意見が一致したようだ。


「よし、出発しようか。ヴァン君、ウッドゴーレムはどうする?」

「悪目立ちするといけないので薪に戻しておきますよ」


 そう言って魔力供給を切った。

 すると薪ゴーレムはただの薪に戻った。


「あぁ、私の薪ゴーレム達……今晩もお願いね……」


 そうラビィさんが言っていたけど、私の薪ゴーレム達って……。

 薪は余裕が出来た僕のマジックバッグに詰めて出発した。


「今後はリザリアまでこの繰り返しだよ。昼まで歩いて食事を取り、また夕方まで歩いて野営地を決めて野営する。見張りはヴァン君がいたら頼ってしまうな。クセになってしまいそうだ……」


 パーンさんがため息をつきながらそう言った。

 薪ゴーレムがえらくお気に召したようで何よりだ。

 父さんも休憩中はよくゴーレムを使っていた。

 見張りの基本だと思ってたけど案外使われないみたいだ。



 その後は何も特別な事は起こらず、いよいよ明日にはリザリアに到着という夜を迎えた。


「今日が最後の夜営となる。今日で終わりだからと言って気を抜かないようにしっかり見張りを頑張ろう」


 パーンさんがそう言い、皆の気の緩みを締めていた時に、遠方から狼の遠吠えが聞こえた。

 僕の気配探知には少し前からすでに影狼が捉えられていたが、遠方から遠巻きにこちらを伺っていたのであえて放置していた。

 影狼の体色は黒で姿勢を低くして移動するため、夜に目視で発見するのは困難な魔獣だ。

 でも気配探知で接近がわかっていれば攻撃手段は噛みつきぐらいしかなく、接近前に範囲魔法で一網打尽にすればなんら危険のない魔獣だった。

 だが、その影狼が遠吠えをしている。

 通常闇に紛れて静かに狩りをする影狼らしくない行動だ。

 おそらく影狼自体が何かに襲われて仲間に危険を知らせているに違いない。


「パーンさん、何か良くない物がいるようですね。影狼が襲われているようです」

「影狼が遠吠えするなんて……ヴァン君の気配探知は影狼以外に何か捉えているのか?」

「いえ、気配のない魔獣……おそらくゴースト系ではないかと」


 僕は薪を四方に放り、範囲魔法エリアバーンを最小出力で唱えた。

 すると四方に散らばった薪が燃焼を始めたのでクリエイトゴーレムを四方の炎に向けて詠唱した。


「なんて事だ……」


 パーンさんが驚きのあまり声を上げた。

 20体程のファイアゴーレムにみんなも驚いたようだ。


「ファイアゴーレムは辺りを照らしてくれるので、ここみたいな見通しのいい燃えるもののない場所では効果的ですよ」


 ここは足元は土で覆われていて、所々に岩が露出している開けた場所だった。

 ファイアゴーレムが辺りを明々と照らしてくれているので、影狼はまず接近出来ない。

 接近出来たとしても影狼ぐらいならゴーレム自身のファイアボールで処理する事が可能だ。


「ヴァン君……火もゴーレム化出来るんだ……」


 マリーさんが聞いてきた。


「精霊の力が宿っている物ならゴーレム化出来ますよ」

「私のファイアゴーレム……」


 ラビィさんが恍惚の表情でゴーレムを見つめている……私のファイアゴーレムって……。


「さぁ、後はゴーレムに任せておいて食事にしましょう」


 そう言って僕は荷物から食料を取り出した。

 でもみんなは周りが気になるようだ。


「ゴースト系の魔獣は火に弱いのでファイアゴーレムなら接近させる事なく処理してくれるはずです。影狼もこれだけ明るいと寄ってきませんし。もう安全と考えて良いと思いますよ」


 パーンさんが声を漏らした。


「ヴァン君の有能さに嫉妬してしまうよ……」

「私もそう思う……」

「僕も……」


 ラビィさんやリースさん、スタンさんにマリーさんまで……。


 パーンさんが続けた。


「いや、すまない……つい本音が出てしまった……。それぐらいヴァン君は有能だよ。瞬く間に冒険者ランクをかけ駆け上がるだろう。君の初陣に同行出来た事を誇りに思うよ」


 その後ファイアゴーレムに警備してもらいながら食事を取った。

 時々ファイアボールが発動されていたのでゴーストがうろついていたんだろう。


 ほぼファイアゴーレム任せで見張りを終えて翌朝となった。

 ゴーレム達への魔力の供給を断ち、僕たちは出発した。




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