5-3 a さいきんの学園もの2
さて、金曜日。
昨日のシェリアの受難など全く知らないアリスは晴れ晴れとした顔で自分の席に腰を下ろした。
「おはよう。シェリア。」
「おはよう。リデルちゃん。おはよう。ウィンゼル卿。」
ウィンゼル卿はアリスの肩から降りてきてシェリアの机の上にちょこんと座った。自分もウィンゼルから二人の話を聞くことにする。
シェリアは早々に昨日のアピスの言っていたことについて説明した。
「ね。だから、リデルちゃん謝りに行こう。」シェリアはそうアリスに諭すように言った。「キャロルさんとスラファさんも協力してくれるって。」
「キャロルさんとスラファさん?」アリスはシェリアの言葉を聞いて目を真ん丸にすると、教室の反対サイドに座ってアリスに熱視線を注いでいたキャロルとスラファをグリンと振り向いた。
キャロルが突振り返ったアリスと目が合ってビクンとする。
アリスはさっと立ち上がると、シェリアとウィンゼルを残して、トットットッと跳ねるようにキャロルのほうに向かってしまった。
キャロルは急にアリスが向かってきたので再びビクンとすると、口を大きく開けて慌てて逃げ場を探して右往左往し始めた。そして、立ち上がろうとするが、そんなキャロルをスラファが逃げられないように捕まえた。
二人がそうしている間にアリスは二人のところに到着し、仁王立ちで何かを話しかけた。
途端にキャロルが鼻血を拭いた。
今度はアリスとスラファがビクンとして、そのまま後ろにゆっくりと卒倒していくキャロルを慌てて支えた。
隣に座ってアリス達の動向を見守っていたシェリアが慌ててアリスたちの元へ飛んでいく。
見てるだけでなんか楽しいな。
机の上のウィンゼルからシェリアの背中を見送りながらそう思った。
結局、アリスがキャロルとスラファと話ができたのは放課後になってからだった。鼻血を噴いたキャロルが自室に戻ってお休みしてしまったからだ。
「シェリシェリー。」授業がすべて終わるなりスラファがシェリアの元へやってきて声をかけた。
「?」突然スラファにあだ名で声をかけられたシェリアがびっくりする。「!?私!?」
「他に誰がいるのかなー?」とスラファ「いっしょにキャロルンのお見舞いいかない?リデルンもどーう?」
「・・・・」アリスはシェリアとスラファを他人事のように眺めている。
「リデルン?」
「リデルちゃん?」
「・・・・・」アリスは呼びかけられてしばらく二人を無表情で交互に眺めてから、ハッとしたように声を上げた。「!?私!?」
「リデルン、かぶせてきたなー。」スラファがシェリアに同意を求めるように言った。
「かぶせる????」アリスは両手で頭をさわった。
「リデルちゃん、素ですよ?」シェリアがまじめに答えた。
「リデルン、帽子は関係ないんよ?食べるほうのカブなのー」
「??????????」
「リデルちゃん、混乱しちゃってるじゃないですか。」シェリアが言った。「リデルちゃん、大丈夫あとで説明するから。」
「リデルン??」アリスは今度は自分を指さして首をかしげた。
「そうそう。」スラファは答えた。「嫌?」
アリスは、目ん玉をパッと見開くと、無言で首をぶんぶん横に振って嫌じゃない旨を体で表現した。「リデルン・・・・」
アリスの顔に満面の花が咲いた。
嬉しそうだ。
「そかー。よかったー。」スラファがにっこりと微笑んだ。「リデルンも一緒に来て欲しいなー。」
アリスがどうしようといった表情でシェリアを見た。
「お呼ばれしましょう。」シェリアはアリスに向かって言うと、今度はスラファに向かって答えた。「是非、ご一緒させていただきますわ。」
「ありがとねー。おもしろくなりそう。」とスラファ。
というわでけ、一行はスラファを先頭に教員棟へと移動すると階段を上って女子寮となっている3階のフロアへと向かった。
ウィンゼルはグラディスに預けられてしまったので、今回はシェリア目線でアリスたちの様子を見守ることにした。アリスがどんな顔でキャロルやスラファと接するかが見たかったからだ。
3階の廊下の両脇にはいくつもの扉が並んでいた。それぞれ生徒たちの下宿できる部屋になっている様だ。ちなみにシェリアとスラファもこの階に下宿している。
アリスは初めて入るフロアに辺りをきょろきょろしながら、二人の後をついて行った。
スラファは廊下の奥のほうのドアの前で止まると、二回ノックした。
「キャロルン入っていいー?」スラファがドア越しに中に声をかけた。
「どうぞ。お入りなさい。」中から返事が聞こえた。
スラファが扉を開けた。中は小さな部屋で、小さな鏡台とタンス、ベッドが置いてあるだけだった。貴族の部屋だというのにもかかわらず、雰囲気がグラディスの部屋と近い。そういや、メイドたちって貴族の娘のことが多いんだったっけ。
キャロルはベッドの上で本を片手に半身を起こした状態でスラファを迎えた。
「おじゃまー。元気そうねー。よかったー。」スラファはキャロルに声をかけた。
「当たり前よ。リデル様にちょっと動揺しただけだもん。」
「こんにちは。」シェリアが続いて入ってきた。
「って、あんたも来たの?まあ、ちょうどいいわ、リデル様の件について作戦を練りましょう。」
「私?」シェリアの後から入って来たアリスがちょうど自分の名前を呼ばれたので反応する。
「ぶ。」キャロルは鼻血を吹いて再び卒倒した。
「あはははは。」スラファが面白そうに笑い、アリスとシェリアが慌ててキャロルを介抱するのだった。
とりあえず、意識を取り戻したキャロルをベッドに横たわらせたまま、アリスとシェリアは椅子に、椅子の足りないスラファは、鼻に布を詰めたままキャロルが横たわっているベッドに座った。
シェリアが朝の会話の続きを始めた。
「朝も話したでしょ。アピス様がかなりご立腹のようなの。このままじゃリデルちゃんとお話しできなくなっちゃうよ。」
「えー。ちゃんと、授業中に質問するのは止めたわよ?」
そのせいで、先生のアフターが時間無制限で台無しになってるけどね。
「でも、リデルン授業中寝てるじゃん?」とスラファ。
「べつに寝ててもいい・・・
「リデルン!?」突然、キャロルが跳ね起きて、スラファの顔面を片手で鷲掴みにした。「リデルン?」
「キャロルン、いたいー。」
「リデルン?」キャロルがもう一度繰り返した。「リデル様のことをリデルンですって?」
「別に気にしておりませんわ。キャロルさんもどうぞ気軽に呼んでくださいまし。」とアリス。
「め、め、め、め、めっそうもない!!」キャロルがスラファの顔面を解放し、顔の前で伸ばした両腕を交差するようにぶんぶんと振り回して恥ずかしがった。「その、えーと、リデ、リデ、リデ、リデ・・・・」
「シェリシェリも私たちのこと呼び捨てでいいんよ?丁寧語だとつっこむのたいへんでしょ。」キャロルのことは放置でスラファはシェリアに向けて言った。
「つ、つっこみ!?」
「そうそうー。私ってどう考えても”ボケ”じゃん。」
「はあ。」とシェリア。否定しないんだ。
「でも、キャロルンがものすごいボケだから、私が突っ込みに回らないといけないのよー。シェリアちゃんがつっこみしてくれると助かるわー。」
「は、はあ・・・。」
「だから、私にもキャロルンにも、気を使わないでねー。」
「私には気を使いなさい。子爵家。」アリスに向かってずっとリデリデ呟いていたキャロルが慌てて割り込んできた。
「ね?ボケでしょ?」
「ボケてんじゃないわよ。」
「気をつけますわ・・・。」結局キャロルにリデルンと呼んでもらえなかったアリスが、キャロルのセリフを聞いて寂しそうにつぶやいた。
「はっ!?皆さんお好きなように呼んでくださいまし!!」と、キャロル。
「ね?ね?ボケでしょ?」
「はい。」苦笑いしながらシェリアが答えた。
「ぐぎぎぎ。」キャロルが二人を睨みつけた。
キャロルの様子に、シェリアとスラファが思わず顔を見合わせて笑った。
アリスはなんかおもしろいことがおこったのかとワクワクしながら三人をかわるがわる見た。
カオスだ。
グラディスと接している時とは違う普通の女の子のようなアリスの表情がまぶしい。
ちなみに本題のアピス対策は結局のところ何も進まなかった。
そもそも、アリスにアピスの言いつけを守る気がない。アリスって合理性>実用性>>(はてしなく中略)>>協調性だからなあ。
「とりあえず、アピス様が戻ってきたら直接話に行きましょう!」とアリスがまとめ、ほかの三人が不安そうな顔をしてこの日は終わった。




