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4-10 b さいきんの学園もの

 さて、アリスがクラスメイトに大けがをさせたせいで、大人たちは後処理に大いそがしだった。

 その日の夜のうちに、オリヴァとヘラクレスとグラディスがいつもの偉い人会議に招集され、ロッシフォールにめちゃくちゃ怒られることになった。

 ロッシフォールの話によると、アリスに血だるまにされた5人は全員無事だったようで、少しだけホッとした。

 アリスが人殺しになるのは避けられた。

 王は不在、ベルマリア公は当然いない。エラスティア公爵は今日も姿を見せていないので、アピスの父親のミンドート公爵と、ロッシフォール、モブートの三人が偉い人サイドの出席者だ。

 オリヴァはきちんと申請をして休んでいたこともあり叱咤の対象にはなっていなかったが、いっしょに呼び出されてくれたおかげで彼女視点で状況を知ることができた。

 「今日はアリス殿下が学校を休むということでオリヴァが休んだと聞いておる。ならば、なぜ、王女殿下は学校に行っておるのだ?」

 ロッシフォールは三人、特に、学校に勝手にアリスを連れて行ったヘラクレスとグラディスを極めてしつこく叱り飛ばしてた。

 「その・・・殿下が学校に行きたいとおっしゃいまして。」グラディスは小声で恐る恐る答えた。

 「止めよ。」

 「その・・・うれしかったもので・・・。」

 「?何がだ?」

 「殿下が自分から学校に行きたいと言い出したことが・・・です。」

 「貴様の気持ちなどまったく関係ないことであろうが。違うか?」

 グラディスはロッシフォールに詰め寄られ下を向いた。

 「昨日もグラディスさんと私の二人でも、なんとかできてたので大丈夫ですよ。」ヘラクレスが呑気に答えた。こいつ反省してねえな。

 「今日はダメだったではないか。」

 「ほんとですね。」

 ロッシフォールが少しイラっとしたのが解った。自分もイラっとした。「だいたい、お前は何をしておったのだ?」

 ほんとだよ。

 「校舎の外から校舎の出入り口を観察しておりました。」ヘラクレスは答えた。「その場所からであれば、王女様が学校の敷地を抜け出してもすぐに気づくことができるのです。」

 「護衛の仕事は脱走を食い止めることではなかろう。」ロッシフォールが額に手を当てて苦渋の表情をした。

 天才肌のやつはすぐこれだ。自分の手段の効率化に夢中になって、大事な目的を完全に見失いやがる。お前の仕事の目的は脱走阻止じゃなくてアリスのトラブル回避だろうに。アリスのこと見てなくてトラブル発生とかアウト中のアウトだっつーの。

 そもそも、お前、アリスの脱走阻止できたことないやんけ!

 「今回もまた派手にやらかしてくれたものだ。」ヘラクレスを相手にするのに疲れたロッシフォールが深くため息をついた。

 今度は暴力事件だもんなあ。もはや昨日の脱走のことなんて話題にすら上らない。

 「娘より状況を聞いておるが、さすがにあれはひどい。」と、ミンドート公。

 「何かしらの、けじめは必要でしょうな。」モブートも言った。「さすがに何もお咎め無しでは示しがつかないでしょう。」

 「ドッヂソン家を男爵まで落とそうと思う。この3人を処罰したところで、なんの贖罪にもならん。」オリヴァたち3人を見ながらロッシフォールが言った。

 「大丈夫ですか。今回のことに関してルイス=ドッヂソンは関与してない。間違いなく文句が来ますよ。」モブート公が言った。

 「実は先方は了承済みでね。こういう時のためにドッヂソン家を侯爵にしておったのだ。いざという時に貴族たちの留飲を下げさせるために。むしろ、お門違いの侯爵という重い立場を外れることができて喜んでおるやもしれん。」ロッシフォールは言った。

 いや、むしろドッヂソン家の立ち位置が発端で今回の事件が起こっているのだが。マッチポンプ甚だしい。

 「ライラ王妃のために労した策が、その娘のために役に立とうとは・・・。」ロッシフォールが感慨深そうに声を上げた。

 「ところでアピス嬢は王女のことをご存じなのですか?」モブート公がミンドート公に尋ねた。

 「いや、あれは、杓子定規で生真面目なところがあるのでね。クラスに王女が居るとなるといろいろと気を使いそうなので、伝えてはおらぬ。」

 「そのままで、お願いしたい。今回の事は王には伏せるつもりなのでな。少なくともしばらくはどんな些細な漏洩も避けたい。」ロッシフォールが言った。そして、胸をなでおろすかのようにつぶやく。「ああ、本当に王女であることを隠しておいて良かった。」

 えっ?

 そういう目的で、アリスの身分隠してるの??

 「ベルマリア公が居たらどんなことになっていたか。」

 「今回被害にあわれた諸侯はすべてベルマリア傘下でしたらかな。」

 「まあ、不謹慎だが幸いだったとしか言いようがない。」ロッシフォールは言った。

 「この問題を公にして、アミール殿下を次期国王の筆頭にするという手もあるのでは?」モブートがとんでもないことを言い出した。

 「たしかに。今まではベルマリア公が居た手前、デリケートな話題には触れないようにしていたが、ベルマリア公はすでに亡く、候補もアミール殿下かアリス殿下に絞られた今となっては、アミール殿下を推す動きを活発化させたほうが良いかもしれぬ・・・。何かご意見は?ミンドート公。」

 「致しかた無かろう。ベルマリア公があのような事件をおこした今となっては、ジュリアス殿下を推す訳にはいかぬ。アリス殿下はご病気の再発の可能性があるので、アミール殿下を国王に据えるのが最も無難であろう。」ミンドートは考え考え言葉を発した。彼はもともとはベルマリア/ジュリアス派閥よりだった。

 「王女殿下のご病気はすでに治っておいでに・・・」グラディスがこともあろうに公爵たちの議論に口をはさんできた。

 「黙りたまえ。」ロッシフォールが一喝してグラディスを黙らせる。

 「いっそ、この件を公にしてしまったほうが、後々のためによろしいのではないですか?どう思われますか、ミンドート公」と、モブートがミンドートに振った。

 「たしかに。アリス殿下の人となりを王は知るべきだ。」ミンドートは答えた。

 ・・・大問題になってるじゃないか。

 「しかし、この件については、『我々』が監督責任を取らされる立場にあることをお忘れなく。」ロッシフォールが我々というところを特に強調して言った。「この議会で承認をしたとして殿下を学校にやったので、現在の王女殿下の後見は『我々3人』ということになっている事を心に刻んでおいて欲しい。」

 「な!?そうなのか?」

 「すくなくとも陛下はそう思っておいでのようだぞ。」

 「ロッシフォール公。貴殿が護衛を選別しておいて起きた事件なのだから貴殿が責任を取るべきなのではないだろうか。」ミンドートが言った。

 「貴殿らが護衛を出さなかったから起こった事件でもあろう?」

 「「なっ。」」

 「ところで、王女本人への処罰はどうしたものですかね。」ロッシフォールは今までの話の流れは全く関係のないことだとでもいうかのように、突然声色を落ち着けて切り出した。

 「謹慎1か月と行きたいところですが、この事件が王に知れるとめんどうくさいので、謹慎2週間ということでどうでしょうか?このくらいなら体調不良だのなんだのでごまかしが効く。」モブートが提案した。

 「よいな。」と、ミンドート公も賛同した。

 おまえら・・・。

 自分たちに責任がかかりそうになったらコレかい。

 「私も異論はない。」ロッシフォールも賛成した。

 「ダメです。」ヘラクレスが反対した。

 って、おま。

 「黙れ。お前には聞いておらん。」ロッシフォールが冷たく言った。

 「アリス様は来週早々に、ジュリアス様との決闘の約束がございます。」

 「「「決闘!?」」」公爵一同が驚いてヘラクレスを振り返った。

 「はあ、この件でジュリアス様がたいそうご立腹でして、王女と決闘しました。」

 「あの、小娘・・・・」ロッシフォールが予想外の追加情報に歯ぎしりする。ちょっと、貴族の仮面がはげ落ちかけている。

 「ミンドート卿、アピス嬢から何か聞いてはおらぬか?」

 「いや、決闘の件については何も・・・」

 「ジュリアス殿下は相手がアリス殿下であることを知っているのですか。」モブート公が尋ねた。

 「いや、彼も知らぬはずだが・・・。」と、ミンドート公。

 「ちょっとまて?」ロッシフォールがふと我に返りヘラクレスに尋ねた。「今、決闘し『ました。』と言わなかったか?」

 「はあ、決闘しましたよ?一応しましたが、アリス様がルールをよくご存じでなかったので、無効となり、やり直しとなりました。決闘といっても学童の決闘ですから訓練用の剣ですよ。」ヘラクレスが心配いらないとばかりに手を振った。

 「おう・・・。なんてことだ。」ロッシフォールをはじめ公爵たちが頭を抱えてうなり始めた。「今後の国にかかわる問題だぞ。王女と公爵の間に遺恨ができてしまうではないか。これは王女殿下の後継人である我々の責任問題にもなるのだぞ。」

 「んー。今さらそんなこと悩んだところで、アリス様がジュリアス様の股間を思いっきり蹴り上げてしまいましたので手遅れかと思います。」ヘラクレスが無責任な正論を述べた。「次期王と次期公爵の仲が悪かったらたいへんですねぇ。」

 ロッシフォールはさらに頭を抱えるのだった。

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