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4-9 a さいきんの学園もの

 さて、金曜日、アリスがおとなしく爆睡している一方で、この日はオリヴァが動いた。

 ここのところ、アリスの学校、城内での授業、それらの準備と報告、そして各方面への謝罪と説明で、ほとんど休みの無かったオリヴァが、アリス爆睡の状況を確認して休暇を申請した。

 彼女はここしばらくミスタークィーンとかいうおっさんと会っていない。おそらくは彼に会うのだろう。

 オリヴァのほうにチャンネルを合わせると彼女はいつもの酒場へと向かっていた。そして、思っていた通りオリヴァは酒場でミスタークィーンたちとの会合に参加したのだった。アリスも寝ているし、今日はオリヴァ視点メインで過ごすことになりそうだ。できればオリヴァの仲間のキナ臭い連中に感染もしておきたい。

 そして、だいたいこうやって気を抜いて目を離した時に、アリスが何かとんでもないことを起こすという事をを、自分もオリヴァもこの後身をもって再認識することになる。


 「ミスタークィーン、王女殿下の元につくという件、お心積もりは決まりましたでしょうか?」少し、雑多な話題が続いたあと、話の切れ目を狙ってオリヴァがアリスに関する件を切り出した。

 「良い案だと思うぞ。王女殿下の病状の回復のためか、継承権の第一位は変わらなかったと聞く。まさかのアミール王子を差し置いての次期王候補だ。」その場に居たレジスタンスの一人が言った。

 「ジュリアス殿下は、ついにアミール王子よりも継承権を下にされたと聞く。ベルマリア公も何やら体調が悪いと聞いているし、ここにきてジュリアス殿下は期待できなくなってきた。」もう一人が追従した。「代わりに王女殿下を取り込むのは案としては良いかもしれん。」

 まだ、ベルマリア公の件は彼らには伝わっていないようだ。

 「確かに、今、王女殿下はキーパーソンだ。彼女を我々の仲間にすることができれば今後のプロジェクトに大きな光明が見えてくるだろう。」ミスタークィーンが言った。「しかし、彼女をどうやって取り込む?我々は彼女のパーソナリティーも知らないのだ。」

 「正直、僕は反対だね。」以前の会合の時にしつこく反対してきた若い男が言った。「ミスターの言う通り、どんな奴かもわからない。」

 「王女殿下は毎週木曜日にスラム街に行くと思われます。そこで一度直接お話になられるのが良いかと存じます。」

 ついに言った。

 オリヴァの前に集まっていた面々がざわつく。

 「王女がスラムとは何故に。視察か何かか?」

 「単純に遊びに行くのです。友人と黒猫に会いに。」

 『友人』という言葉にまわりが再びざわつく。

 「王女が遊びに?スラムに?何のつもり?」一番若い男は露骨に不快感をあらわにした。

 「誰か、王城を追われた者が隠遁しているのか?」

 「いえ、ただの少年たちです。ケンとタツというようです。」

 「その話が本当であれば興味深い。」ミスタークィーンは言った。「一度、王女に会って話してみようじゃないか。」

 「はっ。」オリヴァは頭を下げた。「一度、お会いになっていただくのがよろしいかと。私ごときの語彙では殿下の人となりは伝えきれませぬ。」

 やはり、オリヴァは信用ならない。

 アリスを学校に行かせたがったのはこれが目的だったのか?

 「しかし、どのようにコンタクトすればよい?お主が紹介してくれるのかね?」ミスタークィーンが訊ねた。

 「いえ?普通に話しかけていただければよろしいかと思います。」と、ここまで言ってオリヴァはミスタークィーンの頭の中に想像されているであろう光景に気が付いた。「王女殿下は護衛を一人しかつれておりません。その護衛も話しかけてくる人間をわざわざ拒むことはないと思います。」

 「スラム街を護衛一人だけで闊歩するのか?」一人が状況が飲み込めないといった様子でオリヴァに尋ねた。「王女が?次期国王が?」

 「本来ならば王女殿下は貴族街の学校に通っておられるのですが、・・・その、故あって、木曜日は貧民街に脱走するのです。」

 「脱走・・・とな。」話を聞いた人間たちがますますもって困惑する。

 「ゆえ、とは?」

 「その、ケーキ・・・いえ、貧民たちに文字を教えるためにございます。」オリヴァは説明の途中でちょうど良い言い訳を思いついたので軌道修正した。

 「ほほう?また酔狂な。いったい、王女にとって何のメリットがあるというのだ?」

 「貧民の状況をご覧になった殿下が何かをしなくてはならない、と感じたようなのです。」

 「うわ、吐き気がする。自己満足はなはだしい。」と、言ったのは例の若い男だ。「普通に資金を援助してやればいいのに。たんまり持ってるんだからさ。」

 オリヴァは少しだけさげすむような目で若者を見たが、相手にするのも面倒だったのだろう、特に何も言わなかった。

 「学校で会うのではだめなのか?」ミスタークィーンが提案した。「スラムで出会うというのは、ファーストインプレッションとしてあまり好ましくないだろう。」

 ミスタークィーンは露骨に嫌そうな顔をした。スラム街に行きたくないらしい。

 「王女殿下はそのようなことを気にはかけないお方です。それに、殿下の通っている学校がジュリアス様の通っておられる学校なのでございます。ミスターは以前ジュリアス殿下とコネを作ろうとした経緯でジュリアス殿下や彼の取り巻きに顔が知られております。彼らの前で、王女殿下と話すのはあぶのうございます。」

 「例の学園か。」ミスタークィーンは顎に手を当てて考えながらつぶやいた。「たしか、アピス嬢やタイゾ子爵のご息女のシェリア嬢も通われていたと思ったが。」

 え?シェリア!?

 突然のシェリアの登場にびっくり。

 「はい。シェリア嬢は王女殿下の最も仲の良いご友人にございます。」やっぱ、あのシェリアの事らしい。

 「ならば、そのルートからアポイントを取ろう。」ミスタークィーンが言った。

 「なりませぬ。」オリヴァが即座に否定した。「現在、王女殿下は学校にリデル=ドッヂソンに身をやつして通っておられます。もし殿下の事が公になったとしたら、殿下の学校への登校の許可が下りなくなってしまう可能性があります。それでは自由な接触ができなくなってしまいます。できればそれは避けていただきたい。」オリヴァはさらに付け加えた。「それに、どのようなルートで情報が漏洩したかを調査され、私を始めとして皆のことがバレるやもしれません。」

 「そうか・・・」ミスタークィーンは残念そうに眉をひそめた。

 「それに、シェリア嬢を使うにしろ、もう少し彼女たちが仲良くなってからのほうがよろしいかと存じます。」オリヴァが言った。

 

 その後、オリヴァたちはいかに自然に王女と出会うかについて話し合いを進めた。

 エンゲージタイムは一月後。アリス自身の行動を何度か下見してからオペレーションすることとなった。

 オリヴァ達の話し合いが終了した後、名前が出てきて気になったので、シェリアに移ってみることにする。

 【感染】はしたけど、アリスと仲もいいし要注意人物でもなかったので、ほとんどシェリアヴィジョンを使ったことはなかった。しかし、シェリア自身はそうでなくても、彼女の周りに要注意ポイントがあったようだ。

 レジスタンスの談義ではあの後シェリアの家の話は出てこなかったので、彼らとシェリアの実家にどのような関連性があるかまではつかめていない。

 シェリアに移る。

 彼女はもちろん学校の教室に居た。

 ・・・が、いろいろおかしい。

 ちょうど休み時間だろうか?

 シェリアは泣いていた。

 そして、教室はアリスが蟲を取り出した時以上にピりついていた。

 クラスのほとんどの女子生徒たちを従えたアピスがジュリアスの前に仁王立ちしていた。

 ジュリアスが一人、アピスの前で必死に取り繕っていた。慌てぶりがアリスに追いつめられたときのサミュエルを思い出させる。

 シェリアはアピスのすぐ後ろで泣いていて、さらにその後ろから数名の女子が心配そうに彼女に声をかけていた。

 シェリアのブラウスは泥だらけでところどころ破けている。

 「女性に対して、乱暴狼藉を働くなど貴族の風上にもおけません!」アピスがかなりの剣幕でジュリアスに詰め寄っていた。

 「乱暴狼藉って・・・確かに、このことについては彼らのやりすぎだ。後で謝罪をさせる。約束する。ただ、さすがに大げさにものを言い過ぎだ。」

 「彼らは素行が悪すぎますわ。女性に暴力など振るうような方々に、言い過ぎも何もありましょうか?」アピスは声高にジュリアスに告げた。「彼女が誰と仲良くしようと問題はないでしょう?貴殿は他の派閥について干渉するのを良しとされるのですか?」

 「まったく君の言う通りだ。彼らに良く言っておく。」ジュリアスはアピスの言い分に反論はする気は無いようだ。

 「良く言っておくではございません。あなたは彼らの庇護者でしょう。彼らを監督する義務があります。」アピスは一方的にまくしたてる。「そもそもこのようなことが起こらないようにするのが、貴殿の務めでございましょう。」

 「本当にすまない。」ジュリアスが素直に謝る。「このところ僕も居なかったし、転校生も入って来たりで、彼らもピリピリしていたみたいなんだ。そこに厄介な誤解が重なって、シェリアが少し無礼な口をきいたと勘違いしてしまったみたいなんだ。」

 「無礼ですって!?」アピスの声のトーンがさらに上がった。

 「いや、リデル=ドッヂソンとの付き合い方について善意で忠告をしたつもりが、けんもほろろにされたようで、それでカッとなってしまったようなのだ。」慌ててジュリアスが言い訳をする。

 シェリアが何かを言おうとして顔をあげたが、言葉になる前に嗚咽がこみあげてきて、再びしゃくり始めた。

 目の前の机の上でウィンゼルが心配そうにシェリアを見上げた。

 彼らの話の断片から推測すると、問題になっているのはかの少年たちだ。

 シェリアの状況を見るにジュリアス・・・というかジュリアスの取り巻きが悪いことは間違いがあるまい。

 どうやら、彼らはシェリアがアリスと仲良くしているのが気に入らなかったらしく、アリスと関わらないようにシェリアを脅したようだ。もしかしたら、アリスを直でいじめるのは危険だと考えて、周りから攻めたのかもしれない。

 ところが、シェリアが子爵家であるにもかかわらず強硬に応じなかったので、かなり乱暴に脅しをかけたらしい。

 もちろん彼らも貴族だ。本気で取り返しのつかないことはしていないようだが、シェリアの状態から見るに、少なくとも地べたに倒されたり、胸倉をつかまれて服を破られたりはしたのだろう。

 当事者の少年たちはいない。場が落ち着くまではジュリアスが窓口となってアピスたちを引き受けるということなのだろうか。公爵家のアピスが出ばってきていることだし、同じ公爵家が相手するのが良いというジュリアスの判断なのかもしれない。

 ウィンゼル卿に移ってシェリアを慰めてやる。

 ウィンゼルは鼻がしらでシェリルの頬をツンツンした。

 「ぐすん、ありがとう・・・、ぐすん。」シェリアはしゃくりあげながらも、ウィンゼル卿にお礼を言った。良い子だ。

 アリスと仲良くしていたせいでこんな目に会わされてしまったのだ。物悲しいとともにどうにもならない怒りが腹の下のほうから湧いてくるのを・・・


 ・・・・アレ?

 ウィンゼル??

 なんで居るの??

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