4-6 a さいきんの学園もの
さて、彼らのアイデア出しの結果をお伝えしよう。
・落とし穴。
・アリスに向けて二階から水をかける。
・食事にいたずらする。
・授業中になんかする。
以上がアクションアイテムとして出された。
子供だ。
子供か。
落とし穴。
結論から言おう。
彼らはどこかから持ってきたスコップでおとし穴を準備しようとしたが、先生に見つかった。
そして、率先して穴を掘っていたアリスと共に大目玉を喰らうことになった。
昼休み。少年たちは昼飯を早々に平らげて、落とし穴の作成に取りかかった。場所は例の中庭の入り口らへんだ。
そんな折、行動からして空気を読まないアリスが穴を掘っている少年たちを見つけてしまった。
アリスは面白そうだと近寄っていき穴の縁にしゃがみ込んで、穴の中で一心不乱に穴を掘っている少年に声をかけた。
「なにしてるの?」
「落とし穴だよ。」
「手伝いましょうか?」
「本当か、頼む。あの、分不相応な貴族まがいを・・・!?」と、穴を掘っていたノッポ、ゲオルグが声をかけてきたのがアリスだと気づいた。
「ここ掘ればよろしいのね?」と、アリスは穴の中に飛び降りた。「スコップ一つ貸してくださる?」
「あ、ああ。」
「でっかいの作りましょうね!!」
「う、うむ・・・。」
アリスは嬉々として落とし穴を掘り始めてしまった。
ジュリアスの手下たちは互いに困ったように顔を見合わせた。
「何してますの!手が止まってらっしゃいますわよ!!そんなんじゃおっきな落とし穴なんて掘れませんわよ!」
アリスに何かのスイッチが入ってしまったらしい。そんなでっかい落とし穴を掘って何を落とすつもりなんだろうか。
「リデルちゃん?何してますの?」ふらっとどっかに言ってしまったアリスを探しに来たシェリアが、腰くらいの深さの巨大な穴の中で、少年たちと穴を掘っているアリスを発見した。
「あ、シェリア。穴掘ってるの手伝ってくださらない。」アリスが穴の中からシェリアに声をかけた。
「え、あ、いや・・・私はちょっと。リデルちゃんも服が汚れてしまいますわよ?」
「平気平気。」
アリスが服の事など気にする様子もなく一心不乱に掘り始めたので、シェリアが不思議そうに尋ねた。「何で穴なんか掘っていらっしゃいますの?」
「落とし穴なんだそうですわ。」
「え?誰かを落とすのですか?」
「きっと、また、すごい虫とか捕まえるのに違いないわ?ね?」
「え!?」少年たちが固まる。「お、おう。」
そんな巨大な虫居てたまるか。
・・・居ないよな?
「はい、手を休めない。お昼休みが終わってしまいますわ。」
「お、おう。」
アリスが積極的に掘り始めてしまい、何となくやめるにやめられなくなった少年たちは、アリスのヤル気のまま裏庭に深さ2m直径5mの巨大で深い穴を掘り、アリスともに先生に叱られるのであった。
アリスに向けて二階から水をかける
学校の建物は二棟でできていてどちらも木造の三階建てだ。
二つある校舎の片一方は教員棟で教員室や、控室、教員の泊まる部屋や教材置き場などになっている。もう一方は本校舎で、教室が4つと特別教室がいくつか、更衣室、生徒たちがお茶などをできるような小部屋など、生徒たちが使える部屋が配置されている。
どちらの校舎も三階は貴族街に家を持たない生徒のための寄宿舎となっていて、教員棟側が女子生徒用、本校舎側が男子生徒用だ。シェリアもここに住まっている。
二つの校舎の間は屋根のついた外廊下になっているが、一度曲がってつながっているので、晴れた日は渡り廊下を使わずみんな斜めに最短距離を突っ切っていく。
教員棟の渡り廊下の入り口の上に窓がある。
そこに金髪の少年アルベルトがバケツを持って待機していた。いつものようにアリスが最短経路で下を通りかかった瞬間に水をぶっかける算段だ。ご丁寧にタンツボの中身を混ぜ込んである。
さすがにやりすぎだ。これは止めよう。
彼にはすでに感染済みだ。
ウィンゼルからアルベルトに乗り移つり、その時に備え、コンソールを開いた。
授業が終わり、アリスが教員等の待合室に居るオリヴァたちに合流しようとシェリアと一緒に校舎から渡り廊下に出てきた。
そして、二回の窓からのぞき込んでいるアルベルトと目が合った。
アルベルトは最初気のせいだと思って見ていたが、アリスが校舎の出口で立ち止まってこちらのほうをずっと見ていたため、自分の計画が完全にバレたと思ったようだ。
しかして、当のアリスは彼が二階に居るのには気づいたが、何をしようとしているかなど解ってもいなかったようだ。とりあえずアリスは貴族っぽくにこやかに、アルベルトに向かって膝を折って一礼した。
「!」完全にバカにされたと思ったアルベルトは3m先の一階にいるアリスに向けてバケツを投げつけた。
おっと、振りかぶった瞬間にDEXを下げる。
アルベルトの手を離れた瞬間、バケツと水は見事に分離し、バケツはあらぬ方向に飛んでいき、水は真下、ちょうど教員棟から出てきた先生の上に落ちた。
アリスとシェリアがびっくりして状況を見ているなか、水をかけられた先生が怒りに肩を震わせながら教員棟に戻っていき、しばらくしてからアルベルトの悲鳴が聞こえた。
食事にいたずらする。
次の日の昼休み。
アリスは今回も昼食を教室で食べている。公爵、侯爵クラスは、教員棟にある専用の個室か校舎にある共用の部屋を借りてランチをしている場合が多い。
今回もリデル=ドッヂソンにはそんなスペースは用意されていない。
オリヴァとグラディスがそんなんどうでもいいと断ったからだ。あの二人、アリスのことないがしろにしてないよな?
まあ、シェリアも教室で食べるので、一緒にご飯が食べれてアリスが楽しそうだから良いんだが。
この日も昼休みの前の授業が終わって、いつものようにアリスが気晴らしと手洗いに教室を出た瞬間、食事にも行かずに機をうかがっていた少年たちがアリスの席にやって来た。
「お前ら、黙ってろよ。」少年たちが周りの女子たちにすごむ。「特にお前!」
シェリアが怒鳴りつけられてビクリとする。ウィンゼルの鼻をこしこし押し付けておちつかせてやる。
彼らは弁当にいたずらしようと箱をあけた・・・が、めちゃくちゃおいしそう。
でぶっちょがグラディスの作ったフリットを一つつまんで口に入れた。
「ちょ、おまえ、何喰ってんだよ!」
「うめえ!」
エドワルドもたまらず手を伸ばす。
「ちょ、これうまいっす!?」
「嘘だろ?これムチャクチャうまいぞ。ただの揚げ物なのに。」
夢中で食べる少年たち。
瞬く間に少年たちの手でグラディスのお弁当は空になった。
「そりゃ、美味いわよ!グラディスが作ったんだからね!」いつの間にか戻ってきていたアリスが誇らしげに胸を張った。
グラディスの作ったお弁当に夢中でアリスのことに全く気付いていなかった少年たちが、おかずを咥えたままアリスを振り向いた。
「で、あんたら、なんで私のお弁当食べてるわけ?」アリスの声のトーンが下がり、少年たちがひるむ。
口調がリデルを忘れている。
あ、ついに武力行使かな?
はい、終わったー。
少年たちついに終わったー。
ついでにアリスの学校生活も終わったー。
と、割り込むように声がした。
「リデル様。代えのお弁当にございます。あと、デザートのケーキにございます。」
いつの間にかグラディスがアリスの横に現れて、代えの弁当を差し出した。
ちなみにグラディスはアリスが脱走した場合に備えて、脱走先に届ける用のスペアのお弁当を毎日用意している。デザートのケーキは何かあった時用の(主にアリスがなんか起こしそうになった時用の)保険だ。
少年たちをガチで睨みつけていたアリスはグラディスからお弁当とケーキを受け取ると満面の笑みで席についた。
「次、勝手に食べたらぶっ殺す。」新しいお弁当を開きながらアリスは少年たちを見もせずに言った。表情は笑顔だけど怒ってはいるようだ。
『ぶっ殺す』とか今まで付き合ってきた人間たちが口に出さないような口ぎたない言葉で脅しを掛けられた少年たちは、おびえながら席に戻っていった。
猫かぶってるだけで、アリスはお前ら以上のヤカラだからな。
授業中になんかする。
これは圧巻だった。
超ふわっとした作戦で、アリスより後ろに座っている奴が何かするくらいの事しか決まっていなかった。
授業中、アリスの斜め後ろの席に座っていたエドワルドが鉛筆がわりの木炭をうっかり折ってしまった。エドワルドは思いついたようにその破片をうつらうつらしているアリスの後頭部めがけて投げつけた。
寝ぼけていたアリスは振り向きもせず、自分の後頭部に飛んできた木炭をキャッチした。
音にすると、ビュン、パッ、だ。
アリスより後ろの席のクラスメートたちも、危機を知らせようとしてたウィンゼルと自分も、その瞬間驚きのあまり動きを止めた。
アリスは何が飛んできたか寝ぼけ眼で確認し、飛んできた方向を振り返るとその方向に考えもなく投げ返した。
結果、エドワルドの額が割れた。
これ、エラスティアがアリス暗殺を物理的に成し遂げるのって相当難しいんじゃないか?飛んできた弓矢とかもキャッチしそうだ。弾丸ですら避ける・・・いや、つかみ取るんじゃなかろうか。
授業中に突如起こった流血事件だったが、先生の聴取に対して、アリスは投げつけられたから投げ返しただけだと証言し、エドワルドは木炭が折れて飛んでいってしまっただけだと証言し、エドワルドの言い分に軍配が上がった。
根が素直なアリスがエドワルドの証言を信じて心から謝罪したのでその場は丸く収まった。
こうして彼らの作戦はだいたい良く分からない形で終わったのだった。
ちなみにジュリアスはアリスが編入してきてからまだ学校に現れていない。
ジュリアスが帰ってきたらこの事態はどの変化するのだろうか。ちょっと不安。
この状況にオリヴァは黙している。グラディスもあまり積極的には動かない。
アリスが成長することを望んでいるのだろうか。
オリヴァあたりは、こうやってアリスが貴族に反感を持つことを狙っているのかもしれない。




