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3-8 さいきんのミステリ (解決編 下)

 さてと、いろいろ急転直下だった。

 アリスも事の原因を作ったアルトも状況についてこれていないようだ。

 ヤード卿もそうだったのかもしれないが、ベルマリア公が全落ちモードに入ってしまったので、彼を犯人として連行していった。

 正直、自分も完全にはついていけてない。

 アリスが何が起こったのか説明しろと喚いたので、次の日ホームズによる説明会が犯行現場のグラディスの部屋で催されることとなった。


 ホームズ改め焔の英雄ヘラクレスの説明会場に集まったのは、

 結局最後までワトソン役だったアリス、ようやく容疑者から解放されたグラディス、何が起こったか解っていないアルト、そのアルトにいまさら事件のあらましを説明しているヤード卿、とヤード卿のお付きの兵士A、Bだ。兵士とヘラクレス以外は各々適当にベッドや椅子に腰かけている。

 自分はこの場に居るアリス以外の誰にも感染していないので、必然的にアリスからこの場を見届けることにする。

 「それでは、お集まりの皆さま。」ヘラクレスは両手をパンと打って、事件について話していたアルトとヤード卿の注意をひきつけた。「それでは、何から話しましょう?」

 「全部よ、全部!」アリスが言った。「最初っから。昨日の話だと、扉の鍵の事とか出てすらこなかったじゃない。」

 「ベルマリア公をあまり混乱させたくなかったので、その辺りの話は省かせてもらったのです。」ヘラクレスが言った。

 やはり、密室に関しては自分と同じ結論に達しているらしい。ただ、この点についてはいかに彼であっても真実には絶対にたどり着けないだろう。

 「では、最初から話しましょうか。」ヘラクレスが皆に同意を求めるように言った。

 アルトが拍手をする。そういうのいいから。

 「そういうのいいから。」アリスが代わりに口に出してくれた。

 「まず、話の発端はマハルさんが王女のお付きをクビになったところから始まります。」ホームズ、じゃなかった、ヘラクレスが説明を開始した。

 アルトもさっきヤード卿に説明されていたせいか、マハルが誰かをきちんと認識しているようだ。

 「もともとグラディスさんのことをあまり好きでなかったマハルさんは、自分がクビになってグラディスさんが当たり前のように王女のお付きに戻ったことが極めて気に入らなかったと思われます。」

 ヘラクレスが寂しそうにうつむいたグラディスの頭を軽く撫でた。

 おのれおのれ、なんか悔しいぞ。

 「マハルさんは、メイド長さんからカギをくすねて、グラディスさんの部屋に忍び込みます。何をしようとしたのかはわかりません。何か仕掛けようとしたのか、それとも何か弱みを握れるものを探そうとしたのか。ところが、マハルさんが部屋で何かしようとしたとき、部屋の扉がノックされます。」

 「何で、ノックしたってわかるの?」アリスが即座に質問する。

 「ベルマリア公は貴族ですよ?女性の部屋に来たのですからノックはするでしょう。」ヘラクレスは答えた。

 アリスが眉をひそめて、あまり納得いかない顔をしたが、ヘラクレスは構わず続けた。

 「そう、部屋をノックしたのはこの事件の犯人、ベルマリア公カセッティです。おそらく彼はノックをするとグラディスさんに相談のある旨を扉の外から呼びかけました。」

 「私にですか?」グラディスが不思議そうに答えた。

 「ええ。軟禁されていた間も、ベルマリアの人間があなたに接触してきてたでしょう?サミュエル閣下の件で。」ヘラクレスがグラディスを落ち着かせるように笑いかけた。

 「確かに、貴族の方が何人かサミュエル様の件でいらっしゃいました。」

 「それと、同じです。今回はベルマリア公直々に、買収などの強硬策を取るつもりでグラディスさんのところを訪ねました。ちょっと前までは、ずっとエラスティア派の兵士がグラディスさんを見張っていましたしね。ですので表だった行動はできなかったのです。」

 アリスが脱走を繰り返していた頃、グラディスは見張りをつけられて軟禁されてたもんな。一回アリスが襲撃に成功してるから、かなりの警戒網が敷かれていたに違いない。

 「さて、中にいたマハルさんはグラディスさんが帰ってきたと思って一瞬びっくりしたものの、外から聞こえたのが男の人の声だったので、これは何かグラディスさんの弱みを握れるかもしれないと思い、扉を開けました。そこにはまさかの公爵が居たわけです。しかも公爵は自分のことをグラディスだと勘違いしている様子。マハルさんはベルマリア公を中に招き入れ、グラディスさんのふりをして話を聞きました。このあたりはベルマリア公の供述で判ったことです。」

 ヤード卿が頷いた。

 「ベルマリア公はサミュエルに都合の良い証言をしてくれるようにマハルさんに懇願しました。お金ならいくらでも払うと。」ヘラクレスが説明を続けた。

 一同は黙って聞いている。

 「ところが、意外にもマハルさんはその話を聞いて、ベルマリア公をとっちめようと考えたようです。自分はエラスティアの末裔でベルマリアの陰謀に加担するつもりは無い。このようなことは大問題だからおおやけにさせてもらうと。」

 「マハルなら言ったかも。」とアリス。

 「ここで、微妙な勘違いが起こります。ベルマリア公はマハルさんのことをグラディスさんだと思っています。そのため、息子のサミュエル閣下を失脚させたのがエラスティアの人間だと思ってしまったわけです。つまり、ベルマリア公はサミュエル閣下は本当にエラスティアの陰謀によって暗殺犯にされたのだと思ってしまった訳です。」

 そういえばそんなこと何度も言ってたな。

 「目の前に、息子を陥れた犯人。しかも、こちらが証人を買収しようとしたことを知られてしまった。ベルマリア公は思わず復讐と口封じを同時に断行しました。」

 ヘラクレスはここで少し間を置いた。少しの沈黙が場を流れた。

 「ベルマリア公はマハルさんを殴り倒した後、凶器の燭台を持って部屋をそのまま去っていきました。」

 「カギは?」質問したのはアリス。

 「その通りだ。」ヤード卿も質問する。「なぜ、カギを掛けたのだ?」

 「もちろん、掛けません。掛ける必要がありませんから。」

 「え?でも、カギはかかってたじゃないの?」

 「ここからは推論です。もう、真実を語れる人は誰もいません。正直私も納得のいかない部分がありますが、おそらく、この方法で密室ができたのは間違いないと思います。」ヘラクレスは言った。「カギをかけたのはマハルさんです。」

 「何でよ!」アリスが突っ込む。ほかの一同もざわつく。

 そりゃそうだよな。推理小説じゃお約束の展開でも、この世界に推理小説なんてないからなぁ。

 「マハルさんは生きていたのです。ひどい出血だったのでベルマリア公もそのまま出て行ってしまいましたが、マハルさんは殴られた時点では気絶していただったと思われます。そして、その後、目を覚まし、もうろうとする頭で自らカギを閉めた。そして、ポケットに鍵をしまうと、その後すぐに力尽き倒れた。」

 やるね、ホームズ、いや、ヘラクレス。さすが。

 「何で?」突っ込んだのはやはりアリス。「なんで、マハルはカギを閉めたの?」

 「んー、そこをつかれると若干弱いです。」ヘラクレスが正直に答えた。

 そりゃそうだ。彼には絶対その理由は分からない。

 「おそらくは、部屋の外のベルマリア公から身を守るためだったんじゃないでしょうか?」ヘラクレスはちょっと自信なさそうに言った。

 「なるほど。」アリスが納得した。

 その解釈は悪くはない。ただ、マハルが犯人に追われ、部屋に逃げ込んで来て扉を閉めたのならともかく、部屋を去っていった犯人から身を守ろうとするのはちょっと不自然だ。

 ヘラクレスがそこらへんの不自然さに気づいていないはずがない。だから、弱気な物言いなのだろう。

 しかし、心配なかれ、マハルが自分で扉を閉めたのは間違っていない。理由が違うだけだ。

 マハルがカギを閉めた理由はもっと別のところにある。


 汗を拭くために服を脱ぐところを見られたくなかったからだ。


 言い方を変えると、自分が朦朧としたマハルの中で「汗拭けよ。」とか言っちゃったせいだ。

 今朝、寝起きのアリスが少し操れることが分かった。

 なら、瀕死のマハルだって操れたはずだ。

 朦朧としたマハルは自分が示唆したままに体の汗(実際は血だったわけだが)を拭いて着替えようとした。

 そして、当然のようにその姿を誰かに見られないように朦朧とした意識の中、カギを締めた。


 「以上です。」ヘラクレスが深くお辞儀をした。「あとは、グラディスさんのお話の通りです。」

 「待たれよ。」ヤード卿が待ったをかけた。「ベルマリア公のあれは何だったのだ?何故突然自ら自分が犯人だと名乗り出るかのような行動を?」

 「ベルマリア公はマハルさんを知らない。グラディスさんについても顔を憶えてなかったのでしょう。彼はグラディスさんを殺したとずっと思っていました。ところが、あの場でアルト卿がグラディスさんが生きていると言ったもんですから、この場が自分を糾弾する場だと思い込んでしまった、といったところですね。とくにアルト卿はサミュエル閣下逮捕の時にも同じようなことをやってますし。」

 暗殺事件の時にアリスが死んだって噂が流れた時についてだな。たしかに、『実は被害者が生きてました!』って驚かせてハメに行くスタイルが今回と全く同じ流れだ。特に今回の場合は、犯人が直接顔を見られてるから、被害者が本当に生きていたらごまかしようもない。

 そういえば、アルトの奴、はなっから燭台のいじったり、服に血がついてますよとか言ったりして無意識にベルマリア公のこと煽ってたしなぁ。その辺りのアルト持ち前のウザさもベルマリア公を暴発させるきっかけとなっていたのかもしれない。

 そういう意味では、自分の仕掛けて回った嘘証拠もベルマリア公を苛立たせる役に立ったのだろうか。やる分には損はないだろうとダメでもともとのつもりの仕掛けだったが、細菌なりに役に立てたと思いたいところだ。

 「ふぉっふぉっふぉっ。」とアルトが謎の笑い声をだしている。

 「ていうか、ヘラクレス。」アリスが再びヘラクレスに絡む。「あんた、今日の集まりの前に犯人がベルマリア公って分かってたでしょ?そもそも、あんたがベルマリア公に死んだのはグラディスだったって勘違いさせようとしてたわよね?私にあんまりしゃべるなって言ったのもそれが目的でしょ?」

 「御明察の通りです。アリス様。8割がたの目星でしたけれどベルマリア公が犯人だろうとは思ってました。ですが、完全な証拠がなかったので、いろいろ追い込んでからグラディスさんの話をしようと思ってました。」ヘラクレスが笑って答えた。「まあ、アルトさんが絶妙なタイミングでグラディスさんの事言っちゃったわけですが。」

 「ほう・・・」アルトが筋肉的なポージングをした。

 「うざっ。」アリスがアルトのポーズに思わず感想を述べた。

 「アルトさんがグラディスさんのことを口に出した瞬間は頭が真っ白になりましたが、結果的には助かりましたよ。」ヘラクレスはアルトに向けて言った。「万一、グラディスさんを証人として出してもベルマリア公がシラを切った場合、こちらはそれ以上切るカードがないですからね。そういった場合に備えて、私は嘘をつくわけにはいかなかったのです。私からは『殺されたはずの被害者が実は生きていたのです!』とは絶対に口に出せませんでしたので、勝手にベルマリア公に勘違いしてもらうしかありませんでした。」

 「私の勘違い発言が功を奏したわけですな。」アルトが誇らしげに胸を張った。褒められてるけどお前なんも偉くはないからな?

 「で、何でベルマリア公が犯人だって判ったの?」と、アリス。

 「アリス様のおかげです。」とヘラクレス。アリスがキョトンとする。「アリス様が狙われていたのが実はグラディスさんだったのではないかとおっしゃったので、その旨を含めて捜査の状況をロッシフォール閣下に報告しましたところ、そういう勘違いをしている貴族が一人いるから地獄に落としてこいと言われまして・・・。」

 ロッシフォール恐ぇえな。

 でも、何となくわかる。ロッシフォールもベルマリア公が犯人だなんて本気では思ってなかったかもしれない。たぶん、別に冤罪でもなんでもベルマリア公に容疑がかかればそれでよかったに違いない。ようするに嫌がらせができればよかったんだ。


 自分も犯人なんて分かってなかったし。


 ただ、ベルマリア公に容疑がかかるように仕向けただけだったのだから。

 今までのベルマリア公に対する行動は、彼を容疑者にして彼の暗殺計画の邪魔をするために仕掛けたものだ。ぶっちゃけ、アリスの暗殺計画が少しでも邪魔できれば冤罪だろうとなんだって良かった。彼が本当に犯人だったことにむしろびっくりしている。

 「ほう・・・」そう呟いたアリスの眉と目の下に力が入っているのが感じられた。これは、ヘラクレスに持ち上げられて、めっちゃドヤ顔してるな。

 なんにしろ、アリスの暗殺の可能性は未然に防げた。グラディスの冤罪も晴れた。最高の結末だ。


 こうして、焔の英雄とアリスの探偵局は幕を閉じた。

 グラディスの容疑は晴れ、是非にともアリスの味方に引き込みたいと思っていたヘラクレスはすでにアリスと知り合いだった。ベルマリア公によるアリスの暗殺の可能性も未然に防ぐことができた。

 すべては万々歳に終わり、ようやくいつもの生活が戻ってきた。

 この事件を期にベルマリア公は完全に失脚した。表向きは病気による療養との噂だ。事件のことは明るみにされなかった。どのくらいの者までが真実を知らされているのだろうか。

 ベルマリア公は殺されてはいない。感染者リストにはまだ名前があるし、そもそも本人がどこかの豪勢な部屋で酒を飲んでいる。

 ベルマリア公領は名目上は残ったが、王領として帰属した一部を覗けば、だいたいがエラスティアの管轄となった。

 ジュリアスの王位継承権ははく奪されるんじゃなかろうか。

 これにより、ベルマリア派がアリスを狙う理由は完全になくなりそうだ。

 これで、しばらくは安全だろう。


 少なくとも自分はそう思っていた。


ペンネームに先人がいらっしゃいましたので、読み方そのままで耳ハムからミミ公へと変更いたしました。

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