3-6 c さいきんのミステリ
しばらくの間、二人は、というか、アリスがグラディスの部屋を調べていた。
密室の謎は自分にはもう解けている。たぶんホームズにも解っていると思われる。
ホームズが何者か掴めないが、ここで誰かがアリスに仕掛けてくるとも思えないし、ここにいても進展がないので、自分はベルマリア公のほうを覗きに向かった。
ベルマリア公は部屋に戻ってきていた。彼の部屋には昨日と同じ老人がやってきていた。
「王のお加減が悪い模様ですな。」老人が言った。「大きな心労があれば、それこそ、お亡くなりになるやもしれません。」
言いたいとは解かる。
アリスを殺せと言っているのだ。
アリスが死ねば王も心労で死ぬかもしれない。今、王とアリスが死ねば、国王候補の筆頭に繰り上がるジュリアスが即位できる。
「先日、サミュエルの件に関してようやくエラスティアの尻尾をつかんだところだ。」ベルマリア公が言った。なんの事だろう。「ジュリアスの件はそれでなんとかする。」
「しかし、もし、王がすぐにでも亡くなられたとしたら?」老人が問うた。「王座はアリス王女が継ぎましょうぞ。王女はご病気もある故、王女の後の継承者はすぐに決めていただくこととなりましょう。が、自分を暗殺しようとした人間の息子であるジュリアス殿下をご自身の弟であるアミール殿下より上に置くとは思いませぬ。」
「ならば、それはそれで仕方あるまい。ジュリアスには運がなかったのだ。」ベルマリア公は意外にもまっとうな答えを返した。「それに、もしそうなったとしても、ジュリアスがおのれの才覚でアミール殿下より継承権をあげれば良いだけのこと。それもかなわぬのであればその時はいたしかたあるまい。」
「エラスティア公がアミール殿下の裏には控えております。そのような、正々堂々とした勝負は成されますまい。」老人は言った。「それに、アリス王女が国を率いることはこの国のためになりませぬ。」
このジジイ、アリスになんか恨みでもあんのか?
「国益のためにも、ジュリアス様のためにも、王女の戴冠は阻止せねばならぬと存じます。」老人は続けた。
ベルマリア公は沈黙して答えを返さない。
「公の躊躇がこの国をダメにするやもしれませぬ。」
「トマヤ伯よ。」老人はトマヤ伯というらしい。「人はいつか地に帰るもの。陛下がお亡くなりになるのは致し方ないこと。しかし、愛娘の死をもってとどめを刺すような最期にはしたくない。あれは、かつての賢王ぞ。」
あの王様、見た目陰気で厳しそうな感じだけど、なんだかんだで人気あるよな。
「過去のことでございます。いまや、エラスティアの傀儡となるだけの老害。国のことを考えたら、成すべきことは成すべきかと思いまする。」
「王女殿下がそれほどの凶王となるとは限るまい。」
「城を抜け出し、メイドたちを嬲り、他の者のことなど歯牙にもかけない傲慢不遜でございますぞ?」老人の語気が少し荒くなった。
ベルマリア公が少し考えはじめた。
おい、アリス。普段の言動が自分の首絞めてるぞ。
「あの王女が王位に就けて、なぜ、ジュリアス殿下が王位につけないのでしょう?あんまりではございませんか?」
「・・・・すくなくとも、王の存命のうちは、王女殿下に何かがあることは許されぬ。」
「では、王が崩御なされた場合は・・・」
ベルマリア公は再び黙して語らなかった。
まずい。
ベルマリア公がなんかやりかねない。それこそ王様が死んだらGOがかかりかねない。
というかこの爺さんは何なんだ?
ベルマリア公というよりこの爺さんがアリスの暗殺を植え付けようとしている黒幕に見える。サミュエルにもこいつがなんか吹き込んだんじゃなかろうか?
さて、ベルマリアの陰謀が煮詰まってき始めたので、このミステリーもそろそろ終わりにしなくてはならない。
アリスの暗殺計画が暗雲を帯びる一方で、事件のほうは色々と見えてきた。
密室の謎は完全に解けた。
問題はどうやって【べルマリア公】を犯人として告発したものかだ。
方法を考えなくてはいけない。自分にできることは少ないが、その中で最大限に【ベルマリア公】を告発しなくてはならない。
エルミーネの時もできたのだ。きっと何かできることがあるはずだ。
グラディスに容疑がかかっている以上、自分が思うほど時間は無いのかもしれない。
必死で頭をひねるしかない。
そんな自分の思いを知ってか知らずか、いや、知らないんだけど、話はホームズによって加速する。
アリスが自室で昼食をとっている間、ふらりとどこかに出歩いていたホームズが、アリスを迎えに戻って来るなり言った。
「今夜、ベルマリア公を参考人として招致したいと思います。」
えっ!?
ベルマリア公呼ぶの!?




