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3-3 b さいんのミステリ

「カギならございますよ?」カギのことを訊きにやって来た二人にメイド長が端的に答えた。「わたくしの居住部屋の奥に全員分きっちりかかっておりました。毎朝確認しておりますので、間違いのうございます。何でしたら、今からご確認なさいますか?」

「お願いします。」答えたのはホームズだ。

 メイド長はアリスの手前従ったが、ぶちぶちと微妙に聞こえるか聞こえないかのボリュームで愚痴を言いながら二人を自分の部屋に案内した。部屋は、さすはメイド長の部屋とあって、急な来訪にもかかわらず整然としていた。奥に一つ扉があり、メイド長はそこに向かうとポケットからカギを取り出して扉を開いた。メイド長の部屋に入るときもカギを開けていたので、二重のカギになっていることになる。

「ほら、カギなら一つもなくなっておりません。」それ見たことかとメイド長が中を見るように顎で部屋の中を指示した。

 中にはずらりとカギがフックに掛けられて並んでいた。どこのカギか解るように、カギ上には番号が振られていた。

 そしてすべての番号にカギがかけられている。

「グラディスのはそこの奥の一番下の隅のカギでございます。」メイド長の指示めしたところにもきちんとカギがかけられていた。

「そちらのカギはきちんと使えるのでしょうか?」ホームズが訪ねた。

「はあ?もちろんでございます。」メイド長が不服そうに答えた。「グラディスの部屋のは先日使ったばかりでございます。」

「先日使った?」メイド長の部屋を興味深そうに見まわしていたアリスが訊ねた。

「はい。マハルが殿下のお洗濯ものをグラディスに引き継ぎたいというもので。たしか、ちょうどグラディスはエラスティア公に呼ばれておりましたので仕方なく。」

「マハルが!?」まさかのマハルの登場にアリスが驚きの声をあげた。

「マハルさんにカギを貸し出したのですか?」

「いいえ、とんでもない。」メイド長が首をふる。「わたくしが行って開けたのでございます。」

「閉めたのは?」

「閉めたのも、いえ、閉めてくれたのはマハルでございますが、その場でカギは返してもらっております。」

「マハルが閉めたの?」アリスが喰いついた。

「ええ、王女殿下が城や学校でお汚しになったお召し物がたくさんございましたから、運ぶのも手伝ったのです。それをグラディスの部屋に運び込んだあと、マハルが扉の鍵を閉めてそのままカギを渡してくれたと記憶してございます。」そこまで言うとメイド長は声のトーンを少し落として続けた。「殿下。マハルはそれはそれは殿下のために頑張っておりました。殿下が学校でボロボロにした服を使えるようにつくろったり、汚れが落ちるまで洗濯したり、替えのものを用意したり。それこそ、髪の毛が抜け落ちるほどの努力をしていたのです。」

 うん、ほんとに抜け落ちてた。あれ見ちゃうとかわいそうだとは思うよね。

「それを、殿下は邪険にしたり、すまきにしたり・・・挙句の果てに今回このようなことにまでなって、これではマハルがあまりにも不憫でございます。」まるで、アリスが殺したかのような言い草だ。

 アリスは急に自分に矛先が向いたので、ホームズに助けを求めて視線をとばしたが、ホームズは黙って目をそらした。

「そ、その、マハルを殺した犯人は必ず捕まえてみせるわ。」アリスが言い訳するかのようにメイド長に言った。

「本当でございますか?殿下がマハルのために頑張ってくれたとなればそれだけでもマハルは嬉しく思いましょう。」メイド長が目を潤ませながら言った。

「もちろん、約束するわ。」アリスが答えた。これは、とりあえず調子を合わせてこの場を乗り切ろうとしているだけと見た。

「ところでメイド長さん。」話題にケリがついたと踏んだか、ホームズが再び話に入り込んできた。「グラディスさんの部屋のカギをお借りしても良いでしょうか?」

「なりません。」

「私が許すわ。」アリスが答えた。「お願いエイリン。犯人を捕まえるのに必要なの。」メイド長エイリンって言うのか。

「・・・解りました。お待ちください。」メイド長は部屋の奥からカギをアリスに渡した。「必ずお返しください。以前、狼藉者がグラディスの部屋に侵入したことをお忘れなきよう。」

 狼藉者か。やっぱり、グラディスの言っていた傷物というのはそのままの意味だったようだ。何かの聞き違いであってほしいという願いは打ち砕かれた。




 カギを手に入れた二人はグラディスの部屋に向かった。

 このカギで本当にグラディスの扉が開けられるのか。それを確かめに行くのだ。

 二人が部屋に着くとそこにはヤード卿がいた。

「こんにちはヤード卿。」アリスはグラディスの部屋の扉の前で何やら作業をしていたヤード卿に声をかけた。

 ヤード卿が振り返って慌てて飛びのいた。「これは殿下。」

「グラディス以外でもこの扉のカギを開け閉めできることが解ったわよ。」アリスが勝ち誇ったようにヤード卿に告げた。

「でしょうな。」

「これで、グラディスじゃなくても犯行ができるってことが・・・えっ!?」アリス、ナイスな驚き方。

 探偵アリスはなんかへなちょこだなー。

「先ほど、殿下のメイドから、もう一つ扉を開けることのできるカギがあると聞きましてな。ちょうどいま試していたところです。このカギで開きましたよ。」ヤード卿がカギを取り出して、アリスたちに見せびらかした。カギの取っ手の一部が血で黒くなっている。「マハルの持っていたカギです。」


 やはりマハルはメイド長のカギを返さずにすり替えたんだな。


「ほらみなさい。あの夜グラディスの部屋を開けたのはマハルってことね?」

「ええ。そうでしょう。」

「そして、閉めたのは犯人。」

「異存はございません。」ヤード卿がやけにおとなしくアリスの意見をみとめた。しかし、その目はなんだかいやらしい笑みをたたえている。

「素直ね。間違いを認められる人って素敵よ。」アリスが笑った。たぶん嫌味とかでなく天然で喜んでる。

「はい。被害者が部屋を漁っていたところ、戻って来た加害者と遭遇して殺された。犯人は殿下のメイドでございます。」ヤード卿がQ.E.D、とでも言わんばかりにお辞儀をした。

「なんでそうなるのよ!?」アリスが声を荒げた。「部屋を出入りできたのはグラディスだけじゃないって解ったじゃない。」

「いいえ殿下。出入りではございませんな。」ヤード卿は落ち着いた様子で答えた。

「?」

「『入る』だけでございます。」

「?どういうこと?」


「このカギは密室の中で倒れていたメイドのポケットに入っていたものなのです。」


 今度はヤード卿が勝ち誇ったようににやりと笑う番だった。

「殺されたメイドは部屋に入ることができた。が、出ることはかなわなかった。あの娘に殺されてしまったのですから。そして、彼女のポケットにはこの部屋の扉を開け閉めできる二つの鍵のうちの一方のカギが入っていた。では、その部屋のカギを閉めることができたのは誰か?残りのカギを持っていたあの娘だけでございます。」


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