2-8 a さいきんの冒険もの(とスポーツもの)
何でこうなるのだろう。
結局、クロを追って枯れた排水溝に侵入したアリスは再び貴族街を囲む二つ目の城壁を抜けてしまった。しかも、悪いことに排水溝の出口がアリスの背丈よりもかなり高いところに開いていた。城壁内の水を低い川に流す作りなのだろう。
クロがしなやかに飛び降りていくのに習って、アリスも何も考えずに飛び降りると、いったん片手で排水溝の出口にぶら下がり、その後ゆらゆらと反動をつけて、川べりの着地に都合の良さそうなところに着地した。今来た排水溝ははるか上。もう戻れない。
ほんと何度でも言いたい。まじで後先考えてくれないものだろうか。
と、ここにきてようやくクロに乗り移ることを思いつく。
クロに意識をうつすと、後ろを警戒させてアリスを発見させた。クロはアリスのことを憶えていたらしく、特にこちらから促すでもなくトコトコとアリスの元へ歩いて行った。アリスは嬉しそうにクロを抱え上げた。
ああ、これをアリスがクロを発見した時点でやっていれば、なんの問題もおこらなかったんだよ。ほんとに。教室の窓付近でアリスに抱えあげられて終わりだったんだ。
悶絶したくなるほどの後悔が押し寄せてきたが、抱える頭も、そのための腕もない。
クロを抱えたアリスは増水対策で低く掘り下げられている川に沿ってしばらく歩き、街のある高さまで上がれる階段を見つけて、ようやくまともな道へと昇って来た。アリスは城下町を歩くには高価すぎる装いだったが、いろいろ這いまわって、しかも汚れだらけの猫を抱えたため、そこかしこが泥だらけになってしまっていた。
街中に普段こんなところに居ないような高貴な美少女が泥だらけで立っている。完全に事案だ。
しかし、アリスはそんなことは気にしない。
アリスは街中にこのような服装の少女が一人でいることがおかしいということを知らない。
なぜなら王女だから。
その服が汚れることも問題ない。買い直せばいい。
なぜなら王女だから。
そして、こんな街中に一人、泥まみれ状態で戻れなくなっても不安はない。
なぜならアリスだから。
クロを抱きかかえたアリスは川沿いを少しばかり歩いた。
昼間だったのでたまに人とすれ違ったが、アリスの見た目のせいで話しかけてくる人はいなかった。
やがてアリスは見覚えのある橋までやって来た。前回の脱走劇の時に渡った橋だ。
アリスもこの橋のことを憶えていたらしく、橋入り口の欄干のところで止まって辺りを確認した。
果たして、アリスは城への戻り道を憶えているだろうか。
まあ、ここからなら高いところにある城が城壁の向こうにのぞいているから、最悪そっちのほうに歩いていけば探しに来た誰かしらに見つけてもらえるはずだ。
アリスは城の位置を確認すると、真逆の方角、橋を渡り始めた。
何でじゃ!!
マジでなんで??戻って?戻って?
今回は自分の判断ミスもあったので、前回以上にハラハラする。
「にゃー。」橋を渡りながら、アリスが抱えているクロに声をかけた。クロが嬉しそうにアリスの顔を鼻でつつく。
可愛い。
いや、そうじゃない。それどころじゃない。
なぜ、逆方向に向かうのだ。
「にゃー。」もう一回アリスがクロに向けて話しかける。
「にゃー。」じゃ、アリスが何をしたいのかまったく解らん。
・・・・いや、解かった。
これ、多分アリスの中で『迷子のクロをタツのもとに返す』ってクエストが始まってますわ。アリスはスラムに向かってるのだ、マジヤメて。
そんなわけで、アリスは彼女以外誰も通行していないおんぼろの橋を渡ってスラムへと再び侵入していった。
そして、アリスはしばらくスラムをうろついた後、見るからに柄の悪そうな少年たちの集まりを見つけた。そして、歳が近くて話しかけやすいとでも思ったのであろうか、常識皆無の王女は彼らに声をかけに行くのだった。
本当に、何でこうなるのだろう。




