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2-6 c さいきんの冒険もの

 次の日、

 朝から迎えにきたオリヴァが、アリスの髪を見て10分近く絶句するイベントを経た後に、二人はようやく学校に出立した。

 部屋を出ると一人の兵士が控えていて、アリスの護衛に加わった。正直あまり強そうではない。鎧の間から見える腕も締まってはいるものの細い。見た目かなりの美男子であることから、容姿で選ばれた可能性がある。アルトのほうが強そうだ。

 ロッシフォールはあれだけ反対していたわりに、つける護衛がこんなひょろっちいの一人だけなのか。なんともの足りない。

 学校にたくさん兵士を連れて行くのはどうかとかあるのかもしれないが、せめて強そうな兵士を寄こして欲しいものだ。

 アリスたちは、いつもの庭に出るルートとは違う廊下を通り、誰とも会うことなく勝手口のような出口へとたどり着いた。勝手口の外には一台の馬車が止めてある。馬車の扉にはブドウを逆さにしたみたいな文様をあしらった家紋が刻まれていた。

 だいたいの貴族たちは家紋を持っていて、そのデザインは花なので、これも花なのだろう。よく見ると紫色の一つ一つが釣り鐘のような花の形をしている。ちなみに、エラスティア家は赤いバラ、ベルマリア家はハイビスカスみたいな白い花だ。モブート公はいつもピンクのユリの花のついたベルトをしている。アルトの家紋はふさふさの毛見たいな花びらがたくさん生えた見た目怪しい感じの白っぽい変な花だ。家紋まで奴らしい。実はあいつのだけ花じゃなかったりして。

 白とかピンクとか赤とか言ったが、ロッシフォールが紫のバラと赤のバラとをTPOに合わせて色を変えているのを見たので、実は色はどうでも良いのかもしれない。

 王家の家紋だけ花ではない。二本の柱と竪琴の上に王冠を付けたスペインの旗についているような複雑な紋章だ。

 この馬車の紋章は王家とは関係のない別の貴族の家紋と思われる。アリスの母方の家紋なのだろう。

 この家紋というのは結構重要で、とりあえず家紋を見ればどこの貴族かが一目両然となる。初対面でも、どこの貴族か、自分が礼を正さなくてはならない相手か、そう言ったところがこの家紋を見ることで判断できるのだ。なので、ほとんどの貴族は(というかアリス以外の貴族は)どこかしら解りやすいところに家紋を付けている。

 言葉にしてしまえばただの『花の模様』となってしまうが、その模様は複雑で簡単には模倣できない一方で、一目見ればそれと分かるデザインになっていた。

 王家の紋章だけ花ではなく、竪琴や王冠などより複雑な造形のものを組み合わせてできているのも、家紋を模倣しにくくするためかもしれない。

 

 アリスを乗せた馬車は城門を出ると、貴族街のはずれ、アリスが脱走した時に突破した二つ目の門の近くまでやって来た。

 自分は今日はオリヴァ視点でアリスに同行する。

「もうそろそろです。」オリヴァがアリスに告げた。

「なんだ、近いんじゃない。ここなら別に馬車を使わなくても良いわよ。裏門使えばすぐよ?」アリスが言った。前回脱走したときに得た知識を少しひけらかしたいのだろうか。

「ダメです。」オリヴァがけんもほろろに言った。「あれは使用人たちの門です。それに、貴族街と言えど王女殿下が徒歩でうろつきまわるのは宜しくございません。」

「今は、王女じゃなくてリデル=ドッヂソンよ。」アリスが楽しそうに返した。

 リデルと言うのがオリヴァの用意した名前だ。ドッヂソンはアリスの母方の家名らしい。アリスは学校に行くのが楽しいのか、それとも、お忍びがいたく気に入っているのか上機嫌だ。

「ダメです。」オリヴァがこれ以上取り合いませんと言う感じで繰り返した。そして、窓の外を見て言った。「あちらですね。」

 窓の外、馬車の向かう先に、他の建物と違う形の3階建ての大きな建物が見えてきた。茶色いレンガ造りで、緑色の屋根。小さな窓がいくつも開いている。おしゃれさは微塵もない建物だ。奥にはもう一つ似たような形の建物がある。その建物はどちらも、ほかのどの建物より少し高く、城壁より少し頭が出ていた。建物の背面は貴族街を囲む城壁に面しているが、他の3面は周りの貴族の家と違って塀では囲まれておらず、代わりに広い芝生の公園が建物を囲んでいた。

「どれどれ。」アリスが馬車の窓を開けて身を乗り出し、そこから、さらに窓枠の上を懸垂の時のようにつかむと、「よっ。」とおっさんのような掛け声を上げて馬車の窓枠の外に上半身が外に出るように腰かけた。前世のインドの満員列車の写真で、窓に腰かけている人が居たが、アレだ。

 短く切ったアリスの髪がふんわりと風にあおられて舞い上がる。

「王女殿下!危ない!!危ない!」オリヴァがかなり慌ててアリスを抑えようと手を伸ばすが、逆に押して落としてしまってはどうしようと考えたのか、アリスの直前まで伸ばした手を右往左往させる。

「オリヴァ。王女殿下なんて呼んじゃ駄目よ。私だってバレちゃうわ。」アリスが窓に捕まっていないほうの手で目の上にひさしを作って学校のほうを眺めながら言った。馬車はアリスを半ば外に出したまま学校の敷地内へと停車した。

 学校に到着したアリスとオリヴァ(と兵士)は迎えに出てきた教員に歓待された。オリヴァが教員と話している間、手持無沙汰なアリスは、上がったテンションのやり場を求めてシャドウボクシングを始めた。舐められないように誰かに一発かますつもりなのだろうか。

 普通のジャブとストレートだけのシャドウなら、まだ、緊張緩和のためにしているのかもと無理やり考えられなくもないが、ジャブとストレートの合間に、コンパクトなボディへのアッパーから、下がった頭を押さえての膝蹴りまでの流れが入ったりするので笑えない。君は学校に何をしに来たのか。

 やがてオリヴァと教員の話が終わり、さっそくアリスは教室に案内され、クラスの皆に紹介されることとなった。

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