2-5 b さいきんの冒険もの
オリヴァはアリスへの授業が終わると、その足で謁見の間の近くにある一つの部屋に向かった
その部屋はそれほど大きな部屋ではなく、調度品などは置かれていないものの小奇麗にされていた。何というかサロンという言葉がしっくりくる部屋であった。
部屋の中央には丸いテーブルが置かれており、数人の貴族たちがそのテーブルを囲んで座っていた。
オリヴァを待っていたのは王とロッシフォール、ベルマリア公、モブート公、あと一人は初めて見る貴族だ。
オリヴァ一人に対応するのがこれってすごいな。
「本日はお忙しいところお時間を割いていただきありがとうございます」オリヴァが深く一礼した。
「良い、おもてを上げよ」王が言った。「そなたにはいろいろ世話になっておる。」
王が言っているのはオリヴァが過去ルイーズやそのほかいろいろな貴族の教師をしていた事についてだ。
これはメイドたちからの情報だ。メイドたちの話を聞く限りでは、正直、あんま良い生徒は育ってなさそうだったけど。
「先日、申し上げた王女殿下の入学の件ですが・・・」
入学!?アリスが?
「おお、アリスがついに皆と同じような生活をできるようになるのか・・・。」オリヴァのセリフにかぶせるように王が感嘆の声を洩らした。
「陛下、さすがに先日暗殺されそうになったばかりでございます。王女を城外に出すのはお考え直し下さい。」ロッシフォールが即座に反対した。
どうもこの集まりは城の外にある学校にアリスを入学させるか否かの談義のようだ。
「ふむ、しかし、アリスが成長する大きなチャンスだと思うのだ。」王は意外と乗り気だ。リスクを顧みない意見だ。親バカっぽいが過保護ではないようだ。
「しかし、城の外では王女殿下を守り切れるかわかりません。」ロッシフォールはこの件に反対らしい。
ロッシフォールは初めて会った時の嫌味な印象とは裏腹に意外とアリスのことを気にかけてくれている節がある。そのせいかアリスのほうもロッシとあだ名で呼ぶほどには彼のことを信頼しているようだ。
「ふむ、確かにそうではあるが・・・」
「陛下、このままでは王女殿下は城の中で世間を知らぬまま、悪しき指導者となってしまいます。」この会議の発起人と思われるオリヴァが王に向けて発言した。
ロッシフォールが眉を吊り上げてオリヴァを睨んだ。
「そなたはどう思う?」王が興味なさそうに聞いていたベルマリア公に訊ねた。
「ぬ!?私はよろしいのではないかと思いますが・・・。若いうちにいろいろなことを経験するのは良いことかと思いますな。それと・・・、申し訳ございませんが、王女殿下はこれまで城の中に籠っておられたせいで常識を学ぶ機会を逃してきているようでございます。」突然意見を振られたベルマリア公が答えた。口調からするに、ベルマリア公にとっては本当にどうでもよかったことなのであろうが、後半は割と本心の提言だったのではなかろうか。
「申し訳ございませんが、わたくしも王女殿下には同年代の他者と関わって、常識を学ぶ機会を増やすことが必要かと思います。」とオリヴァ。
「私は断固反対です。」必要に食い下がるロッシフォール。
「ふむ・・・・」王が困ったようにあごひげをさすった。
「王女殿下にはもっといろいろなことを経験する機会を与えるべきでございます。」オリヴァはさらに念を押した。
確かにこの間の脱走の際、アリスにとって自分より年下のタツとの出会いは良い経験だったように見えた。グラディス以外の他人を思いやったアリスを初めて見た。城内でメイドたちを相手にしている分には絶対見られなかった姿だろう。
「とりあえず、城外を経験させるだけでしたら、一時的な編入としてはいかがでしょうか?きちんと護衛をつけていれば問題ないでしょう。」と、ベルマリア公が折衷案を提案した。
まてよ?
よく考えたらこいつアリスを暗殺しようとしていたサミュエルの父親だった。そりゃ、アリスの暗殺を考えているなら城外に出てくれたほうがいいに決まっている。それこそ自分が手を下さなくてもエラスティア公がなんかするかもしれないし。
ベルマリア公は続けておべっかを言った。「アリス殿下でしたらあっという間に皆の人気者になりましょうぞ。」このセリフが決め手となった。
「! そ、そうかの!?」王の目が嬉しそうに輝いた。
「わたくしも王女殿下は城の中だけに囲っておくには勿体のない才女かと存じます。」オリヴァがベルマリアの発言に乗っかる。
「!! そうであろう、そうであろう。」王が明らかにニヤける。ダメだこの王。「ロッシフォールよ。アリスに相応しき護衛をつけよ。アリスの安全はそなたの責務と思え。」
ロッシフォールが雷に打たれたように目を見開き、そのあと困ったような顔をした。
勘が良ければその表情の理由はこの場で分かったのかもしれないが、勘も知識もなかった自分にはこの時のロッシフォールがなぜそんなに困った顔をしたのかがまったく分からなかった。
その後の会議は着々と決定事項が決まっていき、アリスのお試し入学は早くも5日後と決まった。期間は一週間。
国のそうそうたる面々との会談を当然のようにまとめあげたオリヴァ。結構すごい。さすがに王女の家庭教師に上り詰めただけのことはある。しかも、ルイーズも元王女だからこれで二度目か。
授業中のアリスとの会話から解ったことだが、オリヴァは貴族ではないらしい。それが一地方の貴族の家庭教師をやり、その手腕が認められ中央の強豪貴族に登用され、そして、ついには王女の家庭教師へと上り詰めた。
まだ、1週間程度しか見ていないが、アリスとオリヴァの相性は悪くない。
オリヴァは根気強くアリスの質問に答えるし、教えるだけではなくアリスに考えさせるような問いかけをする。アリスは納得いくまで考え、それでも納得がいかないと再びオリヴァに咬みつく。だが、今度は十分いろいろなことに思いを巡らしているので、続くオリヴァの回答については意外と受け入れることが多い。海千山千とはこういう人のことを言うのだろうか。
オリヴァは王達との謁見をすませると城を出て次の会合へと移動を始めた。




