2-4 c さいきんの冒険もの
おそらくマハルが急いで作ってきたのであろうブランチを平らげたアリスがベッドの上で少しうとうとしていると、オリヴァがやってきた。
うつらうつらしていたアリスは、オリヴァを案内してきたマハルに起こされて、ぼんやりと机に移動する。
ネオアトランティスから眠いアリスを見ているが、なかなか可愛らしい。寝ぼけている分にはただの超美少女だ。
いつもは家庭教師がやってくるとアリスから即座に何かの質問が飛び出すところだが、お眠なうえ昨晩はほとんど予習をしていなかったアリスはおとなしく椅子に座った。
「殿下、昨日は大冒険だったとお聞きしましたよ。」寝ぼけ眼のままのアリスに、オリヴァのほうから質問が飛んだ。
「そうなのよ・・・、グラディスに会いに行こうと思ったんだけどね・・・。」アリスが寝ぼけたまま説明を始めた。そして、グラディスの部屋の前に兵士が配置されていて何もできなかった事に対してねちねちと文句を言っているうちにだんだんと目が覚めてきたらしく、城を脱出してスラム街を冒険していくことになった流れについて熱を帯びて話始めた。
「でね、スタンの家にお泊まりさせてもらったの。スタンのお母さんの看病もしたのよ。あと、スタンの家にねクロッていう毛むくじゃらの生き物がいて・・・」
細かい話は知らなかったらしいオリヴァはアリスから取り止めとなく語られる冒険譚を目を白黒させながら聞いている。一国の王女が城の兵士を素手で張り倒して逃亡した挙句、スラム街で一晩明かしてきたのだから当然の反応だ。
そういえばあの母親も、昨日家に泊まったのが王女だったと知って目を白黒させたのだろうか。
「・・・よ、よくもまあご無事で・・・」アリスが最後のスクイージとのやり取りを話し終えた辺りで、オリヴァが思わずつぶやいた。
「それにしても、城の外ってあんなにも汚いのね。」
「それは、殿下の行ったところが貧しいものが逃げ込むスラム街だからです。」
「そうなの?」
「そうでございます。田畑を持たぬもの、商才を持たぬものが暮らしているところです。
「そういえばスクイージも働いてないって言ってたけど、本当に働いてないのね。」
「まあ、そうではございますが・・・」オリヴァは何を言うべきか考えているようだった。「頑張って働いても生活が豊かにならない者もいるのです。」
「うーん、すくなくともスクイージは頑張っているようには見えなかったけど。」アリスが素直にひどいことを言ってのける。「ねえ、そもそも、納税もしてない国民って助ける必要ってあると思う?」
ふと思った。アリスの考え方って王族というより商人としての考え方が近いのかもしれない。
オリヴァはアリスの質問に少し考える。もし、エルミーネだったら速攻、必要ないって答えそうだ。どちらかというと国民よりのオリヴァの事だから、上手い説明を考えているに違いない。
と、思っていたが、しばらくしてオリヴァから出てきたのは意外な答えだった。
「殿下のお好きなようになさい。あなたはそれを自由に決めることのできる立場にいらっしゃいます。」
オリヴァは国の今後にかかわりそうな質問を、さらっと15歳の少女に丸投げしたのだ。
「う~ん。」今度はアリスが悩み始めた。
本の内容が解らないで悩んでいる時とは違い、この難問には自分で答えを出さなくてはいけない。答えを教えてもらおうにもオリヴァには拒否されてしまった。オリヴァのこの答え方では、アリスもいちゃもんのつけようがない。
腕を組んで、眉をひそめて必死に考えるアリスの様子はとても可愛い。そして、そんな可愛らしい「う~ん」の行きつく先がスクイージたちの生活を決めかねないというのが恐ろしい。
「それは、今すぐに答えを出さないといけないものではございません。これからいろいろなことを見て、聴いて、学んで、それから決めても良いのです。」オリヴァはしばらくそんな王女を眺めてから、アリスに話しかけた。そして、まったく関係のない質問をアリスにぶつけた。「ところで、殿下、城の外は楽しかったですか?」
「うん!!」アリスは嬉々とした声で、即座に肯定した。




