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2-3 c さいきんの冒険もの

 もう一度、昨日の夜のことを話そう。

 今度は自分が何をしていたかについてだ。


 城の状況については、ときどき戻ってゴリとネズ子から覗いていた。

 断片的な情報をつなぎ合わせると、だいたい以下のような流れの様だ。

 深夜、マハルがいつまでも帰って来ないので、メイド長が直接王女の部屋へ様子を見に行った。そして、すまき状態のマハルがようやく発見された。

 一方で、グラディスの部屋に石を投げ込んだメイドを捜していた兵士たちの元に、マハルが発見されたことと行方不明の王女の情報が伝わり、石を投げ込んだのがアリスではないかとの見方が固まる。さらには、グラディスが手紙を投げ込んだのがアリスだと伝えたことと、黒メイドの目撃証言も重なり、怪しいメイドは王女だったと確定。ここにきてようやく、兵士たちが慌てて城外に出て行ってしまったアリスを本腰をいれて探し回ることになった。


 城の様子がだいたい把握できたあと、自分は少年と二人で猫をいじりながら母親を看病している最中のアリスのもとに戻った。そして、喉と口内に細胞を滲ませ、クロに【飛沫感染】を試みる。

 クロを操ってアリスの居場所を兵士に伝えるのだ。

 菌に糸目はつけない。

 アリスが気絶しないよう注意しながら、大量の細菌をばらまく。

 ああっ!先に少年に!

 とりあえず【感染】しとくか。

 って、今度は母親に!

 こっちも【感染】しとくか。ついでに後で風邪のウィルスもできる限りやっつけておいてあげよう。

 もしかしたら健康状態が悪い生き物のほうが感染が簡単なんじゃないだろうか。簡単に【感染】できたエルミーネも酒ばっかり飲んでたし。逆にネオアトランティスに【感染】するのには苦労した気がする。アルトやグラディスにいたっては機会はいくらでもあったはずのに【感染】の是非を問うポップアップすら出てこない。

 今、アリスを除けばこの場で一番健康そうなのはクロだ。猫が一番健康な環境ってのはどうなのかとも思うが。

 まあ、いいや。タツの母親に【感染】できたおかげで、仮に彼女が肺炎だったとしても、何かしらできることがあるかもしれない。

 しばらく頑張っているとようやくクロに【感染】できた。

 結局【飛沫感染】ではクロには到達できず、かまって欲しいクロがアリスの差し出した手のひらを舐めたときに【経口感染】で感染のチャンスを得た。そして、やっぱり、少年や母親よりクロのほうが白血球が強かった。

 それでも【特攻:白血球】の影響もあって何とか勝利。感染者リストに『少年(タツ(スタン))』、『少年(タツ(スタン))の母親』『クロ』が追加された。

 さっそく【操作】を使ってクロにささやきかける。


 お前アリスお気に入りだよね?

 アリスの羽織ってたカーディガンって良くね?宝物にして隠そうぜ!


 寝ぼけまなこのクロは、ぐっすり眠っているアリスが布団代わりにかけている羽織を咥えて持ちだすと、隠し場所を探して歩き回り始めた。

 猫ともなると、ゴリやネズ子のように思い通りには動いてくれない。頭の中に発想を植え付けると、それが本能に一致していれば、それに合わせて動いてくれる。ただし、思った通りの行動を取ってくれるとは限らない。ネオアトランティスを操っている時と近い感じだ。


 家の中はまずいよ?すぐ見つかって取り返されちゃうよ?家の中でアリスの羽織とじゃれ始めたクロに、頭の中でささやく。


 クロは心の中の声に促されて、外へ出た。

 よーしいい子だ、そのまま歩こう。どうせなら誰かに宝物を自慢しようぜ!

 起き抜けで頭が働いていないせいだろうか。クロはこちらの命令するがままに、アリスの羽織をずるずると引きずって堂々と歩いていく。

 城のほうに人が居て自慢できるぞと、しばらく城のほうに誘導を試みた。

 と、結構な距離を威風堂々と散歩したクロは、スラムを抜けて外の川べりに来たところで、巡回していた二人組の兵士に出くわした。

 兵士たちは羽織を加えた怪しい猫を発見しこちらに歩み寄ってきた。

 クロは近寄って兵士を見上げて、この人間が自分を可愛がってくれる人間かを判断しようとしているようだった。

 兵士が足元に寄ってきたクロを抱え上げた。もう一人の兵士が、クロの咥えていた茶色の羽織を取り上げて声を上げた。

「これって例のメイドのやつじゃないか!?」


 よしっ!


 クロが羽織を取られて騒ぎだした。

「おまえさん、このカーディガンの持ち主をしらんかい?」クロを抱えていた兵士がそう言いながらクロののど元をなでた。

 いかん。こいつテクニシャンだ。クロがごろごろとのどを鳴らして満足しはじめた。

 羽織のことをクロに思い出させようとするも、兵士の心地よい指先の動きに、もう羽織のことは頭から消えてしまったようだ。

 いかん、羽織を咥えたまま逃げて兵士たちに追いかけてきてもらうつもりだったのに。

 ここはそこそこ城には近い。

 今度はネズ子にのり移って、急いでクロの居るあたりに向かう。

 ネズ子は下水路をたどって城の外に向かった。かなりの距離を走ったが、夜の下水路をたどったこともあり、ネズ子は素直に走ってくれた。そしてようやく兵士とクロの居るあたりに到着した。

 川に垂れ流すために空いた下水路の出口から、川縁をクロを抱えて歩いている兵士たちを発見した。

 ネズ子は少し嫌がったが、無理やり兵士のほうへと向かわせる。

 結局辺りが暗かったこともあって、ネズ子はクロを抱えている兵士の少し先の道端くらいに歩み出た。そして煽るように兵士に抱えられているクロを見つめた。実際には兵士が抱えているのが猫だと気が付いて、目が釘付けになっただけだが。

 クロの目がネズ子をとらえた。瞳孔がカッと狭まり、兵士の手をすり抜けて出てネズ子を追いかけ始めた。


 ネズ子逃げろ!あっちがスラムで安全だぞ!


 走るネズ子。クロもそのあとを追いかける。兵士達が突然走り出したクロを追いかけ始めた。

 よっしゃ、作戦通り!

 このままアリスのところまで兵士を誘導して・・・って、クロ諦めるなし!!

 慌ててクロに戻る。


 追え!ネズミはあそこだ!


 クロの視界に道の壁に開いた小さな穴に逃げ込もうとするネズ子の姿が映った。

 ああっ、ネズ子そっちじゃない!穴の中に入るのはいかん!!兵士が追いかけられなくなっちゃう。

 慌ててネズ子に戻ってスラムのほうに逃げ道を修正。

 って、クロ、即効飽きるな!

 再びクロに戻ってネズ子を追うようはっぱをかける。

 普通に猫がネズミを追いかけているだけの構図なのだが、その中に、ネズミ、ネコ、ネズミ、ネコと目まぐるしく視点を変えながら、二匹を操つる細菌がいるなど誰が知りえようか。

 何とかクロにネズ子を追いかけさせてスラムまでは到着。そしてその猫を追いかけて兵士たちもスラムにたどり着いた。

 さすがに、スラムはそこら中に瓦礫の山があり、ネズ子はこちらのコントロールする間もなく、クロが追いかけて来られない狭い隙間に逃げ込んでしまった。さすがに方向修正はできても、猫の居ると分かっているところに引っ張り出すことはできない。

 クロもネズ子を追いかけて瓦礫の奥に入り込んでしまっているため、兵士たちはクロを見失ってしまったはずだ。

 兵士たちのところにクロを戻らせようとしたが、ネズ子に注意を向けさせすぎたせいで、クロは兵士のことなど完全に忘れ去ってしまっているようだ。

 どうしたもんかと考え、クロに眠くなったろ?少年の家に戻ろうぜ、と促してみたものの言うことを聞かない。

 しばらく瓦礫の中を這いまわってネズ子のことを探すのを楽しんでいたクロだったが、しばらくして億劫になってきたのか、ようやくがれきから這い出して家路についた。

 クロが少年の家へ帰る途中に兵士たちに見つかることを期待したが、残念ながらクロは兵士に見つかることもなく家につき、そしてまた眠ってしまった。




 そして、再び朝。

 スラムでの騒ぎに気付いた兵士たちが、アリスの居る通りになだれ込んできた。

「あ、あっしはなんもしてませんぜ?」スクイージが慌てて兵士たちに言い訳をする。「ただ、王女様とお話してただけで。ほんとうです。ほんとうです。」

「ならばこの騒ぎはなんだ!」兵士の一人がスクイージに詰め寄った。

 アリスがスクイージに詰め寄った兵士を静止した。

「ほんとよ。彼は何もしてないわ。なにも。」そして、ため息をつきながらもう一つ付け足した。「ただ、文句を言ってただけ。ほんっとうに何にもしてないのよ・・・。」

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