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2-1 さいきんの冒険もの

 アリスの毒殺事件が解決してから3日目。

 この日はいろいろと出来事があった。


 まず、アリスに3人の来客があった。


 一人目はアルトだった。

 アルトはグラディスがいないため、扉をノックする音とともにアリスの許可も待たずに入って来た。なんて奴だ。女の子の部屋だぞ?

「アリス君、お元気かい?」と、いつもの調子で言う。

「そう見える?」アリスはジャージのようなカジュアルな服装で、ベッドの上にうつ伏せになったままで本を眺めながら答えた。

「うむ、元気そうだ。」アルトが満足そうに頷く。

 まあ、身体的にはそうなんだけど、グラディスとエルミーネが居なくなって寂しいであろうアリスに対してはあんまりな言葉だ。空気読めって話だ。

 アリスが振り返って冷たい視線を向けた。

「とりあえず。毒についても病気についても終息宣言を出して良さそうだね。」さらりとアルトが重大なことを言った。

「!」アリスが慌ててベッドの上に跳ね起きた。「病気も?治ったの?」

「まあ、完治したとまでは断定できないが、当面のところ病気については気にしなくて良いという見解だよ。しばらく病気では倒れてないでしょ?」

 寛解というやつだ。再発しないとは言えないが、現状で病気の心配はないという判断のときに使う。

 まあ、治ってはないんだけどな!絶賛感染中!!

「ほんと?」アリスが嬉しそうな声を上げた。数日ぶりに感情の入ったアリスの声を聴いた。

「アリス!アリス!治ったの!アリス!ほんと!」ネオアトランティスが久しぶりのアリスの元気そうな声に興奮して叫んだ。

「まあね!」アルトがどんと胸をたたいた。「私の手腕だよ。私じゃなかったら、治せなかったね。絶対。」

「そんなことよりアルト!」結構重大なことをそんなことで片づけておいて、アリスが思い出したかのように尋ねた。「あんたグラディスどこ行ったか知らない?」

「まだ城の彼女の部屋に幽閉されているよ。」アルトが言った。「サミュエル卿の懲罰についていろいろ揉めているらしくてね。エルミーネ殿が主犯でサミュエル卿は毒を知らずに渡しただけだったんじゃないかって話があってね。エルミーネが居ない今、そこら辺の証人として、ベルマリアにとってはもちろん、エラスティア側にとってもグラディス殿はちょっとしたキーパーソンなんだ。」

「そう!まだ、城に居るのね?」アリスは嬉しそうな声を上げた。

「城を去る前に、アリス君に挨拶だけでも許してもらえるようにとりはから・・・」そこまで言ってアルトはアリスが何か考え込んでいることに気が付いた。「アリス君?なんか企んでる?」

「ないわよ???????????????????????」

 企んでいるようだ。

「アリス君。」アルトが膝をついてアリスの高さに目線を合わせた。「君の周りには陰謀が渦巻いている。ベルマリアしかり、エラスティアしかり。自身の言動や身の回りの人間には注意しないとダメだ。アリス君は第一継承者なのだから、アミール派にしろジュリアス派にしろ、いろいろな人にとって目の上のたんこぶなのだよ。」

「アミールはそんなことしないわ。」

「もちろんアミール殿下はそんなことはしないだろう。でも、エラスティア公やその一派はどうかな。アミール殿下の即位を願う彼らが、アリス殿下の命を狙ってくるかもしれない。」

「ロッシにチクるわよ。」

 たしかロッシフォールはアミール推し、エラスティア派だったな。でも、ロッシフォール自身がアリスにアルトの言ったのと同じようなこと言ってたような。

「大いに結構。」アルトが珍しくまじめに言った。「王女殿下がもう少しご自身の身の回りに危機感さえ持っていただけるのならどうチクってもらっても構わない。」

 いつもと違うアルトのまじめな様子にアリスが眉をひそめる。

「グラディス殿がいなくなってしまった今、私一人ではすべてを良い方向に変えるなんてできないんだからね。」珍しくアルトが神妙なことを言った。よく考えたらアルトは現在唯一人の王女派だ。

「あんたが居なくたって、私は大丈夫よ。」

「君は大丈夫かもしれない。でも周りの大切な人たちまで君は守れるのかい?エルミーネ殿やグラディス殿のように、また、失うことになる。」

 アリスは何か反論しようとしたが、アルトの珍しく本気のまなざしにそのまま黙って口を閉じた。

 アルトは一呼吸おいて続けた。「病気が治った今、これから君のもとにはいろんな人がやってくるだろう。残念だけれど君のことを利用しようとする人間たちも多い。その人が言っていることが正しいとか正しくないとかじゃない。君がその判断を誤ると、君の周りの人間が、ひいては君もつらい目に遭うことになる。気をつけなさい。」

 エルミーネが最期にアリスに言ったのと似たような言葉を残して、アルトは去って行った。




 アルトの警告よろしく、アルトの去ったすぐ後に二人目の来訪者が現れた。

 二人目も見知った顔だった。

 アリスがではなく、自分が見知った顔だ。

「王女殿下。この度、殿下のお世話をさせていただくことになりましたマハルと申します。よしなにお願いいたしますわ。」マハルがメイドらしからぬ、お姫様がやるような一礼をアリスにかました。

「あっそ。」机につっぷして行儀悪く本を読んでいたアリスはちらりとだけマハルのほうを見てつぶやいた。相変わらずグラディス以外のメイドには態度が悪い。

 ネオアトランティスは新しくやってきたメイドに興味津々でしばらく覗き込むようにに何度も首をかしげていたが、お眼鏡にかなわなかったのか毛づくろいを始めた。

 グラディスをいじめてたという話なので、自分はこのマハルというメイドはあまり好きではない。

「わたくしはエラスティアの出自、王女殿下とお近づきになれてとても光栄でございますわ。エラスティアの血筋ではありますが、わたくしは王女殿下のお役に立てることを一生の誇りとして、この仕事を務めさせていただきたく存じます。」

 アリスは机に突っ伏したまま、本からマハルに顔を向けた。

「公爵家の高貴な血を引くわたくしこそ、殿下のお世話を預かるのにふさわしいかと存じます。」マハルが胸を張って答えた。

 アリスは再びつまらなそうに本へ目線を戻した。

「母が東国エルシャハールの出自ですのでこのようなメイドという職についてはおりますが、わたくしはエラスティアの正当な血筋を引いておりますので、偉大なるヴェガ家の血筋を引く王女殿下にはきっとふさわしいご相手であるかと自負しております。」マハルはアリスのつまらなそうな様子は気にも留めず、訊かれてもいないのに自分の出自について一方的にまくしたてた。

 そのうちアリスがキレるからほどほどにしておいたほうがいいぞ。

「無論、食事のご用意から洗濯もできますし、生家にていろいろなことを学びました故、王女殿下ほどとはまいりませんが、上位貴族なりの教養も持ち合わせてございます。グラディスなどと違って、お役に立ちます。なんなりと御用をご申しつけください。どんな御用でも喜んでおおせつかりますわ。」

 アリスは「グラディス」という言葉に一瞬反応して冷たい視線を向けたが、やはり興味ないといった様子で再び机に突っ伏したまま本を読みふけり始めた。マハルのわずらわしさにキレて頭突きでもするんじゃないかと思っていたのでちょっと意外な反応だ。

 それにしても、アリスの行儀が悪くなったのって、やっぱグラディスがいなくなったからだよなあ。グラディスはよくもまあアリスを牛耳っていたもんだ。

 アリスが無反応なので、マハルは何か声をかけてもらえるのを待ってソワソワしながら扉の脇にたたずんだ。

「あんた、私の病気は怖くないの?」アリスが顎を机につけて本に目を向けたまま言った。

「ご病気は治ったとうかがっております。」マハルが即座に答えた。

「あっそ。」アリスは連れなくそう言って、本のページをめくった。

 しばしの間。

 そして、アリスが再び口を開いた。

「縄を持ってきて。人がぶら下がっても問題ないくらいの丈夫なやつ。太くないのが良いわ。」

「はあ。何にお使いになるのでしょうか?」

「その質問、必要?」アリスは有無を言わさぬ口調で答える気がないことをアピールした。

 アリス・・・何を考えてる?




 3人目の来客はエルミーネの代わりの新しい先生だった。

 昼食の後、彼女はマハルに案内されてアリスの部屋に登場した。

 とても残念なことにおばちゃんだった。ネオアトランティスはマハルの時より無反応だ。

「オリヴァと申します。本日より王女殿下の家庭教師のお役目を賜り参じました。」おばちゃんにカテゴライズするか、おばあちゃんにカテゴライズするか悩む年齢のオリヴァは自己紹介とともに頭を下げた。こういう人に電車で目の前に立たれると席を譲るかで困るんだ。服装とかは極めて質素で、小柄でほっそりとしている。白髪交じりで、目じりや口元には年齢のしわが刻まれ、穏やかな表情には人の良さがにじみ出ていた。

 オリヴァはアリスが机に突っ伏して本を読んでいるのを見とがめ声をかけた。「王女殿下。そのような本の読み方は行儀悪くございます。」

 アリスはその言葉に一瞬オリヴァを見て片方の眉をつり上げた。アリスはしばらくオリヴァを観察し、再び本に目線を戻した。姿勢は相変わらず悪いままだ。

 その姿勢のままアリスはオリヴァに質問を投げかけた。「ねえ、税金のうち5%は戦時用の税金として徴収されてるじゃない?しばらく戦争なんてないけれど、この分って結構たまってるんでしょ?この税もう要らなくない?」

「確かに殿下のおっしゃるとおりでございます。」オリヴァがアリスの突然の質問に目をパチクリとさせながら答えた。「殿下は農民の税率を下げたほうが良いとお考えなのですか??」

「だって、戦争でもないのにお金徴収するのってなんかずるいじゃない? みんなの負担も増えるし。」

「そのようなことを言う王族の方とは初めてお目にかかりました。」オリヴァは目を見開いて机に突っ伏している王女に注目した。「しかし、殿下。一度税を下げてしまうと、再び上げるのが困難になってしまいます。過去、租税を減じていった国など存在しません。それに、一度決めた税の値は無闇に変えるべきではございません。簡単に税制が変更できることは、結局はたやすい増税を招いてしまうのです。困ったら税を上げれば良い、またどこかで戻せばよいのだから、などと領主たちが考えれば、必ず税は増える一方となりましょう。」

「じゃあ、戦争するためのお金はどんどん貯まっていくの? そのお金で、皆、もっとご飯が食べられるのに?」アリスがオリヴァを見た。

「まず、国には軍事費が必要です。攻められても大丈夫な分は常に用意しておかなくてはなりません。それに練兵や武装など軍備は一朝一夕ではできません。ですので、戦争がなくとも、戦争に備えての費用は必要なのです。」オリヴァが答えた。「それでも余る分については有事の対応に充てるのがこの国の常でございます。戦争以外にも治水、飢饉対策に食料の在庫を増やす、疫病対策など、事が起こる前に準備のできることはあります。重要だが優先度の低いもの、そういった事柄に回すのです。」

 オリヴァはここで一つ息をついてアリスの様子を確認した。

 アリスは今のところは特に反論する様子もなくおとなしくオリヴァの説明を聞いていた。

「かつて軍事費として徴収され戦争にのみしか使用できなかったお金ですが、それを災害対策に回せるようにしたのが貴女の御父上なのですよ。」アリスがおとなしく説明を聞いているのを確認したオリヴァはそう続けた。

 あの王様、案外名君なのか?

 アリスも、急に父の話が出てきて驚いたようだった。

「でも、そんな感じで使ってないわよ? 今、そのお金で王宮をリフォームしているわ。」アリスが驚きから戻って反論した。

 アリスは戦争費を徴収して、それを城の修理代に充てているのに納得がいかないらしい。

「そこが問題なのです。使うべきところにお金が流れておりません。」オリヴァは素直に肯定した。「それは法の問題ではなく、人の問題でございます。殿下。」

 オリヴァはエルミーネより、自分の、日本の常識に近い考え方な気がする。

「二つ質問がございます。まず、どうして農民の税のことなど考えられたのですか?」今度はオリヴァが自らの疑問をアリスにぶつけた。

「だって、国民がおなか減らしてるんでしょ? グラディスが言ってたわ。私は王女なんだから何とかするのが役目じゃん。」行儀と言葉遣いが悪いが、良い王女みたいなことをアリスが言った。

「確かに、食うに困る貧民が少なくないのは確かです。農民も貧しい生活を強いられております。」オリヴァが答えた。「では、なぜ?税法の勉強をしているのですか? それは大臣の役目なのでは?」

「そういえばそうね?」アリスがアレッといった顔で少し悩む。「でも、もし王になるんだとしたらこういうことも分かんないとだめなんじゃない?」

「確かに国王の知るべきことではありますが、ほかのことももっと学ぶべきでございます。」オリヴァが答えた。「先ほど、法ではなく人の問題と申しましたが、法の誤りをただすよりも、人の誤りをただす事のほうが国王の本来すべき仕事なのではないでしょうか。」

 アリスが今まで考えたこともなかった正論にキョトンとする。

 「王女はもっと人間のことを学ぶべきかと存じます。」

 オリヴァはそう言うと唇に親指を当てて何かを考え始めた。

 



 オリヴァはその後少しアリスと会話し、授業はすることなく帰っていった。

 今日は顔見せだけだったようだ。

 夕食を取った後、一つの大きな事件が城内で発生した。

 というかアリスが起こした。


 と、その話に進む前に、昨日、レベルアップしているのでそれについて報告しておきたい。

 レベルは5。他の数字は16と0だ。結局この数字は何なんだろう。

 スキルポイントも1増えた。

 現在の感染者はネオアトランティス・ゴリ1・ゴリ2・ネズ子の4体がリストアップ。

 そしてスキルポイントで【飛沫感染】を取得した。

 城内に味方を作るのだ。アリスの味方は国王を除けばアルトしかいない。アルトにアリスを守る自信が無いというのなら、宿主様のことは自分が守ってやろう。

 これで、非接触状態でも感染の可能性ができた。城内パンデミックじゃ! 範囲限定だから正確にはエンデミックかな?

 と、意気込んでは見たものの、それはこの後次々と起こる事件のため、もう少しの間お預けになるのだった。




 アリスが夕食を平らげたあと、マハルが食器の片づけついでに縄を届けに来た。

「ありがとう。」アリスは愛想良くニッコリ笑って礼を言うと、マハルから縄を受け取った。

 うわ!

 どうしたアリス?その態度は何を企んでいるからだ?

「そういえば、貴女、エラスティアの高貴な血筋って言ってたわよね?」

「は、はいっ!」いままでそっけない態度しか見せなかったアリスが突然微笑みかけたものだから、マハルが目を見開いて嬉しそうに返事を返した。「父は今はまだ准男爵ですがゆくゆくは・・・」


「あなた、王女になってみない?」


 アリスはマハルの言葉を遮ってとんでもない提案をした。不穏な予感しかない。

「は?」

「あなたなら、品格もいいし、王女できると思うのよね。」アリスが珍しくお世辞を言った。もう、何かを企んでいる以外の何物でもない。

「え?」マハルは王女が自分のことを突然褒め始めたのでドギマギしている。

「ちょっと私のドレス着てみて。」そう言ってアリスは奥のタンスに入っていた見覚えのある緑のドレスを持ってきてマハルに渡した。

「え?あ、はい!」マハルはいろいろ混乱しているようだが、結局自分に都合の良く、「自分の高貴さがアリスに伝わった」というふうに解釈したようだ。

 マハルは自分がメイドだということも忘れ、アリスに促されるままに、服を脱いでアリスに渡し、鏡の前でアリスのドレスを身につけ始めた。が、体躯がアリスよりは大きいため背中の紐を止める段階で少し手まどい始めた。そもそもアリスもドレスを着るときはそこはグラディスに手伝って貰ってたし、もともと誰かに結わってもらう必要のあるものなのかもしれない。あと、スカートの裾や袖が全然足りていない。

「申し訳ございません王女殿下。背中をお手伝い願えないでしょうか?」マハルがおよそメイドが王女に言う言葉ではないセリフを吐いた。「ちょっとサイズが小さくて、背中が閉まらないようなのです。」

「あらそう。」と再びそっけなくなったアリスの返事に、マハルが振り返るとそこにはマハルのメイド服を身につけたアリスが、床まで届きそうな裾を見つめながらくるくると回っていた。

「お、王女殿下。それはわたくしの服でございますよ?」

「あんたの着てるのだって私の服じゃない。」アリスは回るのを止めてマハルのほうに向きなおった。遠心力で浮かんでいたスカートの裾がゆっくりと床に着地する。「裾、どうにかしないとダメね。」アリスが今度は手首の裾を見つめながらつぶやく。

「王女殿下?」マハルは何が何だかさっぱりといった様子でアリスを見つめる。鳩が豆鉄砲というのはこういう顔のことを言うのだろう。

「マハル、王女似合っているわよ。」アリスが再びニッコリ笑った。

「はぁ?えっ?あ、ありがとうございます、王女殿下も・・・。」マハルはうっかり脊髄反射で言うべきではない世辞を返しかけて、ギリギリのところで踏みとどまった。「何故、わたくしの服などをお召しになってらっしゃるのですか?」

「アナタオウジョ。ワタシメイド。OK?」アリスは良く分からんイントネーションで答えながら、腰紐のあたりをたくし上げ、スカートが床に擦れないように整えた。

「はぁ?は??」

「じゃ。グラディス探しに行ってくるから。ちょっと王女お願いね。」

 王女職の扱いが軽い!

 アリスが飲み会で先に帰るサラリーマンよろしく、マハルとすれ違いざまに片手を振りながら扉のほうに向かう。

「え、あ、は?」

 ようやく王女が何を考えているか理解したマハルが自分の脇をすり抜けていこうとするアリスを見て慌てた。状況の整理と、王女になる自分と、本来の自分の役割とがいろいろごった煮になって頭を渦巻いているのだろう。

「王女殿下。なりませぬ!」最終的に、マハルの頭の中では、王女の願いを聞く+自分が王女になる < なんかあった時のリスク+偉い人に怒られる、の図式が成立したようであった。「ましてや、あんな下賤なグラぐふっ!」

 アリスのみぞおちへの鉄拳がさく裂した。

 今のアリスの動き知ってる。生前に漫画で見た。たぶん縮地ってやつだ。

 マハルは「カハァ」という声にならない声を出してゆっくりと床に沈んだ。

 通常、みぞおち一発で意識が飛ぶほど呼吸困難になることは無いから、よっぽどみぞおちへの一撃が痛くて精神的な防御機構が働いたのだろう。

 まあ、たとえこの一撃で気絶していなかったとしても、アリスは頭の下がったマハルの頸動脈を締める準備をしていたので、結局は締め落とされていただろう。後遺症の残る可能性のある気絶をさせられなくて良かった。そう考えると、気絶って形の防御機構でも役に立つことはあるんだな。

 アリスはマハルの持ってきた縄でマハルをすまきにすると、猿轡をかましてベッドに転がした。

「じゃ、王女よろしくー。」アリスは気絶したマハルに声をかけた。

 もちろん返事はない。

 そして、アリスは自分の食べ終えた食器や何やらをいくつかバスケットに入れると、堂々と自分の部屋から出ていった。


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