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1-16 さいきんの異世界転生

「エルミーネが暗殺未遂の犯人だったんですって」と赤メイドが言った。

 昼下がりのいつもの水場。今日も赤黒茶そろい踏みだ。

 アリスが生きていたこと、毒殺未遂だったこと、犯人が捕まったことについての噂は一気に城内を駆け巡った。ユリシス失踪以来の大スキャンダルらしい。

「知ってる。ちょっと意外よね。やっぱあの王女が気に入らなかったのかしら。」

「それが、、サミュエル様が絡んでいたらしいわよ。」

「やだ、まじで? じゃあ、やっぱジュリアス様の王選のからみ?」

「そうらしいわ。それでサミュエル様がエルミーネをたぶらかして毒を盛らせたんだとか。」

「エルミーネってあの顔が派手な没落貴族でしょ。サミュエル様好きそうだわ。」黒メイドが相変わらず辛辣な声を上げた。

 エルミーネは別に顔も化粧も派手ではなく、むしろナチュラルメイクの美人だったが、それは、日本人としてみた時の判断で、化粧もほとんどなしのメイドたちからすれば十分に派手なのかもしれない。

 まあ、120%ただのやっかみなのだろうけど。

「エルミーネ卿は没落したとはいえ旧ウィンゼルの歴としたご息女でしてよ。」茶色メイドが言った。確かマハルだっけ。

「ウィンゼル領って結構前に農民の反乱で軍が出動したところでしょ?」と黒メイド。

「あーそれで殺されちゃった領主の娘か。有名な美少女だっただけに、それはそれはひどい目にあったとか。」と赤がニヤニヤと下品な笑みを浮かべた。

「たしか、自分の気に入らない農民の畑を領主が燃やしたのが原因だったっんじゃなかったけ?」と黒。「それで領民がキレたっていう。」

「なんか、畑を焼き払う前から、畑に砂まいたり、水に毒を混ぜたりして作物を育たないようにしてたらしいわよ。」赤メイドは自分のもっていきたい話の流れに黒メイドが乗ってこなかったので少し不服なご様子。「ついには、収穫前の作物に火を放って、そんで、農民たちが蜂起したって話らしいわ。」

「気に入らない農民に嫌がらせとか、器の小さい領主ね。」と黒が頷く。

「で、結局、ウィンゼル卿は蜂起した農民に殺されて、その農民たちは酌量なしで国に処刑されて、領地ごと無くなっちゃったって話。」

 エルミーネの父親の話だ。エルミーネの部屋にあった肖像画の人物だろう。

「で、今度は娘がよりによって王女暗殺?」

「そうねー。まあ血は争えないってことじゃない。」

「公爵家とか言ってもロクなもんじゃないわね。」

「公爵ではなく候爵ですわ。位が違います。どちらにしても、その唯一の跡取りですから、あなた達よりよっぽど地位は高くいらしてよ。」と、しばらく黙って洗濯していたマハルが少しムッとした様子で言った。

「そりゃー、侯爵様やエラスティア公爵家のご令嬢のマハル様と比べたら、私たちなんかとても低い地位なのでしょうけれども。」赤メイドが苦笑いしながらマハルから目線をあわさないようにして答えた。ってもしかしてこの茶色メイド、エラスティア公の娘なの?

 マハルは『エラスティア公爵家のご令嬢』という言葉に一瞬ピクリとして、片方の眉を上げた。「もちろん、それもありますが、貴族には貴族の生き方があります。断絶したとは言え、その生き方を全うされた方を責めるのはどうなのですか?あなたたちだって名家の端くれでしょうに。」

 (洗濯してる人間が言う言葉じゃないわよね。)と黒メイドが赤メイドに小さく耳打ちした。

 その言葉が聞こえたマハルがキッと黒メイドを睨んだ。黒メイドが慌てて洗濯に没頭しているふりをする。

「まあ、これからわたくしはお二人とは気軽にお話しづらい立場になってしまいますけれど、家柄が違ってもお二人とはお友達でしてよ?」マハルは最後の洗濯物をカゴに入れ立ち上がった。そして、スカートの端を洗濯カゴを持っていないほうの手でつまんで、貴族がやるように膝を軽く曲げて優雅な挨拶をすると、赤黒メイドを残して去っていった。

「なにあれ?」と黒が感じ悪そうにつぶやく。「ちょっと、家柄が良いからってムカつくわ。久しぶりじゃない。ああいうタイプ。」

「エラスティア公の血縁っていっても、エラスティア公爵家に連なる『どっかの貴族』のご令嬢なんでしょ。」と赤。

 なんだ、そうなのか。

「エラスティア公の関係者だったら当然私の耳に入ってるはずだわ。」

「あんたも大概よね。」

「ともかく、エルーザの件があったのに、また、近い血縁をこんなところに寄こすわけないし。」

「あー、もしかして、」黒が得心の言った様子の声を出した。「マハル、ここに来た時ずいぶんエルーザの事知りたがってたじゃない?自分もエルーザみたいに扱ってもらえるとでも思ってたんじゃない?」

「それだ! ありそう。」赤も面白いことに気づいたかのように応じた。「エラスティア本家に対して、なんちゃってエラスティア系列のご令嬢のやっかみって、ちょっと面白くない?」

「そう考えると、めっちゃ家柄アピールしてるの笑える。」

 二人は何の笑いかよくわからない笑い声をあげた。

 そして、ちょうど洗濯場を通りかかったメイド長に怒られるのだった。



 あの会合が終わったあと、アリスは部屋に戻って食事をとることができた。

 が、エルミーネはもちろん、グラディスもどこかに連れていかれ、その後アリスの元へは戻ってこなかった。

 エルミーネはもちろん逮捕、グラディスはサミュエルのあいびきを手助けしたため追放になるとのことだ。

 それは、アリスの知らないところで決まり、別れを惜しむことすら許されなかった。

 王の使いがグラディスの処分について知らせに来た時、アリスは激怒し、国王に直談判しようと部屋を出たが、前もって配置されていた兵士たちに止められて断念せざるをえなかった。

 兵士たちは毒殺されそうになったアリスを守っているのか、グラディスやエルミーネを探しにアリスが出歩かないか見張っているのか解らないが、24時間、アリスの部屋から少し離れた階段のあたりに交代で張り付いている。

 その日と次の日は年かさの背の高いメイド長がグラディスの代わりにやってきて、無機質にアリスの食事を用意していった。アリスのほうも特に彼女の相手をしようとしなかった。


 結局、グラディスは来なかった。


 ちなみにグラディスに関しては、城内の彼女の部屋に見張りをつけられて幽閉されていることをゴリで確認してある。まだ、城外追放にはなっていない。

 アリスはこの二日間、不貞腐れたように誰とも話さず、ジャージのような服装でナメクジのようにダラダラと過ごした。時おりいつも読んでいる例のまじめな本を読んだりはするものの、ごろごろと寝転がったまま読んだり、机の上にだらしなく顎をついたりと、グラディスといっしょに背骨がどこかへ行ってしまったかのようなありさまだった。

 そして、アリスはめずらしく食事を少し残した。

 最初は、グラディスとエルミーネが居なくなって落ち込んでいるか、拗ねているのか、はたまた毒の影響が残っていてまだたくさん食べれないのかと心配したが、残したものをよくよく観察したところ、ピーマンやセロリなど匂いのキツイ野菜の入っているものだけが残されていることに気が付いた。

 こいつ、嫌いな物残してるだけだ。

 おーい、グラディス戻ってきてくれ。この子ダメな子だ。

 グラディスの居た時もピーマンが入ってたことは何度もあったけれど、ちゃんと平らげていたから、もしかして今まではグラディスの手前食べていたということだろうか。




 広間での一件から二日後の朝、エルミーネの名前がコンソールの感染者リストから消えた。

 エルミーネに視点を移そうと試みたが、それは二度と叶わなくなっていた。

 アリスには、エルミーネは追放された、とだけ知らされた。

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