1-13 さいきんの異世界転生
いつもの洗濯場。
「ねえねえ。」赤メイドが黒メイドに話しかけた。「ルイーズ様の飼ってらっしゃったシェパードいるじゃない?」
「あの、バカみたいにおおきな犬のこと?馬みたいな。」黒メイドが答えた。
「それ。なんか二頭とも死んだんだって。病死みたいなんだけど、いっぺんに二頭じゃん。毒殺じゃないかって。」
「あら。」一瞬、黒メイドが目を光らせた。「でも、犬なんか毒殺して、なんになるの?」
「さあ。私が思うに、」ここで、赤メイドは聴いてとばかりに黒メイドに顔を寄せて声のボリュームを落とした。「サミュエル様があんなじゃない?」
「あんなってどんなよ」
「ほら、入り婿でルイーズ様と比べたら権力無いじゃない?しかも、財布のひもも握られてるらしいのよ。」
「そう言ってもベルマリアの御曹司でしょ。王の義理の弟のわけだし権力もそこそこあるし、お金だって不自由してるとは思えないけど。」
「それが、サミュエル様、メイドたちに結構手を出してるって噂でしょ。うっすらばれてるらしくって、ルイーズ様さまからもベルマリア公爵からも資金凍結されているらしいのよ。」
「あら、そうなの?」
「それで、資金繰りのために悪い商売に手を出しているらしくって、その仲間たちがやったんじゃないかと思うのよ。」
「何のためによ。」
「例えば、分け前をめぐって報復とか?もしかしたらサミュエル様が仲間たちが城に盗みに入りやすいように殺したんだったり。」
「なにそれ。怖いわ。」
たぶん、サミュエルが毒の効果を試したんだろうな。
ここ2日、黒幕が確認できたので、エルミーネから離れて、城の中でサミュエルやエルミーネの情報を集めている。
サミュエルのさらに上の黒幕は居なそうだ。
ルイーズは相変わらずの教育ママさんでアリスはおろかサミュエルにもほとんど興味を持っていない。
城内にはサミュエルと強く結びつきのある権力者は居ないようだった。しいて関係性のある人物を挙げるなら、父親のベルマリア卿という人物だが、女性問題ばかり起こしている息子にはたはた呆れかえっているらしく、今は孫のジュリアスが大事で息子はもはやどうでもいいといった感じらしい。
さて、グラディスはどうなったか。
サミュエルとエルミーネの逢瀬の現場に現れたグラディスは、二人に命じられ、彼らの汚れた下着やハンカチを回収し、代わりに、朝の馬車でエルミーネのメイドが抱えていたバスケットを渡した。バスケットの中には代えの下着や化粧道具が入っていた。グラディスはどうも、彼らの逢瀬の片付けを受け持っているだけのようだった。
いちおうあれから2日の間気をつけて様子を見ているが、グラディスがアリスに何かをしてる感じはない。ただ、二人の下着と汚れたハンカチを洗って畳んで自分の部屋にしまっただけだ。いつかエルミーネのメイドに返すのだろう。
たぶん大丈夫だと思う。グラディスは白だ。
グラディスまで毒殺に関与していたら、この世界の人間を誰も信じられなくなりそうでやってられない。
グラディスは潔白で、ただ、二人の後片付けを命じられているだけだと自分に言い聞かせる。
さて、エルミーネがサミュエルに毒を催促してから二日が経ち、ようやく毒が届いたので、今日のケーキからまた毒入りだ。
そして、今日は授業が終わり、ケーキの時間になったというにも関わらずアリスは不機嫌だった。
原因は明確。
楽しいおやつの時間に合わせるようにアルトが来たから。
「あげないわよ?」アルトがグラディスに通されて入室するなり、アリスは眉間にしわを寄せて何よりも先にケーキをかばった。
むしろあげてくれ。それで割といろいろ片付くから。
「開口一番なんだい、アリス君は。・・・おいしそうだね。」アルトがアリスの前のケーキに興味を示した。今日はチョコレートケーキだ。
「だから、あげないって。」アリスが抱え込むようにしてケーキを守る。
「よろしければ、今度アルト先生の分もお持ちしましょうか?」エルミーネがニッコリと笑って社交辞令を口にした。
「ほんとですか!それでは是非!」アルトがその社交辞令に喰らいついた。「明日でも宜しいでしょうか?」
その成りで、甘いの好きなのか?てかボディービルダーにケーキって厳禁そうだけど。
「ええ、是非。」エルミーネが苦笑いしながら、仕方ないといった感じでOKを出した。
「えー。」アリスが口を大きく開けて本当に嫌そうな顔をしてエルミーネに不満をアピールした。そんなアリスを見てエルミーネはますます苦笑いする。
「こんなおいしそうなケーキ、毎日だって食べたいですぞ。」と、アルト。
「毎日はご遠慮ください。」エルミーネがピシャリと言い放ち、アルトはちょっと小さくなった。
アルトはいちおうアリスの容態の経過観察に来たらしい。
「いつもより、遅いじゃないの?」
「アリス君、もう元気だし。今日はちゃっちゃと見てちゃっちゃと帰ろうかと。」
医者がそんなこと患者に言っちゃだめ。そういう時もあるみたいだけどさ。
「あぁん?」アリスは物騒な声を上げたが、ケーキを抱えているので武力行使には出ない。
アリスはアルトを警戒しながらケーキを食べている。アルトもそれを解ってか、わざとらしい動きをし、そのたびにアリスがピクリと反応する。なんか昔ネットで見た、子犬にご飯を取られないようにして食べている猫の様だ。
それにしてもアリスは毒が増えてきてることにまったく気づいた様子はない。今回はさらに倍みたいな使われ方をしているのだが、味とか少し変わっていないのだろうか。それとも舌バカなのだろうか。
気になったのでエルミーネ視点からアリス側に移動する。
ケーキの味が伝わってきた。普通のケーキの味だ。すごいな。まったく無味無臭の毒なのか。
毒の量が増えてくると対処にかかる時間が長くなる。自分の活動が頻繁になるとアリスにダメージが行きかねない。それに、エルミーネやサミュエルがこの毒が効かないと判断したときに、いつ別の毒になるか。そして、次の毒に自分が対応できるとは限らない。
まったく、どうして皆、この暗殺未遂のさなかのんきにしてられるのか。
まあ、自分が未然に防いじゃってるからなんだが。
自分がアリスを守り続ける限り事件化しないというジレンマ。
アリスがケーキを食べている間、アルトは特に誰かに聞かせるでもなく病気の話をしていた。病気の話というか自分の薬の自慢だ。
「絶対にしばらくは大丈夫。病気は体内に取り込まれてからしばらくしてから症状がでることが多い。病気の動きは遅いから。時には一週間とかざら。薬も同じ。時には1年以上服用して体にしみこませないといけない。それを注射一本でここまで元気にしちゃった訳だからね。わかります?」アルトは、アリスに露骨に無視されたので話の最後でいきなりエルミーネに同意をもとめた。
「え?ええ、素晴らしいですわね。」エルミーネがとりあえずといった感じで同意した。たぶん聞いてなかったな。
アルトはそれでも満足といった感じで「そうでしょうそうでしょう。」と鼻息も荒く胸を張った。
「あんたが居ると消化に悪そうだわ。」アリスが呆れた様子で声を上げた。
「あっはっは。そんなことで消化は悪くならないよ。」
いや、なるぞ。
アルトは、アリスの悪態に全く気付いた様子もなく、今度は消化について知識をひけらかし始めた。
「そもそもケーキって消化には悪いんだ。バターとかそのケーキのチョコレートとかね。油分が多いからね、うんこになるまで10時間くらいかかるんだ。もし他の理由で消化が悪くなっていたとしたら、体力が落ちてるのかもね。体力が落ちると消化が遅くなるから。アリス君も病気で倒れてた時に1日寝てても起きてすぐには、うんこしたくないだろ?」
チョコレートケーキ食べてる最中にうんこうんこ言われてキレたアリスが、アルトの顔面に回し蹴りをたたき込んだ後、彼を部屋から蹴りだした。
アルトは回し蹴りで多少くらくらした様子だったが、扉を出ながら「では、また明日。」と言いながら出て行った。あいつ本気でケーキを食べに来るらしい。
ん?ケーキを明日食べにくる?
あ、これれもしかしてアルトに毒殺の事を気づかせるチャンスじゃないか?
明日アルトとケーキ食べはじめたタイミングで毒を解放する方法はないだろうか?
アルトのことだしアリスの具合が悪くなっても、間違いなく、病気のせいじゃないと言い張るにちがいない。そしてアルトがその方向で調べれば、もしかしたら毒の存在に気づいてくれるかもしれない。そこまでいかなくても、アルトが病気じゃないと言い張れば、サミュエルとエルミーネは警戒して毒を盛りづらくなるはずだ。
ちょっと、後半都合のいい流れな気もするが、少なくともこのままではアリスが毒を盛られていることにいつまでも気づいてもらえない。
アルトの指摘の通り、消化に悪そうなバターとチョコレートたっぷりのケーキだ。アリスの体調を落とすことで消化を遅らせることができれば、ちょうど明日、アルトの前でケーキを食べている時間にアリスの具合を悪くすることができるかもしれない。
自分はコンソールから、アリスのステータスバーを開き、VITの項目を少し下げた。
次の日
消化を遅らせる作戦はうまくいったようで、昼頃になってもまだ消化器官から入ってくる毒の数は衰えなかった。
夜間、アリスの寝ている間、気絶しないレベルでがっつりVITを落としていたのが功を奏したと思われる。
アリスは朝方は胸やけがひどく、朝ごはんを抜き、ようやく昼食ごろになってすこし胃が空いてきたようだなので、砂糖入りのおさ湯を飲んだ。正直食べ物を食べれないわけではなかったが、エルミーネの持ってくるケーキのために、おなかを休めておくつもりの様だ。アリスはおさ湯を飲みながら、グラディスに胸やけはアルトが来たせいだとさんざん愚痴っていた。
ケーキが小腸や大腸で処理されるにしたがって毒が徐々に体内に吸収されてくる。これら毒に対して自分は早めに対処するようにしている。昨日の夜からじりじり体に取り込まれてくる毒への対応がずっと続いていた。このまま毒の吸収が授業の終わりくらい、エルミーネのケーキを食べる時まで続けば良いのだが。
毒への対処を進めながら、時々アリスの状況も垣間見るようにする。
昼食後、いつものように扉が開いてエルミーネより先にアルトがやって来た。すごくワクワクした様子だ。こいつ、本気でケーキが楽しみらしい。
アリスが早く来すぎだとアルトに文句を言っているところに今度はエルミーネが到着。
エルミーネは早々にケーキをねだるアルトをいさめて、授業が終わるまでおとなしく待たせた。
授業が始まると、目に見えて吸収されてくる毒の数が減り始めた。
頼む、もうちょっと頑張ってくれ。エルミーネは昨日、結構な毒を入れていたはずだ。まだ頑張れるだろ。と、心の中で敵方にエールを送る。
そんな思いむなしく、毒の吸収がほぼ止まってしまった。もう目の前にいる数十の毒を倒したらすべて終わってしまうところまで追いつめられてしまった。いや、追いつめているのはこっちなんだけれど・・・。
もうダメかな、と思い始めた矢先、幸いにもいつもより早く授業が終わった。
椅子に座った大男がずっと隣でソワソワしていたため、アリスが、そしてエルミーネまでもが、イライラして授業にならなくなったからだった。
エルミーネがケーキを取り出したので、自分も毒への防衛を止めた。残り数十個の毒が攻撃を止めた自分たちには目もくれず、どこかを目指して進み始めた。
そういえば、最初は自分も別の細胞に対して反撃は出来たが自分からは攻撃はできなかった。毒もそれと同じなのだろう。
毒の行方は各地に散らばらせた細胞でいつでも把握できるのでほっておいて、ネオアトランティスのほうに視点を合わせ、アリスたちの様子を見つめることにした。
「アリス君のイチゴが乗ってる・・・。」
ネオアトランティス視点になって最初に耳に入って来たのは、グラディスがお皿に取り分けたケーキを見たアルトがうらやましそうにあげた声だった。
アリス用のケーキとアルト用のケーキでは乗ってる果物に明確な差別があった。
アリスがニヤリとしてアルトのほうを勝ち誇った目で見やった。
「それに少し大きい。」大きなマッチョが小さなケーキを見ながらつぶやいた。「アリス君、交換しよう!」
「アルト卿!はしたないですよ!」エルミーネが珍しく声を荒げた。「ケーキが小さいんでなくあなたの器が小さいのではないですか?」
「じゃあ、半分こして交換しよう。」アルトがフォークでケーキを半分に切った。って、こいつ明らかに片っぽ小さく切ったぞ。意地きたねぇ・・・。
「なんで交換なんてしないといけないのよ。むしろ、あんたが一方的に寄こしなさい。」
二人はお互いケーキを奪われないように警戒しながら、自分たちのケーキを口に入れた。一口食べた瞬間、二人とも今までの喧騒はどこへやら、にんまりと頬が緩む。
「エルミーネ殿。これは素晴らしいケーキございますな。」アルトがエルミーネに言う。そういえば、こいつアリスには敬語使わないのにエルミーネには敬語なのな。「甘すぎず、そしてジャムの風味豊かだ。」
「そうなのよ。」アリスが珍しくアルトの会話に乗っかった。「毎日これが楽しみなの。」
二人はケーキとそれを持ってきたエルミーネに惜しみない賛辞を述べながら、ケーキをどんどん平らげていく。
アルトのケーキがなくなってしまった。
まずい、毒の効果出てくるの間に合わないかも。
アルトは自分のケーキを平らげると、今度はアリスのケーキを狙い始めた。
アリスは慌ててケーキの皿を持ってアルトの魔の手からケーキを逃がす・・・と、アリスの動きが止まった。アルトが隙ありとばかりにケーキを皿ごとアリスの手から強奪した。
子供かよ。
その瞬間、アリスが嘔吐した。
からかい半分でケーキを奪ったアルトは一瞬固まるも、ケーキの皿を乱暴に机に投げ捨て、慌ててアリスに近寄った。
放り投げられた皿からケーキがはずみで飛び出して床に転がる。
少し離れていたグラディスがアルトに一寸遅れてアリスに駆けよろうとする。
「触るな!特に吐しゃ物。感染防止だ!!」アルトが声を荒げて叫んだ。
大男の大声にグラディスとエルミーネがびくりと身を震わせて静止した。
意外にもきちんとした対応だ。この男は時々きちんと医者をする。
「うつらないって言ったじゃない。」アリスがアルトに対して絞り出すように言った。その声は力ない。苦しいからか、それとも、悔しいからなのか。
アルトがアリスの背中をさすりながら落ち着かせるかのように、「そうだ、うつらない。大丈夫だ。」とささやいた。
そして、その大丈夫だという台詞がアリスの耳にすべて届かないうちに、今度はアリスが吐血し、気を失った。
自分の吐きだしたケーキの残骸に頭から倒れ込みそうになるアリスをアルトは片手てうけとめ、軽々と抱え上げた。
「まず、吐しゃ物から離れて。うかつに触ると感染する恐れもある。部屋を移そう。グラディス、近くにベッドのある部屋は?」
「お隣に予備のご寝所があります。」グラディスが慌てて答えた。「アリス様。」そう言ってアルトの抱えているアリスに近寄ろうとする。
「ダメだ!!近づくな!」アルトが怒鳴った。「うつるかもしれない。」
アルトの怒号に押されてグラディスが止まる。「うつらないはずですよね。」そう言ってグラディスは怒気に満ちた目でアルトを睨みつけた。
「そんなことより、早く、ベッドのある所へ。」アルトはグラディスの言葉には答えずに案内を促した。
グラディスは一瞬目を大きく開いただけで振り返った。「こちらです。急いで。」とアルトの案内を始めた。
「エルミーネ殿も早く。」アルトがエルミーネに声をかけた。
エルミーネは突然の事態の急展開にものすごく怯えているようだった。自分の居る時に毒が効き始めたのだから当然か。もしかしたら、この吐血がアリスの病気によるものだと思っているのかもしれない。
自分も状況を見ている場合じゃない。毒のことを甘く見ていた。
意識の全面を対毒対応に切り替え、アリスの体内から毒を探し出す。
毒はアリスの身体のどこか、白血球たちの残骸の中心で集まって、身を震わせながらどす黒い瘴気を放っていた。ここが彼らの目的地だったらしい。
鮮血の吐血だったし、ここは食道か肺なのだろうか。遅効性の毒ということを考えると、血を吐いたのはその前の嘔吐で食道を切ったせいで、毒自体はどこかの臓器に取りついているという線もありうる。
ただ、スキルで【症状】とかある世界だ。この毒が【吐血】のスキルを持っているってだけの事なのかもしれない。そう思って、ここがどこかを考えるのは止めた。
この毒の瘴気はアリスだけでなく菌である自分たちにも大きなダメージを与えた。今の毒は小腸周辺で戦った時と比べ物にならない。近寄ることすら難しい。
しかし時間を割いてはいられない。慌てて手近の細菌を集める。菌海戦術だ。
先頭の細菌を密集させ盾にして、それが死ねば次の列の細菌が盾になり少しづつ毒との間合いを詰めていく。ようやく10列目の細菌が毒のもとへたどり着いた。あとは圧殺するのみだ。
1時間くらいの戦いだった。この戦いで実に10000もの細菌が命を落としたが、アリスさえ無事ならぶっちゃけどうでもいい。
毒の対応が終わり、すぐ、今度はエルミーネに視点を移す。
エルミーネはグラディスに案内されてきたと思われる6畳くらいの部屋の入り口近くに居た。
反対側の壁のあたりにベッドがあり、アルトがベッドの上に横たえられたアリスを診察し、グラディスがそれを隣で心配そうに見ていた。
アリスの顔が土色でヤバい。
アルトの顔色にも余裕がない。
不安になった自分は慌ててアリスの中に戻って、もう一度、体内に毒が残っていないかを確認する。
なし。
毒の効果が分からないから、やらかしてしまったのかもしれない。もし毒の持っていたスキルが【内蔵の損傷】みたいなのだったらどうしよう。
アルトがグラディスに離れるように言ったが、グラディスは一切応じる様子もなくアリスのベッドの脇に跪いた。そして、アルトの診察が終わったと判断して、アリスの手を取って握った。
エルミーネは壁際で離れておびえているようだ。
アリスは身じろぎもしない。
もう一度アリスに戻り確認する。
生きている。
今までの気絶では完全に五感がシャットアウトしていたが、今回は違う。苦しい。
自分がアリスにできることはもうない。後はアリスの回復力とアルトの治療を頼るしかない。
・・・ほんとにないか?
頭をフル回転させる。コンソールを何度も開く。
スキルポイントは?今持ってるスキルは?パラメーターを上げられないか?
ダメだ。
やっぱり自分にはアリスのためにできることはもうなにもない。
いや、まてよ?
今、ここには、アリス、エルミーネ、グラディス、アルトが居る。
アリスの回復に関してできることはないが、アリスのためにできることはある。
必死でアリスに声をかけるグラディス。
一生懸命にアリスを観察しては自分のカバンの中を漁るアルト。
気をつけろ、と言っておきながらアルトの服にはいくつもの吐しゃ物の跡がある。グラディスもしかりだ。
アリスについてはアルトとグラディスに任せるしかない。
アリスをお願いします。
アルトもグラディスも必死だ。
自分も全力を尽くす。絶対にアリスを守るのだ。
しかし、次の日の朝。
アリス死亡の知らせが城中を駆け巡った。