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お姫様は『へんな奴』を平気で連れてくる  作者: 厚狭川五和
第2章「6人の侍女」
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第7話「黒色は何色にも染まらない:後編」

 昔から俺は興味が薄く、重要視していたのは誰かを守らなければ孤独なるということぐらいで仲間がどんな者なのかを気にしたことはなかった。

 故に深く関わろうともしなかった。

 この城に来て初めて性格や趣味を気にするようになったのだ。

 だから俺は知らないことの方が、いや、目を瞑っていたことの方が多かったのかもしれない。


「ローゼ! そちらに他の三人──いや、ユキを含めた四人はいるかい!」

「リデル? いや、ユキはいるがここにメアはいない」

「今は姫様と教場にいるんだけど城の堀を飛び越えて四体の魔物が侵入している!」


 通信用のスフィアと呼ばれる球体の魔法によって映像を送ることのできる物質に急に映りだしたリデルが焦りきった表情で状況を捲し立てた。

 それは、本当なのか?

 俺が張った結界は雑魚と呼ぶに相応しいような魔物では破れないほど強力なものだしメアも協力していたから簡単に突破されるなんてことはあり得ない。

 それこそ、誰かが穴を開けたとしか……。

 まず穴を開ける以前に魔物が侵入してきたのは何故だ?

 今までは侵入してくるどころか近づいてくることも少なかったはずなのに誰かが招き入れているとしか……。


「貴様が結界を張ったと聞いていたんだが?」

「ああ。しかし毎日、何回か結界の状態を目視で確認していたが綻びなど無かった。たった今、何者かが魔物を呼び寄せて結界を破ったとしか」

「貴様よくも戯言を──!」

「待って。ユキさまじゃないよ」

「それは分からないだろう! こいつ元は森にいた獣なのだから姫様を連れ去るために面倒な手順を踏んでいたかもしれないんだ!」

「ううん、ユキさまは面倒な手順を踏める人じゃない。自分が一番に楽をして確実に勝てる方法、ユキさまはそれを好むから」


 エリス、お前は……。

 たしかに言うとおりだ。

 俺は楽をしたい。でも負けることは許されないからと確実に勝ち目のある手段を用いて、なおかつ無駄は省きたい主義だ。

 故に確実性を取るなら魔物など使わない。

 俺こそが信じられる存在なのだから。


「ローゼ、言い争っている場合ではないよ。姫様は命に換えても僕が守るけど君たちも無事で、しいてはメアも無事でなければ姫様が悲しむんだ!」

「それもそうだが……」

「今はユキを信じるんだ! 僕の見立てが間違っていなければ侵入したのはA級が一体とC級が三体、申し訳ないが僕はここを動けないし君たちのうち誰かにメアを探してもらわなくてはならない!」


 それって、どういう意味だ。

 誰もメアの居場所を把握していないのか?


「っ! エ、エリスが探しに……!」

「少し落ち着け。まずA級やC級というのは何だ。魔物に対して区分があるのか?」

「ユキ、今はそれどころじゃないのを分かっているのか?」

「それどころだ。忘れたのか? 俺は魔物として強いと自負があるつもりだ。それこそ雑魚には負けない程度には」


 俺が動けば大抵の魔物は始末できる。

 問題は人間がどのように対応しているのかを知らないまま戦って俺では勝ち目のない戦いになってしまうことだ。

 俺が勝てなければエリスが最後の砦。

 この現場を一刻も早く離れてジェラートの元へ向かわなければ王の首を取られて終わり。

 それでは意味がない。

 何より敵わないと分かっているなら俺はジェラートだけでも連れて逃げ出さなければいけない。


「ユキ、君の言うとおり人間が定めた強さによる区分だ。C級が下から二番目で一番上がS級だ。ちなみに僕の判断だとユキはA級以上であると考えている」

「高い評価、恐れ入る」

「そこでローゼが許可をくれるならばユキをメアの捜索にあたらせてほしい。メアを探しに行くということは即ち、魔物はもちろんだが首謀者とも鉢合わせる可能性がある。この場においてA級討伐者の資格を持っているのはエリスだけなのだから無闇に前に出すものではないと思うよ」


 それは名案だ。

 俺ならば匂いで嗅いだことのある者の場所ならば把握できるから迷うことはなく、さらに俺自身がA級であると言うならば同じA級の魔物を討伐できるということになる。

 首謀者が人間ならば魔物ほど恐ろしいものはないはずだ。

 おそらく、エリスを相手にするよりも俺を相手にしなければならない状況の方が戦意を喪失するだろう。


「俺もそれに賛成だ。俺はローゼがどこまで動けるのか知らないからエリスが残った方が合わせやすいだろう。それに、今の状況でローゼは俺と二人きりになりたくないはずだ」

「調子に乗るな! メ、メアの所へ危険かもしれない魔物を送るくらいなら残らせた方がましだ!」

「っ! 仲間想いだな。お前の小言は嫌いだがそういうところは嫌いではない」

「ユキ、お願いしてもいいかな。姫様と籠城してる僕が言えたことではないけれど」

「気にするな」


 俺は通信スフィアに自分の顔が映るようにして精一杯の凶悪さを表現するように牙を見せ鋭い眼光で睨み付けた。


「むしろ俺が戻るまで絶対にジェラートに傷を付けるな。ジェラートのことはリデルに任せる」

「…………僕も君の惚気話を聞くのが楽しみなんだ。くれぐれも君の手で僕が殺されることのないように頑張るよ」


 ジェラートの言葉は本当だったな。

 あの雌だけではなく、しっかり皆の信頼を得ることができたならば孤立する(さみしくなる)ことはない。

 頼られて頼って、後のことを考えていられる。

 これが幸福なことなどと俺はこの城に来るまで知る由もなかったのだろうか。

 いや、知る機会を拒んでいたのかもしれないな。


「ユキさま、一人で大丈夫?」

「心配するな。俺は契約は守る雄だ。お前はそこのローゼをしっかり守ってやれ」

「分かった。メアのこと、お願い」

「………………ふざけるなっ!」


 ローゼは拳を握り品性もないような声で叫ぶと俺の胸ぐらを掴んだ。

 もはや胸の体毛を引き千切るような掴み方で。


「メアにもしものことがあったら許さないからな! 姫様も貴様を信じているんだ!」

「言われなくても分かっている。あの雌は俺がお前らに疑われて居場所を失くしそうになっていた時、真っ先に救いの手を差し伸べてくれたようなやつだ。絶対に連れて帰る。そうすればお前らも、ジェラートも笑ってくれるか?」


 弱々しいが肯定が帰って来た。

 俺はそれを受けてエリスの部屋から出ると一直線にある場所へと向かった。

 メアが好きそうな場所も隠れられるような場所も知らない俺は混乱の現況を探した方が早いと考えたのだ。

 あの雌もジェラートを慕っていた。

 ならば、何をするのが最善なのか判断したならば単独になろうと混乱を引き起こした存在を真っ先に探すはず。ジェラートに笑って過ごせる状態にしたと帰ってくるのがメアだ。

 ならば俺はその考えを読むだけ。

 俺は先日の侵入者を捉えていた地下牢を訪れると真っ先に侵入者だった雌がいるものだと考えて声をかけた。


「お前ら、まだ何か企ててい、る…………の…………か?」

「貴様に捕まるまでも作戦のうちだ。それに貴様が恨むべきは我々ではないはずだぞ?」


 突然気力を失って倒れた俺は残されているわずかな力で頭を持ち上げるとやや後方に立っていた雌に目を向ける。

 ………………メア?

 俺の方が先に地下牢に降りてきていたのか……。


「エリスちゃんが来ると思ってたのに……何で、なんでユキちゃんがここに来たの?」

「おま、え……なんで……!」

「私たちには色があるの。そこにいる子がレッドで陽動とか騒ぎを起こすのが担当で、ここにいない子がブルー。騒ぎの離れてる場所で本命を請け負う担当だよ」


 そんな、まさかだよな。

 お前までジェラートを殺すことに賛成していたとかそういう、馬鹿みたいな話をしようとしているわけではないだろうな?


「私は黒なの。メアだから悪夢とかそういう意味かな。皆を騙して失敗した時の仕上げをする担当」

「俺に当ててほしい秘密、これのことなのか?」

「そう、だね。でもごめんね? 猶予を待つ前にブルーが行動しちゃったからさ」

「メア、これ以上は結界を開いておいても魔物が入ってこないとブルーから連絡があった。その魔物をさっさと動けないようにして私たちも向かうぞ」

「うん。わかった……」


 メアはそう言って俺の手を上から地面に押さえた。

 ちがう、ただ押さえたわけではなさそうだ。

 俺の右手が地面に押し付けられてから数秒ほど経つと地面に魔方陣が浮かび上がり目には見えないが鎖のようなもので拘束されたような感覚が伝わり始めた。

 メアの『対魔戦闘』担当の意味、こういうことか。

 魔法に関しての天才だから故に魔物の魔力を分散させて強化していた力を打ち消したり、種族によって異なる有効な攻撃手段を見定めて戦える、と。

 本当に、それだけか?

 俺には何か複雑な、メアだけが隠し持っているような潜在的な一面があるものだと考えられるのだが。


「姫様を殺したらちゃんと解放してあげるから大人しく待っててね。ユキちゃんみたいに本能が強い魔物だと片腕を封印されただけでも防御反応が出て動けなくなるでしょ?」

「お前はジェラートが好きだと言っていた。あれは嘘なのか?」

「何の話かな」

「知らないと言うならばエリスに対して言ったことは? 何かを守る必死な姿を好きだと言ったはずだ。それは自分にはできないから言ったのではないのか? もしくは、自分にはそれをしてくれる者がいなかったから」


 これでメアが裏切り者だとしたら足止めができる。

 他に魔物が解き放たれているのだとしたらメアを向かわせてしまったらエリスでは対応できないのだ。

 俺が止めなければいけない。

 それに、聞いておかなければいけないこともある。


「そういえば知っているか? 俺が暮らしていた森で一匹だけ人間の臭いがする魔物がいて、そいつは森の中で差別的な目を向けられて生きていたことを」

「……………………」

「俺はそいつの力にこそなろうとはしなかったが確かに魔物としての匂いを持っていたから仲間として、共に生きている者として認め不幸に見舞われるようなことがあれば救うつもりだった」


 しかし、俺の力は及ばなかった。

 俺一人が考えられる仲間の数には限度があり、誰がどこで何をしていて誰に何をされたのか把握をできるほどの能力もなく、一部は俺の手の届かないところで死んでいった。

 その一匹も同じだ。

 俺の知らない場所で人間に連れていかれた。


「俺は悔しかった。俺が森に実害がない限りは動こうとしなかったから守れなかったのではないか、と悔いていた」

「なら、森から出て助けに行けばよかったのに」

「そうだよな。ああ、その通りだ。俺が森から出て助けに行けばきっと助かったかもしれない」

「……これ以上は臆病者のユキちゃんと話してても埒が開かないだろうからメアちゃんは行くか……ら?」


 メアは言葉を遮られたように飲み込んだ。

 足を止めざるを得なかったのも同じ理由。

 臆病、そのような評価を受けるようなものが自ら危険に飛び込む真似などしないと思っていたからこそ、予想外な出来事が起きてしまったから考えるのを止めてしまったのだ。

 俺の手が、メアの腰に巻き付くようにして身体を抱き締めたから。


「臆病だったのは認める。俺が森を出たら秩序が崩れるかもしれない。人間に焼かれてしまうかもしれない。そう考えたら一歩も動き出せなかった。憎いな、あの時の俺は」

「ユキちゃん? そんな臆病な(おとこ)の子じゃメアちゃんを振り向かせられないよ?」

「そうだな。お前ほどの(おんな)は臆病で意気地無しな俺には懐いてくれないだろうな」


 しかし、言葉とは表面上であり俺は離そうとしない。

 逃がしてたまるか。

 今度こそ俺の手の届く範囲から外に出して、俺が救ってやれない場所まで行かせてたまるか。


「ユキちゃん本当にしつこいよ!」

「お前ほどの雌になると一回や二回は突っぱねられるのは百も承知だ。強く美しい雌は何度でも、それこそ嫌われるのも覚悟で何度も殴られるくらいに想ってやらなければ届かない」

「っ! だから離してって…………!?」


 今さらだよな。

 守ってほしい時に守ってやれなかったのに今さら大切にされたとしても許せないだろうな。

 だから、このくらいの覚悟を見せないと……嫌だよな。


「ユキちゃん右腕はどうしたの?」

「邪魔だから捨ててきた」

「嘘でしょ……? あの魔法はユキちゃんの右手を杭で打ち付けるようなものだから右腕は動かなかったはずだし左腕も足も痛みに対する反射で動かなくなるはずなのに……!」

「あの痛みにも逆らえず屈してるような雄ならお前は振り向かない。自分で動けない痛みだけを受けている腕を切り落とせるくらいの覚悟が無ければ、な」

「っ!」


 メアは突然ダメージも受けていないはずだがその場に座り込んだ。

 当然だろう。

 メアは……そういう雌なのだから。


「あっ、ユキちゃんだめだよっ!」

「ふんっ! 初めから気づいていたと言えば嘘になるが俺の顔を押し退けたりした時の匂いを違えるはずがないだろう」


 俺は嫌がるメアを押さえ込んで両腕に巻かれた白い布を牙で引き裂いた。

 そこから出てくるのは俺と似たような……否、俺とも人間とも違う腕が現れる。


「俺の森から消えたお前は人間と魔物の間に産まれた亜人種だ。俺はそれでも仲間として受け入れていたつもりだが別の誰かに追い出されたお前は魔法で両腕を封印して人間に紛れ込み今に至るというわけだ」

「ひどいよ……あの時は助けてくれもしなかったくせに! 何で今さらメアを雌にしようとするの!」

「甘えるな!」

「ひっ!」


 俺が吠えるとメアは反射的に動けなくなる。

 心の底から恐怖を感じているのか足の間からじわじわと何かが地面を濡らしている。


「誰かに追い出されたのは事実だろう。俺は森で弱い雌を追放したと騒いでいたものを罰したからな。しかし、それに歯向かわず自ら森を抜けたのはお前自身だ! お前は元より俺に近づこうとはせず誰とも話さなかった。自分が半端者だからと誰かに関わることを拒絶していた!」

「そ、そんなことは……っ!」

「雌にマーキングをして服従させる理由を知らないのか? あれは自分のものだと主張し他の雄から守るためのものだ。それは如何なる状況においても変わらない! 何より森では俺が一番なのだから俺が負けさえしなければお前は守られ続ける立場になることができたはずだ!」


 そう、守られること拒絶したのはメアの方だ。

 俺にも救わなければいけないという責任はあったが自分から離れていったものを追いかけ回してまで救わなければいけないなんて馬鹿な話はない。


「でも、もう遅いよ……!」

「遅くない。お前が黒で何色にも染まらないというなら俺が塗り潰す。お前が、ジェラートを殺させようとした人間に守られなければ生きられないと言うならば俺がお前の新しい盾だ。お前は他の誰に守ってもらう必要もない」

「いいの? ()()()、こんなメアみたいな雌を……」

「守るのと選ぶのは別だ。言うなればジェラートにとっての侍女を俺がもらうようなものだ」


 俺は一人しか選べない。

 だからメアは本命の雌という訳にはいかないが匂いを押し付けて所有を宣言してしまったのだから捨てるはずもない。

 それなら俺の従者として側に置くのが一番いいと思う。


「おいメア! まさか私たちを裏切るつもりか!?」

「っ!」


 戻ってきた雌がメアを脅すように叫ぶ。

 さすがに俺も森を抜け出してから長い間メアと関わってきた者を簡単に裏切ることはできないだろうと分かっていた。

 だが、それも終わりにしなければ。


「裏切るつもりならここで切り捨てさせてもらう! 醜い魔物同士で心中するといい!」

「俺の雌に触れるな!」

「ぐっ……!」

「勘違いも甚だしいな人間。メアはお前を裏切ったのではなく元々は俺の領地に住まう民だ。奪われたものを取り返したのは俺であってメアは何も悪くないはずだが」


 一度は捕らえて猶予を与えたが脱走した上にジェラートの暗殺を企てるのならば生かしてやる必要はない。

 故に俺はメアから離れると直ぐさま雌を突き飛ばしナイフごと手を爪で切り落とした。

 メアに当たる前に床へ落ちたナイフを目で追っていた雌は自分の状態に今さらのように気がついて悲鳴をあげる。腕を失くした痛みを嘆くかのように。

 俺にはその姿が滑稽に思えた。

 メアを醜いと嗤うならば、お前の泣き喚く姿こそ醜悪だと。


「ユキちゃんっ!」

「ふっ、俺を王様と呼んだ割には馴れ馴れしいな」

「ごめん……でも、やっぱり見てるのは辛いから」

「なら背中を向け離れていろ。俺はこの雌を許しておくつもりはない。お前を人間の道具として利用していたことも、ジェラートを殺そうとしたことも全て償わせる」


 メアが震える背中を俺に向けたのを確認して階段を這って上ろうとしていた雌の足を掴んだ。


「やめろッ! 触、るな……!」

「お前のような人間の罪を裁く者が人間にはいるそうだな。相応の痛みを与える者が」


 俺は足の骨が折れるのを気にせずに力を込めて雌の身体を持ち上げると上の階へ放り投げた。

 一歩ずつ階段を踏みしめて上がるとまだ逃走を考えているのか雌は涙を流しながらも床を這いつくばっていて、その姿が余計に俺へと怒りを募らせた。

 まだ、生を求めるのか、と。

 魔物は潔い生物だ。

 人間に戦いを挑まれ殺されていくことを理不尽と思いはしても死を受け入れる。その代わり最後まで相手の命をも奪わんと戦い続けるのが魔物に産まれた者の性だ。

 それと比べて、最後まで己が身を守らんとする人間は……。

 俺は雌の目の前に足を踏み下ろすとその首を掴み上げて顔をこちらへと向けさせる。


「ひぐっ!」

「つまらない雌だ。俺の所にいた雌は最後まで人間を楽しませていたと思うぞ。お前らが楽しそうに叫びながら殺していった俺の所の仲間は、な」

「や、やめろ…………っ!」

「それが、どうした。人間は魔物を楽しんで殺していたが逆に殺される立場ともなれば涙を流すか。とても生物の死を軽んじていた者の行動とは思えないがな」


 あまつさえ、人間同士で殺し合おうなど。

 醜いのはどちらだろうか。

 と、俺とこの雌どちらも血を流していたため匂いに釣られたのか大型の獣を模した魔物が来ていた。

 俺の知らない魔物だ。

 それならば仲間として葬ってやる必要もなければ俺が躊躇する必要はないわけだ。


「肉が欲しいのだろう。ならばこの雌をくれてやる」


 俺は魔物がこちらへ飛びかかってくる前に掴んでいた雌を投げつける。

 それは断末魔をあげる間も無く喉笛に噛みつかれ、瞬く間に先程まで人間だったものが真っ赤に染め上げられた肉片へと変わっていく。

 肉は、俺も喰うが知能がないだけ他の魔物は雑だ。

 その姿を見ていると腹立たしく思えてくるが今回ばかりは肉の方が綺麗に喰われるだけの価値が無いと分かっているので魔物を許してやろうと思った。

 しかし、それとこれとは別だ。

 この魔物もジェラートを殺すために侵入した。


「お前は綺麗に殺してやる。まだジェラートに触れていないだけあの雌より罪は軽い──」


 俺は今は魔物の胃袋にほとんどが入っている雌が使っていたナイフを魔物の首筋に刺して殺した。

 これならば醜く苦しみ続けることもなけば死体も汚れない。

 いくら敵とはいえ同じ魔物なのだからという配慮だ。


「ユキちゃん……」

「よく自分で階段を上がってこれたな」

「正直に言うと立ってられないよ。ユキちゃんの匂いが強すぎて頭痛いくらいだし」

「甘い匂いとは別だからな。メアは長いことジェラートを殺したい人間の元にいて強く意思があった。それを匂いで押し込もうとすれば強く、それこそお前に体液を擦り付けるくらいしなければ不可能だったからな」

「だから、血を私に?」


 いや、本当にあの魔法から抜け出すのに方法が無かったのもある。

 もはや腕を切り落としてしまえば杭を打たれているような感覚は薄れて動けるようにはなると踏んで仕方なく切り落としたが我ながら無茶をしたと思う。

 実際はそのお陰でメアを救えたのもあるが、な。


「本当ならば強引にお前の口に俺の唾液をねじ込むか尾を交えてしまった方が早かったのだろうがお前ならば舌を噛み千切ってくる可能性もあったし尾を交えるのは控えたかった」

「一途、なんだね」

「お前を雌にした上で我が儘を言って悪い」

「ううん、ユキちゃんみたいな強い雄なら遊びでも尾を交えてもらえるのは幸せなことだから、気にしないよ! それに、メアは今回のことで諦めもついたし」


 そういえばジェラートと結ばれないでほしいと話していたが、その件だろうか。

 と、そんなことを考えて俺は忘れてはならないことを思い出す。


「は、早くジェラートの元へ向かわなければ!」

「落ち着いてユキちゃん。さっきユキちゃんと別れた後にエリスちゃんと通信を繋げたら二人の所にC級の魔物が来てエリスちゃんが倒したみたい。たぶん、そこにある死体が……」

「あまり見るな。お前は気分を悪くするだろう」

「ん、ありがと」


 それから少ししてリデルから脱走者を捕らえたと報告を受け、侵入した魔物を討伐したことを伝えると結界の修復をするように言われてこの一件は落ち着いたのだった。



 ──それから二時間後。


「ユキさん!?」

「無事でよかった。怪我してないか?」

「まずはお前自身の状態を確認してから言え! 片腕はどうした!」


 二次災害になる前にと先に結界を張り直してからジェラートのいる教場へ入ったのだが片腕が無かったことをローゼに指摘されてしまった。

 まあ、そうなるか。

 止血しているとはいえ片腕が無くて肉や骨が見えている状態で平然とジェラートの心配をするような雄は他にいないだろう。


「地下牢に忘れてきた」

「そんな蜥蜴の尻尾じゃないんですから!」

「はい、ユキちゃん」

「メア!? ユキの腕を回収していることもそうだがメアの腕もなぜそんな状態になっている!」

「後で、ちゃんと説明するから」


 メアはそう言って俺の腕の切断面を合わせると何かを呟く。

 それが魔法の詠唱だということは何となく分かるがどのような言語を話しているのかは分からない。

 やがて傷口の回りを無数の暖かい光が漂い、それが少しずつ俺の腕を繋げていった。

 まさか、切れた腕が元通りになるとは……。

 メアを救えなかった罰としてこのまま生きていくつもりだったので少しだけ驚いてしまう。


「たぶん明日くらいまで動かせないとは思うから我慢してね。それまではメアちゃんがお世話、してあげるから」

「……いいのか?」

「うん。それで、皆にも聞いてほしい話があるの」


 メアはそう言って他の全員に聞こえるように片親が人間に犯された魔物だから腕が魔物のようになっていることや今回の一件について話した。

 当然、ローゼは怒っていたが先に事情を聞いていたからエリスとジェラートが仕方ないと擁護し、メアがジェラート暗殺の協力をしていた件の罪は不問とされた。

 そして他の罪人についてだがレッドと呼ばれた女は既に魔物に襲われて死亡したと伝え、リデルが捕らえたブルーという女は森に追放されたが今は魔物もいないので俺が誰にも告げず静かに処理をした。

 まあ、誰も見ていなければ頭を潰して殺そうが問題はない。


「痒いところ、ない?」

「上手だ。気持ちよくて眠ってしまいそうになる」

「メアちゃんの前で眠ったら襲うからね♪ ん、でも気持ちいいならよかった」


 と、罪は不問とされたはずのメアは微笑む。

 さすがに返り血で染まったままの魔物を城には置いておけないと言われ俺は湯浴みをすることになり、メアは軽い処罰として俺を洗うことが命じられていた。

 元よりメアは俺の雌なのだから洗わせるつもりではあったのだが罰がそれで免除になるのなら黙っていよう。


「ありがとね、ユキちゃん」

「何を今さらの話を。俺も一度はメアを助けられず悔いたのだから礼を言われる筋合いなどない」

「むぅ、堅物なんだから。ユキちゃんは王様なんだから一人一人のことを救いたいと思ってても対象が多すぎるんだから仕方ないよ。メアちゃんもあの時は我が儘を言っちゃったけどユキちゃんが腕を切り落としてまで止めてくれたから、どうでもよかった訳じゃないんだ、って安心したから」


 それならば良かった。

 恨みを買っていたなら今からでも解放してやろうかとも思っていたが……。


「ちなみにユキちゃんってどこが弱いの?」

「無遠慮に触りすぎだ! お、お前そこは洗わないならば触るな!」

「本当は気持ちいいくせに♪ 耳と尻尾を触っただけなのに雌を誘うような匂いがしてますけど?」


 それは大きな誤解だ。

 メアならば知っているはずだが魔物が甘い方の匂いを発するタイミングにはいくつか種類があり、好意を持っている雌が近くにいる時もそうだが身体が過剰に快楽を……そこまではいかずとも耳やら尻尾を優しく触られたりするだけでも気持ちよく感じて発してしまうことがある。

 つまり、弱いわけではない。

 メアが俺の尻尾を愛撫するのが上手いだけだ。


「ほら隠してたら洗えないよ? 姫様にいつ見られてもいいように綺麗にしておかないと恥ずかしいんだぞ♪」

「ばっ! ジェラートはそういう雌では!」

「本当は意識してるくせに♪ ほ~ら~、別に姫様みたいにユキちゃんが好きな女の子じゃないんだから遠慮せず大股開いて洗い終わるのを待ってればいいんだよ」


 いや、たしかにメアは俺の雌になったがそこまでさせるのは違う気がする。

 俺は抵抗しようと試みるがメアに魔法で動きを封じられるのが怖かったので諦めて足を開く。

 それからメアは洗うと言っていたがふざけるのは想像するに易いことだった。

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