第2話『城での生活は色々と複雑で忙しくなるのは前提という話』
俺は今まで何度も人間に囲まれてきた。
森の魔物を一掃しようと討伐隊が送られてきた時も一人で戦った。
なんか知らないけど観光目的で森に入ってきた馬鹿集団の相手も俺がした。
事ある毎に俺がやってきた。
つまり今回も俺は多数に囲まれようと緊張することなんかないし上手くいくはずなんだ。
「ユキさん」
隣に立っていたジェラートが不安そうに俺の顔を見下ろす。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫なわけねえだろ!」
つい、カッとなって怒鳴ってしまう。
何故か俺はジェラートにすら見下ろされる位置にいて、それはつまり俺が横にされているという意味である。
それだけならいい。
ただ縛られて俯せに転がされるだけならよかった。
しかし、侍女は俺が裸でいることを気にしていてカーペットを汚されたくないという理由でわざわざ俺を完全に包めるような大きい布を持ってきて簀巻きにしてきたのだ。
無駄に力があるやつだったから縛られた時も痛いし最悪な気分である。
「姫様にタメ口を利くな!」
「がっ!」
蹴られた。侍女ごときに。
「ローゼさん、さすがに蹴ったら可哀想です」
「魔物は頑丈です。たとえ局部を全力で蹴ったとしても勃起するだけで痛みなんかありません」
「他人事みたいに言うな! 痛いに決まってるだろうが!」
「魔物のくせに饒舌だな」
くそ、こいつ俺のことを生き物だとも思ってない。
いくら女の蹴りでも遠慮さえしてくれない奴が相手だと響く。
「その饒舌さをもって自分に害がないと示せ。姫様はこいつの擁護をしてはいけませんからね」
「……ユキさんをあまり虐めないであげてください。私の胸が痛みます」
こいつ、昨日の言葉に嘘は無かったんだな。
ローゼなる侍女──目付きの厳しい金髪の女だ──は肯定するように頷き扉を開く。
そこには長い食卓のようなものが置かれ、周囲にはジェラートに仕えている侍女が並んでいた。
大臣のような権力を有しているような男の姿はない。
つまりこの城には兵士や騎士のような即戦力はともかくとして知謀を担当するような男すらもいないということらしい。
完全な女系社会……。
ちょっと待て。そう考えると俺の頭の位置はとても都合がいいのではないか?
少し視線をあげれば奴等の弱みが……見えない。
「何しやがる!」
「貴様の考えそうなことを理解しているだけだ。我々はともかく姫様の貞操は守らなければいけないからな」
「がはっ!」
「ローゼさん?」
「姫様? これは魔物です。言葉で言っても御すことはできないのですから肉体に直接教えなければいけません」
「ローゼさん! それ以上は彼が魔物でも許しませんよ! ユキさんは聞き分けのない人じゃありません! 昨日、ちゃんと私の言葉を聞いてくれたんですから!」
ジェラート……あまり俺を庇うとお前の立場も危ういぞ?
でも嬉しいよ。
お前がそこまで俺のために必死になってくれるなんて最初の印象からは信じられなかった。昨日の話があったから俺はお前を信じられる。
そうだ、これは交渉の場だ。
俺が自分でどうにかしなければいけない。
「おい、ローゼとか言ったな」
「貴様……私の名を?」
「面倒なことは後回しだ。ジェラートの貞操を守りたいなら目隠しなんかしないで俺を椅子に座らせろ。どうせお前ら椅子に座って話すなら目線を合わせた方が話しやすいだろ」
「誰が貴様の指示など……!」
「これは交渉だ。お前が何としても目隠しを外さないと言うなら俺は別の手段をとる。そうだな、視界を塞がれても《魔眼》を使えば一枚くらいは透けて見えるぞ」
脅しではない。
別に俺は手の内を明かさずに床に転がされておいて後で全員のパンツの色を覚えておくことも容易い。その情報を盾にして脅迫することもできる。
しかし、手の内は明かしてやった。
これでどうだ?
お前らは俺の取りうる行動を知り、そのまま放置しておけば結局のところジェラートの貞操が守られなくなった。
ジェラートを取るか、俺という魔物の言葉を聞きたくないというプライドを選ぶかは侍女次第だ。
まあ、結果は見えている。
「あくまで姫様のためだからな?」
「はいはい。暴れられたくなかったら攻撃的な発言は控えろ。お前には既に何回か蹴られてるからな。ジェラートと違って丁重に扱ってやる理由がない」
「……くっ!」
これで同じ場所に立てる。
ローゼに対しての脅しが効いたのか簀巻きにしていたのを他の侍女が解いてくれて椅子に座れるようになった。
さて、と。
あとは俺が無害だとどう説明するかだな。
一番奥の席でジェラートが不安そうにこちらを見ている。
あいつの心を無駄にはしたくない。ちゃんとした言葉で侍女たちを説得しなければいけないな。
「それでは、姫様が連れ込んだ魔物の処遇について侍女定例会議を始めます」
「はいは~い! その魔物って~名前あるの~?」
右列のジェラートから二番目の席に座っていた侍女──態度もそうだが赤髪の二つ結いと左右で異なる瞳の色、それに包帯を巻かれた両手が目立つ女──が意見する。
どうやらローゼと違って危険かどうかより面白いか否かを判断基準にしている侍女のようだ。態度からも俺の反応をうかがうような仕草が見え隠れしている。
ああいうのは要注意だ。
ローゼや他の侍女を説得することに一生懸命になりすぎて真面目な話になると反感を買いかねない。
「彼はユキさんと言います」
「補足します。姫様が名付けたそうです」
「随分と可愛い名前を付けられたんだね~♪ ねえねえ、君は名前についてどう思ってるの?」
いきなりか。
初手から俺に鎌を掛けるような発言をしてくるとは思わなかった。
まず批判をすればジェラートから嫌われる。
そもそも姫様と呼んでジェラートを慕っているローゼのような侍女たちは否定されればいい気持ちはしないだろう。
しかし、あの侍女は別だ。
気に入っているという答えを返せば俺が場の空気を伺っているのではないかと疑われる。誰もが求めている答えを出すだけでは納得してくれないのだ。
顔を見ればわかる。
あいつは俺で遊んでいるんだ。
「ふん、名前についてとやかくいう気はねえよ。あえて言うならジェラートってなんかうまそうな名前だよな」
「あはは! 君もそう思う? メアちゃんも姫様の名前は甘そうで可愛くて好きなんだよね~」
「メア……あまり無駄話をしないでください。こいつは話を逸らして私たちの情報を得ようとしてます」
今さら気がついても遅いさ。
俺が欲しかったのはこの場の全員の名前ではない。
俺に鎌をかけてきた侍女……それこそローゼが名前を教えてくれたその女の名前を知りたかったんだよ。
ジェラートの話をすれば誰かしらは乗ってくると思って話を逸らしたが、完全に名前についての追求は外れたし場の空気も悪くしていない。俺の勝ちだ。
それにメア、という侍女は俺に好奇心を持っている。
うまく利用できそうだ。
「仕切り直しまして、まずはユキの昨日の行動を述べます。本人は黙っていてください。質問等は最後にお願いします」
俺の扱いひどくね?
「まず、私が姫様の連れてきたパウダーイーター、通称モキュを否定し、姫様はお怒りになって森へ行きました。ユキとはそこで対面したそうです。その際、彼は姫様を脅して城へ入る手続きをしろと──」
「脅してないんだが」
「黙りなさい!」
「いてっ!」
あの、黙っていろとは言われたけど事実が曲解していた場合はどうしたらいいんですか?
ジェラートも黙ってないで何か言えよ。
「そして昨晩、このケダモノは城に忍び込み姫様の寝床に忍び込んではいかがわしいことをしていたのです」
「きゃっ! なんて卑猥な魔物なんですか!」
「破廉恥……。処すべき」
あの、一ミリ程度しか情報があってないせいで誤解が大きくなっているんだが?
たしかにジェラートが俺を擁護しても脅されているからと言われればぐうの音も出ないのが事実だ。
だとしても黙っていられると俺の立場がない。
頼む、誰か状況を回復してくれないのか。
「ねえねえメアちゃん気になるんだけど~姫様って脅されたくらいで従う方だっけ? それにいかがわしいことをされた割には無傷だよね? これってさ、冤罪じゃない? ローゼちゃん魔物のこと嫌いすぎてユキちゃんのこと悪者にしたいだけなんじゃないの?」
「口が過ぎますよ、メア」
「え~? 本当のこと言ってるだけだよ~。ローゼちゃんの気持ちも分かるけど何でもかんでも敵にするのはよくないと思うけどね」
こいつ、もしかしてこういう駆け引きが上手いのか?
だとしたら有利だ。圧倒的に不利だった俺の立場を変えてくれる人間かもしれない。
俺は期待の眼差しでメアを見つめる。
メアはそれに笑顔を返してくれたが俺からはもう一つの気になる顔が見えていて集中できない。
ジェラートだ。
俺がメアに熱烈な視線を送っているから嫉妬したのだろう。
「ならばメアはユキ受け入れに賛成ということですか?」
「にゃは♪ メアちゃんは可愛いものの受け入れは大賛成だよ~♪ だってユキちゃん可愛いんだもん」
「慎みなさい! 仮にも姫様に仕える者が魔物ごときを可愛いだなんて……!」
「ローゼちゃんは鬼かな? モキュちゃんだって可愛いんだから姫様が気に入ったんだし妥協したよね? ローゼちゃん視点でユキちゃんが嫌いだったら追い出す、って自分勝手じゃない?」
圧倒的だ。
この場を仕切っていたのはローゼであり、彼女は侍女の中でも上の方だと分かるような態度を取っていた。
それを、あんな簡単に立場が逆転するなんて思わなかったよ。
実際、この場にはメアのように好戦的ではなく好奇心主軸で生きているタイプとローゼのように魔物断固拒否を貫いて追い出そうという風潮を持ったタイプがいるらしい。
常に武器のようなものを持っている侍女もいれば、ジェラートの意見に任せるという委任タイプもいる。
つまり、今回はメアが主導権を握ったと。
「ローゼさん、妥協案としてユキさんをメアさんに委ねてみてはいかがですか?」
「委ねる、ですか」
「はい。今日一日ユキさんをメアさんに見張ってもらい、その結果次第で結論を出すという意味です。これだとメアさんはユキさん賛成派だから納得いかないと思うかもしれませんがローゼさんが思うようにユキさんが獰猛な魔物だというなら派閥など関係なく襲います。明日を迎える頃にはメアさんは傷物になってしまっているでしょう」
「にゃははっ! 姫様~メアちゃんが処女なのは内緒にしておかないと~♪」
いや、お前が自分でばらしてるだろ!
ジェラートの傷物だけだったら普通に怪我して帰ってくるとかそういう意味で捉えてたのにわざわざ言うなよ。
それにしてもメアは処女なのか…………意外だな。
「なるほど。賛成派が身をもってユキが安全かを試すと。それであれば私は納得です。責任を自ら取るというのですからね」
「異論のある方はいますか? なければユキさんの処遇はそれでお願いします」
誰も口を開かない。
結局のところジェラートの意見が絶対だと思っていてローゼも口を閉ざしたから反論する意味がないだけだろう。
こうして俺の命運はメアに託されたわけだ。
やがて大きな部屋からほとんどの侍女が退室していった後にジェラートとメアだけが残り、俺は感謝を述べた。
「ありがと、な。結局、お前らに手伝ってもらうことになって」
「ローゼは堅物ですからユキさんに一度も口を開かせないのは知っていました。そうなれば誰かが流れを打ち切らなければいけませんからね」
「ふふん、あの場所でメアを選んだユキちゃんは見込みは高いよ?」
俺が頬を掻いて困っている素振りをするとやはりジェラートが拗ねたような目でこちらを見てくる。
そんなに拗ねるようなことなんてあったか?
「じゃあ後のことは頼みましたからね!」
「ジェラート、お前は……」
「お勉強や仕事があるので忙しいんです!」
やっぱり怒ってるよな。
俺は、何かジェラートを怒らせるようなことをしてしまったのだろうか。
どうでもいい女のようで、意外と俺の心の中では重要な位置にいたのかもしれない。あいつが俺に対して怒っているのに理由が分からないから胸が痛む。
一言、遠慮なんかしないで言ってくれればいいんだけどな。
「ユキちゃんは可愛いね~♪」
メアが背伸びをして俺の頭を撫でていた。
子供扱い、はされていないが納得はしない行動だ。
「お、おい撫でるな! あまり気安くしてると本当に傷物になるぞ!」
「お耳垂れたユキちゃんはいつもより可愛いね~。メアちゃん可愛いものに傷物にされるなら本望だよ~」
「正気の沙汰じゃねえぞ」
「じゃあメアちゃんが正気だったらユキちゃんは助かってないかもね~」
まったく、こいつのペースは飲まれたらおしまいだ。
今日一日体力が持つのか……?
──それから約一時間後。
俺は見張られている身なので芝生に座って大人しくしていたがメアはせっせこ仕事している。
しかも仕事内容が侍女のやることではない。
城の後ろ側に塀を作ろうとしていて、まずは形の整えた石を並べるための小さな溝を掘っている。明らかにひ弱そうな女が一人で、だ。
普通に考えておかしいよな。
こういうのは街から大工を雇ってくればいい話で、侍女は姫様の身の回りの世話やら城の中での業務をする人間だ。こんな泥まみれになっていいわけがない。
「なあ、それはお前の仕事なのか?」
「んー? ローゼちゃんに言われちゃったからね。大口叩いたからには働いてもらうぞ~、って」
だからって塀を作らせるか?
いや、せっかくの機会だと思ってメアとの好感度を少しでも上げておこう。
それが今後に役立つはずだ。
「メア」
「嬉しいな~♪ 可愛いユキちゃんに名前呼ばれちゃった♪」
「そこに塀を作る必要、ないぞ」
「ありゃ? でもローゼちゃんは国の外側から近いから少しでも高い塀を~、って言ってたけど?」
分かってないのはローゼだろう。
城はぐるっと一周堀に水を流した水路で囲われていて橋があるのは正門の場所であり、後ろ側はない。メアがいじくっていた場所には塀を作る意味がない。
無駄な作業なのだ。
「水路の壁は滑らかでまず人間は登れない。魔物も特に壁を登る必要なんてない生き物だから発達してるわけじゃないし壁を登ってくることはないだろうな」
「え~?」
「でも、よく見てみろ」
俺が水路を覗き込むとメアも同じように覗き込む。
いや、お前は見張りなんだからもう少し俺を警戒したりしないと水路に落とされるかもしれないんだからな?
呼んだのは俺だからなんとも言えないけど。
「水路の内側に出っ張りがあるの、分かるか」
「あるね。たしかこの水路を作る時に下に降りて安全かどうか確認する人が降りられるようにするって作ったんだっけ」
「無知な魔物は水路に落ちた時点で上がってこれない。逆は?」
「人間の考えてることが分かるってこと?」
全てとは言わない。
しかし、人間がどのように使っているか知っていれば時に武器だって扱うことのある魔物もいる。油断しないに越したことはないし、現に俺という魔物がいる。
言語まで理解している魔物はそう多くない。
しかし、存在しているということは俺一人だけとは限らないと考えなければいけないのだ。
「じゃあどうするの?」
「そもそも魔物が国内に侵入した上で城の背後まで存在に気がつかないというのは珍しい。だから魔物に備えての塀は必要ないし人間の対策をした方がいい。それこそ結界を張るくらい、な」
まあ、人間に張れるなんて思ってないさ。
俺は城の全体像をイメージし、その外側の水路を囲うように頭の中で線を引く。
高さはいらない。飛行物体なんてこの国には無い技術だ。
およそ城と同じ高さの円柱状に形を浮かべた俺はそれを結界として土地に固定するべく集中を始める。
だが、すぐに邪魔が入る。
「おい! 集中してるんだからちょっかい出すな!」
「気にしないで続けていいよ~♪」
気にしないで、って言われてもな。
こちとらさっさと済ませて自由になりたいのに近くに女がいて手を繋がれると集中できない。
人間の女の手ってこんなに柔らかいんだな。
でも、不思議なことに俺でも一日以上かかるような大掛かりすぎる結界だったが日が落ち始めた頃には終わり、しかも疲れはほとんど感じなかった。
「お疲れ様、ユキちゃん♪」
「そろそろ女みたいに呼ぶのやめてくれないか?」
「ご褒美にもふもふしてあげるね♪」
「お、おいっ!」
勘違いしてるみたいだが、それ俺にとってはご褒美というより拷問だぞ?
元々人間は好きじゃないし触られるくらいなら突き飛ばして嫌われるくらい平気でやるような俺だ。どんなに丁寧に俺が喜ぶようになっても気分は変わらない。
何より俺は今の状況的にメアを突き飛ばしたり怪我をさせるような行為を禁止されてる。
自由のためには受けるしかないのだ。
「わあ~お腹の毛もっこもこ~♪ やっぱり寒いから蓄えてるんだね~」
「屈辱だ、こんなの」
「役得なんだよ? メアちゃんみたいな女の子にもふもふしてもらえるなんて」
嬉しくなんかない。
でも手を出したら問答無用で俺が悪者になるんだから怒りを押し殺して耐えるしかないんだ。
耐えろ……触られていることを意識しないように他のことを考えるんだ。
はら、もう触覚なんかシャットアウトして視覚とか嗅覚に……。
ん?
「いや、ユキちゃん急に積極的にならなくても……」
「この匂い……! そんな、まさか」
「あははは! くすぐったいって! ダメだよ女の子のそんなところに鼻息かけたら!」
俺にはメアの反応なんてどうでもいい。
最初は一番近かった顔の匂いを嗅いだが違和感は薄く、そこから辿るように首筋、胸と鼻を擦り付ける勢いで匂いの元を辿っていく。
しかし、さすがに黙認しきれなかったのかメアは俺の顔を押し退ける。
「……!」
「ユキさん~、様子を見に来ましたよ~!」
「あ、姫様! ユキちゃん泥んこで匂い気になるみたいだから湯浴みさせてもいいですか~? メアちゃんが洗うんで~」
「あ、構いませんよ! 私もちょうど湯浴みをするところだったのでユキさんは私が綺麗にしておきます♪ これも飼い主の役目ですからね!」
誰がお前の犬だごらぁ!
それより昨日の夜に俺のした話を聞いていなかったんですか?
まあ、見せてくれるなら(二回目)別にいいか。
「さあユキさん綺麗になりましょうね~」
「は? 俺を洗うって……まさか水で洗うつもりか!?」
「お湯です♪」
「同じだ馬鹿! やめろ! そんな地獄みたいな場所に俺を連れていこうとするな!」
「ローゼちゃんには報告しておくから安心してね~♪」
そうじゃないだろ、メアよ。
お前の主は俺みたいな野蛮な魔物に平気で裸を晒そうとしてるんだから止めろよ。使用人ならジェラートがいい身体してるのは知ってるだろ!
いや、やっぱ止めなくていいわ。
もう水だかお湯だか知らないけどジェラートの裸を堪能させてもらえばいいや。
「…………」
「どうしたんですか? ユキさん」
それよりも気になることがあるんだよ。
メア、お前に顔を押し退けられた時に白い布越しで鼻に届いたあの匂い……。