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お姫様は『へんな奴』を平気で連れてくる  作者: 厚狭川五和
第5章「紅い侵入者」
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幕間「悪い狼さん」

 ――村から少し離れた草原。


「あの悪い狼さんの影響力は計り知れないものだよ。こちらから手を出しちゃうと逆に例外がありえるかも」


 赤ずきんは、ブランシェットは通信魔法による偶像でしかない少年に報告していた。

 パラミナスタで起きたこと、見たこと、聞いたこと。

 その中にはユキに関する情報もあり聞き手側が欲していたのは主にその情報である。


「そう、賢いの。アステリオスの斧を弾いたのも力任せじゃない。相応の力を的確にぶつけて弾いてる」


 偶像の少年は何かを悩んでいるかのように唸る素振りを見せる。

 それから思いついたことをブランシェットに尋ねる。


「戦略的に? ちがうちがう。あの狼さんの強みは……」


 焦らすだけ焦らしておいてブランシェットは最も重要な情報を口にすることはなかった。

 意地悪をしているわけではない。

 この物語は進行役が絶対的な強者としての立ち位置を有する一方的なゲーム。

 つまり正解を与える必要なんてない。

 こうして少しでも進行役を悩ませておかないと物語の進行は早くなりすぎて退屈なものになる。せっかく作り上げた物語をパラパラと頁をめくって読み進めては意味がない。

 だからこそブランシェットは伏せたのだ。

 負け試合だと確定していても、少しでも長くユキには抗ってほしいから。


「あと赤ずきんは絆されちゃったから使い物にならないよ」

「…………」

「うん、あの場所にいる悪い狼さんやや侍女には何もできないけど他に状況を動かしたいことがあれば声をかけてね。じゃ、そういうことだから」


 そう言って通信魔法を強制的に閉じたブランシェットは後ろに不安そうな顔で竚む者を振り向く。


「いいのかい、赤ずきん」

「なんか()()()と似てるし悪い狼さんだって聞いてたのに優しくて、殺したくなくなったから」

「僕は赤ずきんをそんな悪い子に育てた覚えはないんだけどなぁ」


 ブランシェットに大きな影を作っていた者はその場に座ると赤ずきんの体をひょいと持ち上げて自分の上に乗せる。

 それは紛れもなくブランシェットの記憶に残る狼だ。


「赤ずきんね、あっちで嘘ついちゃった。狼さん、本当は死んでなんかないのに死んでることになってたから」

「赤ずきんが泣いてるのに居なくなれないよ」

「守って死のうとしてたのに?」

「川の向こう側から君の母親に石を投げられたんだよ」


 そう言って狼は空を仰ぐ。

 悪い狼とはどんな存在を指すのか。

 立場を弁えず人間を愛し子供を作ってしまった狼なのか。

 自らを否定し人間の世界に生きると決めた狼なのか。

 否、それらは罪を犯していようと万人と同じ生き物だろう。

 本当に悪い狼は紛れもなく人の形をしていて、それでいて心まで狩猟本能で満たされかけていた存在。


「もう誰も殺したらだめだよ」

「誰も赤ずきんから狼さんを奪わないなら、ね」


 嘘つきで人殺しで気分屋な、大切な者一つ守るために全てを消してしまった一人の少女を指すのだろうか。

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