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お姫様は『へんな奴』を平気で連れてくる  作者: 厚狭川五和
第4章「“訳あり”ばかりの世界」
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第17話「存在定義」

 俺にはきっと仲間なんていない。

 希少種、突然変異、異端、様々な言われ方をしているが結局のところ同じ者がいないことを表している。

 何故、どのようにして?

 知りたいとは思ったが答えてくれる者はいない。

 なら頼るしかない。

 異なる者たちに助けを乞うしかない。


 そんなことを考えるわけがなかった。

 産まれた時から一人。それなら孤独のままでいい。

 乳を飲ませてくれる母親なんていない。なら柔らかい牙でも肉に噛み付くまで。噛み切れなくても飲みこめばいい。

 子孫を残してくれる雌がいない。なら自分で孕んでやる。

 不可能だとは分かっていても意固地になっていた自分がいた。

 誰も頼りはしないと、勝手に強くなったつもりでいた自分が。


「ここ、は……?」


 眠りについた場所と違う。

 どこかへ放り出されたのかと思ったが周囲はしっかり俺の匂いがあったから縄張りの外ではなさそうである。

 つまり、居た場所が丸ごと変えられた、ということか。

 それと違和感は無かったが服を奪われている。

 こちらの格好の方が長かったからかもしれないがジェラと過ごすために身に着けていたものを奪われたともなると落ち着かない。俺が人間といるための免罪符が消えたのだから不安で仕方がない。


「あ、ユキさん……」


 と、このタイミングで出会いたくなかった人間が目の前に現れる。


「会えて良かったです。城に居たはずなのに急に景色が変わって、見覚えのないところに一人にされたのかと思いましたよ!」

「そ、そうか……」

「ところで裸なのはどうしてですか? 別に自室では好きな格好をしてもいいとは言いましたが……」


 俺はジェラが何故いい淀むのか視線を追って理解する。

 この辺に転がる裸の魔物の死体。

 誰だ悪趣味な配置をした奴は! これだと俺が雌を犯し殺したみたいに考えられても仕方ないだろうが!


「違うぞ?」

「私の、せいですか?」

「は?」

「私が、ユキさんの相手をしてあげないからその辺にいた女の子を犯して殺したんですか? そうなんですね?」


 いや、まったく合ってない情報だが。

 別にジェラが相手をしてくれないと言うのならば自分にそれだけの魅力がないのか、もしくは端的に「人間と魔物では生理的にムリ」というような考えがあるのかもしれないと諦めもつく。

 しかし、相手はジェラだ。そんなわけがない。

 ここ数日、何度も俺に気がないわけではない旨の発言を聞いているのだ。

 おそらく早いと言いたいのだろう。

 まだ肉体的な繋がりを持つには早い、と。


「なら、相手をしてほしいと言ったらしてくれるのか?」

「それは無理です」

「断言するな! まあいい。どうせ無理と答えるだろうなとは考えていた。そして無理と言ってくると分かっていた上で伝えるが俺の相手をできないと言った以上は()()()()()()になる可能性は高い。あれもダメ、これも無理は我儘だと知れ」

「そんなこと言われても、困りますよ……」


 さすがに強く言い過ぎたか。

 俺は発散しなくても我慢の利く方だし発情期になったらそれはそれで生肉相手に発情していればいいのだから気にすることではない。

 さすがに見ていられないのでジェラの涙を指で拭う。


「すまない、可能性のはなし――」

「分かりました! ユキさんが本当に我慢できないというなら私はユキさんを招いた者として責任を取ります!」

「あ、え…………?」

「ただ……、そういった行動のいろはも分からないので全てはユキさんが主体になってしてくれると助かります」


 顔を真っ赤にして言われても困る。

 俺だって経験はないのだ。本能からどうすればいいのかを察してはいても雌を労りながらの行為など知らない。

 な、何より冗談を本気にしすぎだ!


「まま、待て! 俺はそこまで言ってない」

「だって私のせいだって」

「言ってないしお前が勝手に勘違いしただけだ。だけどお前を前にしていると時折、我慢が利かなくなってしまうのも事実というか、お前の同意も得ないまま襲ってしまって嫌われるのが怖い自分もいるというか」

「ユキさん……」


 そんな目で見るな。

 自分が臆病で男らしくないことくらい理解している。


「ユキさんがそう考えてくれている間は鎖で縛ったりする必要はないはずです。私はそう信じます」

「…………はぁ。嘘の可能性は?」

「あっ! それは考えてませんでした」


 これだからジェラは……。

 簡単に俺を信じるし嘘をチラつかせると今度は言葉を信じて俺を疑い始めるし、それなら最初から疑っていればいいものを。

 そこが人間らしいところでもある。


「うぅ……」

「ユキさん!」

「おいおい、予想外だぞ」


 俺とジェラの視線の先にあるのは勘違いの原因となった死体だ。

 全裸の血まみれで転がっている雌の死体を見れば誰でも勘違いする理由にはなるだろう。

 しかし、その死体が動き出したのだ。

 何より呻き声のようなものが聞こえたし生きているのかもしれない。


「大じょ……もがっ?」

「お前は離れていろ。俺が安全か確かめるまでは近づくな」


 ジェラはこくりと頷くと一歩、二歩と後ろへ下がる。

 口を塞いでいなかったら危険かもわからないまま声をかけようとする辺りジェラは本当に不用心だ。


 俺は近づいて背中の方から肩へ手をかける。

 正面に回るには怖すぎるし声が聞こえているかもわからない為に背後から肩へ触れてみたのだ。

 結果としては無反応。

 しかし、返事が無くとも近づいて得られた情報がある。


「俺の匂い……!」

「ユキさん?」

「違うからな!」


 何を勘違いしてる。

 この雌から俺の匂いがしたからといって俺が犯したなんて確たる証拠はないのだから不快なことこの上ない話はしないでほしい。

 それにこんな痩せ細った雌など抱いて何が楽しい。

 と、俺の声に反応したのか倒れていた雌はか細い声で呟く。


「お、にい……ちゃん」

「!?」

「おにいなんて呼ばせてたんですね」

「だから違う! 誰がそんな呼び方を強要する!」

「お兄、ちゃん……?」

「声は聞こえているか? 俺の言っていることが分かるならゆっくりでいいから身体を起こしてこちらへ視線を向けろ」


 ちゃんと聞こえていたらしく体を起こそうとする。

 しかし、抜かれた血の量が多すぎる。体を起こそうにも意識すら朦朧としている雌の体では動くのでさえやっとだ。

 手を貸す必要があるな。

 俺は雌の体に負担がかからないように支えながら仰向けに寝させる。

 体を起こすのは今の状態では不可能だ。


「ジェラート、手当をしてやれ」

「随分とふてぶてしいですねユキさん。自分が襲って苦しんでいる女の子を私に治させようなんて」

「勝手に言っていろ」


 俺は理解してもらえないことに拗ねて部屋の隅の方へ行く。


「お兄、ちゃん……そんなこと、してない」

「少しだけ意識がはっきりしてきましたね。大丈夫ですよ、怖いオオカミさんならあっちでいじけてますから」

「ちがう、おにい。怖くない」

「…………。応急処置は終わったから少し待っててくださいね」


 なんだ、話す気にでもなったのか?

 背後に気配を感じて俺は鼻で返事する。


「ふん」

「子供みたいなことしてないで答えてください」

「…………」

「ユキさん、兄妹なんていたんですか?」


 知るわけがない。

 俺と同じ者などいなかった。

 自分が魔物であるのか人間であるのかも分からないまま生きて、皆が皆ちがう種族であるからと俺から距離を取ったのだ。

 今さら兄妹の話をされたところで……。


「その雌の匂い、間違いなく俺と同じだ。俺の親は死んだはずだし俺の子供はまだ雌を抱いたことがないからいるはずない。つまり俺の血縁者だとしたら妹しかありえない」

「疑ってごめんなさい。周辺の状況も調べなくてはいけませんし協力してくれませんか?」

「…………させろ」

「はい?」

「あとで、抱きしめさせろ。心ゆくまで」


 いくらジェラでもあそこまで疑ってきたら傷つく。

 それを埋めるには本人を抱きしめてその匂いを心ゆくまで嗅ぐしか方法はない。


「無事に戻れたら、ですからね」

「それでいい」


 俺はジェラの手を取って妹を名乗る魔物の前に立つ。

 いや、魔物ではなさそうだ。

 こうして外見から何やら確認してみると魔物と言うには人間寄りの姿をしているし、こう体つきを見ていると魔物よりは興奮する。

 要するに俺に近い。

 魔物や人間よりも俺が雌として認識できる存在だ。

 つまりは俺も魔物ではないというメアの言葉が真実味を増していくわけだが。

 屈んで顔を見ながら話しかけてみることにした。


「お、おい……妹?」

「ぺろぺろ」

「や、やめろ……! くすぐったい」


 声をかけるや否や妹は俺の口元を小さな舌で舐め始めた。

 くすぐったいというか普通に雌に舐められるという背徳的な現状になんとも言えない感覚が湧き上がってくる。

 ちがう、そうではない。

 相手は妹だ。性的な目で見るな。

 そう、妹……無機物だ。舐められてるのではなく擦られているだけ。


「おにい、ほんものの、おにい」

「?」

「会えたよ、会いたかったよ……」

「あの、ユキさん。やっぱり妹さんではないですよね? そんな熱烈な口づけをしておいて違うなんて言うつもりですか?」


 俺は首を大きく左右に振って関係を否定する。

 そもそも先ほど自分でちがうと否定したばかりだがこれはキスではない。いわば獣同士の挨拶のようなものだ。


「お前、どこから来たんだ?」

「すごく遠くの方。知らない人、いっぱい居るところ」

「そこからどうやって?」

「おにいの匂い、ずっと辿ってきた。ここまで、ずっと。おにいの匂い、おにいの、ハルと同じ匂い、追ってきた」

「ハルさんというんですね」

「……だれ?」


 ピキッ。

 いま思いっきり血管が裂けるような音が聞こえたが気のせいだよな。


「俺の大切な人間だ。お前を手当してくれた」

「大切な? おにいのお、お嫁さん?」

「…………!」

「だめだよ、おにい。おにい、ハルとしか子供作れないよ」

「は?」


 あの、詳しく説明してくれないと「嫁」と呼ばれて舞い上がった挙げ句それを否定されて怒ってる怖い人間に俺が殺されかねないから。


「もうハルしか残ってない」

「っ!」

「ユキさん!?」


 いや、違うのかもしれない。俺の勘違いで終わるかもしれない。

 でも記憶が、ほとんど歯抜けになっていた記憶の根底に妹の言葉が当てはまるような気がして……。


「ジェラート、同族はもう、俺とハルしか残ってないのかもしれない」

「同族? 魔物ってことですか?」

「いや魔物とは違う。それとは異なる別の種族……魔族だ」


 魔物と呼ぶには俺の存在は特異すぎた。

 人間の言葉を理解できたのは俺が魔物とは異なり理解するだけの知能を持ち得た存在だったからに他ならない。

 それこそ魔法を使えたことや、魔物を殺した時に申し訳ないと感じている半面、自分の命と同じに考えられなかったことが証拠だ。

 故にハルの言葉が本当だとすれば魔族は二人だけ。

 元々この世界には数えるほどしかいなかった突然変異のような存在だが、それでも数を増やせないわけではない。

 減っていったのには確実に理由がある。


「俺を消したい組織……」

「?」

「誰かに言われたことがある。俺を消したい組織がいる、と。目的は知らないが俺を、魔族を消そうとしていたなら……」


 あのリンドヴルムの人間が使っていた武器は魔族を殺すための武器?

 なら領主やその部下は組織の一部なのか?


「ハルは俺を追ってここまで来た。俺とハルが再会することを前提に城がこのような場所にされたなら……」

「二人を閉じ込めるのが目的ですか?」

「そうなる。まあ、ジェラもついでに殺せたら好都合だとは思われているだろうな」


 少なくとも魔族の子孫を残す可能性のある雌だ。

 そもそも組織の範囲がどれほど大きいか分からない以上、国単位での活動だった場合にパラミナスタが邪魔だと考えられている可能性は捨てられない。

 要は三人とも狙われているということだ。

 と、現状を理解したはいいが……。


「閉じ込めるつもりなら出口は無し。こうして騒いでいても襲ってくる訳でもないのなら空間を歪めた者が殺されると城は元の状態に戻ると考えても良さそうだ」

「それで、どうするんですか?」

「三択だ」


 俺は三本の指を立てる。


「一つ、ここへお前の侍女も閉じ込められている可能性を考慮し合流できるまで待機する」


 一本だけ指を畳んで二つ目を提示する。


「子作りに励む」

「馬鹿ですか!」

「ごふっ……! 殴るな」

「この状況でよくそんなことを言えますね!?」


 俺は口からこぼれてしまった唾液を拭うと冗談ではないと真剣な眼差しを向けた上で説明する。


「その組織が魔族の絶滅を望むなら増やせば奴等の目的通りにはいかない。俺達を閉じ込めたことによって逆に繁殖を促したと考えさせることができれば歪んだ空間を解除してくれるかもしれない」

「そうは言っても……」

「ジェラが無理だとしてもハルがいる」

「ユキさん! 何を言ってるか分かっているんですか!」

「ハルの発言を真に受けるとするなら数の少ない魔族はそうすることでしか種を残せなくなりつつあるということだ」


 と、このままだとジェラが本格的に俺を恨みそうだな。

 面倒な説明をする前に早く三つ目の提案をしよう。


「まあ色々と言ったが一番に簡単な方法がある」

「…………」

「空間を歪めて俺達を閉じ込めた奴を殺す。こんなことをできる魔物がいると聞いたことはないから人間が何かしらの方法で幻覚魔法か何かで細工を施したはずだ。なら術者を殺せば元に戻る」


 ジェラはあまり喜ぶような素振りを見せない。

 当然、人間を殺すと平然と言ったことが気に食わないのだろう。


「いいか、ジェラ。いくら顔を知らなかったと言ってもハルは間違いなく血の繋がった妹だ。たった一人の妹だ。その大切な妹の尻を追いかけてきて挙げ句の果てお前まで巻き込んだ人間を俺は許しておけない。俺のたった一人の家族と守らなければいけないと誓いを立てた雌を狙った連中は等しく罰する必要がある」

「どうしても、ユキさんが手を汚さなくてはいけないんですか……?」

「覚えておいた方がいい。自分の国を、民を守りたいと言うなら自分の手を汚す覚悟が必要と常に考えておけ」


 そうでなければ泣き寝入りするしかないのだ。

 俺はそのような負け犬のごとき姿を晒すのは避けたい。


 ──およそ二時間後。


 城の構造とたいして変わりはないだろうと考えていたが甘かったらしい。

 足場は悪くなっているし広さも元の数十倍になっているのかどれだけ歩いても見慣れた景色などあるはずもなかった。

 これでは迷宮と何ら変わりないだろう。


「そろそろ休憩にするか」

「ハルさんが心配です。怪我をしていたのですから体力の消耗は大きいはずなので」


 言われて妹の姿を探すと少し後ろの方をゆっくり歩いていた。

 たしかに瀕死の重傷を負っていたのを手当てして自力で歩かせているのだから辛いだろう。

 背負ってやることができればいいのだが……。


「ハル、大丈夫か?」

「ん。おにいに迷惑、かけない」

「そういう問題ではない。辛かったら言え。お前が苦しそうにしているのを見てると俺が辛くなる」

「……ごめんなさい」

「もう少し甘えていいくらいだ」


 俺は風の通り道があることを確認して近くにあった瓦礫を燃やして暖を取れるようにする。

 ジェラもハルも二時間も歩き続けていたら疲れが出てきているだろうし二人とも雌だ。俺と違って体力には自身がないだろうし食事も無しというわけにはいかない。

 何か食わせなければ……。


「ユ、ユキさん!?」

「この魔物なら喰える。まだ歩くことになるだろうし少しは腹に入れておかないと持たないぞ」

「そ、それはそうですが抵抗とか、ないんですか?」


 そうか。一時期は森で自分を王として迎え入れてくれていたのが魔物だったと話していたな。

 たしかに身内だと考えれば厳しい。

 だが俺にとって奴等は仲間というには軽い存在だった。

 最後まで残って共に戦ってくれた者などいない。俺と奴等では種族も違えばプライドの有無も違ったのだ。


「人間を喰うよりは無いな」

「そう、ですか。気に病んでいるようでしたら慰めてあげようと思ったんですが」

「幸いにも平気だ。今まではお前や侍女が、俺を受け入れてくれていたが本物の家族が生き残っていると知って、やはり血の繋がりほど大切なものはないと感じた。もちろんジェラートは大切に思っている。ただ、俺が魔物のことを考えるのは止めただけだ」


 俺は魔物を手頃な大きさに切ると石を削って作った串に刺して焚き火の近くにかざす。

 さすがに生で喰わせると腹を下しかねないからな。


「ハルさん、これを身に付けてください」

「これなに?」

「外套です。血を失いすぎてますから体温を保てない以上、気休めでも必要だと思います」

「ハル、受け取っておけ」

「ありがと……」


 まあ、寒さがどうというよりは雌が裸で歩いているのはまずいと気にした結果だろうけどな。

 ハルは発育が進んでいないとはいえ雌は雌だ。

 たぶん、こんな時でもなければ俺を発情させるには十分だろう。

 と俺が何を考えているか察したのかジェラが真横に腰を下ろしてきた。


「ジェラート?」

「魔族とは何なのでしょう」


 ああ、その話がしたかったからか。

 たしかに今後を考えると知っておいても損はないだろう。分かる範囲でしか説明はできないが……。


「魔物と人間の中間に位置する生物だそうだ」

「中間?」

「魔物のように多量の魔力を身体に取り込んでいる生物だが人間のように言葉を話せるということだ。生活基準も人間に近いから一定の場所に拠点を構え、衛生面の考えも存在している」


 と知ったようなことを言っているが大半は俺が喰った人間の知識だ。

 何者かを知った上で殺しに来ていたということだ。今さら責めるつもりもないが隠しだてせずに色々と教えてくれればよかったものの、やはり立場というものがあったのだろう。

 危険な人物に直接的に関わる役を渡されるような立場……。

 いや、止めておこう。

 今は組織のことを考えても仕方ないのだから俺やハルのことを考えるべきだ。


「ハル、もう喰っていいぞ」

「おにい、一緒に食べる」

「ちゃんと喰うから心配するな」

「たしかにハルさんもはっきりとした言葉を話してますね」


 そうだな、と俺はどれだけの間を食事も取らずに過ごしていたのかという勢いで魔物肉に齧りつく妹を眺めながら答えた。

 ちゃんと汚れないように串を持っている。

 魔物のように一口、二口と大きく喰らうのではなくしっかり小さく口に含んで咀嚼している様子も人間に近い。

 そういう点では魔物と関わるよりは人間と関わる方がいいのかもしれないな。


「初めはどうだったのか分からない。人間と魔物が交わった結果が俺たちなのか、それとも一つの種族として存在していたのか。だが、今となっては数自体が少なくなり存在すら知られず魔物と同等に扱われるようになっていたから誰も知らなかったのかもしれない」

「そんな虫の息、と言ったら失礼ですよね。弱りきっている種族を追い詰めようとしている組織があるんですね」

「奴等も人間だ」

「?」


 ジェラは疑問符を浮かべる。

 いや、お前がおかしいだけで大抵の人間は同じ反応をするものだぞ。


「怖いんだ。人間が魔物を恐れるのは当然だが、その中でもA級やS級なんて関係なく言葉を話し知識を持つ者がいると知っていれば、いつ自分たちに牙を剥くような発想をするのか恐ろしくて堪らない。もしくは自分たちの未来に支障を来すと知っているのだろうな」

「ふふっ!」

「どうした、何がおかしい」

「いえ、臆病すぎるな〜、と」


 そういう生き物だろう、と言いかけた俺の口は自然と閉じられる。

 何故ならジェラがハルに優しい視線を向けていたからだ。


「私にはユキさんがやハルさんが魔物より危険な存在に見えません。こう言ったら悪いのかもしれませんが懐いてくれる犬のような、いくら身体が大きくても家族と呼べるような存在にしか見えないんですよ」

「俺はお前にとって犬か」

「そのくらい安心して接することができるという意味です。私にとってのユキさんはもっと、そうですね………かけがえのない存在です」

「やっぱりお前はお花畑だな」

「何ですか! 少しくらい感銘を受けてくれてもいいじゃないですか!」


 そう言って怒っているジェラに串焼きを差し出して俺は逃げる。

 お前の高すぎる評価を素直に受け取れないだけなんだ。

 俺やハルがいることによってお前が愛している国民やパラミナスタという国がどう変化していくのかなんて誰にも分からないのだ。

 だから真に受けて尻尾を振るなんて真似は……。

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