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お姫様は『へんな奴』を平気で連れてくる  作者: 厚狭川五和
第1章「出会い」+α(番外編)
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番外編01「一人より、一緒に」

 今日は国中が甘い匂いで包まれる。

 そういうイベント事は積極的に盛り上げようというジェラートの方針もあり、国民達は毎年、この時期になると準備を始めるのだ。

 甘いお菓子づくりの用意を。


「エリスさん、私情で呼び出して申し訳ありません」

「ううん、姫様の言うことだから」


 ジェラートが申し訳無さそうに頭を下げるとすぐさま首を横に振り気にしなくてもいいと侍女は伝えた。

 呼び出された理由など分かりきっているのだ。

 この日、森に行きたいから護衛してほしいという話をされれば賢い方ではないエリスでも簡単に想像できる。

 お菓子作りの材料集めだ。

 基本的には男が介入してはいけないイベント事なので、へたにユキを頼れず武闘派であるエリスに声をかけたのだろう。


「ええと、この辺りで体に木の実が育つ獣がいるという情報があったんです」

「それを行動不能にすればいい?」

「っ! なるべくそうしてもらえたら助かります!」

「姫様は気合入ってるね」


 エリスは微笑ましそうにジェラートの顔を見るとすぐに歩き始める。

 彼女の情報が書物から得た物なら古い可能性もあり、そうだとすれば早めに見つからないかどうかの判断をくださなければ間に合わなくなる。少なくともお昼までには捜索を打ち切らなければならない。

 まず、半日以上も城に居ないとユキが気づくだろう。

 毎日のように嗅いでいる匂いが薄れてきたら城に居ないと分かるし心配になれば追いかけてきてしまう。

 ユキはローゼ以上に過保護なのだ。

 そんな彼にお菓子を作ってあげたいというジェラートの気持ちはエリスにとって、こうして護衛を任されてもいいくらいには大切なもの。

 エリスは二人の幸せを守れたら満足できる侍女なのだから。


「姫様、あれで間違いない?」

「背中に木が生えてますね。文献通りです」


 見た目は大きな亀だが背中に木が生えていていくつか実もなっている。

 おそらく長い移動を行う生物が故に食料が見当たらない場所においての非常食を自らの体に育てるようになったのだろう。

 そして、あれは人間も食せるものだ。

 この森に自生している果物と同じであり、あくまで彼らの体に生えた木で育てられたというだけ。

 エリスは様子をうかがう。

 凶暴には見えないが思わぬところで強かったりするのが森に生きている生物であり、それをエリスはよく知っている。

 ユキもまた森の育ちなのだ。

 見た目と中身が伴うとは限らないというのは彼から教わった。


「エリスさん……!」

「たぶん大丈夫」


 隠れるのをやめたエリスは正面から近づいていく。

 襲われると考えて亀が暴れだす可能性もある中の行動にジェラートも呼び止めたがエリスは止まろうとしなかった。

 それは、安全だという確証があったから。


「背中に登らせて」


 彼女がそう発すると亀は足を畳み、甲羅を低くする。

 エリスはそこをよじ登り果物を木から落としていく。


「この子、自分で食べれない。誰かに落としてもらって初めて食べることができるから他の生き物を怖がらないみたい」

「…………他の生き物に果物を分ける代わりに自分の分も落としてもらう。ある意味では共存の形をしていますね」

「そうだね」


 エリスは背中から飛び降りると持ってきていた木のカゴに四つだけ落とした果物を回収し、亀の頭を撫でるとジェラートの元へと戻った。

 その様子を見ていたジェラートは嬉しそうに笑う。

 何がおかしいのか分からなかったエリスが首を傾げていたが、そんなことは気にしない。

 おかしいのではなく、安心したから出た笑いだ。


「いつか、本当に分かりあえたらいいですね」

「…………姫様?」

「こんな所に居たのか!」

「っ!」


 二人は聞き覚えのある声に思わずカゴを後ろに隠した。

 予想よりも早い。

 自分の護衛対象が居ないことに気がついた優秀な騎士が駆けつけてきたのだ。


「外に出るならエリスに申し付けなくても俺が行くのに」

「だってユキさんに頼んだら『俺が代わりに行ってくるからお前は城で大人しくしていろ』とか言うに決まってるじゃありませんか」

「当たり前だ! わざわざ危険な場所に行かせるくらいなら代わりに行くに決まってる!」


 本当に過保護な騎士だ。

 人間以上に構っていないと落ち着けない優秀すぎて困りものな騎士。

 エリスから見てもジェラートが少しだけ困っているのが分かる。どうしても危険な目にあわせまいとするユキの発言に。


「ほら、帰るぞ」

「ちょっとユキさん! そんなに慌てなくてもいいじゃないですか!」

「これからお菓子を作るんだろ?」

「っ……」


 やはり勘付かれていたらしい。

 秘密にしていて驚かせようと思っていたジェラートとしては嬉しくない言葉に表情がやや暗くなってしまった。


「それなら時間はあった方がいいし、素人がいるから余計に、な」

「…………え?」

「どうせなら一緒に作りたいんだよ。人間が今日は特別な日だと言うから、どんなふうに過ごすか知りたい。ほら、普段は俺のことを教えているんだからお前たちのことも教えてくれてもいいだろ?」


 予想外の発言にジェラートは喜んでいいものか悩んでいたが結論が出たのか頷いていた。

 特別である必要はない。

 お互いがそれを理解しているなら同じを分かち合ったとしても間違いではないはずなのだ。

 エリスもそれを悟ったのかユキの隣を歩き始める。


「作り方はエリスが教える。姫様もユキさまも、お菓子なんて作ったことないから」

「なんだ、ジェラートも作ったこと無かったのか」

「笑うなんてひどいです!」

「いや、嬉しい。お前が俺のために自分でやったこともないことに挑戦しようとしていたと思うと、な」


 その後、城に戻るなりお菓子作りを始めた三人だが二人がお菓子どころか料理も初体験ということもあり前途多難し、結局の所はエリスが一人で作り三人でお茶会のようになってしまったという。


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