一章ー四節[襲撃前夜]
「・・・・・・」
衝撃で、俺達は言葉を無くしていた。
結構な時間を誰も喋らず沈黙していたと思う。
そして、その沈黙を破ったのはーー
グゥぅぅ〜〜
お腹の鳴る音だった。
「す、すみません!お昼を少ししか食べてなくて・・・」
「アリシア様は、気配を追う事に夢中になっておられましたから・・・」
「モルガン様しか言える雰囲気ではなかったですからね・・・」
「もう、だから、お昼はしっかり済ませましょうと言ったでしょう?」
そう口々に言われ、アリシアさんはまた赤くなった。
その様子を見て姉さんが
「やれやれ、衝撃が削がれたな。話は後にして、夕飯にしよう、本来なら手伝ってもらうが、今日の所は待っていろ」
「申し訳ありません・・・」
「気にするな、よし、準備するぞ」
『はい!』
姉さんは皆を引き連れてキッチンに向かった。
「アリシアさん、さあ座ってください。姉さんが今日の所はいいと言ったんですから」
「ほら、アリシア。話は後と言われたのだから、お言葉に甘えて待っていましょう?」
「・・・はい」
俺とモルガンさんに促され、アリシアさんは着席して、アリシアさんの着席を見て、クレアさんとエレインさんが続いて着席する。
「そう言えば、クレアさんとエレインさんは、円卓の騎士の末裔なんですよね?」
「はい、私は姓の通りガウェインの、エレインはランスロットの子孫になります。・・・それと零牙様、私達の事はどうぞ、呼び捨てにしてください」
「・・・クレアの言う通りです。零牙様は凰月という、遙かに高貴なご身分なのですから」
そう言ったクレアさんにエレインさんが同意した。
「いえ、そう言っても、一つしか違うとはいえ、年上ですし・・・と言っても、・・・そうですね。分かりました」
長年の経験から、俺が敬称を付けると、呼び捨てにしてくれと返されるのが、凰月の関係者なので、受け入れた。俺がそれでもと、言ってもまた同じ様に返されるのがオチだ。そう思い切り替えて、続きを聞いた。
「他の円卓の末裔も来るんですか?」
それには、アリシアさんが答えてくれた。
「・・・いえ。実は、今現在ペンドラゴン家に集ってくれている円卓の一族は、ガウェイン家とランスロット家だけなのです」
「・・・ええ、他の円卓の一族に関しては情報も無い状況なの。途絶えてしまったのか、末裔が居るのかも分かっていなくて。代々、各地を探し回っているのだけど現状、めぼしい情報はないのよ」
そうモルガンさんが教えてくれた。
「・・・そうなんですね。でも、驚きました。ガウェインとランスロットが共にいるのは。たしか、決裂したんですよね?」
そう、たしか円卓の崩壊が決定的になった時にランスロット卿は、他の円卓の騎士諸共、ガウェイン卿の妹を殺して、ガウェイン卿に憎まれているのではなかっただろうか?
「そう、伝承の通り。ランスロットは他の騎士諸共、ガウェインの妹を切り殺した。それで円卓のひいてはブリテンの崩壊は決定づいた。でも、公には知られていない事があるの。この後にガウェインは一族を率いて、ランスロットを追い詰めた。お互いの一族が見守る中、二人は、決闘を行なったのよ。・・・ねえクレア?」
「はい、私の先祖ガウェインは、ランスロットと決闘を行いました。円卓最強のランスロットに、先祖は引けを取らず。戦いは、三日三晩続いたそうです。お互いに致命傷を負って、戦いは相打ちになりました。
死の間際に全力で戦った事で、憎しみに囚われていたガウェインは憑物が、落ちた様に、ランスロットを許したそうです」
「そして、二人はお互いの一族に言い遺しました。
「私たちの死を持って、禍根は終わった。もし、ペンドラゴン家が再興した暁には、両一族共に協力して仕えよ」と、そして、二人はお互いの力を一族に託し、生を終えました。以来、我がランスロット家とガウェイン家は共に協力してペンドラゴン家にお仕えしています」
クレアとエレインはそう語ってくれた。
「ええ、二人とは、小さい頃から一緒で、よく助けてくれました・・・」
アリシアさんが穏やかな表情で言うと
「いえ、アリシア様。当然の事です!」
「ペンドラゴン家にお仕えする事こそ一族の本懐ですから」
すぐさま返すのは、やっぱり俺達の関係に似てるな、すごく既視感を感じる。
「見慣れた光景ですね」
「主と従者は何処も関係が似るからね」
アンジェとアイナスが料理を運んできた。
キッチンの方を見ると他の皆も料理を運んできて、テーブルに次々と料理が並んだ。
並んだ料理を見ると今回は肉料理が大半を占めている。
二十人前ぐらいの量になるが、この量が我が家の常だ。
俺達は血筋や宿る龍の関係で全員が大食漢だが、体型が崩れる心配は無い。
そもそも龍族自体が大食いな為、宿している分エネルギーが必要になる。
そして、俺達はある血筋と宿る龍の相乗により、片方だけよりエネルギーが必要になる。ちなみに、エネルギーが必要ではあるが、消費に関しては多いと言う訳ではなく、むしろ少ない。その気になれば、無補給で、多大な魔力を消耗する大技を使わなければ、三日は、魔力切れを起こさずに戦える。
まあ、俺はある理由で、今は魔力切れを起こすが。
「どうだ?アリシア。これで足りるか?」
自分の席へ座りながら姉さんが一番空腹であろう、アリシアさんに聞いた。
「いえ、そんな!十分、いえむしろ大満足です!」
そう答えた、アリシアさんは目が輝いていた。
「冬華さん」
「なんだ?モルガン」
「アリシアの代わりに伝えておくのだけど、アリシアはかなりの大食いなのだけど・・・、大丈夫?」
アリシアさんが大食い?想像出来ないが・・・。
「量の問題か?心配するな、足りなくなればまた作ればいい。それと、モルガン。私の事は冬華でいい、同い年だろう?」
「分かったわ、冬華。・・・安心したわ、この子は貴女達に匹敵する程の大食いだから」
俺達の分まで食べてしまわないか、心配していたモルガンさんは安堵の表情を浮かべた。
そんなに大食いなんだろうか?
「さて、零牙」
俺は姉さんに促される。
「ああ、じゃあ・・・、頂きます!」
『頂きます!』
ようやく新学期の1日にひと段落ついた。
・・・・ーーーーーーー
龍凰市は巨大な龍穴の上に浮上しており、全体がパワースポットではあるが、それでもこの地に満ちる力は、全て一定ではなく、いくつも他よりも力が満ちる場所があり、その場所を【龍の聖域】と呼ぶ。大きい聖域は凰月の関係者以外は立ち入りを禁じられており、その他は特に制限されていない。聖域は大なり小なり、いくつもあるが、聖域の中でも、特に力の満ちる場所を【四大龍域】と呼ばれ、それぞれ東西南北に位置している。
ーー市内山中ー深夜
この地は【龍の聖域】の一つで、市内中心部から西に位置する【西龍山】と言う山で、【四大龍域】の一つである。
その頂上には巨大な湖があり、湖の中央にある龍穴の真上に位置する島の、龍を象った要石の側に黒いドラゴンがいた。
ドラゴンではあるが、両翼はまるで王様が着るようなマントの様で、頭部には、ドラゴンらしく一対の上に向く角があり、そして、その角に引っかける様に古い王冠が載っている。何処となく人間の王様を思わせる、このドラゴンこそ、アリシア達が追っているドラゴン。
【邪竜・ヴォーティガン】
ヴォーティガンは眠っているが、その身体からは、邪悪な魔力が漂っていた。
四大龍域に満ちる力は、凝縮され粒子状に集まっており、それが、無数にこの地を漂っている。
したがって、力を取り込む様子は、容易に確認できる。
しかし、ヴォーティガンの周囲に漂う粒子は、吸収出来ていなかった。
すると、ヴォーティガンが身動ぎして目を開けた。
「・・・何故だ?・・・何故、一向にこの莫大な魔力を吸収出来ない・・・?」
ヴォーティガンは龍凰市に入ってから、特に力の満ちる場所を探して、たどり着いたのが、西龍山だった。
この山に降り立ってからは、昔に受けた傷と、消耗した力を回復する為、ずっとこの地で眠っていた。
眠りながら、この地の魔力を吸収しようと、ずっと試みていたが、雀の涙程度しか吸収出来ていなかった。
「・・・おのれ、“奴”めデタラメを言いおったな。目的を果たしたら、捜し出して、八つ裂きにしてくれる」
そう口にしたヴォーティガンの目に、未だ癒ぬ胸の古傷が目に入る。
その傷を目にした瞬間にヴォーティガンの憎悪が燃え上がる。
「・・・・おのれ、あの程度の小娘に、してやられるとは。忌々しい小娘め・・・、既に、奴は死んでおろうが、必ず子孫を見つけ出し、我が屈辱を晴らしてくれる!・・・・だが、先ずは、力の回復だな。復活出来たとはいえ、まだ全盛期の半分の力しか出せんとは・・・」
ヴォーティガンは、魔力探知を開始して、徐々に範囲を拡げながら思案した。
「・・・どうしたものか。此処は莫大な魔力に満ちてはいるが、この吸収速度では、時間が掛かり過ぎる・・・。・・・・・・?これは・・・」
ヴォーティガンの探知に引っかかったのは、・・・ー東に位置する龍凰学園だった。
「確か、此処に来る途中で城のようなものがあったな・・・、確か・・・学園と言ったな。通り過ぎた時、複数の魔力が密集していたな。だとすれば、魔力の回復に役立つか・・・。・・・・・・力が戻るまで、目立つ行動は避けたかったが致し方あるまい」
ヴォーティガンは身体を起こし両翼を広げ、魔力を高め始めた。
「さて、半分の力でどれほど呼べるか分からぬが・・・。500も呼べれば充分だろう」
そう言うと、ヴォーティガンの影がゆっくり広がり始め、
「来たれ!我が騎士、そして兵達よ!再び、我が手足となり。我に仕えよ!・・・【レザレクション・ヴァッセルズ】!」
拡がった影から、鎧を纏い黒く塗り潰されたような姿の兵士と騎士が次々に現れる。
その内訳は、兵士350、騎士150の軍勢だった。
現れた軍勢はかつて、ヴォーティガンがブリテンの王だった頃に、ヴォーティガンに仕えた臣下達だ。
ヴォーティガンは、かつての臣下達を王だった時に会得した黒魔術で復活させた。
「・・・王よ・・・」
「我が王よ・・・」
「・・・我らが王よ」
復活した臣下達は口々に呟いた。
ヴォーティガンの魔力と生前交わした契約を依代としての復活だが、少なからず意思はあるようだった。
ヴォーティガンは、呼び出した臣下達を見渡した。
「・・・やはり、将達は呼べなかったか・・・。出来れば、2、3人は呼びたかったが・・・。まあ良い。
魔力を集めるだけなら事足りる。・・・・・・傾注せよ!我が兵達よ!」
即座に軍勢は、膝を突き、頭を垂れる。
「命を下す!・・・此処より東方、学園と呼ばれる場所がある。数刻後に少なからず魔力を持った人間が多く集う場だ。進軍しその地を襲撃し、魔力を奪え!・・・我が力を取り戻す為に、我に魔力を捧げよ‼︎」
その時、太陽の光が差し込んできていた。丁度、日の出の時間だった。
「進軍を開始せよ‼︎」
『ウォーー‼︎』
500の軍勢は、学園に向けて行軍を開始した。
ー・・・・
ー西龍山・上空
西龍山・山中に響く行軍の足音と蠢く500の軍勢、眼下に広がるその光景を眺めてる者がいた。
鮮やかな長い水色の髪と青い羽織りを着た女性、彼女はこの西龍山の管理と守護を任された龍だ。人間の姿を好む為、ドラゴンとしての姿を晒す事は、あまりない。
彼女は、ヴォーティガンの軍勢の行軍を、静かに眺めていた。
一言も発せず眺めていると不意に声をかけられた。
「・・・西龍様」
声をかけたのは、彼女の従者の女性で、顔は龍の頭部を模した仮面をつけており、忍び装束の様な戦闘服に身を包んでいた。
【西龍】それは、彼女の名だが、真名では無く。この聖域の守護者としての名だ。
「・・・貴女も見てご覧なさい。壮観よ?」
西龍はそう言っているが、言葉の端々に不機嫌さが表れていた。
「・・・よろしいのですか?奴の好きにさせて?」
「・・・静観しろと言うのが、ツクヨミ様の命よ。・・・・・・でも、そうね。もちろん不愉快よ。邪竜如きに、守護を仰せつかったこの地を土足で踏み荒らされるのは。ツクヨミ様の命がなければ、私が滅しているところよ」
ヴォーティガンを冷酷に見下ろしながら、そう言った。
「・・・それで、結界の確認はしてくれた?」
「はい、指示された通り、結界に綻びが無いか、抜かり無く確認しました。・・・しかし、結界が綻ぶ事はあり得ないのでは?・・・ツクヨミ様自らがお張りになった結界です。破られる事は無いと思われますが・・・?」
西龍は、ちらりと横眼で見ながら
「勿論、ツクヨミ様の結界は万全よ。でも、結界の確認は、ツクヨミ様が仰せになられた事よ。・・・“完璧や絶対なんてない。だからこそ、「あらゆる可能性を想定し、万全の体制を整える事こそ重要」だと仰っていたわ。ツクヨミ様は、常にあらゆる可能性を想定して動いているのよ」
そこで、ピピッ!ピピッ!と西龍に通信が入った。
「・・・グループ回線」
立ち上げたホログラフィックディスプレイに三つのウインドウが開く。回線名は【四大龍】その名の通り、四大龍同士の連絡の為に最近に設けられた回線だ。
そして、三つのウインドウにそれぞれ、他の四大が映し出される。
「応!そっちはどうだ?西龍!」
好戦的な雰囲気の逆立った赤い髪の男が、映って直ぐに開口した。
【東龍塔】の守護者、【東龍】。
「・・・やれやれ。相変わらずだね東龍。少しは、西龍の気持ちを汲みなよ・・・」
メガネを掛けた。理知的な緑色の髪の男が、呆れながら嗜める。
【南龍谷】の守護者、【南龍】。
「南龍の言う通りだ。少しは気を遣え、先に西龍に話しをさせろ」
銀色の髪の厳格そうな美女が、南龍に同意する。
【北龍極】の守護者、【北龍】。
北龍は、四大龍のリーダーであり、龍凰市に点在する。全ての聖域の守護者を束ねる長であり、彼女が、守護する【北龍極】は他の四大龍域を超える力が渦巻いている。
「いいわよ。今に始まった事じゃ無いわ。東龍のせっかちは」
南龍が肩をすくめて
「それもそうだね。長い付き合いだし」
「あーあー、悪かったよ。でも、気になんだろ?俺らの所には来なかったんだからよ」
「全く。・・・じゃあ北龍、現状報告よ」
「・・・ああ、頼む」
西龍は、腕を組みながら話し始める。
「まず、ヴォーティガンが、私の龍域に来たのは、3日前、それまでは、各地の聖域を様子見していた様ね」
「ああ、それは確認済みだ。西龍の龍域に行く前は、私の龍域の近くを飛んでいたからな。結局は、一歩も踏み込んでは来なかったが」
その事に東龍は納得した。
「ハッ、そりゃそうだろ。手負いの邪竜如きが、そんな自殺行為はしねえだろ」
「その事については東龍に同意するよ。いくら、かつて暴君と言われていても、君の所に手を出すのは、まずいと分かっただろうさ」
「そうね。そもそも、ツクヨミ様も北龍の所に来る可能性は、無きに等しいと仰っていたものね。“絶氷”と謳われる一族の貴女が守護するのだから。護りは特に万全でしょう?それに龍域自体が拒絶するでしょう?」
「・・・“絶氷”と謳われたのは、姉上が初めだがな」
「ごめんなさい。話しを戻すわ。・・・現在、ヴォーティガンは兵士を呼び出し、進軍させたわ。数は500、学園に向けて行軍中、奴は動かない様ね」
「・・・ふむ。500か。随分と呼び出したな。・・・結界の確認は終わったが、少し不安だな・・・」
それを聞いた東龍が少し期待を込めて聞く。
「お?だったら、露払いするか?なんだったら、俺が行って薙ぎ払ってもいいぜ?」
北龍は少し考えるが
「・・・・・・いや、ダメだ。露払いも少し考えたが、我らは静観しろとの命だ」
だが、南龍もそれには不安を口にする。
「本当に大丈夫かい?異能科の子たちだけで対応出来るだろうか?まだ、実戦を経験した事ない子もいた筈だけど・・・」
「確かに実戦を経験していない子もいるだろう。だが、冬華様や他の教官達もいる。問題無いだろう。それに、この襲撃は、彼らにとっても経験を積むいい機会だろう。・・・滅多に、学園に攻め込む阿呆はいないからな」
「・・・・・・私達が手を出す事は、成長の機会を奪う事になるという事ね」
「そう言う事だ。・・・改めて釘を刺しておくぞ、東龍。手を出すなよ?」
「だーから、分かってら!」
「本当に、分かってるのかい?君は戦闘狂だろう?」
「同感ね」
「分かってるって言っただろ!俺だってツクヨミ様の命に背かねぇよ」
口々に言われて東龍は少し怒った様に言うが、いつもの事なので、北龍は続けて
「・・・・お前たちも知っている通り、これは始まりだ。故に、ヴォーティガンは零牙様が討たねばならない。我らは、零牙様がヴォーティガンに集中出来るように周辺被害を抑える事に専念する」
「応!」
「了解」
「ええ」
南龍が感慨深げに呟く。
「・・・それにしても、ようやくか・・・。待ちわびたよ」
東龍が言う。
「全くだ。長え事、待ったよな」
西龍が東龍に言う。
「気を引き締めなさい。まだ、これからなのよ?」
北龍は、表情を変えずに言う。
「その通りだ。まだ、始まったばかりだ。ツクヨミ様が長年準備しておられたとはいえ、零牙様が“到る”まで、油断は出来ん」
「でもよ、大丈夫だろ?既に昔から決まってんだからよ。そんな怖い顔せずに、少しは気を抜いていいじゃねぇか?俺ら臣下にとっちゃ嬉しい事じゃねぇか」
西龍は少し呆れながら
「東龍、気づかないの?北龍、これでも喜んでるじゃない」
東龍は心底驚き
「マジかよ⁈いつも通りだから、全く分からなかった!」
すると北龍は少し表情を崩して珍しく恥ずかしそうに
「・・・立場上、表に出ないだけだ。・・・私とて、この時を待っていたのだ。喜ばしいに決まっているだろう」
「まあ、分かりづらいだろうね」
北龍は咳払いをし
「と、ともかくだ!各自、抜かりの無い様に!・・・西龍、引き続き監視を頼む。以上だ、ではな」
そう言うと、北龍は通信を切った。
「ハハ、余程、恥ずかしかったのだろうね。じゃあ、僕も失礼するよ」
珍しい北龍の様子に苦笑して、南龍も通信を切った。
「・・・なあ、西龍。俺、北龍を怒らせたか?」
東龍は不安気に西龍に尋ねた
「大丈夫よ。ただ単に恥ずかしかっただけよ」
それを聞くと東龍は安心して
「そ、そうか。北龍を怒らせたのかと思って、肝が冷えたぜ」
「本当に怒らせたなら、あなた、今頃氷漬けにされてるわよ」
「そうだよなぁ・・・。随分前に挑んだ時も、一瞬で凍らせられたからなぁ・・・」
東龍は腕を組み、北龍と手合わせした時の事を思い出しながら言った。
「まっ、今度は本当に怒られない様に、今は目先の仕事に集中するか。じゃあな、西龍」
東龍が通信を切り、西龍は改めて気を引き締めて行軍を、見据える。
「さて、私たちも仕事に取り掛かるわよ」
「はっ!」
再び、零牙達の長い一日が始まろうとしていた。
ー・・四節・終