四章-三節【強襲する龍達】
ーーブリテン島上空1000メートル
光学迷彩を施した戦闘艦が、漆黒の雲海を背に航行していた。
艦の後部ハッチが開いており、冬華・澪凰・龍姫・スカアハ・モルガン・ファントムと、零牙達クラス・アルファの面々は降下直前だった。
「陽動は成功だな」
高高度の気流によって髪や服がめちゃくちゃに靡く中、海上の戦況を直に確認した冬華が言った。
海上では再展開された敵戦力が、QE達によりブリテン島から引き離されており、海岸線沿いの砲台の全てもQE達に向けられており、こちらの存在は気付かれていなかった。
「いいね、
「よし」
冬華は振り返り、他の皆に告げる。
「これより第二フェーズを開始する‼︎目標は、海岸線沿いの防衛戦力の殲滅並びにキャメロット城の敵首魁の討伐だ‼︎全員、能力使用自由‼︎私に続け‼︎」
『了解‼︎』
先に降下した冬華に続き、零牙達も後部ハッチから真っ逆さまに降下する。
降下地点は防衛砲台が等間隔で設置されている海岸線より奥の内陸部ーー“カムラン”の西端。
ーー高度800メートル
曇天の空を17人が、自由落下している。
未だブリテン島からの迎撃は無く、順調に降下は続きーー
ーー高度200メートル
未だ迎撃は無い。
いや、予想外の力を見せたQE達にリソースを割くのが手一杯なのだ。
故に上空にまで目が回っていなかった。
「先に仕掛けさせて貰うよ、冬華」
ここで澪凰が逆さまに落下している状態から“空中”を蹴り込み、一気に落下速度を加速させた。
澪凰はニイッと好戦的な笑みを浮かべながら、自身の得物を顕現させる。
澪凰は真横に右手を翳し、言の葉を紡ぐ。
「降臨せよ。・・・其は、黒陽の一振り」
翳した手の先にに裂け目が開き、そこから“黒い太陽”が黒いプロミネンスを迸らせながら、横にスライドしながら現出する。
黒陽が放つ極高温並びに極低温により、主の落下する軌跡を残す様に大気を燃やし、氷結させて爪痕を残す。
「全てを極滅せし、黒き太陽の龍刃!」
澪凰の右手に吸い寄せられる様に黒い焔が渦巻く黒い太陽が右手を覆い尽くす。
黒い太陽は“凍てつく”様な黒い焔を撒き散らしながら、大太刀の姿へと収束していく。
恐ろしい程の濃密な剣気と魔力が漆黒の大太刀から放たれ、主の自由落下も相まって、巨大な隕石が落ちて来る様なプレッシャーを、地上の全てに覚えさせた。
「抜刀・・・天羽々斬【極皇】」
漆黒の鞘に納められ、身の丈を超える尺を誇る大太刀が、澪凰の右手に顕現した。
圧倒的な力とプレッシャーを感じ取った地上の敵戦力が、身構え始める。
ーー高度80メートル
眼下には大地を埋め尽くさんばかりの無数の騎士達が集い、砲台周辺の防衛に当たっていた。
「先手は貰ったよ‼︎」
ーーシュリン‼︎
澪凰は、玲瓏な漆黒の刀身を持つ大太刀を抜き放ちながら身体を回転させーー
「五の太刀ーー嵐龍旋尾‼︎」
嵐の如き剣戟の暴威が、龍が尻尾で邪魔者を薙ぎ払うが如く100を越える騎士達を斬り伏せた。
味方が斬り伏せられたにも関わらず、騎士達は全く動じることも無く、地上に降り立った闖入者に対して無機質に迎撃態勢をとった。
大地を埋め尽くす無数の騎士達を前に、澪凰はニィッと好戦的な笑みを浮かべーー
「さあ、始めようか‼︎」
澪凰は超高速機動を持ってして、東方向の敵の群れに一気に斬り込んだ。
澪凰は縫う様に敵群を駆け抜け、すれ違いざまに無数の斬撃を放つ。
澪凰が漆黒の大太刀を一振りするごとに、数百の騎士が宙を舞い、地に伏せ、両断され、反応すら許されずに斬り伏せられていく。
「フフ・・・ハハハ・・・‼︎」
大地を埋め尽くさんばかりだった敵の群れに、瞬く間に穴や線が出来ていく。
「おやおや、ここぞとばかりに暴れていますね」
並の者ーーいや、手練ですら捉える事が難しい程の超高速機動で大太刀を振るう澪凰を眺めながら、美しい長い白黒の髪と陣羽織を靡かせる龍姫が澪凰が確保した着地地点に優雅に降り立った。
龍姫は既に、槍の如き柄を持ち七支刀型の刀身を持つ自分の得物【天羽々斬・白皇】を左手に携えていた。
得物と共に全身から純白の雷を迸らせる龍姫は淡い笑みを浮かべ、優しく穏和とも取れる眼差しで蹂躙されつつも圧倒的な物量を未だ誇る敵軍を“睥睨”しーー
「さてーー参りましょうか」
純白の雷の残滓をその場に残しながら、龍姫の姿が掻き消える。
次の瞬間、澪凰が蹂躙する方面とは反対方向の西側から斬撃音が鳴り響き、不可視とも言える斬撃とそれに付随する余波により、瞬く間に数百以上の騎士達が両断された。
「やれやれ、はしゃいでいるな・・・あの二人」
そう呆れる様に言いながら、足下まである黒銀のポニーテールと陣羽織を靡かせた冬華が優雅に降り立った。
その瞬間、冬華を中心に拡がる様に絶対零度の空間ーー“龍域”が環境を塗り潰す。
「ーー抜刀・・・天羽々斬・氷皇」
途中の顕現文を詠唱破棄しながら冬華は、鞘に納まる白銀の大太刀を右手に顕現させた。
詠唱破棄されていながらも氷皇は顕現した瞬間に凄まじいまでの剣気を放ち、恐れも知らぬ意思なき騎士達すらもたじろぎ怯む程であった。
冬華は眼前の敵群を睥睨しーー
ーー白銀の大太刀を既に“振り終え、不可視の剣戟によって既に斬っていた“。
認識すら出来ぬ程の速度で放たれた居合いによって、一拍遅れて冬華と正対していた北側の騎士達は両断され、剣戟の軌跡を示す様に直線10キロの大地が氷結し、霜が舞い踊る。
ーーダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダゥン‼︎
南側の騎士達に、魔力弾の雨が降り注ぐ。
藍色のロングコートとピッチリとした戦闘スーツを纏い龍の仮面を付けた女性ーー【ファントム】。
彼女の両手の大型ハンドガンから放たれる魔力弾は極限に圧縮され鋭く研ぎ澄まされており、騎士達の装甲を容易く貫き、着弾と同時に魔力が爆ぜ大地ごと騎士達を“消滅”させて小規模なクレーターを穿った。
零牙達が降り立った時には降下地点であるカムラン西端は澪凰・龍姫・冬華・ファントムの4人によってほぼ殲滅されており、残る騎士達は寡兵であった。
ちなみにレーヴェは別行動中だった。
腰下まである濃紺のロングストレートに紅眼、抜群のプロポーションをノースリーブの黒い軍服とホットパンツとニーハイブーツを纏った美女ーースカアハが辺りを見渡して感心する。
「4人とも見事な手並みだ。しかしーー」
彼女は、斬り伏せられた騎士達の残骸を怪訝そうに観察する。
「我等の戦闘力が突出しているとはいえ、キャメロットの騎士がこれほど容易い訳は無い筈だが・・・?」
3メートルの体躯の蒼白銀の狼ーー【フェンリル】が同意する。
「ええ。私も全盛期の騎士達と手合わせした事がありますが・・・無抵抗とも取れる程に鈍重な動きではありませんでした。当時の騎士達は少なくともーー一騎当千ならぬ一騎当百と言える程の戦闘力を有していました」
「ああ。これではまるで、カカシもいい所だ。全盛が過ぎたーーなどという問題では無いな・・・」
一切の警戒を怠らず、当時を知る“生きる伝説”たる二人の言葉に零牙達は耳を傾けていた。
スカアハは近くにある鎧の残骸を手に取り、ルーン術式を用いて調べ始める。
「ふむ・・・事前の情報通り中身はなくリビング・アーマー状態で鎧は当時の物か・・・だがどうやら手入れはされておらず、製作された当時の修復術式で最善の状態に保たれている様だ。だが術式の更新が無いせいで見た目は新品同然だが、性能は当時と比べるべくも無いな。やれやれ・・・偽者とはいえ曲がりなりにも部下の装備に気を配らんなど、これではまるで捨てでは無いか」
分析し終えたスカアハは残骸をゆっくりと地面に置いた。
スカアハは、苦虫を噛み潰したような表情で騎士達の残骸を眺める銀灰色のポニーテールの美女ーー【モルガン・聖月・ペンドラゴン】をチラリと視線を向けた。
「・・・・」
モルガン達の事情を知っているスカアハは、その表情の意味を理解しており、その想いに耽る事が出来る様にとモルガン達の分まで周辺警戒を始めた。
「アリシアさん、大丈夫ですか?」
一方零牙は、このブリテン島に近づくにつれ落ち着かない様子で考え込んだり、ボーッと心ここに在らずといった感じのアリシアを心配して声を掛けていた。
特にこの地に降り立ったアリシアは、茫然といった様子でカムランを地と薙ぎ払われた騎士達を見つめていた。
「・・・お嬢様、大丈夫ですか?」
「何処か、具合でも・・・?」
アリシアの従者である金髪の長身美少女【クレア・ガウェイン】と、黒髪の美少女【エレイン・ランスロット】がいつもと違う様子の主を心配して声を掛けた。
「・・・いえ、大丈夫です。ただ・・・ブリテン島に近づくにつれて何処か懐かしい様な、“帰って来た”様なそんな感覚を強く感じていて・・・。この地を直接目にし、大地に足をつけ、吹く風と漂う魔力の息吹を感じて確信しました。どうしてそう感じてしまうのか不明ですが・・・ーーーーー“私は此処を知っている“・・・」
戸惑う様にアリシアはそう口にした。
そこへ、長い純白の髪の美女ーー【マーリン】が口を開く。
「その通りよ、アリシア。貴女はこのブリテンを知っている。ーー何故なら此処に、“貴女達の真実”があるのだから」
「・・・え・・・・?」
「・・・マーリンッ‼︎」
モルガンがまだ早いとでも言う様にマーリンを咎める。
基地で話していた際はモルガンも敬語だった筈だが、咎めたその口調はまるで知己に向けるものだった。
マーリンは憤慨するモルガンをやんわりと手を挙げて制し、アリシアに告げる。
「“彼女”の存在は貴女も知っているでしょう?何故、貴女の内に彼女がいるのか。何故、生まれてから一度も来た事も無いはずのブリテンの地に懐かしさを覚えるのか。その答えはキャメロット城にある」
マーリンは視線を遠くへ向ける。
その視線に促される様に、零牙達もそちらに視線を向けた。
全員の視線の先には、大地を埋め尽くす騎士の大軍と城門前を5メートル前後の巨大な騎士達に守られ、切り立った山脈の上に築かれたキャメロット城が聳え立っていた。
「あれが、キャメロット城・・・・」
アリシアがポツリと感慨深げにそう呟いた。
「妹達を心配するのは分かるけど、この地に戻って来た以上遅かれ早かれ、取り戻さなければいけないよ?モルガン」
不安そうにアリシアを見つめるモルガンに、マーリンが言い聞かせる様に言った。
「どの道、キャメロット城は制圧する必要がある」
カムランの残存戦力を殲滅し戻って来た冬華が、こちらに歩み寄りながら言った。
その後ろには、澪凰と龍姫が続く。
惚けた様な様子のアリシアの肩に優しく手を乗せ、冬華は声を掛ける。
「大丈夫か、アリシア?無理はしなくていい。どっちにしろその状態で戦うのは危険だ。私達に任せて、艦で待機していても良いんだぞ?」
「いえ、大丈夫です・・・この地に私とーー私の内にいる“彼女”の真実があるのであれば、それを知りたい。いえーー“知らなければならない”!」
アリシアは決意と使命感が満ちた眼差しで、キャメロット城を見据えた。
「・・・分かった。よし、此処から二手に分かれる。私、龍姫、ファントム、アンジェ、朧、織火、龍護、影刃は、海岸線の防衛網の破壊だ。零牙、澪凰、刹那、アイナス、アリシア、スカアハ、フェンリル、モルガン、クレア、エレインは、キャメロット城制圧と敵首魁の討滅だ」
『了解‼︎』
「さてーー」
冬華はマーリンに問う。
「貴女はどうする、マーリン殿?」
するとマーリンはフッと笑みを浮かべて、キャメロット城とは別の方角を見据えて答える。
「私はーー」
マーリンはモルガンと頷き合いーー
「ーー“この島を取り戻すわ”」
ーー・・キャメロット城・玉座
「ふむ・・・実に良い音色だ」
遠くから聴こえる戦闘音に、リラックスして玉座に腰掛ける黒い長髪の男は満足そうに呟いた。
男は重厚な純白の鎧と“竜”を模した仮面を着用し、玉座前の装飾が施された台座には純白の聖剣ーーカリバーンが突き立てられていた。
玉座に至る13段の階段下の両脇には、重厚な全身鎧を纏った炎色のグラデーションの白い騎士と夜の闇に溶け込みそうな漆黒の騎士が控えていた。
アーサーを名乗る長髪の男は階段を優雅にゆっくりと降り、白い騎士と漆黒の騎士に語り掛ける。
「君達もそう思わないか?」
揶揄う様に発せられたその言葉に、怒りを表しているかの様に顔をアーサーに向けようとするが、まるで押さえつけられている様に直立不動の体勢のまま、ガチャガチャと鎧の音を鳴らすしか出来なかった。
「フ・・・・」
二人の騎士の様子に、アーサーは満足けにそれでいて嘲笑う様に笑みを漏らす。
アーサーは玉座の間に併設されているバルコニーに向かう。
そのバルコニーからは城の中庭や城門、城下、果ては海岸線まで一望出来た。
「ククク・・・」
バルコニーに出たアーサーはこの城に向かってくる一団を確認しーー“愉悦の笑いを溢した”。
その中の一人を見つめ、聞こえる筈も無いが感慨深げに言う。
「ああ成る程・・・やはりーー“貴女”でしたか。
また私の遊びに付き合ってくれるとは、実に恐悦至極ですよーーーー
ーー“アーサー王”。
アーサーは、その名を囁いた。
仮面のツインアイが心底愉快そうに歪められ視線の先の者を見つめる。
その視線の先には、決意に満ちていながらも若干の不安を表情の端に滲ませた金髪ポニーテールの少女ーーー
ーー【アリシア・聖月・ペンドラゴン】”の姿があった。
ーー四章-三節【強襲する龍達】・終




