四章-二節【黒雷が迸り、砲火は踊る】
ーー早朝・6時前
ブリテン島周辺海域は、”その海域上だけ“歪な黒雲が空を覆い隠す曇天模様だった。
既にブリテン島への侵入を阻む様に海上に展開するのは、灰色の全身鎧の騎士ーー無数の【リビング・ナイト】達だ。
「およそ、自然現象とは思えないが・・・第二フェーズの進行には打ってつけだな」
巨大な戦艦の甲板上で曇天を見上げてそうひとりごちるのは、プラチナブロンドの髪を靡かせる軍服の美女【クイーン・エリザベス】ーー通称・QEだ。
彼女が艦長を務める足下の戦艦【高速強襲航宙艦クイーン・エリザベスG】は、陸海空と宇宙空間での運用を可能な次世代型最新鋭艦だ。
プロトタイプクラフティを解析する事で得られた技術と近年解読に成功したロストテクノロジーを惜しみなく投入しており、全長400mを誇る弩級戦艦ながらも優れた機動力を有し神クラスの攻撃にも数度は耐えられる頑強な装甲と、強大な都市の一つや二つを焦土に化すのも容易な火力を合わせ持つ高性能万能艦なのだ。
現在、他のトップ3とビッグ7専用の同型艦が建造中である為、先にロールアウトしたこの艦に全員同乗していた。
今回、旗艦を務める弩級戦艦クイーン・エリザベスGを中心に集結した連合艦隊は120隻以上の戦闘艦で構成されており、全ての艦は航宙艦として近代改修を施されており空中航行が可能であったが、なるべく空に目を向けさせない為に着水し待機していた。
艦隊集結はとっくに完了しており、後は自身の号令で“開戦の狼煙”を上げるのみだ。
「よう!壮観だよな、この景色」
「アイオワ」
QEに気さくに声を掛けてきたのは、勝ち気そうな雰囲気の金髪美女だ。
彼女は頭にカウボーイハットを被り、チューブトップとジャケットに豊満な胸を窮屈そうに納め、そしてホットパンツから伸びたスラリとした美脚にニーハイソックスとウエスタンブーツを履き、腰のホルスターの両腰と尻背部に計4丁の大型リボルバーを差したいかにもガンマンといった出立ちに、その上から軍服コートをマントの様に羽織るといったおよそ軍人とは思えぬ格好の金髪美女ーーコードネーム【アイオワ】、トップ3の一角だ。
QEが振り返ると、腰に右手を当てて笑みを浮かべて立つアイオワともう1人のトップ3ある黒髪の少年【大和】、そしてその後ろに勢揃いするビッグ7の姿があった。
ちなみに大和とビッグ7達は、専用に誂えられている為に少々改造されているが、ちゃんとした軍服を着ている。
「で、もうおっ始めるか?大将」
不敵な笑みを浮かべ、アイオワはQEに聞いた。
「少し待て。今“騎士”殿の状況をきいている所だ」
QEは通信を“傭兵”に繋ぎ返答を待ちながら、返事した。
「騎士、か・・・。開戦の合図として、でっけぇ一撃をお見舞いするんだよな?私らでも良かったんじゃないか?」
「彼女達の過去を考えれば、これ以上相応しい者達はいないだろう」
「過去、ね・・・確かにな。出しゃ張るのはお門違いってもんか」
2人の会話が終わるのを待っていたのか、おずおずと黒髪の少年・大和が、おずおずと口を開く。
「あの・・・俺なんかが、皆さんと一緒に陽動に加わっていんでしょうか・・・?場違いなんじゃ・・・」
『・・・・・・・』
心底不安そうな大和の様子を見て、女性陣が「やれやれまたか。仕方ないな」といった感じで溜め息を混じりに優しい眼を向ける。
「まーたお前は、そんな事気にしてんのかよ‼︎大和‼︎」
彼の不安を吹き飛ばす様に、アイオワが快活な声を上げ、大和の頭をヘッドロックした。
その際、“爆”といって良いほどの豊満な胸は大和の頭に押し付けられて覆い隠してしまい、空気を求めてタップする大和にその柔らかな感触を存分に感じさせた。
息苦しさと突如訪れた幸運による恥ずかしさから逃れたい、けどもう少し感じていたいといった相反する思いを抱えながら、大和は顔を真っ赤にしながら逃れようともがく。
「ちょ・・・⁉︎アイオワさん、苦しい・・・‼︎とゆうか、当たって・・・‼︎」
「何だよぉ〜、恥ずかしがる事無いだろう?むしろ、喜べよ〜!ほらほら、揉んでも良いぞ〜?」
しかしアイオワは心底楽しそうに笑いながら、自分の胸を大胆に揺らして大和に更にその感触を伝えていく。
「コホン・・・‼︎アイオワ殿、戯れはそのくらいで!」
ワザとらしい咳払いと共に、キリッとした黒髪美少女の長門が少し不機嫌そうに咎めた。
「おっと、怒られちまったな・・・ま、冗談はこのくらいにして。ちょっとこのまま聞けよ?大和」
あっけらかんとアイオワは言いながら、ヘッドロックをから大和を解放せずに続ける。
「お前アレだろ?自分がプロトタイプ・クラフティを“アーキタイプ”から覚醒出来て無いから、場違いだって言ってんだろ?」
逃れようともがいていた大和は動きを止め、沈んだ表情で言う。
アーキタイプとは、プロトタイプ・クラフティ本来の性能を発揮出来ていない形態の事を指し、適合初期の状態の事である。
初期状態であるアーキタイプは、未覚醒である事が視覚で分かり易くロールアウトカラーの灰色であり、この状態のプロトタイプ・クラフティの性能は、人界で運用されている戦車2個中隊分の戦闘能力を誇る軍用【魔導顕鎧】よりも劣る性能になっている。
大和以外の者達もアーキタイプを経て覚醒へと至っているが、その期間は極めてごく短期間であり、長期に渡り覚醒していないのは大和だけだった。
大和もその間に何もしていないわけでは無く、鍛錬の量を増やし、零牙などの学園の同級生や教官陣とアーキタイプ状態の【大和】を用いて手合わせしたりと、オーバーワーク気味に戦闘経験を積んだ。
しかしそれでも、【大和】に覚醒の兆しは一切無かった。
「トップ3の一角たる大和に適合していながら、未だに未覚醒状態のアーキタイプ止まり・・・。・・・こんな俺じゃ作戦を遂行するどころか、トップ3の一角を名乗る資格なんて・・・ーーグェ⁉︎」
大和にそれ以上自嘲する言葉を言わせまいと、緩められていたアイオワのヘッドロックが再び決まった。
「資格なんて無くて良いんだよ。“【大和】がお前を選んだ“。それだけで、お前がトップ3の一角を張るに十分過ぎるほどの理由だ。それになーー」
そう言ってアイオワはヘッドロックしながら、大和の顔を皆の方に向けさせる。
「お前が与えられた地位に胡座をかかず、人一倍努力してる事はここにいる奴らは全員知ってる。そんなお前だからこそトップ3に相応しいんだよ。自信を持って、胸を張れ!」
「・・・‼︎」
その言葉を聞いた大和が、驚いた様にQEや長門達を見渡す。
QE、自分の姉の様な存在たる長門、そして他のビッグ7の女性陣と視線を走らせる。
全員が大和を真っ直ぐに見返し、彼と視線が合うと“分かっている”と言う様に優しい眼差しで見つめながら頷いた。
自分の力に自信が持てず、同級生が“化け物”揃いであった為、“人はそれぞれで違う”と理解していても大和は劣等感を抱いていた。
それ故、何とかプロトタイプを覚醒させようと必死だったのだが、劣等感を抱いているなど情け無く思い、周囲に悟られぬ様にしていた。
ーーいや、していたつもりだった。
(そうか・・・皆、何も言わずに見守ってくれてたんだな・・・)
「皆、ありがーー」
「おい、アレを見ろよ‼︎」
「嘘だろ・・・まじかよ!」
「てっきり、都市伝説かと・・・!」
大和が感謝を言おうと瞬間、甲板上で待機していた兵士達の興奮した驚愕の声が遮った。
何事か大和達が兵士達の指を指す方へ視線を向ければ、集結した連合艦隊の右側に列を成す様に巨大な濃霧が発生していた。
その霧を見たアイオワが、少し驚きながらQEに聞いた。
「よく呼べたな、QE。任務が立て込んでたんじゃないのか?」
「ああ、その通りだ。だが今回は急を要する事態だからな、こちらを優先させた。それにブリテンの騎士達と事を構えるのに、彼女の力は心強い」
まるで意思を持っているかの様に動き、艦隊に合流した濃霧を見て長門が尊敬を込めて彼女の名を呟く。
「【番外頂艦】・【灰の亡霊】ーー【エンタープライズ】・・・!」
濃霧はまるで意思持っているかの様に蠢き、その濃霧を掻き分ける様に一隻の戦艦が姿を現す。
エンタープライズと言えば空母をイメージされるが、現れた戦艦は鋭い流線形であり、仄暗い灰色の船体も相まってまるでステルス戦闘機の様な雰囲気を醸し出している、“高速巡洋艦”だ。
その戦艦の船首部分に優雅に立ち、目深にフードを被った人影があった。
灰色の戦闘服の上からマントの様に灰色の軍服コートを羽織り、フードを目深に被った灰色の髪の美女。
ーー特務師団グレイゴーストの師団長にして“番外のトップ3”、コードネーム【エンタープライズ】。
彼女が率いる師団の主な任務が隠密作戦という特性上、表立って行動する事のないエンタープライズの登場に兵士達の士気は上がっていた。
「まあ、一般兵には珍しいか。都市伝説みたいなもんだからな。そりゃ興奮するのも無理ねぇな」
開戦前とは思えぬ程にエンタープライズの登場に緊張感を忘れて沸く兵士達を眺めながら、アイオワが言うとーー
「ーー私です。・・・・・・了解しました。始めて下さい」
QEに通信が入った。
「・・・いよいよか?」
「・・・・開戦だ」
表情を引き締めながら、アイオワが聞いた。
QEはアイオワと大和、そしてビッグ7の美女達を見据えて告げ、全軍に向けて回線を開いた。
「全軍に告げる。これより、ブリテン島侵攻作戦を開始する。開戦後、私【クイーン・エリザベス】含めたトップ3とビッグ7達、そして【エンタープライズ】が先行し、敵軍の陽動を開始する。将兵達はこの場で隊列を維持しつつ、火力支援に専念せよ‼︎」
『イエス・マム‼︎』
「・・・・」
将兵達の返事を聞いたQEは、前方の海上に目を向ける。
そこには一隻の小型艦の存在があり、その甲板上には灰色の外套を纏った人物が立っており、嵐の前の静けさの如く粛々と魔力を高めていた。
その人物が纏う魔力は極めて静かでありながら、完璧に制御していても溢れ滲み出し、周囲の海面を荒れさせる程に尋常ではない膨大な魔力である事が誰の目にも明らかだった。
リビング・ナイト達が、隊列を組みながら海上を猛然と進み始める。
「敵軍、侵攻を開始しました‼︎」
味方であろうとも戦慄が走る魔力をQEが感じると同時に敵軍がガチャガチャと一斉に動き出し、真っ直ぐ連合艦隊に向かい始めた。
QEは、全軍に警告を飛ばす。
「全軍、“嵐”に備えろ」
ーー・・・小型強襲艦・【プリドゥエン】・甲板上
「・・・・・・」
ーーバチ・・・バチチ・・・‼︎
灰色外套を纏った人物の周囲は、その者が静かに高める膨大な魔力によって黒い紫電が迸っていた。
黒い雷はその者が内に秘めこれから解放せんとする積年の想いと高まる魔力に比例し、徐々に舞い踊る激しさを増していた。
その者は、艦橋で待機している人物に確認を取る。
「・・・もう、いいよな?ベティ」
「ええ、もう抑える必要はありません。我ら“騎士”が持ち得る一騎当万の無双の力、思うまま存分に示して下さい!我等の帰還を、我等の同胞達に!」
「ああ・・・‼︎」
灰色の外套を纏った人物ーーレベリアは、待ち望んだこの瞬間を噛み締める様に深く息を整える。
「スゥ・・・ハァ・・・ーー長かった・・・・・ああ、本当に気の遠くなるくらいに長かった・・・」
誰に言うでも無く、レベリアはポツリポツリと言葉を発する。
「傀儡となった同胞達を介錯も出来ず、”ペテン野郎“も討つ事も出来ずに逃げて1500年・・・。名を変え、傭兵として力を蓄え世界を渡り歩いていようが、ひと時もあの時の屈辱を忘れた事は無かった・・・“テメェ”に好き勝手、国と同胞をめちゃくちゃされた借りをようやく返せるぜ‼︎」
ーーバサッ
レベリアは纏っていた外套を乱暴に脱ぎ捨て、その美しい素顔を晒した。
ーーその素顔は、アリシアとモルガンにそっくりだった。
レベリアは右手を翳し、得物を喚ぶ為の言の葉を紡ぐ。
「来い、宙の理さえ滅さんとする雷剣よ!」
禍々しい黒い雷が束になって迸り、彼女の周囲に破壊を撒き散らさんと暴れ周りながらレベリアの翳した右手に収束していく。
「汝が復讐の雷を持ってして、仇なす界敵を鏖殺せよ‼︎」
黒い雷は集束して黒金の長剣へと形を成していき、レベリアは鋭く右手で持って斬り払う。
「抜剣ーー【クラレント・オリジン】!」
最後に自らの存在を示すかの如く、黒い雷を周囲に迸らせながら顕現が完了した。
【聖剣クラレント・オリジン】ーー鍔に埋め込まれ黒金に輝く宝玉に終点とする様な複雑なライン意匠が施された一体化型の柄と鍔を持ち、紅い直剣型の剣身は禍々しい黒雷を常時迸らせていた。
レベリアは顕現した聖剣を切っ先を右側に向け、海面と平行に構えた。
レベリアの魔力に呼応し、宝玉が輝きながら莫大な粒子を急速生成する。
ーーバリバリバリバリ‼︎
「・・・・・・」
それに伴い聖剣とその主は、高密度の力の塊たる黒雷を紫電の如く一層激しく迸らせ始める。
黒雷の聖剣の主は、こちら向かって海上を進軍する無数の同胞達を見据え、オープン回線で自らの帰還を高らかに告げる。
「聞け、我が同胞達よ‼︎我が名はーー【モルドレッド・ペンドラゴン】‼︎円卓の騎士が1人にして、ペンドラゴンの末妹なり‼︎」
その力強い言葉に呼応する様に侵攻中の敵軍の全てが、僅かに動きを止めた。
だがそれは一瞬の事であり、“何かに抵抗“する様なギクシャクとした動きをした後、騎士達は再び侵攻を開始する。
モルドレッドはそんな騎士達をキッと覚悟を決めた眼で見据え、切っ先を天に向けた聖剣を胸の前で両手で構え、己が魔力を更に高める。
「我が身は円卓に連なる騎士。世界に示すは我が剣戟!」
レベリアーー改め、モルドレッドの背後に魔力で形作られた巨大な騎士が現れ、モルドレッドを抱きしめる様に包み込む。
「黒雷帯びる“復讐”が剣、我が身をもって体現せん‼︎」
黒雷を周囲に狂気乱舞させながら、モルドレッドは己が起源を纏っていく。
「我は円卓の(アースュアリアン)騎士ーー第一席なり(ジ・“ワン”)‼︎」
狂乱する黒雷が暴風の如く渦を巻き、モルドレッドから迸る。
突如として発生した雷の暴風により海は荒れ狂い、直上を覆う雲には絶え間無く稲光が奔る。
やがてモルドレッドを包み込んでいた黒雷の暴風が斬り裂かれ、余波で海を押し退けながら黒雷が霧散し、完全顕現した円卓の騎士がその姿を現した。
通常の騎士鎧の様な流線形・・・では無く、“龍の鎧“の様な鋭角状の装甲を持ち、極めて騎士寄りの形状の龍を模したヘルムには、一対の稲妻状の様な角を戴く極めて龍鎧に近しい姿を持つ円卓騎士・モルドレッドの【起源顕鎧】ーー【ドラグ・ヴェンジェンス“R”】だ。
ーーバチン‼︎ーージジジジジジ‼︎
鎧から迸る黒雷が、クラレントの紅い剣身に集束していく。
狂乱する黒雷は周囲の海面を斬り裂き、内包する高密度の魔力によって大気を震わせる。
モルドレッドはクラレントを中段に構え、そしてゆっくりと左腰で居合いの構えへと変える。
狂乱する黒雷が更に激しく踊り狂う。
「同胞達よ・・・今こそ解放しよう‼︎ーーこれが・・・」
そして一気に斬り払い、黒雷の斬撃波を放つ。
「ーー介錯の一撃だっ‼︎」
放たれた斬撃波は、優に全長1キロ以上に及ぶ極大の斬撃波だった。
ーーゴォォォォォォォ‼︎バリバリ‼︎
轟音と雷音を轟かせながら、海面を抉り高波を巻き起こしながら斬撃波は疾駆していく。
やがて、進軍し続ける騎士達の先頭に斬撃波が到達しーー
ーードォォォォォォォォォォォォォン‼︎
隊列を組んで侵攻していた騎士達の中間集団まで撫で斬りにし、後方集団に着刃した瞬間にドーム状に大爆発を巻き起こした。
「じゃあな・・・」
モルドレッドの一撃は、海上に展開していた敵戦力の7割を全滅させた。
ーー連合艦隊集結地点
「おおっ‼︎」
「これが・・・円卓の騎士の力・・・!」
伝説の騎士の一撃を目の当たりにした将兵達が、歓喜の声を上げた。
アイオワが口笛を鳴らし、感心する。
「流石は円卓の騎士、敵軍の半分以上を全滅させちまうとはな・・・‼︎」
「数は減らした。まだ出て来るだろうが頼んだぞ、砲火の具現達!」
モルドレッドからの通信を受け、QEが号令を発する。
「了解です。ーー総員、抜錨‼︎これより、第一フェーズを開始する‼︎」
『イエス・マム‼︎』
ーードォンッ‼︎ドォン‼︎ドン‼︎ドドドン‼︎
将兵達がQEの号令に答えた直後、各艦が一斉に砲撃を開始した。
モルドレッドの一撃によって隊列と戦力をズタズタにされた“アーサー軍”は、失った戦力を立て直す間の無く砲撃によって更にその戦力を減らしていく。
艦隊の砲撃着弾を確認したQEは、甲板から高く跳躍し飛び出した。
QEに続いて大和とアイオワ、そして長門と他ビッグ7達が続いた。
既に顕現詠唱は最後の部分を残すのみであり、トップ3とビッグ7達10人の身体を輝く粒子が纏わりついていた。
ーー『抜錨ッ‼︎』
10人の声が重なり、そしてそれぞれの【擬似起源顕鎧】の名を口にしていく。
「長門」
「陸奥!」
「ネルソン‼︎」
「ロドニー!」
「コロラド!」
「メリーランド!」
「ウェストバージニア」
先に顕鎧を纏ったビッグ7が、海上に“着地”し滑走していく。
アイオワがカイボーイハットのつばを掴み、被り直しながら不敵な笑みを浮かべて言う。
「アイオワ!」
QEは着地態勢を取りながら、威風堂々と叫ぶ。
「クイーン・エリザベス‼︎」
そして大和ーー大和は緊張した面持ちながらも、覚悟を決めたしっかりとした口調で叫ぶ。
「大和‼︎」
ーーザッバーーーーン‼︎
トップ3達ーー主にQEとアイオワだが、海面に着地した瞬間まるで砲弾が爆発した様な水しぶきを上げ、スラスター全開で海上を疾駆する。
ーー【戦争顕鎧(ウォー・クラフティ・メイル】・【擬人戦艦】
人類が戦争で用いる兵器の大火力を“人型”で運用すると言うのが、この【魔導顕鎧】の開発コンセプトだと言われている。
現代の技術ではまだ解明されていない事が多く、製造方法が不明ではある。
適合した個人に顕鎧が最適化はしていくが、この種類に共通しているのは、騎士を参考にしたかの様なスマートな流線形の中装甲を持つが、重火器を内蔵し堅固な防御力を誇る事、戦艦の砲塔をそのまま自律飛行可能にしたかの様な遠隔思念ドローンを周囲に展開している事。
そして、最大の特徴はーー“荷電粒子兵装”を搭載している事である。
ーーシュウゥゥゥゥゥゥゥ‼︎
蒼い装甲をした顕鎧を纏ったQEが、展開しているドローン砲塔を右腕に装備し、砲塔を二極式解放型バレル状に変形させ、粒子チャージを開始した。
鎧のヘルム内ではレーダーと他からのデータリンクによって得られた情報が精査され、効果的な砲撃結果を得る為の複数の最適な射線情報がQEの網膜と“脳内”に写し出される。
それらをQEは一瞬の内に取捨選択し、砲撃を開始する。
右腕に装備し展開したバレル砲塔には、まるで龍が閉じた口からブレスを吐く直前かの如く粒子が圧縮されて紫電を迸らせ、加速された粒子が解放の時を待っていた。
「薙ぎ払う‼︎」
ーードゴォォォォォォ‼︎
一気に解放された粒子は極太の荷電粒子ビームとなり、輝く蒼い一条の奔流が戦力を立て直す最中の敵軍に襲い掛かった。
滝が汚れを洗い流すかの如く、海上の残存戦力3割の内の約2割が、荷電粒子ビームによって消滅していった。
「ったく、あたしにも残せよQE!」
アイオワは2基の砲塔ドローンを両手で掴み、変形させていく。
ドローンはその質量を圧縮させながら変形していき、その姿を2丁の“銃”へと変えていく。
「さあ、ぶっ放そうか‼︎」
アイオワは大口径のリボルバーへと変形させた砲塔を両手で構え、“銃口”を敵軍に向ける。
ーーダンダンダンダンダンダン‼︎
規則正しく、それでいて高速で2丁の連射音が轟いた。
放たれた12の圧縮荷電粒子弾が光の尾を引き、敵軍に向かっていく。
ーードォォォォォォォン‼︎
程なく着弾した12の荷電粒子弾は、中規模なドーム状の爆発を引き起こし騎士達を消滅させた。
「いくぞ、斉射準備‼︎」
鋼色の顕鎧を纏う長門と他のビッグ7の面々は鏃型に隊列を組み、多種多様な形状をしているが、16インチ砲を模した様な大口径荷電粒子砲にそれぞれ粒子チャージを開始していた。
海上に展開する敵戦力は残り僅か。
残りを一掃すべく、長門が号令をかける。
「てぇーーーーーー‼︎」
ーードシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン‼︎
その直後、横一列に並んだビッグ7の荷電粒子砲が火を噴き、7本の光条が敵軍に放たれた。
戦力の大半が失われても尚も海上を侵攻し続けていた騎士達は、程なくして虹色の如き7本の奔流に飲み込まれて消滅していった。
「やっぱり皆、凄いな・・・‼︎」
そう言う大和は、攻撃には参加せずにいつでも皆のサポートが出来る様に最後尾を滑走していた。
開戦時に展開していた敵戦力が全滅しても、QE以下9名はブリテン島に向けて進み続ける。
アイオワが“ワザと”オープン開戦で軽口を叩くが、それに呼応する様にーー
「何だよ、この程度か?拍子抜けだな。これで終わりーーなわけ無いよな?」
無数の魔法陣が海上に展開され、再び埋め尽くす程の騎士の大軍が召喚された。
その直後ーー
ーードォォォォォォォォォォォン‼︎
突如飛来した荷電粒子弾が着弾し、召喚されたばかりの敵軍に風穴を開けた。
「エンタープライズ殿か」
長門が飛来した方角を確認し、攻撃した者の名を口にした。
自分の戦艦の甲板上にで灰色の顕鎧を纏って立つエンタープライズが、身の丈を超える大弓とレールガンが融合したかの様な巨大な荷電粒子砲で砲撃したのだ。
「ハ!魅せてくれるじゃねぇか!」
アイオワがニヤッと笑い、そう言った。
QEはエンタープライズの攻撃を予測しており、その成果に何も言わずに注意する。
「よそ見をするな。此処からが本番だ。ーー第一フェーズを遂行する‼︎敵戦力を引きつけつつ、後退する‼︎倒し過ぎるなよ?」
『イエス・マム‼︎』
QE達10名の【擬人戦艦】を纏う者達は、適度な攻撃をしつつ陽動を開始した。
程なくして、艦砲から発せられる轟音が海域に鳴り響いた。
ーー四章-二節【黒雷が迸り、砲火は踊る】・終




